ねこ絵描き岡田千夏のねこまんが、ねこイラスト、時々エッセイ
猫と千夏とエトセトラ
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あき地の向日葵
そのうち、その家は空き家になって、売りに出された。自由気ままに伸びている木はどうなるのだろうと思っていたら、家の管理会社が雇ったのか、植木屋がやってきて、長い梯子を掛けて枝を切り出した。もう切り倒されてしまうのかしらと思ったら、植木屋は電柱にかぶさっている枝だけを切って、帰っていった。少し見た目のバランスは悪くなったけれど、それからも、木は高い葉をさらさらと風にそよがせていた。
しばらく売り家の看板が掛かっていたけれど、古そうな家で、なかなか買い手がつかないらしく、更地にして売ることに決めたらしい。ある日、重機が運ばれてきて、古家を壊しはじめた。大きな木は、解体現場を覆っているブルーシートの外側にあったから、家だけを潰すのだろうと勝手に思っていた。
まず家がすっかり片付いて、その次の日。解体業者が引き上げていったあと、その場所は、周りを柵でめぐらされて、何もない、まったくの更地になっていた。そこに大きな木が生えていたという痕跡も何もなかった。あれだけ立派な木に育つには、数十年の月日がかかっただろうに、それがたったの一日で切り倒されてしまうのは、なんとも惜しい気がした。その土地を買う人がいらないと言ってからでも、切るのは遅くないのではないかと残念に思った。
家が壊されたのが今年の春の終わり頃だったと思うけれど、それからあとも土地は売れなくて、きれいにならされた地面も夏には雑草だらけになった。その雑草に混じって、土地のちょうど真ん中あたりに、数本の向日葵が咲いているのが不思議だった。そこに人が住んでいた時代には、庭の花壇があった場所だったのだろうか。前の年に落ちた種が、ブルドーザーが平らにしていった地面の下で、密かに息づいていたのかもしれない。数本の向日葵は、周りの夏草から身を守るように、寄り添って、かたまり合って咲いていた。
その向日葵の花も、秋になり、また黒い新しい種を枯れた黄色い花弁の中にたくさん実らせている。
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ふくちゃんタッチ
2011年09月10日 / 猫
猫様のほうからそんなお手を掛けていただいた日には、もう朝食の準備も何もあったものではなく、私は、可愛くて重いふくちゃんを抱き上げた。
甘えん坊のふくちゃんだけれど、抱っこがあまり好きではないのはみゆちゃんと一緒なので、すぐに私のお腹を蹴って飛び下りるかと思えば、珍しく腕の中で丸くなって、あごを反らせてごろごろ言っている。
どういう風の吹き回しかと思ったけれど、その日の朝が少し冷えた為だと思い当たった。要するに暖を取りに来たらしい。寒い季節には、ふくちゃんは私の背中にのぼったり、部屋着のフリースの上着の中に入って来たりする。
台風が去って、空が秋めいて、朝晩が涼しくなった。朝起きると、みゆちゃんとふくちゃんがベッドの上で寄り添って眠っていて、あんまり可愛いので、嫌がられるぎりぎり手前と思うところまで、ふたりのふわふわのお腹のあいだに顔をうずめた。
少しずつ、猫団子の季節がやって来ている。
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中華街のミケ「愛のリリー」
更新されました。ぜひご覧ください。
第57話「愛のリリー」
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キキとハル
2011年09月07日 / 猫
いまやキキとハルは仲のよい子猫友達である。少し前までは、二匹が一緒になると、決まって取っ組み合いのプロレスごっこをはじめて、父や母が止めに入るまでいつまでも続けていたらしい (どうやって止めさせるかというと、取っ組み合っているキキとハルの顔の前に、糸のついたネズミのおもちゃをふらふらさせると、途端に二匹ともプロレスごっこをやめて、シンクロするようにネズミの動きを追うのである)。最近になってだいぶ落ち着いてきたようだけど、やっぱりときどき、二匹でごろごろ転げまわっている。父は、キキとハルのじゃれ合いっこがあまりにも可愛らしいので、動画で残せるように新しいカメラを購入した。
眠るときは二匹が寄り添って寝ているらしい。このあいだ実家へ行ったら、お気に入りのピアノの上で寝そべっているキキの顔を、ハルが舐めてやっていて、私も二匹の仲のよさを実際目の当たりにした。
性格についていうと、最初の予想が大はずれした。家に来た頃、キキはやんちゃ盛り、食べ盛りで、父や母にじゃれて噛みつき大暴れしていたのが、すっかり大人しくなって、食欲も以前ほどではなくなり、ふっくらと丸顔だった子猫のときの面影は薄れて、細面の物静かな少年というような雰囲気である。反対に、はじめ大人しかったハルは、どうやら体調が悪かった為だったようで、元気になったあとはお転婆ぶりを発揮しだした。気も強くて、父の手足を噛みまくり、キキと取っ組み合いをするときも、先に飛び掛るのはハルらしい。食欲旺盛で、ハルのお皿はいつもぴかぴか、油断するとキキの分まで横取りする始末。おかげでハルのお腹はぷくぷくしている。
やんちゃなキキと大人しいハル、というイメージでつけた名前なのに、現実はすっかり入れ替わってしまった。そのせいか、私も両親も、よくキキとハルの名前を呼び間違えて、混乱する。
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台風一過
台風が近くを通っているあいだ、みゆちゃんはときどき風の音に耳をそばだてて神経質そうな顔をしたり、裏の家の二階の雨戸ががたがた鳴ると、忍び足で窓の近くへ行って、外の様子を伺ったりしていた。窓のすぐそばまでは行かないで、1メートルくらい離れたソファの陰から首を伸ばして、耳や鼻に神経を集中している。そんなとき、子供が悪気なくしっぽや背中に触れると、びっくりして、背中を丸めて飛び上がった。
前回台風が来たのは夏休みの始まる頃だったけど、その台風が去ってしまったあと、空がすがすがしく晴れたので、子供たちを連れて、公園へ蝉の抜け殻を探しに行った。まだ前日の雨でじっとり湿っている公園の地面には、台風の風で吹き飛ばされた小枝や葉っぱが一面に散らばっていて、どこかの雑木林の足元のような、いつもと違った感じがした。
顔ぐらいある大きな葉っぱとか、枝のついたまま振り落とされたまだ青い実を拾ったり、木の葉の先にぶら下がっている蝉の抜け殻を取った。
ちょうど暑くなって、蝉が一斉に出だしたころで、公園の地面には蝉の穴がいたるところにあいている。蝉に個性があるとは思わないけれど、抜け殻がついている場所はいろいろで面白い。低木の、地面に触れそうな下のほうの葉っぱであったり、高い木の、幹から離れた高い枝の一番先であったり。穴から這い出したすぐそばで、もうここでいいやと妥協してしまう幼虫がいれば、もっと上を目指すぞと頑張る幼虫がいるのかと想像してしまう。また、指で持ち上げたらすぐ取れる抜け殻や、あんまり強く掴まっているので、無理にひっぱると足の一本など外れてしまう抜け殻。登った木の葉がやわらかくて頼りなく、葉を何枚もおなかの下にたくし込んでしがみついている抜け殻があって、なんとか羽化を成功しようとする幼虫の必死さが伝わってくるようで、ほほえましい気がした。
羽化に失敗して、幼虫の殻から出切らないまま、下に落ちて死んでいるものもあった。蝉が羽化する夜中から早朝にかけて、その日暴風警報が出ていたから、台風の影響なのかもしれなかった。ほかにも、羽が縮れてうまく飛べない蝉を2、3匹見かけた。羽化後まだ羽が乾ききらないうちに強風に吹かれて具合が悪くなったのではないかと思う。土の中で何年もこの日を待っていただろうに、運の悪いことだと気の毒に思った。いままで意識したことがなかったけれど、こんな小さな虫たちもまた、台風の被害にあうのだと思った。
外に住む猫たちにも、苦労があるだろう。何年も野良として生き抜いてきたたくましい猫たちには、きっとそういうときの避難場所があるのかもしれないが、春に生まれた子猫などは大丈夫かしらと思う。実家のハルは、台風の大雨が来る半日くらい前に家にやってきたのだが、もしかしたら本能のようなもので危険を察知して、助けを求めてきたのかもしれない。
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