四谷三丁目すし処のがみ・毎日のおしながき

新子はコハダに、スミイカの子供=新(しん)イカは一パイで二貫とれる大きさに、イクラは皮が軟らかく粒が大きくなってきました

釜底のにぎりめし

2007-04-03 20:48:00 | 04 どんこ・しいたけ

小さい時に食べていたものの話になった。

「幼稚園か小学校の頃だったかなぁ。一階が店で二階が自宅

 だったからシャリが炊き上がるところをたまに見てたんだけど

 蓋を開けると湯気があがってさ、おふくろか板前さんが柄の長い

 おっきな宮島を立てて釜の縁をこう、ザッザッと剥がしていくんだよ」

「宮島って杓文字のこと?」

私が訊くと主人は答えた。

「そう。で、縁をぐるっと剥がしたあとにさ、縦にした宮島で真ん中に

 バッテンの跡をつけるの」

「バッテン?」

「飯切りにガバッとあける時に何升もとなるとそうしてあるだけで

 移しやすいんだよ。で、釜をひっくり返してポンポンとやると出る」

「へー」

「底のほうはちょっとおこげみたいになってるのね。わざとガスを

 もう一回点けてガーッて加熱して・・ほら竃で炊く時に最後に

 藁をくべるでしょ、あんな感じで。底の部分のメシはパリッとして

 いるからシャリにはならなくてさ、そこにおふくろが醤油ぶっかけて

 一気に混ぜておにぎりにするんだ。おかか混ぜたりしてね」

「すごくおいしそうだね」

「まぁね。でも寿司屋の倅だからそればっか食っててさ、いい加減

 飽きるよ。・・・あーでももう相当しばらく食ってないなー」

懐かしそうに主人は言った。