摂津三島からの古代史探訪

邪馬台国の時代など古代史の重要地である高槻市から、諸説と伝承を頼りに史跡を巡り、歴史を学んでいます

太田茶臼山古墳(宮内庁指定継体天皇陵:茨木市太田)に関する近年の論考

2018年12月01日 | 高槻近郊・東摂津

 

今回は、茨木市太田にある、宮内庁指定の継体天皇陵の方です。淀川右岸で最も大きく、全国でも21位の規模になります。墳丘や周濠の形状は古市古墳群の誉田御廟山古墳、墓山古墳などと類似するとされ、三島地方で唯一、陪冢を持つ古墳で、被葬者の権力の大きさを物語るとされています。

発掘された円筒埴輪の破片から、外面調整のヨコハケ柄がBb種からBc種であり、ここから5世紀中葉の古墳であり、継体天皇の時代と合わない、と判断されました。その他、家、人物、甲冑、馬、鳥などの形象埴輪もまとまって出土していて、周提上に祭祀場が設定されていた可能性が考えられています。


 

"天皇陵"指定地ですから、前方部側に拝所があり、こじんまりしてはいますが奇麗に整えられた入口があります。ただ、周濠の周りはほとんど私有地や住宅地で占められ、近づけるところがないです。現在の今城塚古墳とは大違いです。



前方部西側より

 

【ヤマト王権直轄支配の象徴としての太田茶臼山古墳】

2017年に今城塚古代歴史館で太田茶臼山古墳をテーマにした企画展があり、特別館長の森田克行氏が、この古墳が造成された背景を、その時代の三島、特に富田台地の開発状況から論考されています。

いわゆる三島県主となった人々は、弥生時代後期後半から富田台地の東北、芥川沿いの郡家川西遺跡で画期が確認されます。その後、5世紀前半になり、富田台地北西から東南流する大規模灌漑用水路である「三島大溝」が開削されるのです。ただ、この規模から、地方部族単独による事業とは考えられず、ヤマト王権が直轄地とすべく主導したものと考えられています。

それはつまり、ヤマト王権が外交や軍事を担う港湾の拠点を淀川河口に求め、住吉津の整備、難波堀江の開削、茨田堤の造営など淀川河口部を整備してきた事に続くもので、大和と淀川河口をつなぐ淀川、木津川ルート沿いの三島に、ヤマト王権が直接差配する用地の確保をしたということです。その先駆けが三島大溝であり、それにより実り豊かになった藍野の地に、巨大な太田茶臼山古墳を築造する事で、直轄化の象徴とした、と論じられています。



東側周提から後円部を望む

 

【太田茶臼山古墳の被葬者の学説】

ところで、上記したここの埴輪は、北東に位置する、全国でも有数の埴輪製作遺跡である新池遺跡で製作された事が分かっています。コチラは今は「新池ハニワ工場公園」として整備されてます。この製作施設は太田茶臼山古墳の造営後は休止状態でしたが、今城塚古墳造営に際して再開され、再びここから埴輪が供給されました。このことは、継体天皇が新池の設備での埴輪製作、つまり太田茶臼山古墳の被葬者との絆を強く求めた事の現れと理解されます。では、その被葬者ってどういう人なのだ?という事になります。

堺市が毎年開催されている百舌鳥古墳群講演会の近年の会で、上記等の考古学上の成果を踏まえて、太田茶臼山古墳の被葬者について語っている先生がおられました(第6,7回公演会記録集参考)。

高橋 照彦氏 (大阪大学大学院、教授)
「残念ながらわかりません。・・・これまでの見解からすると、継体天皇の曾祖父に当たる意富富杼王、あるいはその父の稚野毛二派皇子という人物などが注目されています。「上宮紀」逸文に引かれる応神から継体に至る系譜が正しいとすれば、応神の孫ならびに子供になる王族です」

岸本直文氏 (大阪市立大学 教授)
「あれは本当に三嶋の在地豪族なのでしょうか、ということです。なかなか答えは難しいのですけれども、・・・これは若野毛二俣王の息子、意富富杼王でいいと私は思っています。・・・反正の時代に一定の地位を与えられて230mの古墳を築いている。しかし、允恭即位と共に近江に追いやられたのだろう。その何代か後の継体が戻ってきている」



東側周提から前方部を望む

 

以上、今回は、太田茶臼山古墳に関して私の目に留まった、最近の研究成果をまとめてみました。今城塚がほぼほぼわかったので、太田古墳が本当に気になりますね。今度は、回を改めて、興味深い出雲王国伝承をからめて、個人的に気になってる事を記事にしてみたいと思っています。



前方部東側より。左の植木で少し隠れてます


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