介護日記 ～順送り～

　穏やかな日々が続く。
　排泄もベッド横の簡易式トイレで一人で済ますことが出来、おかげで私も晩酌をやり、グッスリ眠れる。

　たまにはこんな事もある。
　ある朝床に水がこぼれている。「アレ」 と私が云うと、「一寸ね水をこぼしたんヨ」
　「エエッ、なんの水」 と思わず聞き返した。
　「・・・・・・」
　我ながらトッサの事とは云え、全く愚問を発したものである。
　床の始末をしながら、ひとりつぶやいた。
　「恥ずかしがらんでもええヨ。順送りや。ボクもそのうちこうなる」
　排泄の失敗というのは、認知症が進んだとは云え、本人にとっては認め難い事なのだろう。

　糖尿の数値もこのところ正常値という事なので、当分ひかえていたお菓子を体調を見ながら出す。甘いものが大好きで、「甘いものを食べんと元気が出ん」 「甘いものは別腹」 などと云いながら、元気な時はよく食べていたものである。

　特に好きなものはモンブランだが、最近のモンブランは少し甘さを抑えているようで、彼女には少々不満のようである。
　お菓子を見た時の彼女の表情は、一瞬心の中を見透かされまいという顔をしながらもニッコリ。そして 「いつもすみません」 などと他人行儀な挨拶を返したりする。