アクアコンパス 3   世界の歴史、社会、文化、心、読書、旅行など。

カテゴリー「案内」に人気記事と連載の目次があります。Twitter に yamada manabuで参加中。

ピケティの資本論 2: 高額報酬

2015年04月13日 | 連載完 ピケティの資本論

*1

これから格差にまつわる誤解を見ていきます。
巷で、意欲向上策(インセンティブ)には高額報酬が必須だと言われています。
この問題から掘り下げます。
そこからは奇妙な落とし穴が見えてきます。



* 2

高額報酬
米国のプロ野球選手や大企業社長の年俸は巨額です。
2004年、米国のCEOと一般労働者の平均年収比は431倍でした。
ハーバード大学の哲学者サンデル教授はNHKの白熱教室で高額報酬を議論していました。

皆さんは、高額報酬をどう思いますか?
「素晴らしいこと」
「不自然だと思うが、自由であるべきだ」
「問題であり、是正すべきだ」

多くの人は高額報酬こそが、やる気を生み、経済を発展させると思っているのではないでしょうか。

身近な例で確認しましょう
マイクロソフトのビル・ゲイツの総資産は約10兆円です。
彼のパソコン普及への貢献度はどのぐらいでしょうか。
青色発光ダイオードでノーベル賞の中村修二は和解金約8億円を手にしました。
照明を全部LEDに変えれば世界の総発電量を10%が削減出来るそうです。
IPS細胞でノーベル賞の山中伸弥はいくら手にしたでしょうか。
その貢献度は計りしれません。

実は、偉大な業績の割に報酬が高くない例はいくらでもあります。
数学や物理学の大発見者、平和に尽くした人々、画期的な社会システムを生みだした人々などは、貢献に見合う報酬を得られないでしょう。
だからと言って、彼らがやる気を無くしたとは言えません。
もっとも、富が欲しいなら別の道を選ぶでしょうが。


*3

高額報酬は何によって決まるのか?
常識とは異なる特徴的な4例を挙げます。
A: 希少価値で決まる。
例えば、素晴らしい芸術作品が高額で落札された場合などです。
一方、スポーツ選手の高額報酬は実績以上に、希少価値による宣伝効果もあるでしょう。

B: 市場の独占・寡占は報酬を巨大化させる。
ビル・ゲイツの場合、独占が富を増大させたと言えます。
創業者利益を得ることは産業育成に重要ですが、経済ルール(独占禁止法)が遵守されなければ弊害を生みます。

C: 重役の給与は自ら決めることが出来る。
株主や労働組合は調整圧力になりますが、現在、報酬額は概ね経営者自身で決めます。
重役の高額報酬は時代(80年代以前と以降)や国(日米)によって差があり恣意的です。
企業価値(業績)や市場の需給で決まっているわけではありません。
これは止むことの無い金銭欲、それを許容する社会、裏付ける学説・主義の台頭があり、益々力を付けた人々がいたからです。

D: 発明の報酬は特許法で左右される。
特許法は発明に独占権を与え、発明を旺盛にします。
しかし発明者の報酬は職種や国で大きな差があり、例えば日本の職務発明の報酬は非常に少ない。
上記の中村氏は発明の対価として日本では画期的な200億円の判決を得たが(結局は貰えなかった)、それまで日本ではどんな発明でも最高数百万円が限度でした。


*4

報酬額は合理的か
営業が自らの力で高い販売額を上げ、その歩合を得る高額報酬は妥当だとみなせるでしょう。
しかし多くの報酬額は自由競争(市場評価)で決まると言うより、恣意的であり社会的制約如何に左右されている。
社会的制約が有る場合は下がり、それを逸脱した場合は上がります。
報酬額の多寡は狭い範囲(同一職種や組織)では、比較的穏当な場合もあるが、社会全体で見れば合理的とは言えない。

報酬額が合理的でないとすれば、何が起きるのか?
例えば、業績を上げても報酬が下がり、逆に業績や能力、努力も無いのに報酬が上がるようになれば、労働意欲は低下します。
この場合、別の意欲が旺盛になります。
報酬向上の為に裏工作に奔走し、決定権者へのゴマすり、ごまかし、賄賂が横行し、ついには組織の腐敗と停滞が生じます。
これは、いつの世にもある衰退の始まりです。
つまり合理性に欠ける高額報酬は、社会全体の意欲を減退させます。

次回に続きます。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿