陽だまり

2016-03-14 10:47:34 | しゅうちゃん劇場

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先週の日曜日 気温は20℃程に上がり日中は上着を脱いでもちょうどよい暖かさだった。ところがその後 雪がちらつく程の寒さに逆戻りである。 毎年同じことを経験しているのに 一年経ってしまうと「今年の春先は異常気象だ!」と皆 口々に言い合っている。

一年なんてあっという間と言いながら 一年前のことはすっかり忘れて今の現状に文句を言っている。

しかしこれでいいと思う。 

人は忘れなければ生きていけない。


すっかり陽が長くなった。

夕方6時になろうとしているのに街は黄昏色に染まり昼から夜への狭間を演出している。
 
木々が芽吹き 草花が蕾を付け 春の息吹が漂う春。 

四季の美しい風情を無償で楽しませてくれるこの国に感謝である。



 
 さて商店街の裏手にある飲み屋街は幹線沿いに立ち並ぶ大手居酒屋チェーンにおされ 歓送迎会シーズンというのに人の気配が全く感じられない。

裏路地に入りタバコ屋の角を右に曲がり「美須々」の前に立つ。 引き戸を開け臙脂色ののれんをくぐると 鰹節が利いているであろうおでん出汁と甘い燗酒の香りが鼻孔をくすぐった。

「もうっ! しゅうちゃん いらっしゃい」

久しぶりに聞く美須々ママの声 少しきつめの二重瞼の瞳 そして今日も薄紫の和服がすごく似合っている。そしていつもの常連であるシャチョーとヤスさんが奥の小上がりで呑んでいた。

「よっ 久しぶり!」

「久しぶりじゃあないわよ メール何度もしたのに 知らんぷり もう知らない!」

「まあ そう怒んないでよ どおしても恋しいママの顔を見たくなって折角来たんだから」

いつものカウンターの一番左側の席に腰をおろす。

突き出しの小鉢は蛍烏賊と菜の花の浸しが盛られている。 春を感じさせてくれる一品である 酒飲みはこうゆうところに弱い。

「今日ホワイトデーだから ママからチョコ貰ってないけど・・・・」と近くの洋菓子店で買って来たショートケーキを渡す。

すると冷蔵庫からなにやら取りしたかと思うと「はいっ しゅうちゃん!」とシルバーとブラックのギンガムチェックの包装紙に包まれた箱をカウンター越しに差し出した。

聞かなくてもチョコレートとわかるその包みを 「いやっ その~・・・。」と受け取る。

「しゅう よかったな! おれも貰ったけどキットカットてゆうのか受験生頑張れってやつ あれ一個だけだったぜ」とシャチョーから声がかかる。

「ありがとう・・・。」とゆうしかないのであった。

「もうシャチョーったら おんなじもの あげたでしょ!」

「そうか でも中身違うんじゃあねえか?」

「もう!?」

ちゃんと私の分まで買っていてくれた 素直に嬉しい。 しかし箱の裏に張られた製造年月日のシールを見ると今日の日付であった。

何だか複雑かつ飛び上がるほど嬉しい。

ここは私にとって陽だまりである。

心を和ませてくれ 元気をくれる空間だ。

また明日から頑張れる。


今日も願望的なバーチャル日記 「しゅうちゃん劇場」 以上 おしまい!


雪割草

2014-04-01 08:54:44 | しゅうちゃん劇場

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今日から4月だ。

また新たな出会いが始まる年度始めである。

真新しいランドセルの子供たちや新調したてのスーツに身を包んだ若者たちを見ていると こちらまでフレッシュな気分になってくるから不思議だ。

自然界でも草木の芽ぶきが始まった。 生命力に満ち溢れた春の土と空気と植物たちの吐息が入り混じり 自分の出番を今か今かと待っている。

春からの全ての営みが順調に行くように祈るばかりだ。


本当に陽が長くなった。夕方6時を回ってもまだほんのりと明るさが残り 闇のゆく手を阻んでいるかのようである。

今の時期 日中はそれでも暖かく感じるが 夕闇とともにかなり気温も下がり 羽織ものが必要になって来る。

今日はライトグレーのカメラマンジャケットをひっかけ 夜の飲み屋街へと足を向けている。「美須々」に来るのは本当に久しい。

今日は仙台のかわちゃんと山梨のターちゃんと待ち合わせて 飲むことになっている。ひょんなことから知り合いになったこの二人と飲むのも久しぶりである。

いつものようにえんじの暖簾をくぐると

「しゅうちゃん いらっしゃい もうお二人ともお待ちかねよ!」 とママが笑顔で迎えてくれる。私はこの笑顔を見るためにここに来るようなものである。

笑顔の悪い人間なんかいないが ママは特別だ。

「どうも かわちゃん ターちゃん お疲れ様です 旅からの方をお待たせしちゃって本当にすみません」

「いやいや俺達もさっき着いたばかりですよ」 とかわちゃんが気を遣ってくれる。

「本当はかわさん ママに早く会いたっくって一本早い新幹線で来たようですよ」とターちゃんがボソボソと言った。

「おいおいターちゃん憶測でものいっちゃだめだよ ホントだけど」と白い歯を見せる。

「そりゃよかった ママに早く会えて」

「そうそうターちゃん インドネシア長期出張ご苦労様でした 大変だったね」

「いやあ 仕事ですから でもまた行くことになるかもしれません それも今度は年単位かも知れません」

「そっか でもターちゃんが一番適任で仕事も出来るから会社も選考候補にしているんだと思うよ」

「そうよ ターちゃんはしゅうちゃんと違って若いんだから頑張れちゃうわよ さあ乾杯しよ!」とママが言う。

「おいおい まあその通りだけど」

今日は少し肌寒いので熱燗で乾杯である。

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「ねえ この前ねえ雪割草を見に行って来たの 雪割草って 一つ一つ花が小さくって愛らしくってかわいいけど けっして 個々を主張しないでみんなで引き立て合って群生しているでしょ なんだか健気だけど それでいて芯が強そうって感じちゃった」

「つまりそれぞれに個性は持っているけどみんなで融合しあって 生きているって事かな?」

「そうそう まあ人間社会にすべては当てはまらないけど 見習うべきところはあると思うのよ」

「ママって 花を見てそうゆうこと感じるんだ さすがだね!」

「ちょっとお 茶化さないでよ!」

「じゃあ今日も融合しあって 飲みましょう」

そして ワイワイ がやがや美寿々の夜は更けてゆくのであった。



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今日は美寿々ママとの恋バナ無し。 

残念なしゅうでありました。

本日の願望的バーチャル日記しゅうちゃん劇場 これにておしまいであります。

  

 


爽風

2013-06-10 19:18:53 | しゅうちゃん劇場

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この地では例年よりやや遅かったが バラの花がやっと気分良く咲きだしてくれた。春先の低温が影響しているのだろう。

6月も中旬に入り 日中の気温は夏日になる日も度々である。 しかし朝晩は気温があまり上がらず体調を崩している人も多いようである。

6時半を回って陽が落ち始めたころの風景は 日中の平凡を我慢したご褒美に 幻想的な世界へと誘ってくれている。

新緑の街路樹の下を 爽やかな風にそよがれながら 黄昏の元繁華街を少し早足で歩く。

久しぶりの美須々である。 ママの顔も久しく見ていないしシャチョーやヤスさんにも会っていない。

路地に入りタバコ屋の角を右に曲がると いつも通り美須々の看板が目に飛び込んできた。引き戸を開けエンジののれんをくぐる。

「いらっしゃい しゅうちゃん!」

「ママ ご無沙汰 相変わらずベッピンさんだねえ!」

「ありがと でもみんなそうゆうから聞き飽きちゃったよ そのセリフ」

「あっそお」

店内を見回したが先客はいないようである。 

「まだ早いから お客さんいないんだね」

「だといいんだけど やっぱり不景気なんだよね アベノミクスも所詮 絵に描いた餅ってところよね アタシ達一般庶民には何の関係もないどころか かえって悪くなっているみたい」

「まあ いいよね そんな話 何呑もっか?」

「ぬる燗でお酒ね」

カウンターにマグロブツとお酒が並ぶ。

「はい しゅうちゃん」とママがお酌してくれる。

まずは一杯 小ぶりのぐい飲みで半分ほどの量を口に流し込む 鼻に少しくる日本酒特有の香りとともに 甘い液体が舌の上を滑って喉の奥 そして胃袋到達する。少しチリっとした感じが堪らなくいい。

「んん~~~ん最高ですよ」

冷たいマグロをひとかけ口に放り込み ぐい飲みに残っているお酒をグイッと頂く。 マグロとわさび醤油がお酒の味をひときわ盛り上げてくれる。

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ガラっ   引き戸の開く音が。

「いらっしゃいませ!」

入っていたのは二十代半ばと思しきショートカットの女性である。 営業職なのだろうか ペンシルストライプの入ったライトグレーのスーツ姿である。

この小料理屋にはおおよそ似つかわしくない若い女性である。

「あの ご飯だけ いいですか?」

ママはニコッと微笑み 「もちろん いいですとも さあカウンターしかないけど 掛けて」

「あの何でもいいんです 白いご飯があれば」

「はいはい すぐ用意しますね」

ママはてきぱきと動き 料理を始める。

10分くらいで 彼女にとっての今日の夕食がカウンターに並ぶ。

白いご飯 これは新潟の契約農家から届けてもらっている従来のコシヒカリである。この店でのご飯ものといえば飲んだ後のお茶づけと おにぎりくらいのものであるが ママはそこにもこだわりがあるようだ。 それを電気ではなくガスで炊いているのだ。旨くないはずがない。

ナメコと豆腐の味噌汁 サバの味噌煮 ぜんまいの煮しめ コシアブラの胡麻あえ 出汁巻き卵。

「なんかお酒のおつまみみたいなものばっかりだけど 美味しいわよ さっ 食べて」

「わあ 美味しそう 頂きま~す」

彼女はよっぽどお腹が空いていたのか 夢中で食べる。

食べ終わると 「ごちそうさま」と両手を合わせ 箸を置く。

「お茶 どうぞ」とママが勧める。

「変な客だと思ったでしょ? お父さんたちがお酒を飲むような小料理屋さんに若い女が一人でって」

「そんなことはないわよ うちはすべてのお客さん大歓迎 特に若い方はね」

「母と喧嘩して家を飛び出してこちらで一人で生活しているんですけど もう6年連絡をとっていません 仕事はやりがいがあって面白いんですが 忙しすぎて マックやすき屋 そしてレトルトばっかり」 

「そして今日の日中偶然 このお店の前を仕事で通ったんです そしたら美須々って名前 母と同じだったものですから ああ 母の字は美鈴ですけど そしたらなんだか無性に母の手料理が懐かしくなって そして今晩・・・・」

「そうだったの こから時々寄ってね でもその前にお母さんと連絡取りなさいね どんな事情があるにせよ子供を心配していない親なんていないわよ」

「わかりました 今このご飯を食べたら みんな私のわがままから始まったんだって 気づきました」

御飯はおふくろの味が一番!

今日はしゅうの出番が殆んどないしゅうちゃん劇場でありました。

しかし今日も姿だけじゃあなく心もベッピンのママに逢えてよかった よかった!

012


初夏 美寿々にて

2012-06-25 18:18:47 | しゅうちゃん劇場

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台風の影響で今年は気候不順を強調しすぎているようだ。 例年より 極端に涼しいわけではない。 朝晩 「梅雨寒かな?」って感じる程度の今年の初夏である。

木々も若草色や萌葱色 若竹色など様々な緑色で彩られ懸命にエネルギーを発散させている。

日中は「薄暑」 それに夏至の直後である今は「短夜」。 

そう いつも通りの6月である。




もう7時だとゆうのにまだ 外は明るい。

最近夜は仕事に感け とゆうか 面倒くさくてどこにも出歩いていない。 そうゆう齢なのかもしれない。

とはいっても たまに美寿々ママにい逢いに行かないと人生の張合いも出ないってもんだ。「今日は何飲もうか」などと思っていると 急に冷たいビールの泡が頭の中でシュワ~っと溢れ出した。

いかん アル中か!?

商店街の歩道脇のイチョウ並木は青嵐によって葉っぱが蝶のように舞っている。今頃の風は初夏の一日分の爽やかなエキスを十分含んで甘く感じるとともに 頬にも心地よく感じる。

いつものように商店街のアーケードから横丁の路地に入る。 煙草屋の角を右に曲がると いつもの『美寿々』の四角い看板灯が目に飛び込んでくる。明るいせいか看板等に灯はまだ入っていない。



引き戸を開け えんじの暖簾をかき分け店内に入る。

奥のカウンターで先客のシャチョーとヤスさんが銚子を酌み交わしながらなにやら話し込んでいる。

「しゅうちゃん いらっしゃい!」

「よっ ママ 相変わらずベッピンしてるね!」

といつものカウンター席に腰を落とす。

「なんだか最近来る日の間隔がどんどん広がっているみたいね  どこかで浮気してるんじゃないの?」と横目で睨まれる。

「そんなことないよ どこにも行っていませんよ」

「まあそれを信じて さて何飲もっか」

「それそれ もう頭ん中でビールの妄想が広がっていて 冷たいの頂戴! それとビールには焼き鳥 塩で焼いちゃって!」

「よう しゅう」とシャチョーが右手を上げる。

「どうも なんか辛辣なお話ですか?」

「いや~ こいつが ヤスがな女に振られちまったんだとよ それで落ち込んでやけ酒飲んでたんで 今 説教喰らわしてやったとこだ」

ヤスさんは泣いたらしく目を真っ赤にしている。

「シャチョーよ でも俺本気だったんだ 真剣だったのに 他に男が出来たからって 2年も付き合ったのに”別れましょう”だぜ」

「だからヤスよお さっきから言ってるだろう 縁がなかったんだよ もう忘れろ! 仕事も女も失敗しなきゃあ成長しねえんだ 」

「ヤっさん そりゃあ大変だったな」

「しゅうちゃんは そりゃあいいよ ママがいるんですからね 俺にはもう女なんか一生出来ねえよ」

ママが一瞬慌てたように横を向く。

「ママ そうなんだって!?」とおどけてゆう。

軽く睨まれる。

全く女心のわかっていないしゅうであった。

「ようしじゃあ 今日はヤっさんの慰め会と新しい彼女が出来る事を願って飲もうよ ビールやめて 酒付き合うよ! ヤっさん 失恋したかっらって心配すんな。 君は純粋でいい男だ またすぐに彼女出来るよ!」

と今日も美寿々の夜は賑やかに更けてゆくのでありました!

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今日も美寿々ママ すごく綺麗でしたよ!

最近極真面目なしゅうの願望的なバーチャル日記 「しゅうちゃん劇場」 以上 おしまい