パンセ(みたいなものを目指して)

好きなものはモーツァルト、ブルックナーとポール・マッカートニー、ヘッセ、サッカー。あとは面倒くさいことを考えること

フルトヴェングラーのトリスタンとイゾルデから

2020年08月07日 08時19分20秒 | 音楽

いつもなら今頃はドイツの小都市バイロイトでは、世界中のワグネリアンが集まって
オーケストラの上に蓋がある祝祭劇場の独特な音響を味わって
聴いてきた(見てきた)ばかりの舞台の感想等を話し合っていただろう
だが今年は、新型コロナの所為で音楽祭は中止、
自分は行ける身分でも立場でもないが残念に思う

ほとんど偶然に近いが、このバイロイトで1976年二つの舞台を見聴きした
「トリスタンとイゾルデ」と「パルジファル」だ
二つともホルストシュタインの指揮で、この指揮者の演奏の別の日を聴いた
吉田秀和氏は高く評価していなかったが、自分は初めて体験する音楽に
ノックアウトを食らった

「パルジファル」は好きな音楽だったので、予めレコードでだいたいの流れは知っていて
何の抵抗もなく聴き進めて行く事ができた
「トリスタンとイゾルデ」の方は全曲は知らず、一幕の前奏曲と愛の死の部分しか知らなかった
だが、集中しているとそれ以外にも印象に残る部分があった

その一つが第二幕の「愛の二重唱」と言われる部分で、トリスタンとイゾルデが
ピロートークとまではいかないが、何やらある観念に陥った心情を吐露している部分だ
これはとてもロマンティックとか官能的な感じの音楽で
特にフルトヴェングラーの指揮するニューフィルハー管弦楽団の全曲盤のレコードは
一度知ってしまったら、ちょっとやそっとでは抜け出せない魅力に満ちている
徐々にフォルテされていく音、そのフォルテに従ってテンポは遅くなっていく
その効果のすごさ、、、それは音楽という範疇を越えているようだ

このフルトヴェングラーのレコードの真骨頂はその後に続く「ブランゲーネの警告」の部分で
二人だけの世界以外は目に入らない二人に、誰かが偵察に来ているから注意する様に、、と
訴える音楽だ
この音楽が凄い
初め聴いた時も、バイロイトで二回目聴いた時もこの部分は深く印象に残っていた
だが、フルトヴェングラーのレコードの演奏は本番の舞台以上だ
なにしろ、ヴァイオリンの伴奏(フレーズ)が、歌にまとわりつくようで
そのヴァイオリンに耳全体が集中してしまう
そして出てくるのはため息

ところが不思議なのは、このヴァイオリンのまとわりつくような音楽は
持っているレコードのカラヤン・クライバー・バーンスタイン・ベームの全曲盤では
それ程聴こえてこないのだ
あの胸が苦しくなるような切ないような音楽は、フルトヴェングラーでしか味わえない
ヴァイオリンの音が彼のだけ良く聴こえるのは、そのように聴こえる様に録音されているからなのだろうか

とにかく、この部分があるだけでフルトヴェングラーの演奏は特別なものと感じる
他にも第二幕の最後の悲劇的な和音の音色
第三幕の前奏曲の孤独、、、
これらは他の表現方法があるとは言え、知ってしまうと抜け出せない

ところで、ブランゲーネの警告は、こんな音楽

Tristan und Isolde, Act 2, Scene 2: "Einsam wachtend in der Nacht" (Brangänes Stimme)


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