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老いたる霊長類の星への賛歌

2013年06月09日 | SF
日本初のティプトリー作品集は、
サンリオSF文庫から出た「老いたる霊長類の星への賛歌」でした(1986年初版)。
それまでティプトリーは名のみ高く、まとめて読むことは出来ませんでした。
サンリオ文庫、えらい! 鶴田一郎のジャケイラストがちょっとアレですが。

ティプトリーのSF小説に登場するガジェットや設定はわりと陳腐なんです。
でもその奥に隠れているテーマ(おもに生殖)はトゲだらけで、
うっかり触ったり握ったりすると、とてもイタイ。
だから読み始めるとキリキリと締めあげられるような感覚に襲われるのですが、
読むのをやめられないんです、これが。

「一瞬のいのちのあじわい」は、
宇宙的恐怖小説であり「2001年宇宙の旅」へのアンサーソングではないか。
探検隊を乗せた宇宙船(スタートレックのエンタープライズ号みたいな)が、
謎の生命体をある星で採集するというスタートから最後の謎解きまで読みおえると、
受精に貢献した精子の、チョン切られた鞭毛に意識があるならこんな感じかと、
想像できてしまうところが恐ろしい。

「ヒューストン、ヒューストン、聞こえるか」は、
コードウェイナー・スミス「スズタル中佐の犯罪と栄光」に登場するアラコシア人をさかさまにしたような、
単性生殖で生き延びた人類と現代の宇宙船乗組員(男)が
ファーストコンタクトする悲劇を描いたジェンダーSFで、
男の読み手には悲しさを、女の読み手には強さを(?)を喚起する傑作。

「煙は永遠にたちのぼって」は、
創元文庫「究極のSF」に「けむりは永遠に」として収録されており、
ティプトリー本人の後書きも付けられています。
が、具体的にどんな話を書いたのかよく分かりません。
サンリオ版の解説には、『「煙は永遠にたちのぼって」がいまひとつつかめない人は
創元「究極のSF」の本人後書きを参照』とあるんですが。



その後にハヤカワから出た
「愛はさだめ、さだめは死」「故郷から10000光年」
といった短編集のほうが衝撃的な作品が収録されている
(「接続された女」「愛はさだめ、さだめは死」「故郷へ歩いた男」など)のですが、
サンリオ版「老いたる霊長類の星への賛歌」はそういった思い入れの深い短編集です。
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