『しゅうちゃん、これから飲みに行くぞ。』
慌ただしく、閉店業務をこなしている時に携帯の向こうから、ミノル氏のよく通る声がした。
ミノル氏とはもう三十五年のお付き合いになる、しゅうよりも四つ先輩であり、人生の師であり兄貴分である。
そうそう、しゅうの結婚式の司会もやってもらったっけ。
三ヶ月に一回くらいの割合でお会いし、いろいろな話をさせて頂いている。
アタシは、仕事の悩み、農業のこと、最近の出来事などを彼に聞いてもらう。
ミノル氏は的確に、ぶれない自分の考えをアタシに投げかける。
そして、グチも聞いてくれる。グチに対して肯定し、更に『しゅうちゃん、こう、しろよ。こう、考えたほうがいいよ。』と、アドバイスもくれる。もちろん、『それじゃあ、ダメだ。』とゆう時もある。
相談できないのことがない数少ない、お仲間の一人である。
彼はまた、アウトローな人間なので、これまでもかなりの苦労を積み重ねてきている。いろいろな、企業を渡り歩き、多くの人脈を作り、今に至っているが、人には言えない様な、経験もしてきているはずだ。
話の端端にそのことがうかがえる。
アルコールが回ると、アタシにだけは、苦労話をするのだった。
さて、今日の会場である。
三条市の第一産業道路沿いに位置する『中華美食館』。
ここもミノル氏の幅広い人脈の中のお一人が、経営されているお店である。
とにかく安くて旨いのだ。
いや、ほんとに!
ここのお店、オーナー以下全員中国の方である。よって味の方も本格派である。
田植えの打ち上げは、是非ここでしようと密かに心に決めたのであった。
最近、仕事でストレスがたまりイライラが続いていたが、ミノル氏と話が出来て随分楽になった。
彼の飾らない性格と、利の絡まらない付き合い方が多くの人を惹きつけるのだろう。
『しゅうちゃん、人間なんて損得抜きで少し骨を折ってやったり、付き合っていれば、自然と輪は広がるものだよ。そして巡り巡って自分のところに還ってくるよ。』
『情けは人のためならず』を地で行っているような人である。
アタシには、自分のマイナス面をカバーしてくれる人たちが回りにいつでもいるんだと思った休日前夜であった。