建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

雨降りの時にも

2022-10-23 17:21:14 | 建設現場 安全

 五月 十九日(金) 曇り

  埋戻しは午前中で完了した。
午後か
らは仮設道路のくぼみに栗石を入れ、敷鉄板も敷直し、さらに搬入通路を延長し拡げて完成した。
 通路は水勾配まで考えて作っておいた。

 本工事の方は『床(とこ)づけ』と称する転圧、砕石敷も基礎の時より条件が良いので、順調に仕上

がっていった。

 1階の半分近くはもう土間配筋が完了している。
  今日残業すれば明日にも土間コンクリート打設が出来そうだけれど、配筋検査もある事だし、
余裕をみて火曜日に決定した。

  明日の天気予報はまたしても雨。
先週の土曜日も雨だったけれど、
「明日の朝、雨が降ってたら土休しなさい、現場に出て来なくていいよ」
とF君とN子に伝えた。
 雨が降る事を期待すると意に反して晴れるかも・・・・。

 今日中に鉄筋も型枠も追い込める所迄追い込んでおこうと打ち合わせ時に確認し、日没迄皆
頑張った。
 流石に照明を灯けての残業は見送ったけれど、あと半日で出来る見通しは付いた。
 明日雨でも月曜日に残りを片付けて、配筋検査を受け入れるのは楽勝だ。

 夜、次の段取りに手落ちが無いか、チェックしてみた。

―――2階のコンクリート型枠図は承認済で、大工にも手渡してある。外部足代組立用資材
の不足分はリースで話が付いている。
 1階の型枠工と鉄筋工との『作業基準打ち合せ書』『作業手順確認書』も出来ている。
その打ち合せ記録簿もある。
  開口部補強打ち合せもあるし、設備配管のスリーブ位置承認図もある。
仮設電気も照明もスピーカーも段取りしてある―――以上全てが終わっていれば申し分ないが、
なかなかそうウマクはいきませんネ。

 各々何らかのアクシデントが有り、部分的に保留のままの所も確認出来た。
 明日はその穴埋めにポイントを置こう。

 世間では土休が主流だけれど躯体三職(鉄筋・型枠・土工)は、日曜出勤さえ当然の如くに
働いているので「土休です」というのは殆ど聞かない。

『雨降りに休むさ』
と構えてはいるけれど・・・ネ。

  ゼネコンのサラリーマン建築屋さんがいて、会社のスタイル通りに『土休』していたら現場
はどうなるのだろうネ。
 月に2回の完全週休二日をアピールしている支店だが、この建設業界で現場によっては交替
でも土休出来るのは大きい現場、或いは交替要員のいるせめてスタッフが3名以上の現場位しか
実現出来ないだろう。
 Kビルでは到底無理だネ。

 若手職員に気を遣って休日を『優先取得』させ、所長が出勤するというのは《時代の流れ》
なのだろうか?それとも若手職員を私が甘やかしているのだろうか?

 どっちにしても私は土休をそれほど貴重なモノとは思っていない。
 現場では休みたければ休めるような工程の段取りを作ったら『それまでだ』と思っている。

早く建物を創って休みを取って、海外へでも遊びに行けばいいのだから―――とネッ。


五月 二十日(土) 雨

天気予報通り朝から雨。
土曜日で雨降りだから通勤時間(マイカー出勤)は平日の3分の2位の感覚で現場に着いた。
しかし、予想通りの開店休業でF君もN子も休みだ。

 昨日確認事項を列記していたメモを取り出して業者さんへ電話を入れた。

 私の性格からしても次が終わる前には、その次の次という所まで追求確認しておかないと、
気が済まない。
 
(そうあわてなさんなヨ、所長・・・)
といいたそうなニュアンスの会話もある。

2週間先の工程表迄書いても本当に決めた通りに進むものか、絶対に遅れる(ズレる)し、
それに所長がサバを読んでるからと、あえて自主工程を想定している業者もいるものだ。

  ところが、私は雨でもコンクリートを打つ所長だから、大変な賭率で盛り上がっているみた
いだ。

 基礎のコンクリートを打つ時に、雨なのに土工が朝早くから出て来たのは、打つ方へ賭けて
いた連中だったと言う。

(あの所長ならこの位では勘弁しないので、ヤルよ雨でも・・・)
と覚悟してマイクロバスに乗って来たそうだ。

 私の行動を読まれていたのだが、これは今後私の発言に対して相当相手にプレッシャーを与
えると思う。

2週間先(私は二週間工程表を現場に掲げる主義だ)迄各職種間のつながり、かかわり合い
が職長さん同士にも分かる為にも、1週間過ぎるとその日から先の2週間を修正する。

 親方も他の現場との進み具合と、私の現場を上手に二股に掛けて動く事によって、儲けも違
って来るので必死だ。
やはり、先手必勝であり、状況を早く相手に伝えた現場が勝ちだというのは、誰もが思って
いる事だろう。

 私は私の強引とも思える(ハッタリかクソ度胸か)言動で、相手がムカッときたり、アキレ
たりしているのも想像出来る。
私が《筋を通して》いる限り協力業者は今の所、順調に働きに来てくれているが、
『△△所長の現場には行きたくない』
という話も良く耳にする。

 この△△所長さんへは職人さん達の八割が口を揃えて言うのだから、どんな手配、段取りを
しているのか興味がある。
私の持ってない部分の勉強、発見が出来るかとも思える。

  私もかなりヤンチャを親方衆に言って来たと思う。
事実、ツバを吐きかけられた事やツルハシ持って追い廻された事も二度や三度どころではない。

お互いに必死だったのだか、私が強引だったのか、若かっただけかも知れないが・・・。

 今、今となってはその馬力も出ず、いかに言葉で相手を納得させるかの術に磨きを掛けてい
る様だ。良く言えば人が丸くなったと受け止めてくれるけれど、

「トシなんだ」
 と言うわが娘からの一言にはショックを隠せなかった。

雨降りの土曜日は世間並みに土休としよう。
雨の降っている時は仕事をしない事もないが、雨を押しての『突貫工事』を今行う迄も無い。

 工事完了間近になってあわてる(俗に言うケツに火が点く)事の無い様に願うけれど、休日
として体を休めるのも天から授かったものとして受け止めよう。

案の定、11時頃にはお遊び(麻雀)の電話が入って来た。
今日は午後からビールでも飲んで、気分転換のミーティング(情報交換)兼用の集まりとしよう。

 勇気を倍増して出かけていったものの、入れ込み過ぎて・・・チョンだった。


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雨降り時には麻雀が

2022-10-09 11:36:57 | 建設現場

五月 十二日(金) 曇り

少し風邪を引いたみたいだ。
昨日、生コン打設した時の梁天端に掛けていた雨対策用の養生シートを回収した。

コンクリートの表面は思ったより雨に打たれていなくて安堵した。

 それにしても、昨日の生コン打設は正しい方法(教科書通り)ではなかったけれど、
頑張った甲斐はあった。

今日弋工が足代を解体しておかなかったら、
「他の現場が遅れた上に昨日の雨で大幅に予定が狂ってしまい、Kビルへは水曜日に
ならない
と来れなかった」
と弋工の世話役の武村さんが胸の内を言ってくれたのは、10時の休憩の時だった。

私の工程表では水曜日は埋戻しの重機とダンプの手配がしてあって、それを遅らせる事は
く考えていなかった。

 私の自分勝手な都合のいい工程表ではあるが、これを書いた時点で総て予約を取りつけ
てい
るし、私の方から『遅れたなんて言わない性格』を知っている親方達も、一応それ
なりの心づ
もりで手配(下準備は済んでいるのだった。

 強引に打ったお蔭でもう一つ助かった事がある。

 昼前に掘削時に残しておいた土(邪魔になってた土)の一部が崩れた。
 土量にしてネコ車10杯はあるだろう。
 コンクリートが打ってあるので、型枠はビクともしな
いし被害は出なかった。
 打設していなければ型枠は壊れていただろうし、土で押されて鉄筋も
ろとも曲がっていた
ことだろう。

 崩れた土は埋戻しがもう始まったのかと思う余裕の解釈にし、埋まった型枠部分は
解体出来る範囲以外は『埋め殺し』にした。
足代解体後の山崩れだったので足代の材料関係には全く被害が無かったのも助かった。

昼過ぎてから力が抜けて来た。
場内が静か過ぎる。
物を創(つく)る気分でなくて、弋工と土工と一時的な足代の解体だけしか現場では作業して
いないが、眠くなって来たのは風邪薬のせいだけではないと思う。

(今日は久し振りに早く帰ろう)
と支度をしていたら、刑務所の現場時代の同僚(通称役満のケン)から電話があった。

「雨降りにコンクリート打った人は今日はヒマだろ?明日は土休だし・・・」
と思わず生ツバゴックンとなる麻雀の誘惑だ。

「今日は勘弁してなンて言わせンぞ」
と私は自分の体調も省みないで、承諾してしまっていた。

今日は負けるだろう。
でも、このメンバーは二年近くも一緒に単身赴任の苦労をして来た間柄なのだから、
私供四人にとっては他の職員よりは最良、最強の絆だろうと思っている。

 理屈はどうであれ、私は元気が出て来て、また出かけてしまった。


五月 十三日(土) 雨

また雨が降った。
昼前には上がったけれど、ここ数日よく降るものだ。
コンクリート打設後の撒水養生としては非常にいいのだけれど、全くの開店休業と
なってしまった。

土曜日で朝から雨だと気分は乗らない。
建設業として大義名分で休めるのは「雨降り」位の
ものだ。
友人の結婚式だとか近所の葬式とか、法事だとか免許の更新とか結構休める様な言葉

あるし使ってもいるが、全員揃って休めるのは「朝からの雨降り」が一番だ。

今日は土曜日だし、職人はいないし、コンクリートは打ったし、水替えはもう気にしなく
いいし、土が崩れても態勢に影響がなくなってホッとしている。

そうだ!!昨日は体調不調ながら麻雀は好調で、F君とN子と私でステーキが食べられる
資金
が出来ている。
(持つべきものはお友達)
と感謝し、久々の半ドン(もともと土休指定日なの
だが)を味わう事にして早速
『しゃぶしゃぶのK』に食事に出かけた。

 戸締りをしに現場へ戻ってフト電話機を見ると『留守録有』のマークが点灯している。
「何やってんだ三人揃って待っているヨ、二時半集合だよ、例の所で・・・」
と、またまた麻雀のお誘いだ。

(たった今、美味(うま)いモノを喰(く)ったのに又、喰わせてくれると言うのかい!)

しかし、刑務所現場のこのメンバーは単身赴任で二年間の借家生活を過ごし、自炊こそ
しな
かったけれど、いつも同一行動していて、沢山ビールを飲んだし麻雀もしたものだ。

冬、部屋のすきま風に目ばりをし、ストーブを持参、夏には扇風機に蚊取り線香と段取
りよ
く一室を『雀室』に迄してしまった。
思えば雀台はゴムマットに合う様にして点棒入れまで作
り、灰皿、ビール、カップラー
メン置き場用のサイドテーブル二台も雀室に収まる様に設計し、
休み時間に大工の
真似事(まねごと)で作ってみたのは―――まぎれもなく私だった。

雀狂の記録帳も作っていたけれど、土・日曜を除いても月にそうね(宿泊した日の九割)
麻雀を楽しんでいた様な『記録』も《記憶》も残っている。

風呂からあがっての9時頃からワイワイと卓を囲み、明日の予定を打ち合わせ(ウワの
ソラ
だが)しながら、
『12時を過ぎたら新しいイニング(半荘・ハンチャン)に入らない』という寮の規則も作った。

『単身赴任もこんなのだとイイね……』と誰かが言ったね。

―――雀狂の記録帳には――――――
雀鬼のオカ、役満のケン、恐怖のヤス、ウラドラのフク、新入りのミツ、という私が
付けた
アダナで精算記録が残っている。

何だか今日も勝てそうな気分になった。待ってろヨー。

 

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