四谷三丁目すし処のがみ・毎日のおしながき

冬から春が旬である貝がそろそろ終盤、初鰹・鰈・鱸・鯵など夏の魚が出てきました。

第403回にちよう☆ひるのがみ(お子さんデー)

2024-04-28 01:10:16 | 4/1~4/30


野上啓三インスタグラムsushi43nogami2←こちらに変更しました。
すべての魚・貝、天然ものです。
◇営業時間について◇火曜~土曜17:30~21:55※ラストオーダー(酒類・酒類以外全て)21:25まで
日曜お子さんデーは11:30~17:30です。※日曜はお子様の日です
店には月曜(+第一日曜日)以外10:30~営業終了+aおりますのでお気軽にご連絡ください!03-3356-0170
※レストラン予約代行サービス『オートリザーブ』でのご予約は日付・時間帯にかかわらず受け付けておりません。
2024年4/28(日)~6/11(火)のご予約状況
※御予約状況の変動がありますので(更新が追いつかない場合あり)
お席の確保をお電話03-3356-0170までお願いします。
4/28(日)満席となりましたお子さんデー
4/29(月)定休日
4/30(火)あと5席です
5/ 1(水)あと8席です
5/ 2(木)あと4席です
5/ 3(金)満席となりました
5/ 4(土)休業
5/ 5(日)定休日
5/ 6(月)定休日
5/ 7(火)休業
5/ 8(水)休業
5/ 9(木)満席となりました
5/10(金)あと4席です
5/11(土)あと2席です
5/12(日)満席となりましたお子さんデー
5/13(月)定休日
5/14(火)あと6席です
5/15(水)あと6席です

5/16(木)あと8席です
5/17(金)あと6席です
5/18(土)あと4席です
5/19(日)満席となりましたお子さんデー
5/20(月)定休日
5/21(火)あと8席です
5/22(水)あと8席です

5/23(木)あと4席です
5/24(金)あと8席です
5/25(土)あと8席です
5/26(日)満席となりましたお子さんデー
5/27(月)定休日
5/28(火)あと8席です
5/29(水)あと5席です

5/30(木)あと6席です
5/31(金)あと6席です
6/ 1(土)満席となりました
6/ 2(日)定休日

6/ 3(月)定休日
6/ 4(火)あと8席です
6/ 5(水)あと8席です
6/ 6(木)あと6席です
6/ 7(金)あと4席です
6/ 8(土)満席となりました
6/ 9(日)あと6席ですお子さんデー
6/10(月)定休日
6/11(火)あと8席です
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お子さんデー
6/16(日)満席となりましたお子さんデー
6/23(日)あと6席ですお子さんデー
6/30(日)あと6席ですお子さんデー

7/ 7(日)定休日
7/14
(日)あと9席ですお子さんデー
7/21(日)あと9席ですお子さんデー
7/28(日)あと9席ですお子さんデー
8/ 4(日)定休日
8/11(日)あと9席ですお子さんデー
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おかみノート
主人の実家はお寿司屋さん。私はなんにも知らないドシロウト。
今まで見たり聞いたり体験した 寿司屋のいろんなことを書いておきたいと思います。

『ステン』
「お父さんから引き継いだ道具ってこれだけなの」
私が訊くと、主人はしばらく考えて
「そうだなぁ、包丁は兄貴や先輩からもらったものばかりだし、これだけだな」
と言った。
「店の準備の時さ、実家にある寿司桶とか土瓶蒸しの器とかもらいに行ったじゃん。そしたら親父がさ、このバット出してきて“持ってくか”って言うからけっこう軽く“あぁ”って言ったんだ。で、開店を手伝いに来てくれてた時にマグロのサクを入れながら“このバットはな、オレが店を始める時に買ったものなんだ。ものすごく高かったんだぞ。道具屋が安いのと高いのを持ってきて、両方ステンレスだけど安いのは錆びたりするから少し無理をしてでも高いのにしたら三代使えますよって言うから思い切ってそっちを買ったんだ。こうして見るとやっぱり一生もんだよなぁ”ってしみじみ言うんだよ」
最近売っているバットはネタを入れやすく薄型で重ねる収納が出来るものが多いけれど、父のそれは深型のたっぷり入るものだった。
小さい頃、大事なものを仕舞っておいたお菓子の缶を思い出した。
大きさから言うとそんな感じだが四十数年経ったこの分厚いステンレス製のバットにはゆったりとした独特の佇まいがある。
マグロや白身がきちんと収められ、冷蔵庫の一番下にいつもある。

明日は『数寄屋橋交差点』です
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◎赤貝の仕込み 動画アップしました(5分03秒)
◎シャリ酢あわせ 動画アップしました(1分50秒)
◎かんぴょうを煮る動画アップしました(7分30秒)
◎玉子焼き動画アップしました(6分53秒)
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1dayアーカイブ2023年~2001年4月28日のおしながき[2023年][2022年][2021年]*お知らせ*4/26~5/12まで休業いたしました[2020年][2019年][2018年]

[2017年][2016年][2015年][2014年]
今、築地今、築地4/25→4/29 [穀雨・霜止出苗しもやんでなえいずる]  今、店今、築地4/30→5/4  [穀雨・牡丹華ぼたんはなさく] 今、築地

 

002[2013年]平政(ひらまさ)6.6kg、腹の部分を仕入れました。

011[2012年]主人が仲買さんから聞いた話ではこの本鱒を扱っているのは“石巻のサバをブランド化した伝説の人”だそうです。006_2胸囲というか胴囲というか、魚の幅が圧倒的にすごいとのことです。

塩焼き用に五切れとり

あとはルイベにまわします。-50℃の冷凍庫へ。

蝋燭背黒(ろうそくせぐろ=背黒イワシ)、光っています。

 

 

 

 

 

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[2011年]夏らしいラインナップに少しずつなってきています。

Photo

[2010年]どうでしたでしょうか、初の試み店主の築地朝レポート『いま、築地』。とりあえずやってみる、ということでスタートします!

今日は殻入りの青柳“なう”ということでしたので、何か感じるものがあったのではないでしょうか。

気が付けばいか祭りです。麦いかはするめいかの子供です。今回は初めてワタ=肝を付けたまま一夜干しにしています。下足にだけ塩分が濃くならないよう気を配った仕事をしています。炙った麦いかは横に割きながらお召し上がりください。今日は佐島のタコを煮ます。(足のみ)

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[2009年]アオシロ 祭りです。

 

上からイナダ、ヒラマサ、シマアジです。白身は大きく二つに分かれ、ひとつはシロシロと呼ばれる真鯛、平目、鰈などの白いもの、もうひとつはアオシロと呼ばれるブリ、ヒラマサ、シマアジ、カンパチのような身の感じのものです。うには青森で、塩水にもミョウバンにも浸けていないとったまんまの瓶詰めうにですが、先週の濃厚さとは打って変わってあっさりとした味です。006

小田原の真あじは塩のみで〆めてあり、酢には浸けていません。わずかに水分を抜くだけであじの身の味の濃さ、甘味を感じていただけると思います。 (写真左) 今日は佐島のタコを煮ます。(足のみ)

 

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4月27日(土)

2024-04-27 19:28:20 | 4/1~4/30


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◇営業時間について◇火曜~土曜17:30~21:55※ラストオーダー(酒類・酒類以外全て)21:25まで
日曜お子さんデーは11:30~17:30です。※日曜はお子様の日です
店には月曜(+第一日曜日)以外10:30~営業終了+aおりますのでお気軽にご連絡ください!03-3356-0170
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おかみノート
主人の実家はお寿司屋さん。私はなんにも知らないドシロウト。
今まで見たり聞いたり体験した 寿司屋のいろんなことを書いておきたいと思います。

『サヨリの福玉』
ある日の午前中、仕込みをやりながら主人が話しかけてきた。
「水産会社の社長が言うんだよ。“サヨリの頭捨てちまうのか!エラの中に虫みてぇのがいるだろ。あれ焼いて食うとうめぇんだぞ”って」
「なにそれ、前に勤めてた店の話?」
掃除の手を止めて私は訊いた。
「そうそう。サヨリのエラを覗くと、五尾中三尾くらいにその虫が入ってるんだよ。泳いでいるとエラにいろんなものが付くでしょ、でも魚は手が無いから何も出来ない。で、虫が寄生しながらあれこれ動いてあげて、その代わりに虫はエラの中で外敵から守られているんだ。でもさ、うまいって言うけどその社長が実際に食べてるところはみたことないよ」
「水産会社の社長さんが言ってたってことは、本当においしいんじゃないの」
「かなー・・」
「だよ、絶対そうだよ!やってみようよ」
「あ、そう。オレは食わないけど」
「私は食べる」
すると主人はサヨリの頭を落とし、エラを覗きながら数匹の虫を取り出した。半透明の白っぽいふっくらとしたモスラの卵みたいなヤツが出てきた。
「うわっ、エラのスペースより虫の方が大きくない?よくこの中に収まってたね」
「人間で言ったらほっぺたパンパンに膨らました状態だよな」
笑いながら金串に刺して主人は言った。
「塩まぶして焼く?」
「そ、そうだね。塩味があったほうが食べやすいかな~、なんて」
好奇心でここまで事を運んでもらっていたが、いざ食べる瞬間が近づいてくると決心が揺らいだ。お腹の中に入れたらこのモスラの卵がまた卵を隠していて、どんどん増殖していったらどうしよう… 死ぬかもしれない… 
でも食べてみたい。
考えていたら顔に血が昇ってきて、心臓も乱れ打ちをしていた。
「はい、どうぞ。よく焼けたよ」
香ばしい感じに焼けたモスラを前に一瞬たじろいだ。
でもここまでしてもらって要らないとは言えない。思い切って前歯でちぎってみると、薄い殻とパサパサした中身で、噛んでいると少しシャコのような味がした。
「う~ん、おいしいような、あんまり味がないような」
食べて食べられないことはない、そんな感じだった。
「これ、名前なんていうの」
「さぁ、なんだろうなぁ。あ、でもこれに近い形は絵でみたことがあるよ。
 たしかこの本…」
江戸時代に描かれた、鯛の骨の部位を図説している絵にモスラはあった。【鯛の鯛】や【鳴門骨】と並んでそれは【鯛之福玉】と書いてあった。
「鯛のふくだまぁ~?」
二人で同時に叫んだ。 インターネットで調べたら、シマアジなんかにもいるらしく画像を見ると、やっぱりあいつだった。
「あ、今日、真鯛も仕入れているから見てみるか」
「おっと、それを早く言ってくださいよ」
興味津々で鯛のエラを覗き込むと、三倍くらい大きいのが入っていた。
「ギャー!でかっ 寒いっ」
「生きてるよ、オレの指をギュ~って足で掴んでるもん、ほら離れないよ」
人差し指をブンブン振り回している。
「ひぇ~・・」
「塩ふって焼く?」
「もう、けっこうです」
即答した。

『ホームページ』
青色申告会で帳簿を見てもらいながら年度末までの売上予想などを話していたら店の存続がこのままだと厳しいのではという結論に達した。
店を立ち上げてから四年半。
店が本当に潰れるかもしれないという現状を目の当たりにしたらもうとにかくなんでもやってみようという境地になった。
「ホームページやってみます」
いままで否定していたものをそっくりそのまま肯定してみたら逆に店が続けられるんじゃないかと思った。
まだやれることはいっぱい残っている。翌日図書館に行った。
『ホームページビルダーvol.6』、『HTML形式のデザイン辞典』よく解らないweb関連の本が並んでいる。止めようか。いや。
ホームページを既に開いている私と同じ立場の女性に言われたひとことを思い出した。
「あらぁ、ホームページなんて簡単よぉ。出来ないのぉー?」
「出来ないんじゃなくて、あえてやってないんです。手作りのチラシで温もり感を出したくて」
言い返したものの、これは負け惜しみだった。実際にやったことがないわけだから出来ないと言われても仕方がない。とにかく何か少しでもわかりそうなものはないかと本棚を眺めているとパソコン関係にしては異質な一冊が目に留まった。
   『 豆炭とパソコン 』  糸井重里 
 ・・まめたんとぱそこん?
借りてエレベーターの中でページを開いた。八十代からのインターネット入門という副題がある。夢中になって読みはじめた。
全部読んでしまいたくなって、店に行く時間になっても新宿御苑の入り口手前の芝生に寝っころんで草の匂いを嗅ぎながらページをめくっていった。八十代の方がはじめてのことに挑戦している。自分はまだこんなに若いのに踏み出せないなんて恥ずかしいと思った。
うちの店がインターネットの俎上に載ってほしくないというご意見はわかっていた。
ひっそりと店をやってくれ、と。私たちも同じ意見だった。
どこを検索しても載っていない、そんな店が一番かっこいいんだと思ってきた。

その結果、ひっそり過ぎて多くの方に気付かれないまま消えてしまいそうな寿司屋がここにあった。

貫けなかったことをその方々に、心の中で詫びた。でもやるからにはどこにも負けないものを作ろうと思った。御苑から帰るなり主人に言った。
「私、ホームページやるよ。できないかもしれないけどやってみる」
その足でヨドバシカメラへ向かった。
「ホームページビルダーの一番新しいやつください!」
自転車のカゴに『ホームページビルダーvol.8』を入れ新宿通りをぶっ飛ばして帰ってきた。
わけもわからず箱をあけ、とりあえずCD状のソフトを入れインストールした。
なんとかプロフィールと地図と表紙が完成したがインターネットに繋ぐまでには一ヶ月もかかってしまった。
あれから一年半。
毎日もがき続けている。
なりゆきで始めたけれどそれもまたいいのかなと思う。

明日は『ステン』です
・・・・・・・・・・・
◎赤貝の仕込み 動画アップしました(5分03秒)
◎シャリ酢あわせ 動画アップしました(1分50秒)
◎かんぴょうを煮る動画アップしました(7分30秒)
◎玉子焼き動画アップしました(6分53秒)
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1dayアーカイブ2023年~2001年4月27日のおしながき[2023年][2022年]

[2021年]*お知らせ*4/26~5/12まで休業いたしました
[2020年][2019年][2018年] [2017年][2016年][2015年]春飛びに対して夏飛びと呼ばれるトビウオが入りました。だんだん初夏のラインナップになってきます。スズキ、白イカ、カレイ、鰯、鯵、メソ穴子、アワビ、いさき、
コチなど、これからです。[2014年]第45回 にちよう☆ひるのがみ

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002いがウニ、あります。書き忘れました。002[2013年]三陸の黒アワビ、今シーズン初入荷です。003_2

 

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[2012年]秋田の黒アワビ、ひさびさに入りました。

 

 

 

 

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愛知・師崎(もろざき)の平貝(たいらがい)が入りました。一尾か二尾、貝の中に小さなエビが隠れていることが多いです。

 

メジ、〆鯖、黒アワビ刺、ひさびさ入荷です。

 

店主の築地朝リポート『いま、築地』、2010・4/28スタートでしたのでちょうど一年経ちました。引き続きよろしくお願い致します!

 

 

 

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[2010年]

築地から帰ってきて仕込みを始め‥008

 

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わりと前半の段階で喜知次(きちじ)のエラと内臓を取っていました。

 

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Img_1178[2009年]真ダコの仕込み風景です。吸盤を使って洗い桶にへばり付きながら逃げようとするタコと格闘しているこの方法は数年前までのスタイルです。当時はビニール袋に海水と酸素を充填させたフーセンと呼ばれる袋に生きたまま入れて持って帰っていました。最近では築地で絞めてもらってから持ち帰ります。暴れるタコの目と目の間に包丁の切っ先を立て、動きを止めます。「目と目の間にツボみたいなところがあって、ジャストミートするとサーって皮が真っ白になっていわば瞬殺されて、それが成功したっていうしるし。少しでも逸れると白くならない。赤い肌のままなんだ。だからもう一度刺してもらう。大概二回も刺せば急所にあたるから」と主人は解説します。タコは生命力が強く、バイクで二~三十分運ぶくらいではビクともしません。それでも万が一店に到着する前に弱ってしまうより築地で先に絞めてもらった方が、タコの味にとってはいい影響の方が多いのだそうです。そのあとの仕込みは今も昔も同じです。頭を裏返し、墨袋とワタを切り取り、大量の塩をまぶして揉んでヌメリをとり、足と足の間の膜のところに包丁で切り込みを入れ、吸盤の汚れをひとつずつ丁寧に落とし、流水で洗い、また塩で揉んで水を流し…と手の感覚をフルに使っておこないます。洗い終えたら水気を絞り、やわらかく煮るために足の一本一本を棒でまんべんなく叩き繊維を断ち切ります。水に大根・番茶・醤油・砂糖・酒を入れた煮汁を沸騰させてタコを投入します。中火で三十分ほど煮れば出来上がりです。 

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4月26日(金)

2024-04-26 16:40:29 | 4/1~4/30


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日曜お子さんデーは11:30~17:30です。※日曜はお子様の日です
店には月曜(+第一日曜日)以外10:30~営業終了+aおりますのでお気軽にご連絡ください!03-3356-0170
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おかみノート
主人の実家はお寿司屋さん。私はなんにも知らないドシロウト。
今まで見たり聞いたり体験した 寿司屋のいろんなことを書いておきたいと思います。


『 Oさん 』
「こちらでデータとか見えるんですけど」
食べ終わったOさんが言った。
「予定通り、本当に予定通り行ってますね、いやほんと素晴らしいなって思って、この場所でね。…がんばってるなーって」
「お借りしてるんですから当たり前ですよ。…でもこんなこと言ったらあれですけど、やっぱり返していくのは大変ですね」
板場に立つ主人が言った。
Oさんにお茶を差し替え窓の外に目をやった。
街路樹の葉が育ち始めている。
ゆっくりと歩くサラリーマンの人たちが目に入った。
五月十一日。
三年、というか千九十五日という日々が過ぎた日のことだった。

それから数ヶ月が経ったある日、ランチの看板を出した直後にOさんがやってきた。
「あ、そうだ奥さんこれ」
手渡された手提げを覗くと、金融機関Aの名が印刷された小箱サイズの洗剤やティッシュ、ラップなどが入っていた。
「もうそこらへんにあるものバンバン入れてきました。よかったら使ってください」
必ず年に一度持ってきてくださるその景品がいっぱい詰まった紙袋を有難く受け取りながら、はて今日は何だろう、生ものが苦手なOさんがわざわざ寿司を食べに来てくださるのはどうして、と思っていると
「転勤になったので。今日はご挨拶に来ました」
とOさんは言った。
主人は茹でた海老やタコ、玉子焼き、穴子、かっぱ巻などなるべく火の入ったものを入れながら一人前のにぎりを握った。
その職性上、同じポジションに永年留まることはないと頭では理解していたけれどショックだった。
主人も私もその気持ちは隠しながらなるべく明るく振る舞い融資をお願いに行ったあの時の思い出話などをした。
「異動するんでね、野上さんだから言っちゃいますと」
Oさんは言った。
「はじめ書類通らなくて。でも“若い二人でこの地域でどうしても頑張りたいって言うんだから”って粘って粘って。で、最終的には自分が責任取るからっていうことで。自分としても着任したての最初の案件が野上さんのだったっていうこともあって、その後のことがずっと気になっていたっていうのはあるんですよ。もう“ガンバレよ~、ガンバレよ~”って」
「・・あの時たしか、会議が長引いて結果が出るのが遅くなったって仰ってましたよね?」
大妻通りから一本裏の道で、融資OKのメールをもらったことを思い出していた。
「おそらく野上さんの案件だけで会議が遅くなったわけじゃなかったと思いますけどね。でもやる気のある人を応援したいじゃないですか。なんとかしてあげたいって。頑張ってくださいよ、転勤してもいつも見てますから」
手まり麩が入ったお吸い物をOさんの右脇に置いた。
主人はイカとカツオのにぎりは大丈夫ですかと訊いて握った。
Oさんはおいしい、おいしい、と言って食べてくれた。

 

明日は『サヨリの福玉』『ホームページ』です
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◎赤貝の仕込み 動画アップしました(5分03秒)
◎シャリ酢あわせ 動画アップしました(1分50秒)
◎かんぴょうを煮る動画アップしました(7分30秒)
◎玉子焼き動画アップしました(6分53秒)
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1dayアーカイブ2023年~2001年4月26日のおしながき[2023年][2022年]

[2021年]*お知らせ*2021年4/26~5/12まで休業いたしました
[2020年]※日曜日のお子さんデーはしばらくの間休ませて頂きました。
[2019年][2018年] [2017年][2016年][2015年]

001[2014年]めいたガレイ、生とり貝、スミイカ、アジ、しま海老、いがウニ、蝦蛄、新規入荷です。004


005[2013年] 煮はまぐり、ひさびさに入りました。生とり貝新規入荷です。

 

002[2012年]海獲れのししゃもです。今まではいつ頃だっただろうか‥と遡ってみたら出始めは七月あたり、盛りにさしかかるのは十月あたりでした。

 

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[2011年]

江戸前のナカズミの白子と天草のコハダの白子が一皿に入っています。コチ、イサキ、カツオ‥初夏の趣です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[2010年]日本橋にある和紙の専門店で見かけたのが最初でした。花模様が透けるこのペーパーは、関西空港のVIPルームで採用されているのだそうです。当店では昨年の12月から置いています。

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[2009年]真ダコの仕込み風景です。吸盤を使って洗い桶にへばり付きながら逃げようとするタコと格闘しているこの方法は数年前までのスタイルです。当時はビニール袋に海水と酸素を充填させたフーセンと呼ばれる袋に生きたまま入れて持って帰っていました。最近では築地で絞めてもらってから持ち帰ります。暴れるタコの目と目の間に包丁の切っ先を立て、動きを止めます。「目と目の間にツボみたいなところがあって、ジャストミートするとサーって皮が真っ白になっていわば瞬殺されて、それが成功したっていうしるし。少しでも逸れると白くならない。赤い肌のままなんだ。だからもう一度刺してもらう。大概二回も刺せば急所にあたるから」と主人は解説します。

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4月25日(木)

2024-04-25 16:33:17 | 4/1~4/30


野上啓三インスタグラムsushi43nogami2←こちらに変更しました。
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日曜お子さんデーは11:30~17:30です。※日曜はお子様の日です
店には月曜(+第一日曜日)以外10:30~営業終了+aおりますのでお気軽にご連絡ください!03-3356-0170
※レストラン予約代行サービス『オートリザーブ』でのご予約は日付・時間帯にかかわらず受け付けておりません。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
おかみノート
主人の実家はお寿司屋さん。私はなんにも知らないドシロウト。
今まで見たり聞いたり体験した 寿司屋のいろんなことを書いておきたいと思います。

『 うちわ 』
店がオープンする四日ほど前だったと思う。
梱包材に包まれた調理器具が散在している夕方、試作のシャリが炊き上がろうとしていた。
主人は蒸らしが終わるタイミングをタイマーで確認しながら酢合わせをする準備をしていた。
新品の三升用の飯切りと柄の長い杓文字はきれいに洗って水気が切られていた。
絞ったサラシで再度木にわずかな水分を与えつつ、炊けるのを待っていた。
「よし、オッケ!」
主人はタイマーがピピッと鳴るとすぐにストップボタンを押し、釜の蓋を開け、ライスネットの四隅を持って炊けたばかりのシャリを持ち上げすぐさま飯切りに広げると、そこらじゅうが湯気と炊き立てのごはんの匂いにまみれた。
「ネット持って熱くないの?」
カウンター越しに声を掛けると主人は
「熱くない」
と言って調理台に置いておいた合わせ酢を手早く杓文字につたわせ回しかけた。
入れてあった小さいボウルはシンクに放り込んだ。
今度は酢の温まる匂いが加わった。
「そろそろだよね?そろそろだよね?ジャ、ジャ、ジャ、ジャーン!」
この日のために溜め込んでおいた五枚のうちわを荷物が入っている紙袋から取り出して主人に見せた。
お義母さんがシャリを炊く姿を何度か見てきた。
カッコイイし、私も店を始めるからには他のことは出来ないけれどせめてうちわで扇ぐくらいはお手伝いしたいなと思っていた。
テレビを見ていても酢飯を混ぜる主人の横で誰かが扇いでいたりもっとすごいところは何台も扇風機を回していたりする。
ならばバッタバッタと荒れ狂ったようにうちわで扇いでみせましょう、両手と、なんなら口にも挟んでやりますよくらいの気持ちになっていた。
「うちわ要らないから」
杓文字を平行に動かしながら主人が言った。
「へ・・ぇ?要らないの?」
「うん」
「ウソォ・・バタバタ扇がないの?」
「扇がない」
「何で?」
「何で・・って。必要ないから」
「マジで?」
「うん」
「・・だって、だって実家はさー、うちわ使うじゃん!」
「あー、・・まぁ、シャリ炊く量も多いからね。熱こもっちゃうとアレだから冷ますために扇ぐけど、あんまりやるとシャリが乾いちゃうからね、かえってどうなのかなと」
「そうなんだ」
「あと飯切りが水分吸うでしょ。だからそんなにはね扇がなくても」
「あー、なるほど・・」
プラスチックのやら、浴衣の後ろに挿すような洒落たのやら缶ビールを買った時についてきたのやら、用無しのうちわがばらんばらんと調理台に置かれていた。
うな垂れていると、主人は一番取りやすい位置にあった昭和六十年くらいに作られたと思われる千葉のガス会社の代理店名が入ったビーバーだかラッコだかわからないキャラクターが描かれたうちわを手に取った。
「まぁ、もしやるとしてもこんな感じかな。さっ、さっ、と」
飯切りの上で二回ほど扇ぎ、シャリの上にきつく絞ったサラシを被せた。
「もう少し酢が馴染んだらね、試食してもらうから」
主人の言葉に頷きながらうちわを使わない店があるのだという驚きと準備してきた気持ちが打ち砕かれたという恥ずかしさとこれから初めて主人の力が100パーセントのシャリを食べることができるのだという期待感とで
頬が少しだけ紅潮した。

『トーストとシチュー』
やっぱり築地市場内は戦場だ。
私なんぞが足を踏み入れていい場所じゃない。スピードについていけず何度もはぐれそうになってもうくたくただ。
日頃お世話になっている仲買いさんにご挨拶をしたり箸袋やなんかを選んだりするため、年に二回くらいは築地に行くのだがまったく慣れない。
ハンドルを握ると性格が変わるという話ではないが主人は築地では相当すばしっこい。目の前をターレが横切っている。そのまま見送るのかと思いきやその何も載っていない荷台にヒラリと乗りそしてすぐ飛び降り、前に進む。香港映画の逃亡シーンのように身をかわしながら知り合いの人と挨拶を交わしていく。私は数軒分の菓子折りを持ったまま遠ざかる主人を見失わないよう必死に歩くのみだった。
仕入れを終え、これから店に帰るかどこかで朝ごはんを食べるか迷っている時だった。
偶然、前からお義兄さんが歩いてきた。
「ねぇ、・・もしかして清二さんじゃない?」
「あ、ほんとだ。うぃーっす!おーい」
主人が手を挙げるとお義兄さんがこちらを向いた。
「おはようございまーす」
「お、今日はユキコさんも一緒なの」
「はい。ちょっと挨拶に・・」
「そう。じゃ飯でもどう?」
二人とも手ぶらで歩いていた。
仲買いさんで買った魚や貝は持ち歩かない。軽子さんという荷物を運んでくれる人が主人のバイクの後ろに括りつけてある箱に入れておいてくれる。これから三十分くらいバイクのところには戻らない。バイクを置いたままでその間に品物を盗まれやしないのかと以前主人に訊ねたことがある。
「築地ではそんな心配はないよ」と笑われた。
お義兄さんの後ろをついて行くと場内でもかなり奥まった場所にある喫茶店のようなところに辿り着いた。重いガラス扉に手を掛けながら
「トーストとシチュー、大丈夫?」
とお義兄さんは私に尋ねた。
カウンターに座るとすぐに温かいお茶が出てきた。
「ユキコさんは普通のでいい?」と訊かれ「はい」と答えた。何が普通で何が普通じゃないのかわからない。それとなく店内を見渡しお茶を啜るとすっかり眠くなってきてしまった。お義兄さんと主人は何やらボソボソと話していた。
「ユキコさん」
という声にハッとすると、目の前にクリーム色のシチューが現れた。
「き、黄身・・?」
シチューの真ん中には生卵の黄身だけがトロンと入っていた。
「そう。それをスプーンで崩して食べるの。トーストにつけて食べてもいいし、あ、ほらトースト来た。俺ら食べるの速いからユキコさん先食べて」
あと二つはもうすぐ焼けるからということで先にいただくことになった。トーストが四つに切られている。十字ではなく縦に四つ。細長いのが四つ並んでパンの溝にバターが溶けて滑り落ちていった。
「いただきます」
パンを一切れつまみあげて齧った。
「あー・・おいしい」
焼き加減、パンそのものなのか何なのかわからないが本当においしく感じた。シチューは懐かしい味。にんじんとジャガイモが煮崩れた感じで、浅い皿の上に顔を出している。スプーンの先で黄身の表面を破り、パンでひとすくいして食べた。
「あーこれもおいしい」
「でしょ?」
いつの間にかお義兄さんと主人も食べ始めていた。
「ユキコさんほら見てごらん、あのテーブル席の人の三×三で九切れに切られているでしょ」
新聞を広げながら食べている人の手もとをよく見るとトーストが縦横に三つずつ切られていて、ひとくち大になったそのパンでシチューをひとすくいして口に入れていた。
「うわーほんとだ」
「皆、常連だといろいろ焼き方とか卵をどうするかとかあるのよ」
「へぇー」
バイクが置いてあるところでお義兄さんと挨拶をして主人はバイクで店に、私は地下鉄で、と晴海通りに出た。
築地に足を踏み入れると地球上で日本という国なのに違う星に来た感じがする。
銀座に向かって歩いていたらだんだんふつうのじかんに戻ってきた。

 明日は『Oさん』です
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◎赤貝の仕込み 動画アップしました(5分03秒)
◎シャリ酢あわせ 動画アップしました(1分50秒)
◎かんぴょうを煮る動画アップしました(7分30秒)
◎玉子焼き動画アップしました(6分53秒)
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1dayアーカイブ2023年~2001年4月25日のおしながき[2023年]
[2022年] 野上啓三が見ている豊洲市場の風景 寿司屋の七十二候
[清明・第十五候 虹始見 にじはじめてあらわる]4/15~4/19
[穀雨・第十六候 葭始生あしはじめてしょうず]4/20~4/24
・久しぶり生インドマグロ ニュージーランド 今、店
・青森八戸 イガウニ 今、豊洲
・兵庫明石 目板(めいた)カレイ 今、豊洲
・酢〆の光り物 今、店
・兵庫 室津 浅利 今、店
・長崎対馬 のどぐろ 今、店[2021年][2020年]※日曜日のお子さんデーはしばらくの間休ませて頂きました。             
[2019年][2018年][2017年]
[2016年]野上啓三が見ている築地の風景 寿司屋の七十二候 4/20~4/24[穀雨・第十六候 葭始生あしはじめてしょうず]左上から横に
・トリガイ(愛知)・いがうに(青森八戸)・鯡(石巻)・ザトウクジラ1.6tの畝須(宮城)・アサリ(愛知)・左 赤イカ(神津島) 右 白イカ(山口・萩)[2015年]

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[2014年]和歌山 串本  引縄  日戻り  初鰹   なう002_2[2013年]001無添加でこのような箱に並べたウニは珍しいのだそうです。さざえ、久々に入りました。

 

[2012年]以前『わたしの魚(ウォ)キペディア・鱚きす』の時にも申し上げましたが、生キスのにぎりがおすすめです。お出しするとき塩を軽く振り、スダチを数滴垂らします。

 

私はこのにぎりは主人のすしの特徴を表す代表的なもののひとつだと思っています。

 

淡いけれどもはっきりと印象に残る、という驚きがあると思います。

 

 

 

[2011年]

 

ひらまさを仕舞おうとしています。

 

一昨日の朝(4/23土)に9.2kg千葉・鴨川の活け〆を約1kg分だけ仕入れました。

 

営業時間が終わると、プロ用の鮮魚保存シートに包んで冷蔵庫に仕舞います。

 

数日を経て旨味が増しています。

 

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[2010年]

ひらまさは約12kg。土曜日に入荷して、いま少し味が出始めたところです。 

 

 

 

冷蔵庫で熟成しています。

 

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[2009年]今日のあおやぎは北海道・浜中からです。

 

貝殻に入ったままのあおやぎが市場に入ってくるのは、北海道あるいは伊勢からのものがほとんどなのだそうです。

 

これが本日のあおやぎです。 正式名称はバカガイです。名前の由来としては口を開けていることが多いのでバカみたいだからという説があります。

貝殻の模様に黒い筋が入っているのが北海道産なのだとか。昨年の五月に入った伊勢産(←写真左。ちなみに右はトリ貝)の貝殻は全体的に茶色っぽかったです。003_2

 

 

 

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4月24日(水)

2024-04-24 17:39:10 | 4/1~4/30


野上啓三インスタグラムsushi43nogami2←こちらに変更しました。
すべての魚・貝、天然ものです。
◇営業時間について◇火曜~土曜17:30~21:55※ラストオーダー(酒類・酒類以外全て)21:25まで
日曜お子さんデーは11:30~17:30です。※日曜はお子様の日です
店には月曜(+第一日曜日)以外10:30~営業終了+aおりますのでお気軽にご連絡ください!03-3356-0170
※レストラン予約代行サービス『オートリザーブ』でのご予約は日付・時間帯にかかわらず受け付けておりません。
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おかみノート
主人の実家はお寿司屋さん。私はなんにも知らないドシロウト。
今まで見たり聞いたり体験した 寿司屋のいろんなことを書いておきたいと思います。

『入魂のゲソ焼き』
夕方、カウンターを拭きながら主人に話しかけた。
「きのうお客さまに “ここのゲソ焼きはうまいね”って褒められてたよね」 
「それはね・・」
アルコール除菌スプレーを厨房の作業台やその周りに噴霧しながら少し考えるようにして主人は続けた。
「言われたことがあるんだよね」
今度はきつく絞ったサラシでまな板を拭き始めた。
「鮨雅に勤めてた時にね、お客さんに怒られたんだ。“手を抜かないでちゃんと焼け!”って」
「へぇー、そんなことがあったんだ」
「その時さ、下っ端だったから同時に四つくらいのことをやらなきゃならなかったんだよ。巻き物やりながら裏の厨房のお吸い物のようすを見に行ったり、出前が入ったら握って届ける準備をしたり」
「うわ、すごいね」
「いや普通だけどね。その時、イカのゲソ焼きの注文が入って」
「うん」
「網にのせて中火・・うーん、弱火だったかな。そのまま別のこといろいろしてて、けっこう焦げ焦げになっちゃったのね」
「あらー」
「で、ブツブツ切ってそのまま出したらものすごい怒られた」
「ありゃりゃ~」
「“イカゲソってな、ものすごくうまいもんなんだぞ。俺はな、この店のゲソ焼きが好きなんだ。こんな焼き過ぎてな、ガビガビになったもん出すんじゃねぇっ!”って言われて」
柳刃包丁を納めてあるところから出しまな板の正面、いつもの位置に置いた。
「その時、うわ~って思って。もうそれ以来毎回必ず気合い入れて焼いてっから」
私はゲソ焼きの風景を思い出していた。
たしか強火だ。網の上でイカを躍らせるくらいガンガンに熱して、金箸で何度も素早くひっくり返し、短いタイミングでまな板にあげ、食べ易い大きさに切っていたなと思った。
熱い網に生のイカが触れた瞬間に “キューン” あるいは “チュイーン” と鳴っている音だけは洗いものをしながらでも耳に入っていた。
あの時そんなことを考えながら焼いていたのか。
「おいしそうな焦げもあるんだけれどもイカのプリプリ感は残しつつ、火は通っているんだけれどもガリガリに焼き過ぎない、と。そう肝に銘じてやってるから」
開店五分前。
帽子の位置が中心になっているか、両手で確認しながら店の中全体に聞こえるように主人は言った。
「さ、今日もがんばりますかぁ!よろしくお願いします!!」


『畳のこと』
その畳屋さんにお願いしたのは店を始める時にお世話になった畳屋さんに「裏返しなどせず総とっかえしろ」と言われたからで、小上がりの畳を全部替えるお金などなかった私たちは迷い込んだ隣りの隣りのそのまた隣り町にある畳屋さんに裏返しのみの予算交渉をして店の定休日にあわせて来てもらっていた。
もの静かなその畳屋さんはテーブルを退かした小上がりを見てズブリと一撃、太く短いキリのようなもので畳の片隅を刺すとあれよあれよという間に全部の畳を上げてしまい目の前は木の枠と床面に敷いてある新聞紙の世界になった。
新聞の日付はかなり懐かしい時代のもので、テレビ大好き人間としては床に這いつくばってラテ欄を見ていたかったのだが畳屋さんに申し訳ないのでぐっと堪えた。
「中身ボードだね」
立てかけた数枚から一枚を横にして畳屋さんは言った。
「ボード。あ、発砲スチロールみたいなのってことですか」
「・・うん。全部替えろってその畳屋さんに言われたの?」
「はい」
「・・なるほど」
私は訊ねた。
「本当は裏返しじゃなくて全部を替えたほうがいい時期に来てるってことなんでしょうか?」
「うーん。大丈夫ですよ、裏返しで」
「ほんとですか」
「ほんと、ほんと。またね、三年くらい経ったらそのときはほら、全部替えればいいから」
「中身はイグサの方がいいんでしょうか?」
「いやいいんじゃないこういうので。何年かおきに裏返して替えていけば。それより日頃のお手入れが大事だよね」
畳屋さんは太い糸を断ち切ったり表畳を剥がしたりしながらこう言った。
「濡れた布で拭いていたでしょう」
「うぇっ・・はい、わかりますか」
「色変わっちゃってるからね」
「かなりきつく絞ってから拭いてるんですけど」
「乾いた布でね、さっさっとするくらいでいいんですよ」
立ち上がったり座ったりを畳屋さんは繰り返しているのにそういった物音は一切なく、畳にまつわる道具が奏でる音だけがしていた。
この際だから失礼かもしれないけれど疑問点は質問してしまおうと遠慮がちに尋ねてみた。
「昔は湿らせた新聞紙をちぎって撒いてからほうきで掃いたって・・そう言いますよね?」
「新聞紙・・ほこりを捉えるからね。・・まぁ当時から掃除機があれば掃除機で吸ってると思うけどね。一番いいのは目に沿ってゆっくりとこう、ずーっとやっていくこと。ね?」
主人が一番町の鮨雅に勤めている時、十七名様の宴会が入っているのに若い職人さんが店に出られなくなり急遽手伝いに行ったことがある。お座敷の掃除を命ぜられた私はほうきでザッザッと掃いていたところその適当さが親父さんの逆鱗に触れ、えらい怒られたことがあった。
「畳を掃くっていうのはな、こう、目に沿ってきちんとこうずーっとほうきの先に神経を集中させて掃いていく。やってみろほら!四角い部屋を丸く掃くっていうのはさっきみたいなのを言うんだよ!・・そう、そう、そーう、ほらやればできる!汗掻くだろじわっと?ちゃんと掃除すりゃ汗が出るんだよ」
そう言われたことを思い出していた。
「奥さん?」
「はいっ」
「さ、あとは縁を選んでください」
「ヘリ?」
「畳縁。いくつか柄がありますから」
「たたみべり・・」
「こういうのはだんなさんじゃなくて奥さんが決めるのがいいのかな」
畳の縁を十センチくらいに切ったものが二十パターンくらい紐でまとまっている。その束から五パターンだけを扇形に並べて
「緑系は替えたばっかりの時はしっくりくる。茶系はその逆。どうしますか」
と訊かれた。緑系の紋様を選ぶと、それは持ってこなかったらしく
「ちょっと取りに行って来る」
と畳屋さんはご自宅の仕事場に戻っていった。畳屋さんが戻ってくるまで主人と二人だった。
「これでよかったよね?」
「いいでしょう」
「記念になるよね?」
「なるよ」
「うちらに出来る目いっぱいだもんね」
あと五日で三周年だった。
店が三才になるお祝いを自分たちの出来る範囲で何かひとつでもしたかった。別の畳屋さんが作った畳を裏返すというのはそれほど勝手はよくないだろう。それなのにやっていただけて本当にありがたかった。
戻ってきた畳屋さんがすべてを終えて思い出したように言った。
「娘がね、なにかその・・店のわかるものを欲しいって・・」
「お嬢さんってあの店先でお仕事をしてらした・・」
訪ねて行った時、舗装道路に作業台を出して仕事をしていた女性を思い出していた。
「そうです、あれ娘です。“こんなお寿司屋さんあるよ”って言ったらそんな場所に寿司屋があるの知らなかったって言われて、ぜひ知りたいから何か情報が書いてあるもの持ってきてくれって」
手作りのチラシを五部ほどお渡しして主人と最敬礼でお見送りをした。
仕上がった畳からはほんのりといい匂いがした。
畳をじっと見ていて思い出した。
敷いてある古新聞のラテ欄をチェックするのを忘れた。

明日は『うちわ』『トーストとシチュー』です
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◎赤貝の仕込み 動画アップしました(5分03秒)
◎シャリ酢あわせ 動画アップしました(1分50秒)
◎かんぴょうを煮る動画アップしました(7分30秒)
◎玉子焼き動画アップしました(6分53秒)
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1dayアーカイブ2023年~2001年4月24日のおしながき
[2023年] 野上啓三が見ている豊洲市場の風景 寿司屋の七十二候
[清明・第十五候 虹始見 にじはじめてあらわる]4/15~4/19
[穀雨・第十六候 葭始生あしはじめてしょうず]4/20~4/24
山口仙崎のヒラマサ 10.2kg 皮をひくところ【動画】
・ニュージーランド 生インドマグロ 今、店
・上 千葉勝山 活け〆アジ 中 大分佐賀関 アジ 下 島根浜田 ドンチッチアジ 今、店
・青森八戸イガウニ(キタムラサキウニ)今、豊洲
・鹿児島 串木野 イサキ 今、店
木の芽を摘んでいるところ(お通しのホタルイカに)【動画】
・北海道 白老(しらおい) コバシラ 今、店
富山射水 スチームホタルイカ【動画】
・秋田男鹿半島北浦 本サクラマス 今、店[2022年][2021年][2020年][2019年][2018年]
[2017年]野上啓三が見ている築地の風景 寿司屋の七十二候〔清明・第十五候・虹始見にじはじめてあらわる〕4/15~4/19〔穀雨・第十六候・葭始生あしはじめてしょうず〕4/20~4/24・珍しい 富津タイラギ 今、築地 ・岡山県児島湾 当店初入荷青うなぎ 今、築地・宮城 活け蝦蛄 今、築地・勝山活け〆のアジ 富津カンヌキ 今、店・噴火湾 活けボタンエビ 今、築地・閖上 赤貝 富津 トリガイ 今、店
[2016年]第110回 にちよう☆ひるのがみ[2015年] 001002

 

今、店[2014年]『ぼうぜ』と呼ぶにはすこし大きい えぼ鯛(疣(いぼ)鯛)です。

001[2013年]イサキが初夏を感じさせます。

 

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[2012年]

002_2 あおやぎ、ホッキ貝、赤貝。今日は貝三種です。

 

001_2 穴子、煮あがりました。

 

星鰈、石鰈、それぞれべつの仲買さんから四分一ずつ仕入れました。

 

 

 

006

 

[2011年]

 

カンヌキ(=大きいサヨリ)、本当に大きめです。

 

008 数日前から生ビールは『アサヒ熟撰』に戻りました。

 

 

 

Photo

 

[2010年]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お通しはめふんです。004 のどぐろは小ぶりのものです。003

 

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[2009年]ワカシは0.9kg。1kg未満がワカシと呼ぶおおよその目安のようです。のどぐろは下関です。底びき網で獲れるこののどぐろは、釣りのものより外見はやや難ありですが、身の旨さには定評があります。一尾で四人前です。

 

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うにがまた新たに入りました。002

 

 

 

 

 

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