建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

1階躯体打設の反省

2023-02-28 11:52:46 | 建設現場 安全

六月 十二日(月) 晴れ

日曜出勤『墨出し』の甲斐があって、月曜日の朝一番から鉄筋の組立作業が始まった。
圧接工も度々の雨で一気に休みの期間の出面(でずら=出勤日当)を取り戻そうと頑張っている。
 あれほど丁寧(ていねい)にコンクリートを押さえ、精度良く仕上げた筈なのに、雨水が溜(た)
まっている所がある。
 広さ2m角までもないが、深い部分で500百円玉が2枚重なる厚さだった。

 実質今日からが2階の躯体工事だ。
これから約2週間後に打設する計画は、1階のデータにより無理なく出来る事が判明した。

後は圧接時に限って雨さえ降らねば6月27日が打設予定日となるはずだ。
 外部は足代上の作業となり、1階の時より上下作業が増える。その分能率は落ちるし、危険
度は増す。
足元さえきっちりしていれば、そこが1階だろうと10階だろうと同じだ。

 でも何故か地面より2m以上に付『高所作業だから命綱を着用しなさい――』が厳命也。

Kビルは1~2階は意匠(デザイン)的にも間取り(平面)にも共通部分は少ない。
EVと階段室は同じだけれど1階アプローチは2階部分で部屋になっていたり、屋根になっ
たりしている。

3~6階はほぼ同一だ。
仕上げ内容は一緒だけれど、上階に行くほど柱も梁も少しずつ小さくなるのが、変わってい
る位だ。

 今、現場事務所で最もポイントを置いている事は、カーテンウォールの承認決定を急ぐ事だ。
製作にサッシュより多い日数がかかるのを45日に頼み込んでいるし、お盆の後には納入させ
るつもりでいるから、今週中にはA設計事務所の承認を受けなければならない。
 (カーテンウオール=壁がコンクリートでなく特注サッシとガラスで組み合わせた外壁)

しかし、施工図チェックは神経のいる仕事だ。
特にKビルは曲面部分を多角形にして、嵌め殺しの総窓ガラス形式にしてある部分が、台風
や大雨に対しての不安材料だ。
一般的な窓、出入口扉等は一週間もあれば私はチェックOKサインが出せるれけれど、この
カーテンウォールは少し慎重にならざるを得なかった。

 じっくり考え込もうとしていたら、
「所長、階段の手すり壁が納まりません、どうしましょうか?」
と鉄筋工事職長の大島さんがやって来て言う。

「一階はOKだったのだから、そのまま上に上がるのに何でだ?」と私。
「そう言えば、コンクリート打設中に左右の突っ張り材の長さが違っていた様な………」
と聞いたが、それだけではなくて、
「打設中に支保工がはずれて大工が直してた様だったけれど、多分直らなかったンだよ、あれ
は、きっと………」
と『延髄切り』なみの衝撃をくれた。

型枠の根元は動いてなくて頭部(最上部)部分で15㍉(ズレ)ている。つまり傾いているのだ。
このまま傾いた所を正として上階を作るか、1階を直すかの二つに一つだ。

1階の階段室はモルタル塗りを行おう。
それでも納まり不良の所は斫(はつ)り取る(壊す)のだ。
悪ければ何にも考えずに斫り取れば良いのなら簡単だが、
《型枠の不備による斫り代金は、型枠工の責任に於いて精算する》
と言う事だから、大工さんの儲け予定がその分減っていく。

コンプレッサー1台に斫り工2人で一日合計5万円弱だ。
これに斫りガラの片付け費、場外産廃処分費、左官の補修等を加味して型枠工の請負金額から
差し引くと―――型枠大工なんてやってられない職業だと聞こえそうだ。

大工に言わせれば
「土工か誰かが支保工をはずしたんだ(手を下したンだ)」と言い張り、更に、
「俺たちは型枠検査も受けたではないか、OKしてくれたではないか、打設の方法が悪かった
のに何で俺たちの責任なンだ!どうして?」

これは最もな言い分だし、もし私が大工だったら更に、
「その為に監督さんが現場にいるのでしょ!!」
と厳しく言うだろう。

今日の場合はそんなに驚く様な問題迄には、発展しなかった。
第一回目の打設後のチェックだから、話題になっただけで他は大丈夫という事だ。

これが上階へと慣れると、私の耳には入っても目には達せない様に福原君が調整つける筈だ。
《失敗部分は早く直せ!》
が鉄則だ。
ブサイクなまま何日も手を加えない神経になっていると私の雷が落ちる。

自分達で内緒に手直しをしても、月締め時に請求書に現れてくるものだ。
「こりゃ何じゃい!?」
という事もよくある。その時笑って、
「失敗したのバレちゃったの?……か」 

なんて言う様になると(この業界より足が抜けられなくなった)と自覚するだろう。

皆、失敗して勉強しているンだから、私も厳しく追及はしないけれど福原君のみならず、
(次から頑張って気をつけるぞ)
と言う気持ちを若い職員達が持ち続けていてくれれば、私の役目は終わりだ。

2階の工事が始まって早々に「ドキッとした」という事はこの階にはまだまだ何か起こる予
感がする。
決して悪い事は起こさないぞー。

         

 

 

 

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1階コンクリート打設日。

2023-02-14 09:05:46 | 建設現場

六月  八日(火) 晴れ/曇り  

 1階のコンクリート打設日だ。天気は晴れ後曇り。
この一週間の何と早かったこと、慌(あわ)ただしかった事だと振り返ってみている。
久し振りに現場に長く足を留められる。

 Kビルはコンクリート打設前の、そうね《王手飛車取り》位の段取り以後、どうなったかを
じっくりチェックする間もなく、今日の日を迎えてしまった。

 型枠が斜めになっていたら、そのまま斜めのコンクリート壁が出来るだけの事だけれど、窓枠
や配管用穴が間違って付けてあるとどうしよう・・・という不安もある。もう腹をくくって、
「打ってしまえ!」
と言ってはいるものの、私のハートはストップモーションだ。

 朝の7時には土工が型枠に撒水(さんすい)を始めている。
型枠面にイヤダと言うくらい水を含ませておくと、濡れた型枠に生コンの水分が吸い取られな
くて、キレイな表面のコンクリートが出来る。

 だから私は撒水本来の目的は《表面重視の為の水洗い》だと土工にはウルサク言う。
生コンは水平に打つ事(プールに水道から水を入れる状態)を原則としているが、鉄筋という
邪魔物がある。
バイブレーターで振動を与えるか型枠を叩いて生コンを水平にさせるかだ。
気を抜いていると生コンは《おむすび》の如く山になるので、土工も気合を入れねばならない。

8時から打設開始だ。
朝礼もラジオ体操も10分前には行って生コン車を待つだけになった。
「所長は雨男だから心配したヨ、晴れてよかったネ
と伊藤組の高田さん(土工の世話役)がわざわざカッパを着て、雨降りのスタイルで来た。

「俺は運だけの人間だから、大丈夫だ、降りはしない」
曇って来たが雨の心配はなく、1階のコンクリート打ちが始まった。

バイブレーターがビービー音を出す。
土工が型枠を木のハンマーでドンドンドンと小刻みに叩く音が、いかにもコンクリート打ちだ
という気分を盛り上げてくれるものだ。

「ここだぞー」
と言う声を聞いてドンドンドンと小刻みに叩(たた)いていると、コンクリートが入って来ると
音が変わる。
変わりかけた所を集中して叩く、一日中叩くのはまるでキツツキみたいだが、この壁、柱は叩き
かたの能力によってコンクリートの仕上がり表面が随分違う。

バイブレーターに頼ってスラブの上からだけだと、型枠内へ入っているのか、詰まって下へ
流れないのか分からない。
昔のように『竹』で上から突くのが良いコンクリート打ちなのだが、今の時代は電動となった。

                                   
コンクリートの汁がポタポタと型枠の隙間から落ちて来る。
体が濡れて乾くとセメント分が作業服に白く現れて来る。(だから合羽(かっぱ)を着るのだ…)
建築現場を嫌う項目の一つのK『汚い』がここに有る。

 躯体工事として節目としてのコンクリート打設工事だから、各階へ打ち上がって行くとき、
昔はお祭り騒ぎにも似た『華やかさ』があったけれど、今は打設そのものを最重要視する感覚
は無い。

 ポンプ車圧送、生コン購入となってからは『現場練り』の必要がなくなったのは最も進ん
だ工法の一つだが、これからの時代、今の体力勝負の重労働状態が続くと若者はこの業界に
入らなくなる気持も理解出来る。
が、今日は打設中だから余分な考えは持たない事にした。

 10時現在打設数45㎥だ。
ペースとしては順調だ。階高の半分迄はほぼ水平に打ち込んだ。

スラブ(2階の床になるところ)を均(なら)す左官工も到着した。
彼達は昨夜も残業でコンクリート直押さえをやって来たと言う。
まだ今日はスラブを押さえる迄時間があるので車の中で休んでいる様、指示した。

しかし、左官工も現場内へ入ったら職人魂が丸出しとなって、コンクリート打ちを手伝って
いる。
バイブレーターのコードを鉄筋の引っ掛かりから解いたり、足代上の通行の邪魔になるもの
を片付けたり、何かとこまめに働いていた。

11時にはもう2階スラブ(2階から見た床)の上にコンクリートが上がって来た。
土工は壁の叩きが終了し、『目鼻が付いた』という気持ちだろう。

1階内でコボレているコンクリートや流れ出たノロ(モルタルの水分の多い不良品)をバケツ
で処分したり、高速洗浄機で洗っている。
所々打設中に抜け落ちた『さし筋』を拾っては差し込んでいる気のきいた土工もいた。

 左官工はコンクリート直押さえだから、レベルを足代上にセットして高低差を3㍉以内に仕
上がる様に監視をしている。
何分にも固まる迄本当の水平精度は測れない。

押さえて仕上がって行く段階で、コテの力によっても表面の厚さ3㍉程度は誤差が有るものだ。
2時頃になって残り1台分の5㎥以内で終わる所迄になった。
 スラブ上で皆がザッと見渡してみて追加が4㎥だの4.5㎥だの5㎥あれば余るだのドン
ブリ勘定が始まる。

それより1台前の生コン車が打ち終わる迄にラストの車は何㎥必要かが計算のしどころ、
監督の腕のみせ所だから、素早く計算して、工場へ連絡する。
余分に購入してもいいが1㎥1万円以上もするのだから0.5㎥単位で発注し、余ったコンクリート
分はムダ金支払いになってしまう。
打設事に毎回0.2~0.3㎥は生コン車に残り処分するのだから生コン予算からオーバーするのも
致し方無いが、積算通りに数量は収まらない。

 最終の生コン車が到着する間、左官工は押さえ仕事をしているにしても、土工は片付けも
出来ず、(下階はもう片付いているし)酒もまだ飲めないし、疲れを癒(いや)すのにただ座
って待っている・・・。

この無駄な時間は雑談には都合がいいけれど、手待ち時間を金額換算すると……。

 やっと落ち着いた気分となったのは5時を廻ってビールを飲んだ時だった。
 左官工は直押さえが一通り終ったけれど、夜10時に再来してもう一度頭を張る(表面の押さ
えを仕上げる)事を約束して、ひとまず帰って行った。

 照明設備の水銀灯と投光器をセットし、我々も事務所で『御苦労さん』の乾杯だ。
早出して深夜迄、長い時間働いた気持ちよりも、1階を打設完了した充実感で一杯である。

《建築屋》としての気持ちのいい一日であった。

 

 

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起工式とパトロール

2023-02-01 09:17:40 | 建設現場

六月  七日(水) 晴れ 

天気も良くM店舗起工式が九時半から始まった。
式には施主、地主、入居予定のオーナーと担当者、設計事務所所長、銀行関係、地元の世話
役、わが社からは支店長他………かなりの賑わいをみせた。

 これだけの『役付き』が集まるのも、最初で最後だろう。竣工式があったとしてもここ迄は
(そろ)わないだろう。

起工式が始まる前には相変わらずの名刺交換が繰り返されていた。
(日本人だなあ)
と思うのは頂いた名刺ですぐに相手の名前を言えない事だ。

「所長の福本です」
とは常々言ってるけれどすぐに、
「○○設計事務所○○さんですね」
と言い返す時がない。

 名刺を一方的に出して、又頂いて、名前と顔を一気に覚える術に私は弱いのだ。
フルネイムで一度は施主なり設計者と話をしてみたい。

 そんな中で式の始まる前に支店長から、
「今日は昼から(確か・・・帰りに)君のKビルに立ち寄るけどいいネ?」
と言われた。
驚きよりもマサカ―――だった。

 何を隠そう事か、支店長は今日私のKビルには労務安全部の安全パトロールが巡察に来る事を
御存
知だったのだ。
そのメンバーに当初(先月20日頃) から入っていたもので、予定表はまだ生き残っていたのだ。
支店長の予定表を考察すると、午前は起工式で午後はパトロールとインプットされていたのだ。

私、私の頭の中には――― 
(その日は遠慮してくれよナ)
と儚(はかな)い望みで労務部に打診したけれど、
「変更はしない」と掛け持ち辞令の時に却下されて―――少しは記憶に残っていた。

「行く」という人に「来るな」とも言えず、今日はありのママを見てもらうつもりだった。
だが支店長が実際に立ち寄るとは計算外だった。
今更バタバタしても始まらない。明日はコンクリート打ちだから、現場の状況としてはあまり
不備な点はなく、A90点は頂けるだろう。

 タイミング的には良い方だろうが、午後には配筋検査もあり、確認とか打設直前手配チェッ
クとかプレッシャーの掛かる時に―――取り合えず公衆電話に飛びついて現場に連絡だ。

(そんなこと勝手にやってくれ、何考えてンだこのクソ忙しい時に・・・)
と聞こえそうで聞けなかった福原君の声だった。

今、オーナーには悪いけれど起工式の気分はさめていた。
一刻も早くKビルへ帰り、受け入れ準備を点検しておきたい……。

 現場をおおまかに一廻り点検出来ない内にパトロール隊が来て、支店長も到着された。
めったに揃わない豪華メンバーの安全パトロールだったので記念に名を残して置くと、
K支店長、I建築部長、K工事部長、N所長、N機材センター課主任、協力業者は木工事の
T専務、電気工事のK部長、そして当社労務安全部S課長の合計8名也。

支店長の出席情報をキャッチして、義理(やむなく)的に参加したような顔ぶれでもあるが
寄ってたかって私の現場を見たいものでもなかろうに・・・と私の心はつぶやいてもいる。
多分、支店長の手前かなりキツイ意見も出るだろうと覚悟を決めて現場を見て頂いた。

「ありのママを見て頂いた今回だから忌憚(きたん)なく言って下さって結構です」と私。
「言わせてもらえば―――」
とパトロール隊は私の見過ごしていた(この位はいいだろう)という事を追及して来たので、
弁解の余地は無しだった。

来月はM現場もあるので御苦労さんだが、頼むよ」
とK支店長から慰められてるのか、誉められているのか言われて返答に困ったものだった。

朝の予想に反して評価は悪かった。
88点、減点項目6カ所、評価B。特記事項、月内再パトロール実施のこと。

是正報告書には写真を添えて『一週間以内に支店へ提出して下さい』との事だ。
毎度お決まりの書類だけれど、是正ヶ所の写真まで添付して誰が喜ぶってモノなのかネ。

 事故が起きては遅いし、その責任を所長全てに背負ってもらわなくてもという《親心》かも
しれないが、検挙されるのは『統括安全衛生責任者』なのだ。

 来月は掛け持ち故(Kビルも安全注意が手薄になり)もっと指摘事項が増えるだろう。
それがイヤならば
「今からもっと安全点検に注意を払え!」という事なのだ。

掛け持ちだから、安全監理の質が落ちるという様では
《その器(うつわ)でない》
と査定される事だな。

(多少の危険ヶ所には目をつぶっているから、とにかく掛け持ちでやってくれ)
という様な会社なら何とかなりそうだが、現場の大小を問わず一様な監理書類も、期日提出
を求められているのは何だか変だ。

10億でも5000万円の建設現場でも、統一様式の画一的な安全監理を押し付け?るのは何故だ。

「小さい現場ほど安全監理費も少ないけれど、危険カ所は予算に合わせて減少しない
と本音をズバッと言ったので、来月はM現場とも厳しいモノ(ジュンサツ)になりそうだ。

安全パトロール中にA設計事務の中島さんが来られて配筋検査が行われた。
今日は何と色々な事が重なっている日なんだろうか。

「後は所長に任せます。よろしく………」
と今日一日で何度聞いた事かね。
そんなに私、責任とやらを担(かつ)いで歩く力は有りません。

誰も助けてはくれないし
「助けを呼んでも太平洋のド真ん中、サメに食われない様に泳ぐだけ
が今日の私の心の叫びだった。

明日のコンクリート打ちの天気は「晴れ後曇り」を聞いて大分気持ちが救われた。
疲れたとは言わない、色々あったが明日はコンクリート打設だ。頑張ろう。

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