四谷三丁目すし処のがみ・毎日のおしながき

新子の季節です。6/下旬~9/上旬まで小さいコハダを追い求め、繊細な酢〆を施します。新イカ入りました。

玉子焼き 2

2007-04-28 15:57:00 | 04 どんこ・しいたけ

甘い出汁と卵が焼ける匂いが店内をめぐる。

主人のメガネは熱気とこまかい油で曇り、玉子焼きは

仕上げの段階に突入した。

表面に焼き目をつけるため、ゲタと呼ばれる小さい

木の蓋のようなものを使って玉子焼きを寄せたり

ひっくり返したり、焦げ色がつくまで押し付けたりしていた。

卵を割りほぐしたボウルの中身はくり返しおたまで注がれ

四角いフライパンの上でくるくる廻され玉子焼きになった。

でもほんのわずかにボウルの内側に卵液が残っている。

これを捨ててはいけない。

これを洗い流してはいけない。

修復材に使うかもしれないからだ。

開店して間もない頃、初めて主人がお客様の前で焼いた時

役目を終えたボウルに手を伸ばして洗おうとしたら

「まだダメッ!」と怒鳴られた。

「仕上げの段階で玉子焼きの表面に目立つ窪みがあったら

残りの卵液で埋めて平らにしたり、巻いた端のほうが少し

剥がれていたら接着させるために使ったりするから完全に

焼き上がるまでボウルは洗ってはいけない」

と教わった。


あの時以来、艶よく光る玉子焼きに主人が包丁を入れ始める

のを確認してからボウルに手を伸ばすことにした。