小さい時に食べていたものの話になった。
「幼稚園か小学校の頃だったかなぁ。一階が店で二階が自宅
だったからシャリが炊き上がるところをたまに見てたんだけど
蓋を開けると湯気があがってさ、おふくろか板前さんが柄の長い
おっきな宮島を立てて釜の縁をこう、ザッザッと剥がしていくんだよ」
「宮島って杓文字のこと?」
私が訊くと主人は答えた。
「そう。で、縁をぐるっと剥がしたあとにさ、縦にした宮島で真ん中に
バッテンの跡をつけるの」
「バッテン?」
「飯切りにガバッとあける時に何升もとなるとそうしてあるだけで
移しやすいんだよ。で、釜をひっくり返してポンポンとやると出る」
「へー」
「底のほうはちょっとおこげみたいになってるのね。わざとガスを
もう一回点けてガーッて加熱して・・ほら竃で炊く時に最後に
藁をくべるでしょ、あんな感じで。底の部分のメシはパリッとして
いるからシャリにはならなくてさ、そこにおふくろが醤油ぶっかけて
一気に混ぜておにぎりにするんだ。おかか混ぜたりしてね」
「すごくおいしそうだね」
「まぁね。でも寿司屋の倅だからそればっか食っててさ、いい加減
飽きるよ。・・・あーでももう相当しばらく食ってないなー」
懐かしそうに主人は言った。