ポータブルキキ

 小さな子どもは、大人が考えるような常識にはとらわれないので、どんな突飛なことをしでかすか予測がつかない。そのことは猫もわかっているようで、子どもを避けたり警戒したりする猫が多いように思うのだけれど、ハルはそこのところがよくわかっていないのか、子どもを怖がらない。平気で寄っていく。むしろ子どもが好きなようで、今でこそだいぶ丈夫になって足取りもしっかりしてきたけれど、もっと小さくてふらふらしているときから、同じくまだ足元が覚束ない下の子の足のあいだをくぐったり、ゲーム機のコントローラーを必死で振っている上の子の膝元にもたれたりするから、危なくてしょうがなかった。
 万一踏んづけられたりしたら命にかかわるので、子どもたちがうろうろしているときには、父が常にハルのあとを追いかけて、危なくないように抱きかかえたり、場所を移したりしていた。私が冗談で、赤ちゃん用の抱っこ紐みたいなのでもつけたら、と言ったら、母が本気で、ポケットに入れたらいいかも、と、着けていたエプロンの前ポケットの、真ん中を区切って縫ってある糸をほどいて、子猫が入れる大きさにした。
 さっそくハルを入れてみたら、少しもじっとしていないで、身体をひねってポケットから這い出し、ぽーんと飛び出してしまった。
 それではと、今度はキキを入れてみたら、意外に落ち着いて、ハンモックみたいに仰向けに入って、顔だけ出してくつろいでいる。キキはハルと違ってちゃんと子どもの動きに注意するから、本来の目的でのポケットは必要ないのだけれど、その様子があまりにも可愛らしいので、しばらくポケットに入れられていた。
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