第1位 『鬼平犯科帳』
1989年~2001年、全9シリーズ放送。1995年に劇場版公開。2005年~2016年、スペシャル版13本放送。フジテレビ系列。

原作、池波正太郎。まあ当然の結果という感じ、
ですかね(笑)。
この作品については思い入れが強すぎて、言葉が出てこない。「大好きです!」で終わりにしたいくらいですが(笑)、まあなにか、書いてみましょう(笑)。
鬼平こと長谷川平蔵(中村吉右衛門)は、火付盗賊改の長官。火付盗賊改とは、江戸市中に横行する凶悪犯罪を取り締まるために組織された、特別軍事警察といえば良いかな。独自の機動性を与えられていて、煩雑な手続きを経ることなく出役出来、賊を捕縛し場合によっては斬り捨てることも許されている。ある意味
とても怖い組織です。
火付盗賊改は江戸町奉行所とはまったく違います。江戸町奉行所は東京都庁と警視庁と最高裁判所が一緒になったお役所であり、務めている人たちは武士ですが「お役人」です。当時は「役方」と言われていた方々。
これに対し火付盗賊改は治安維持専門の組織。武芸に秀でたいわば「軍人」さんであり、武士らしい武士。当時は「番方」と言われていた方々。
両者はまったく違う別組織。これ、この作品を観る上での基礎知識ね。
で、この怖い盗賊改が、悪党どもを捕まえるというお話ではあるのですが、物語の基本となっているのは、以前『剣客商売』でも触れた
「情緒」です。
数学者・岡潔氏は、日本人を日本人たらしめているのは「情緒」であるとおっしゃられておりました。その情緒が、このドラマでは重要なファクターとなっているということ。
だから観ているこちら側の心に、深く刺さるものがあるのだと思う。
四季折々の風景の美しさ。街角で商売をする人、行商を行う人、寒い夜に夜泣き蕎麦をすすり暖をとる人々。そうした市井の人々の暮らしが丁寧に描かれる。
鬼平さんの時代の「食」に関しても、相当なこだわりがあったし、所作、衣装等はもちろん、鬼平さんが使う煙管や、役宅に何気なく置いてある壺、あるいは茶碗に至るまで時代考証を行っていたそうな。そうした細かい拘りから、当時の江戸の「粋」、「情緒」といったものが立ち上ってくるもの、なのかも知れません。
主人公長谷川平蔵は若い頃にグレて、悪い仲間とやんちゃなことをしていた時期もあった。その頃の経験から、悪の道に入ってしまう者たちの心情がよくわかるんです。だから悪党どもに対して「慈愛」の視点がある。
でも治安維持と江戸市民の生活の安寧を図るお役め柄、悪には果断に対処していく。そのあまりの果断さに、悪党どもから「鬼」と呼ばれ、恐れられるわけです。
悪党に対する「慈愛」。この慈愛があるからこそ、彼長谷川平蔵は「鬼」にもなれるのだと、私は思う。
悪党どもを出来得るならば真っ当な道に戻してやりたい。そんな思いがあるからこそ、
「鬼」になるのです。
世の中には、慈愛のないただの鬼もいれば、慈愛もなければ鬼にもなれない輩もいるわけですが、そんな中で鬼平さんは
慈愛をもった鬼
なんですよね。
そんな鬼平さんの人柄に、多くの人が「惚れる」んですよ。
このドラマの最大の魅力は
そこだ!
出演者の方々も皆素晴らしかった!中村吉右衛門さんを筆頭に、一々役名は上げません。知ってるでしょ!?多岐川裕美さん。高橋悦史さん。御木本伸介さん。
篠田三郎さん。柴俊夫さん。勝野洋さん。真田健一郎さん。尾美としのりさん。沼田爆さん。
江戸屋猫八師匠。蟹江敬三さん。三浦浩一さん。綿引勝彦さん。梶芽衣子さん。
江守徹さん。竜雷太さん。夏八木勲さん。その他その他、すべてのレギュラー、セミレギュラーの皆さん。
そうして、毎週ゲスト出演して下さった名優の皆さん。素敵な時代劇を織り上げて下さり、本当にありがとうございました。
もちろん、すべてのスタッフ、関係者の方々にも、感謝を禁じ得ません。
本当に、本当に
ありがとう。
この最高の作品を引き継ぐかたちとなった松本幸四郎さんと、出演者、スタッフの皆さん。大変なプレッシャーを抱えているかも知れませんが、良い時代劇を後世に伝えて行くために、どうか頑張っていただきたい。
心から応援しております。
時代劇って、本当に素敵です。時代劇は日本文化を、日本人の精神を、「情緒」を、後世に伝える大切なアイテム。
時代劇は日本の宝。
時代劇の灯を消すな!
中村吉右衛門版『鬼平犯科帳』エンディングテーマ、ジプシーキングス「Inspiration」