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ピケティの資本論 3: 高額報酬と意欲向上

2015年04月15日 | 連載完 ピケティの資本論

* 1

前回、高額報酬が合理的に決まっていないことを見ました。
今回は、高額報酬と意欲向上の関係について考察します。

高額報酬は意欲向上に有効か

高額報酬を必要だと声高に訴える人々は、高額報酬が経済活性化に不可欠だと言います。
当然、主張する人々は高額報酬を享受する人々やそれに繋がる経済学者、マスコミです。

高額報酬と意欲向上がもたらす夢のような結果
A: 人は高額報酬を得る為に高い業績を上げようとする。
B: 従って企業業績が上がる。
C: おかげで国の経済は上昇する。
この至極簡単な論理に間違いはないのでしょうか。



* 2

皆さん、身近で起きていることを振り返って下さい。

例1: 経営者には、従業員に業界平均以上の給与を与える人、平均以下で済ます人がいます。どちらの経営者の報酬が多いと思いますか?

平均以上を与え意欲向上を図り、会社の業績が上がり、ひいては経営者の報酬が増える。
平均以下しか与えず、その差額を設備投資に向けるか、経営者の報酬に充てる。
色々でしょうが、私の知る限り高額報酬で労働者の意欲向上を図る経営者は少ないでしょう。
多くは景気や業界平均、企業業績とを勘案して給与を決めるのが通例です。


*3

例2: 経営者や技術者の報酬は業績が2倍になったら2倍になるでしょうか? 

例えば、企業利益50億円の経営報酬が1億円で、利益100億円を出したから報酬が2億円になる場合です。
この場合、経営者の手腕のみで50億円をプラスさせたのなら、その報酬は安いものです。
しかし、増益分における経営者の貢献度認定は至難の業です、そうでないこともあるでしょうが。
それは景気、販売額、コストカット、開発、リーダーシップなどの評価に絡みます。
一方で、ヒット商品を生んだ開発者の場合、販売額からその貢献度を計ることが出来ますが、投資額や協力者、他部署の貢献度を考慮した結果、報酬はどうなるでしょうか。
後者は前者に比べ、明確さとは逆に割安になるでしょう。

CEOと一般労働者の所得比が千倍(米国の場合)ならCEOの業績は千倍でしょうか?
CEOにはずば抜けた経営能力が必要ですが、高額報酬に見合った業績を上げているかは別です。
「高額報酬は企業業績に貢献するか」について、ピケティは著書で調査結果を踏まえ否定しています。
するとCEOだけは意欲向上の為に高額報酬が必要だと言っているようなものです。


例3: 米国は1980年以前、経済成長率が今よりも高かったが、CEOと一般労働者との所得比は今よりも高かったでしょうか?

当時、CEOと一般労働者の所得差は今よりも少なく、年々その差は開く傾向にあります。
しかし、逆に米国の経済成長率は漸次低下し、バブルの山谷はより深くなっています。
これは複雑で一概には言えませんが、恣意的な高額報酬が許される社会へと突き進んでいることにあります。
この政治・経済の潮流変化と、それを支える経済学説の台頭をピケティ(クルーグマンも)は著書で解説しています。


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結論
不思議なことに、高額報酬を望む多くの人々(重役)は高額報酬による労働者の意欲向上策を信じていない。
もし信じているなら、重役だけでなく労働者の平均所得も上昇するはずですが、逆の現象が加速しています。
要は、自分が高額報酬を得たい口実に過ぎないようです。
報酬に上下があるのは自然ですが、その適用に問題があります。

以上から、高額報酬が経済上昇に繋がるかは怪しくなりました。
むしろ逆に報酬低下による社会や経済への悪影響が問題となります。
次回、それを見ていきます。









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