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白鳥のブログ - 日々の世界を徒然と

七つの魔剣が支配する 第12巻 感想: フリーハグが消えた剣花団は、いつまで剣花団のままでいられるのか?

2023-08-29 14:35:17 | 七つの魔剣
まさかよりにもよってガイが呪者の道を歩むことになるとは思っていなかった。

これ、少なくともしばらくの間は、ガイは剣花団のみんなに触れることが出来なくなるってことだよね? 呪詛を移さないために。

もちろん、ガイ以外のメンバーは今までと同様フリーハグをすることは可能だけれど、でも、あれだけ仲の良かった彼らが、ガイだけ除け者にして互いに触れ合うことを選ぶとは思えない。

同じタイミングで、ピートがオリバーを実質的に襲った、という状況もあるわけで。

簡単にいうと、もう以前のようには、純真な気持ちで互いにふれあい、思いあうことはできない、ということだよね。

さすがは四年生、上級生編の始まり、って感じ。

むしろ、ここから先に生じる「気まずさ」を描くために、剣花団のこれまでの疑似家族のような無垢な関係が描かれてきていた、ということなのだろうな。

いやー、作者の構成の妙に脱帽だよ。


もともと剣花団の6人は、魔法使いとしてすでに達人組のオリバー、シェラ、ナナオと、凡人組のカティ、ガイ、ピートの2グループに実力的には分かれていた。

だから、作中で「成長」を描くとしたら、必然的に、カティ、ガイ、ピートの3人がその役を担わざるを得ない。

凡人組の3人こそ、逆に、魔法使いとしての伸び代があったことになるから。

その中で、カティは当初から人権派の急進派としてやばい奴として頭角を表していた。
一方、ピートは普通人出身であるにも関わらずリバーシという魔法使いの誰もが羨望する希少能力を発現することで、将来性の高さを示すことになった。

だから3人の中でガイだけが特殊な能力を示さずにここまでやってきた。

むしろ、気のいいナイスガイとして、いわば剣花団の良心の象徴して、不動の位置を占めていた。

それがここに来てまさかの呪者だもの。

彼の魔法植物を愛する心が、まさか呪詛を引き受ける才能と直結するとは思わなかった。

その意味では、本巻の構成は相当サディスティック。

なにしろ、冒頭で、わざわざガイの実家の和気あいあいとした様子を示した後での、ガイの自ら選択しての闇落ちだもの。

まさに、太陽から日蝕への転落。

生命をすくすくと育てる側にいたガイが、一転して、生命を腐らせる側に身を寄せたのだから。

ある意味で、これまでで一番の驚き。

でもこれで、剣花団の全員が、いつでも魔に呑まれる可能性を持つキンバリーの上級生になってしまった。

もうここから先は、多分、ひたすら下降の一途をたどる鬱な展開がずっと待っているんだろうな。

いままで一応、闇の部分はオリバーの復讐劇パートが請け負い、代わりに剣花団は光の部分として扱われてきていたけれど、もうそのきれいな二分法も期待できそうにない。

逆に言うと、いつでも剣花団が、オリバーの裏の顔である〈同志〉になる可能性がでてきた。

今までの感じだと、ピートとカティは〈同志〉に加わる可能性が高いと思っていたけど、もしかしたらガイも仲間入りするのかもしれない。

一方、シェラとナナオは〈同志〉の世界に踏み入らず、むしろ敵対する側に属しそう。

いや、実際にありそうなのは、

ピートとカティが〈同志〉となり、
ガイとナナオが中立の立場をとり、
シェラが敵対する、

という感じかな。

なんにせよ、オリバーの望みを無条件に叶えようとするものと、そうでないもの、むしろ、オリバーの復讐を積極的に阻止しようとするものが出てくる。

なんにせよ、遠からず剣花団は瓦解し、互いに敵対するようになる。

厄介なのは、今回のガイが特にそうだけど、剣花団のメンバーにはそれぞれに縁を結んでしまった友人・知人が同級生をはじめとして多くいるということ。

そのため、剣花団の分裂はそのまま同級生や下級生、あるいは上級生まで巻き込んでの対立を生み出しかねないこと。

というか、今回の終盤にあった、ガイたちの救出に、同級生たる4年生の猛者たちがみな参加していた姿を見ると、本当にそう思う。


そういう意味で、今回から、リバーシの大賢者ロッド=ファーカーがキンバリーに登場した意味は計り知れないくらい大きい。

キンバリーの流儀とは全く異なる、完全なる外部の存在だから。

キンバリーが大々的に二分化されるとしたら、それはエスメラルダと同格のファーカーが本格的にキンバリーを変える意志を示したときだろうから。

物語装置としてのファーカーは、きっと、キンバリーとはなにか、について、外部からの批判を含めて論じ考えるための機能に違いないだろうから。

一見すると、ファーカーは学生想いの良識人に見えるけれど、きっとそれは魅了の権能を効率的に使う上で有効な戦略だからそうしているだけのこと。

彼の言動から考えて、ファーカーは圧倒的なパターナリズムの実践者。

でもそれも仕方ないよね、彼から見たら学生はもとより、ほとんどの魔法使いが自分よりも格下の、それゆえ庇護すべき対象なのだから。

多分、ファーカー本人は他意なく、それが力あるものの責務だと考えている節もある。

ただ、その結果、ひとたび、ファーカーの傘下に入ったら、もう逃げ出せない世界になる。

そんなファーカーがもたらす世界は、彼を頂点とした一種の宗教組織、ファシズム体制だよね、たとえ、彼にそんな意図はなかったとしても。

それに対して、キンバリーは真逆の徹底した自由主義体制。

自由を得るためには力が必要だ、というのがキンバリーの立場であり、その点では、エスメラルダ以下キンバリーの教師陣の発想は変わらないのだと思う。

いわゆる自主独立の精神。

その結果、魔に呑まれる学生が後を絶たない、という弊害を伴うわけだけど。

それゆえ、魔に呑まれないためにも、個人の技能のみならず、集団としてのレジリエンスを維持するために、自由闊達を校風にしている。

きっと、そういうことなんだろうな。

そして、この路線をキンバリーが選んだ背後にもそれなりの歴史があったのだろうな、単に地下に迷宮があるから、というだけでなく。

となると、この先一番ヤバいのは、フォーカーが気まぐれにキンバリーを変えようと動こうとした時に、真っ先にオリバーを抱き込もうと動きそうなこと。

フォーカーからしたら、たらし込む目標第1号であるピートの傍らにいるのがオリバーなのだから目をつけないはずがない。

その意味では、オリバーの母クロエが、異端狩りのエースだった頃にフォーカーと接する機会があったのかどうか、がとても気になる。

きっと、この先、そのような話題も出てくるのだろう。

なぜなら、今後、主人公のオリバーに成長らしい機会があるとすれば、それは無条件に崇めている母クロエとの対決ならびに決別にほかならないだろうから。

母クロエを超えない限り、オリバーを蝕む「自分の力はすべて借り物」という自己意識を捨て去ることが出来ない。

その助力をするのがナナオであり剣花団であり、キンバリーの同級生だった、というときれいなんだけどなぁw

でもきっとこの作者はそんなお花畑は描かない。

ともあれ、父殺し、ならぬ、母殺し、を達成したとき、はじめてオリバーは自由な大人として独り立ちすることができる。

それは終盤の重要なテーマになるはず。


ということで、12巻は、オリバーたち剣花団にとってターニングポイントとなるエピソードだった。

続きは気になるけど、これ、4年生編は簡単には終わらないよね。

最低でもあと3-4冊は必要な気がする。

となると、剣花団が最上級の7年生となるまで物語が続くとすると、あと最低でも10冊から12冊は必要になりそうw

それはそれで楽しみだけどね。

その一方で、5年生くらいですべての決着がつくとなると、大体第20巻くらいで本編に決着が付きそう。

それくらいがいい感じがするけどねぇw


あ、そうそう、本巻の実質的な主人公だったガイだけど、カティだけでなく後輩のリタからも慕われていることはわかっていたけど、まさか、そこに第3極として、アニー=マックリーまで加わることになるとは思わなかったw

これはあれだね、オリバーではわかりやすいラブコメをやれないので、代わりに天然いいヤツのガイが、ラブコメパートを引き受けるということなのだろうなw

なんだったら、ヴァロワの従者のバルテ姉弟も加わりそうw

キンバリーがヤバいのは今回のピートの一件で解禁されたように、異性愛だけでなく同性愛も、さらには近親愛もありな、もう性愛のフリーランドなところだよな。

その中心にガイがおかれそうで笑えるw

ということで、今回はガイを巡るラブバトルの開始!も裏テーマだった。

にしても、マックリー、完全にツンデレだよなw

あ、あと、リヴァーモアも卒業生だけど教員といういい味を出すようになったw

むしろ、その中途半端な立ち位置が、今後、オリバーやテレサにとって望ましいものになるのかもしれないw

しかし、ホント、この作者、キャラの出し入れが上手いよなぁ。。。

その代わり、いつ誰が死んでもおかしくない怖さがあるのだけどw
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