GOGO三国志!

2014年に復活した白井恵理子先生の劉備くんシリーズや長池先生の「破龍」(完結)他三国志作品を応援しています!

安能 務「三国演義」

2005-12-09 20:47:11 | 三国志/小説(演義ベース)
三国演義(全六巻)/安能 務(あのう つとむ) 著/講談社/未確認(刊行中?)/各1900円(本体価格)
内容とコメント物語の展開は「演義」のままですが、人物の性格は「正史」で見られるものを著者なりに若干変えて描いています。(劉備や孔明を冷めた目で見る簡雍(かんよう)の人物像は何となく著者自身を反映しているような気がします。)
それでいて、時折武将の描写(特に性格)が矛盾しているような印象も受けます。
例えば、諸葛亮に余裕を見せておいて後で悔しがる周瑜。まるで情緒不安定のように見えてしまいます。
文章は言葉を辞書を引かないと判らないほど堅いです。漢和辞典を引く回数も多かったです。2ページに1回は引いていたような…。
文章はシリアスなのですが、会話になると「やあ、きみ」や「そうだね」など途端に表現が軟らかくなり、肩すかしをくらったようで戸惑います。数々の緊迫した場面もこれで台無しになっていると思います。
劉備の馬になるはずだった「的盧」(てきろ)が別の武将の愛馬になって活躍したり(ホウ統が劉備の馬に乗って落命する点は同じ)、張飛と関羽が孔明に逆らって自分で兵を養う具体的な方法、関羽と張遼が幼なじみ、など、他にも豊富な著者独自の設定が新鮮なので難解な文章の中、投げ出す事無く読み続けられます。
この武将がキラキラ♪
呉の武将たち。「三国志」ものではその活躍がおざなりにされている事が多いのですが、この作品では比較的出番が多く描かれます。
特に甘寧は呉のエースとして活躍する姿がたくさん見られます。
この武将がトホホ
孔明と陳宮。陳宮は呂伯奢一家殺害後に曹操と別れてからさっぱり出なくなってしまいます。てっきり徐州で曹操が行った大量虐殺をやめるよう忠告に訪れたり、あるいは呂布のもとに走るのかと思っていたのですが…。完全に忘れ去られているようです

孔明は呉に説客に来た時や劉備軍にいる時などは周瑜たちに見守られる「道化」のような役回りになっています。十万本の矢の集め方は周瑜にも判っていたけれど、あえて放っておいたり、関羽たちを従わせようとやたらとはりきっている孔明の場面は何だか気の毒に思えてしまいます。その割に後半は立派な人物に書き換えられていて、矛盾を感じてしまうのです。
この武将がキラリ!
趙雲。こんな所にも?と思うほど出番が多いです。この作品では心打たれる武将が多かった中、かっこ良さだけでなく設定の点でも良かった事が決め手になりました。
張飛を兄のように慕い、関羽の弔い合戦を宣言する劉備を諫める場面では言葉の裏に、死に物狂いで孫権を討とうとする張飛を止めようとした意図があった事が演出されています。
この場面がキラリ!
甘寧の死の場面。大木の下に座ったまま迎えた最期は穏やかでまるで絵をみているかのような印象的なシーンになりました。
諸葛亮の子諸葛瞻(しょかつせん)・尚(しょう)父子が「孔明の名声」という首枷(くびかせ)に苦しめられながらも潔く死を覚悟する場面や折り重なって戦死する場面に涙ぐみます。
この女性がキラリ!
劉備の第五皇子・劉(りゅうじん)の妻・崔(さい)夫人。潔い気質と、柱に頭を打ち付けて自殺する、ちょっとビックリする最期、それ以上に劉に見せた微笑みが魅力的です





水煮三国志

2005-10-29 20:52:54 | 三国志/小説(演義ベース)
水煮三国志(みずにさんごくし)~中国ビジネス思想の源流を知る~/成 君憶(チェン・ジュンイ) 著/呉 常春(ウ・チャンチュン)・泉 京鹿(いずみ きょうか) 訳/日本能率協会マネジメントセンター/刊行中/1600円(本体価格)
内容とコメント「三国志」のビジネス小説。劉備や曹操たちの企業家としての奮闘を「三国志」の展開に沿って描き、彼らの口を通して経営者の心構えを教示しています。
雑誌で人気を博した連載を単行本化し、中国でも日本でも大ベストセラーになった作品です。タイトルの「水煮」は四川料理の人気メニュー「水煮魚片」(油で揚げた唐辛子と山椒がたっぷり入った激辛の川魚の水煮)のようなピリ辛の風刺を効かせたという意味で使用したそうです。
この作品に登場する劉備たちは現代の人間で、「三国志」は古典として登場します。それが時々紛らわしくなってしまいます。
例え話として出て来る寓話(イソップ物語?)もその必要性に疑問を感じ、大いに戸惑います。
人材管理(社員の操り方)や顧客の心をつかむ方法など、ビジネス教本としてはとても勉強になりそうで、必要とされる方が読まれると確かに面白いかもしれませんが、「三国志」の武将たちが非情なビジネスの世界で利潤を追求する姿には感動出来ません。
それと、ビジネス用語もある程度知っておく必要もあります。これは最近のニュースや新聞を騒がせた流行の用語がちょうど出てきます。
それでも、展開は「三国志」に沿っているので、呂布絡みの話(劉備から徐州を奪ったり、貂蝉の為に董卓を殺害してしまった事や滅亡の様子)や赤壁の戦いのあたり(特に曹操の南下や黄蓋の偽降と火計)などは現代風にアレンジされていて面白かったです。
各章の終わりにはその章で教えた事のまとめを、巻末には登場人物の総覧が収録されています。
この女性がキラリ!
阿丑(あしゅう)。諸葛亮の妻。この小説では(でも?)扱いがひどい女性陣の中では良い役に描かれています。
世に出て自分の力を試したい孔明に覚悟を決めさせ、快く送り出す、爽やかな奥方です。
孔明より頭脳明晰な印象もあります。



三好 徹 三国志「興亡三国志」

2005-07-12 21:31:37 | 三国志/小説(演義ベース)
興亡三国志 (全五巻)/三好 徹(みよし とおる)著/集英社/未確認(刊行中?)/各1600円(本体価格)

内容とコメントビジネス・ジャンプ誌に連載したものに最後の四章を加えた作品。
大きな特徴は曹操の詩に触れた事がきっかけで試みた、敵役ではなく、人間・曹操の描写です。
曹操の、同胞や部下への気遣いは、他の作品ではなかなか見られません。
腹心の軍師たちとも、言葉を交わさずとも良く通じ合っています。
その為、後に生じるすれ違いは、むしろ「言葉」が意思の疎通を邪魔したかのように受け取れます。さすがに、それが著者の意図によるものかどうかまでは判りませんが。
全体的に、武将たちよりは軍師たちの心理描写の方が多く、かつ丁寧です。
また、著者が魅せられた曹操の詩作と、著者自身の捉(とら)え方を紹介しています。

この武将がキラキラ♪
曹操と劉備。お互い、憎い仇というよりは好敵手として見ているようです。

この武将がキラリ!
陳宮。曹操の下を離れた真の理由とは…。そして、義弟・鄭欽(ていきん・オリジナルキャラ?)を通して、思い知らされる偉大さに感激し、同時に切なくもなります…。

この描写がキラリ!
糜竺(びじく)と孫乾。劉表のもとへ身を寄せたい劉備の為に、(命がけで)劉表たちを説得すべく弁舌をふるうのですが、言ってる事はちぐはぐで、二人の様子が「鏡の国のアリス」の双子・ディーとダムに似ていて、笑いを誘われます。
もう一つは、徐庶と孔明。「三国志」では徐庶と入れ違いで孔明が劉備に仕えるのですが、この作品では、短い間ながらも、二人一緒に劉備に献策していて、その様子が見られてとても嬉しいです! 著者の粋な計らいに大感謝です。










偕成社版三国志

2005-04-29 21:57:47 | 三国志/小説(演義ベース)
三国志(全4巻)一「英傑雄飛の巻」 二「臥竜出廬の巻」 三「三国鼎立の巻」 四「天命帰一の巻」/渡辺仙州 編訳 佐竹美保 絵/偕成社/刊行中/各1600円(本体価格)

内容とコメント「三国志演義」に「正史」の記述を加えて補完した作品で、特色としては、多くの小説では省かれがちな孔明の死後から三国滅亡の経緯までをも描いています。
人物・地名(呼び名が多い)の表記を統一し、「演義」での地理的誤りの注釈を入れて読者の混乱を防いでいます。役職や用語の説明、人物の再登場時には過去の略歴を、ページごとには今登場している人物の挿絵を入れるなど、とことん読みやすさを追求しています。勢力地図も年代ごとにいちいち更新され(このこだわりが嬉しいです)、人物の挿絵も年を取っていくのが芸が細かいです。文字も大きいです。
巻末には各巻ごとの解説もあります。

この武将がキラキラ♪
陸抗(りくこう・陸遜の子)と晋の羊祜(ようこ)。偽計の応酬や保身に走って他人をおとしめるなど、人物的魅力に欠ける「三国志」後半において、彼らは一服の清涼剤。敵将ながら互いに認めあい、酒や薬を贈るなど、敬意を払いつつ対峙しますが…。もう少し、彼らの活躍を見たかったです。蜀のために最後まで戦った、姜維と諸葛瞻(しょかつせん)・尚(しょう)父子(孔明の子と孫)も努力賞です。

この武将がキラリ!
張遼、太史慈、荀、趙雲…他、実力派武将、軍師たち。この作品で武勇や智略、信念など、そのかっこ良さを再認識してしまいました。

泣き虫弱虫諸葛孔明

2005-04-25 21:23:46 | 三国志/小説(演義ベース)
泣き虫弱虫諸葛孔明/酒見賢一 著/文藝春秋/刊行中/1905円(本体価格)

内容とコメントその奇行ぶりから、地元ではちんぴらにも恐れられるほどに変人扱いされていた諸葛亮が「臥龍」となり、黄氏を妻に迎え、劉備と出会って出廬するまでを著者独自の屈折したユーモアな文章で描いてます。
「臥龍」「鳳雛」の由来(狙い)のエピソードや天下三分の計は「梁父吟(りょうほぎん)」から着想したと推測しているのが新鮮で面白いです。
ただ、黄氏と結婚してからは世に出ようとする積極性が無くなり、会いに来た劉備に仕えようと思った理由の描写が弱く、「その内」「おいおい」という言い回しや、他の説明で濁されてしまった感じです。それが作品の尻すぼみ感になってしまった気がします。
劉表のいる荊州を劉備に執拗に取らせようとした理由が、叔父を死に追いやったのが劉表だと判った為、というエピソードを仕える理由に結び付けてもいいような気がします。
曹操、孫権との因縁や待遇を紹介しておきながら、安易に出来そうな推測(何故劉備なのか)もされてません。小説なので独断でも著者の推測が欲しかったです。
とにかく、笑える表記が多いので、あまり深く考えず昔話、笑い話として読んだ方がいいのかもしれません。 この作品の孔明のフォローとして、姉弟、叔父など、身内思いであることを挙げておきます。

この武将がキラキラ♪
曹操と郭嘉。この作品では孔明と周りの人々が奇人だったり振り回されたりする設定なのに、この二人はまともな描写で良かったです。

この武将がキラリ!
劉備三兄弟。実は裏表ある劉備の心の中の悪口雑言に笑ってしまい、却って親近感が増しました。
恒例の「桃園結義」披露を嫌がりつつも徐々に乗ってしまう堅物関羽や劉備の裏人格(本性?)と波長が合う張飛と三人で孔明を“訪(おとな)う”(襲撃する?)ノリが楽しいです♪
この作品では三人に対して誰もが抱く鋭いツッコミも成されてます。

この描写がトホホ
徐庶が劉備に仕えていた期間。徐庶や曹仁に良いイメージがあると読んだ事を後悔するような描かれ方です。「演義」でも見所の一つ「八門金鎖の陣」の場面も同じです。
徐庶の人物像は「演義」での彼の扱いよりもイジメ行為に見えるほど酷いです。徐庶~

三国志平話

2005-04-05 22:11:20 | 三国志/小説(演義ベース)
三国志平話/二階堂善弘・中川諭 (訳注)/株式会社コーエー/未確認(刊行中?)/2400円(本体価格)

内容とコメント
日本に現存する最古の三国志である「至治新刊全相平話三国志」を翻訳し、その他の文献を参考に注釈を加えた作品。
「演義」の種本と言われ、話は漢の劉邦によって殺された韓信らを曹操たちに転生させるところから始まり、蜀の滅亡後に劉氏を名乗った匈奴の劉淵が晋を滅ぼし漢王朝を復活させたところで終わっています。
人名・地名、果ては人物のエピソードの記述に誤りが多く、本書の解説が無かったら読者が混乱してしまう内容です。「平話」という作品として楽しむ分には良いかもしれませんが。

この武将がキラキラ♪
関索。宋の時代には力士などが強者である事を示すためにこの名がニックネームとして広く使われていた事、また勇猛さの象徴・関羽の名と結びついて「関索」の人物が出来上がっていった事などを紹介しています。

この武将がキラリ!
武将ではないけれど、貂蝉。「平話」では既に呂布の妻で、彼と生き別れた後に王允に保護された設定となっています。元ネタは雑劇で、その中では彼女の出生地、父の名、字が紅昌である事、「貂蝉」の由来、呂布との出会いなどの半生が描かれています。
「正史」ではモデルとなった女性、「演義」では謎の多い架空の人物といういくつもの「顔」を持つ貂蝉。この作品でも謎の素顔を一部見せてくれています。

吉川英治版 三国志

2005-03-09 21:33:02 | 三国志/小説(演義ベース)
吉川英治歴史時代文庫 三国志 (全八巻)/吉川英治 著/講談社/刊行中/各660円(本体価格)(1992年当時の価格です)

内容とコメント現代作家の多くに影響を及ぼし、今でも多くの読者を魅了してやまないロングセラーの三国志小説。
幼い頃に三国志に触れ、その後独自に三国志関連書を熟読した上、自己流に描いたのがこの作品。
中国というよりは日本の時代小説のような文章のためか、日本人には馴染みやすい。
(本場中国でも大人気らしいです)
特に武将たちがいきいきと描かれていて、この作品で初めて好印象を持った武将が多いです。

この武将がキラキラ♪
前半の主役・曹操と、後半の主役・諸葛亮。「演義」では悪役・やられ役の曹操の人間性を描く事で魅力ある人物になっています。この作品でハマった方も多いかも?
もちろん、劉備も仁徳の厚い人として活躍してます。

この武将がキラリ!
やはり曹操です。長所も短所もある所に好感を持てるのかもしれません。
それと、もともとお気に入りだった武将、新たに知った武将たち。
後に色々な作品を読んでもなかなか超えられない魅力を持ってます。