問わず語りの...

流れに任せて

境界人としてのウルトラマン

2022-06-08 00:15:01 | 怪獣、特撮

後半ネタバレあり。

 

 

 

評論家、切通理作氏の著書『怪獣使いと少年~ウルトラマンの作家たち~』は、ウルトラシリーズにて脚本を担当していた4人の作家

 

金城哲夫、佐々木守、上原正三、市川森一。

 

この4人のそれぞれの作風及び人物を論じた労作です。

 

これによれば、金城哲夫氏は沖縄出身ですが、両親がクリスチャンで、その教育方針によって家庭内では日本語(ヤマトグチ)で話していたそうです。そのため沖縄方言(ウチナ―グチ)がほとんど喋れなかった。

小、中学生のころは優等生で、中学を卒業すると両親の知り合いの勧めもあって、東京の玉川学園高校に入学し、同大学に進学します。

 

玉川学園はキリスト教精神に基づいた全人教育を提唱しており、その博愛主義的思想に、金城氏は大変な影響を受けたようです。

 

金城氏は自身が沖縄方言を喋れないことに、強いコンプレックスを抱いていたと伝えられています。沖縄人、ウチナンチュとしてのアイデンティティーが持てず、かといって大和人、ヤマトンチュでもない。自分はそのどちらでもない。

 

自分は「境界」にいる人間だ。

 

しかしだからこそ、自分は国家や民族に縛られない「コスモポリタン」たりうるのではないか。

 

金城氏はその点に希望を持った。

 

ウルトラマンは、そんな金城氏の理想の体現だったのだ。

 

「自分は沖縄と日本との間の、架け橋になりたい」それが若き日の金城氏の口癖だったそうです。

 

 

しかし、どこにも帰属できない。確固たるアイデンティティーが持てないことに、金城氏は強い苦悩を覚えて行く事になる。その苦悩が明確に描かれているのが、ウルトラセブンの1エピソード、『ノンマルトの使者』であると、切通氏は説きます。

 

 

 

この物語で描かれているのは、「境界人」としてのモロボシダン=ウルトラセブンの苦悩です。

 

地球には人類以前に先住民たるノンマルトがいた。ウルトラ警備隊はそれが信じられず、結局ノンマルトを侵略者だとして滅ぼしてしまう。

しかしセブンの故郷では、地球人のことを「ノンマルト」と呼んでおり、つまりダンは、ノンマルトこそが地球の先住民であることを知っていたことになる。

 

でもダン=セブンは、そのノンマルトを滅ぼす側に加担してしまう。

 

ここで描かれているのは、ノンマルト=沖縄の暗喩ではないし、ましてや侵略者としての日本の告発でもない。

境界人としての金城氏の苦悩が、ダン=セブンに投影されているのだ、と

 

切通氏は説いています。

 

 

その後の金城氏は円谷プロダクションを退社し沖縄へ戻ります。

沖縄の本土復帰に尽力し、沖縄海洋博のプロデューサーも務めた。

 

沖縄と日本との架け橋たらんと務めていたわけです。

 

しかしなかなか思うようには行かなかったようで、徐々に酒浸りになっていく。

そんな日々が続き、ある日泥酔した金城氏は、誤ってアパートの階段から転げ落ち、そのまま帰らぬ人となってしまう。

 

生涯、境界人としての苦悩に苛まれ続けたと言っていい。

 

 

 

映画『シン・ウルトラマン』にはこんなシ―ンがあります。

 

長澤まさみ演じる浅見女史が、斎藤工演じる神永に訊ねます。

「あなたは外星人なの?地球人なの?」

 

神永は答えます。

「両方だ。敢えて狭間にいることで見えてくるものがある。そう信じてここにいる」

 

ウルトラマン自身による、「境界人」宣言だといってよく、これはまさしく、金城氏が理想に掲げていたこと、そのものではないですか!

 

庵野さんはおそらく、いや絶対

 

切通氏のこの著書を読んでますね。

 

それが解ったとき、庵野氏の本当にやりたかったことが解った気がしました。

 

庵野氏が本当にやりたかったこと、それは

 

金城氏のいわば「魂」の継承です。

 

映画『シン・ウルトラマン』では、最後にウルトラマンは死にますが、その「命」は神永に与えられて終わりますよね。

いや、色々な解釈があるのはわかります。ウルトラマンは死んでいないという解釈もあるでしょう。しかし私は、ウルトラマンは死に、その「魂」は神永に受け継がれたと解釈します。

 

これは何を意味しているのか?つまり

 

ウルトラマンが金城氏自身の理想の投影であるなら、ウルトラマンの死は金城氏自身の死を意味し、

ウルトラマンの「命」あるいは「魂」が神永に継承されたということは、つまり

 

金城氏の「魂」の継承ということ。

 

庵野氏が本当にやりたかったこと、それは

 

庵野氏自身が、金城氏の「魂」の継承者となること。

 

金城氏が伝えたかった理想、異文化間を出来るだけ平和裡に繋ぐ架け橋とならんとする理想。

 

庵野氏はクリエイターとして、こうした金城「魂」の継承者となり、次世代への架け橋たらんとしている。

 

それが庵野氏の意思。

 

庵野氏の理想。

 

映画『シン・ウルトラマン』の2度目の鑑賞で、私はそれを理解しました。理解した途端、

 

私の目から、止めどなく涙が溢れでた。

 

庵野氏の金城氏への、先人たちへのリスペクトの想いは、まごうことなき本物です。

 

庵野氏は金城氏の「魂」の継承者として真にふさわしい。

 

 

金城さん、あなたの「魂」の真の継承者が現れてくれましたよ。

 

良かったですね。

 

 

 

 

 

補足ですが、庵野氏は「コスモポリタン」になりたいわけではないと思いますよ。庵野氏は日本大好き人です。それはこの方の作品を観れば解ると思う。

庵野氏は日本人としてのアイデンティティーを持ちながら、金城魂を継承したいと考えている、と

私は解釈してます。

その点、勘違いしないでね。

 

 

 

 

 

 

参考文献

切通理作著

『怪獣使いと少年~ウルトラマンの作家たち~』

2000年、宝島社文庫刊

 

 

 

 

 

 

 

コメント (2)
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