わたしの魚(ウォ)キペディア 第7回
かれい
店を始めて間もない頃のあるカレイについての話です。
「これはめったに入らないホシガレイだよ」
と築地から帰って来た主人は仕入れたカレイをまな板にのせ、柳刃をつかって表面を削り取る動きを続けながら言いました。
「…ふ~ん。あんまり乾いてないんだねぇ」
私はカウンターを拭きながら答えました。
すると主人は包丁を止めて
「いま何て?」
と聞きなおしてきました。
「いやだから相当ウェットだなーと」
「え…?」
「干しだよね、ドライ。干して旨味が増すの?」
「・・・・・」
「ちがうの?」
「スターだよ、スター」
「スタァ?」
「日本語で」
「・・・ホシってもしかして星ッ!?」
「フフフ。“干し”鰈じゃないよ“スター”鰈」
「うへー、間違えちゃった。一夜干しとかさ、そんな感じかと思ってた。でもさ、何で“星”なの?」
「ヒレの部分に黒い点々があるでしょう。これが星みたいだから」
ホシガレイは星鰈だと理解した日のことでした。
わたしの魚(ウォ)キペディア 第32回 かずのこ
お正月、カズノコを前にするとかなり目つきがギラギラする小学生だったと思います。そのくらい好きでした。
おそらくお年玉をもらった後も親や親戚の目の居ない場所まで行って小袋を覗く際、時代劇に出てくる悪徳商人のような「へぇっへっへ‥」という笑みを浮かべていたでしょうが、カズノコを前にした時のほうがかなりギラついていたと思います。
振り返ってみると、暮れからお正月にかけてはごちそうやお年玉など刺激の多いものばかりで心穏やかになんかしていられませんでした。
なんせ12/25にはクリスマスケーキの分配という欲にまみれた戦があります。
なんとか思いどおりのものを食べたいと頑張るわけです。
切り分けたあと一番大きいのを取りたい。
イチゴも大きいのが乗ってるのがいい。
周りを囲むビニールにくっついた生クリームを舐めたい。
包丁に残った生クリームとスポンジのくずもフォークでこそげ落として食べたい。
Merry Christmas のチョコ板も食べたい。ただしミドリ色の甘いふきみたいなのは要らない、等々。
でも思い返してみると興奮していたのは私だけで、兄弟ゲンカをするわけでもなく一番食べたいと思うピースを手にしていたのでした。
さて、クリスマスの戦の疲れが残っているというのに今度はカズノコです。
これもまた誰かとケンカするとかではなくあくまで私の内面の葛藤で、“バレないようにたくさん食べたいという願望をどう成就させるか”の戦いです。
家族全員が囲む食卓におせちが並んでいます。
「お餅いくつ食べる?」と台所から聞こえてくる母の声に返事もろくにせず、狙いを定めた黄金色に輝くカズノコをひたすら見つめる私。
と同時に松前漬けの中にも砕けたカズノコが点在するのを発見、このあと父親に「カズノコばっかり食べるな!」と注意をされずに最大限食べるにはどうしたらいいかを考え(ex.栗きんとんは辞退するのでその分カズノコ食べてもいい?とか)、黒豆や紅白なますあたりをつまみながら策略を立て、そして失敗し‥。
カズノコをいつかすんごいいっぱい食べてみたい‥と思いながら一年をスタートするのでした。