のがみのシャリの話
“シャリ炊きと魚の仕入れはどんなに忙しくても他人に任せず店主がやれ”というのが修行先のオヤジさんの言葉でした。
主人はその教えを守り毎日築地に行き魚を仕入れに行きます。そしてシャリを炊きます。(火~土は15:40頃、日曜日は9:20くらい)
米を研ぐ一連の動きはつねに同じです。何回水に浸して何回手で研ぐか。手で触った時の米の状態を全身で感じながら炊く時の水加減の微妙な差異を決めていきます。晴れ、曇り、雨なども水加減に影響します。自分の思い描くシャリにするため、微調整にすべての神経を集中させます。
実はいろいろな仕事がある中でシャリ炊きが一番むずかしいのだそうです。
数年前、取引先のお米屋さん『米マイスター麹町』の社長さんに当店のシャリについて取材させて頂いたことがありました。その時のものです。
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開店の時からお世話になっているお米屋さんに行ってきました。水分計(左)と白度計(右)を見せてもらいました。
水分計は写真のようにお米をプレートにのせ、右横から差し込みハンドルをひねって圧をかけて測ります。この時お米が砕ける音が聞こえました。サンプルで測ったお米は水分量が14.4%でした。14.0%を超えるものが多い中、当店で仕入れるお米は13.8%から14.0%くらいのものです。乾燥してくるとうまみが出て米がしっかりしてくるのだそうです。新米のように水分を多く含むお米はすし米としては適しておらず、低温倉庫で時間をかけて寝かした状態のものを使います。
白度計はお値段が張るので持っていないお米屋さんもあるのだとか。主人も水分計は知っているけれど白度計は初めて見たと言っていました。所定の位置にお米をセットして(水分計のプレートの8倍くらいの大きさ)測るのですが、このサンプルのお米の40.9度というのは白過ぎるのだそうです。37度あれば合格ライン、38~39度というのがポピュラーなところだそうです。社長さんは複数の品種をブレンドする時に色を合わせるためのチェックや、新しい品種や産地の状態をみる時に使ったりするとのことです。
現在使っているお米はコシヒカリとササニシキで6:4のブレンドです。コシヒカリだけですし米に仕上げると粘りが出やすくなりますので、主人はササニシキを混ぜ、炊いた時にサラリとほどけるようなシャリになるよう配合してもらっています。
社長さんが設定する当店用の歩留まりの数値(精米歩合)は89%が基準だそうで、コシヒカリ、ササニシキが最終的に同じような仕上がりになるよう別々に精米機にかけ、わずかな白さの違いや胚芽の取れ具合などをみて微調整をしながら精米を行ってくれているのだそうです。
おかみノート 『シャリ』
店のオープン日を決めたあと主人がまず始めに取りかかったのはシャリのことだった。
実家の寿司屋は福島に移ってしまっていたので東京に馴染みのお米屋さんもなく一人で思案しているようだった。
「とにかく親父に訊いてみる」
受話器を取った主人はお父さんにシャリの配合を尋ねた。
「どうだった?」
話を終えた主人に声を掛けてみると
「“コメ?どうだったっけかなぁ~…”とか言ってさ。ダメ、話にならない」
オープンまで日もないので考える間もなく主人は知り得るお米屋さんを一軒ずつ訪ね、試作サンプルを取り寄せ試し炊きを繰り返した。
「水分が何パーセントかが知りたいんだよな。来週実家に帰るから直接米屋さんに訊くわ。親父のところのヤツ、水分計で測ってもらう」
実家に帰った主人は早速お米屋さんを訪ねて訊いた。すると
「あのな啓三、それは秘密だ。のんちゃんと俺との間で始めに米の水分量とか配合とかどうすっかってのを決めてんの。だからよ、たとえ息子であっても、教えるわけにはいかねぇの」
お米屋さんからそう言われて主人は腹を括ったようだった。
それから東京に戻ってすぐに自らの腕を頼りに試行錯誤しオープンの日には“これが自分のシャリ”というものを作り出した。
四年半経った今でも主人はたまに言う。
「親父は俺にわざと教えなかったのかな。自分でやれってことで」
お父さんは手伝いに来ていた一ヶ月のあいだ「啓三の指示に従う」と言って黙々と手を動かしていたことを思い出す。
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にぎりを食べた時、サラッとしたほどけ具合を狙うところからコシヒカリとササニシキを6:4でブレンドするのがみのシャリです。米の水分も多いとベタッとするため新米は使いません。低温貯蔵で時間をかけて乾燥させたものを使います。米マイスター麹町の社長さんは「ブレンドも技術が要る。どこをすくってもコシヒカリ6:ササニシキ4になってなければいけないから」と言って米専用のブレンダーを見せてくれました。お米を研ぎ水加減を調整し、炊きあがったら酢合わせです。当店のすし酢は二種類の酢・塩・砂糖だけです。お酢はヨコ井の酢『大吟(だいぎん):右側の色が濃い方』と『水仙(すいせん)』を使っています。シャリの合わせ酢はこの二つを混ぜて使います。暑い季節は【大吟9:水仙1】、一番寒い時は【大吟8:水仙2】、あとはその時々の状態を読んで9:1と8:2の間を微妙に調整していくのだそうです。旨味調味料、保存料、一切入っていません。四谷三丁目すし処のがみのシャリ、私は本当においしいと思います。
おかみノート 『釜底のにぎりめし』
小さい時に食べていたものの話になった。
「幼稚園か小学校の頃だったかなぁ。一階が店で二階が自宅だったからシャリが炊き上がるところをたまに見てたんだけど蓋を開けると湯気があがってさ、おふくろか板前さんが柄の長いおっきな宮島を立てて釜の縁をこう、ザッザッと剥がしていくんだよ」
「宮島ってしゃもじのこと?」
私が訊くと主人は答えた。
「そう。で、縁をぐるっと剥がしたあとにさ、縦にした宮島で真ん中にバッテンの跡をつけるの」
「バッテン?」
「飯切りにガバッとあける時に何升もとなるとそうしてあるだけで移しやすいんだよ。で、釜をひっくり返してポンポンとやると出る」
「へー」
「底のほうはちょっとおこげみたいになってるのね。わざとガスをもう一回点けてガーッて加熱して・・ほら竃で炊く時に最後に藁をくべるでしょ、あんな感じで。底の部分のメシはパリッとしているからシャリにはならなくてさ、そこにおふくろが醤油ぶっかけて一気に混ぜておにぎりにするんだ。おかか混ぜたりしてね」
「すごくおいしそうだね」
「まぁね。でも寿司屋の倅だからそればっか食っててさ、いい加減飽きるよ。・・・あーでももう相当しばらく食ってないなー」
懐かしそうに主人は言った。
おかみノート 『しろ』
中に何も入れない巻き物がある。
当店では「しろ」と呼んでいる。
海苔と酢めしだけ六ツ切りにしてお出しする。
「何か変わった巻き物を」
と言われると主人はこれを巻くことがある。
「・・・?」
お客様は訝る。
ひとくち口に入れ
「!」
に変わる。
うちのシャリと海苔だからこの巻き物がおいしいのかそれはわからない。
直球すぎて戸惑う人もいるかもしれない。
でもある意味これはうちの店の真骨頂かもしれない。
野上啓三インスタグラム、←こちらに変更しました。
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すべての魚・貝、天然ものです。
◇営業時間について◇
火曜~土曜17:30~21:55※ラストオーダー(酒類・酒類以外全て)21:25まで
日曜お子さんデーは11:30~17:30です。※日曜はお子様の日です
店には月曜(+第一日曜日)以外10:30~営業終了+aおりますのでお気軽にご連絡ください!
03-3356-0170
※レストラン予約代行サービス『オートリザーブ』でのご予約は日付・時間帯にかかわらず受け付けておりません。
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たいら貝今シーズン初入荷です。まだ貝柱は小さいです。茶紙に包まれています。ご注文をいただいてから剥きます。赤貝・ほんみる貝も同様です。
ロシア産・根室加工のばふんうに、仲買いさんニ箱だけの入荷のうち、一箱取り置きしてもらいました。
[2009年]まな板を買って一年八ヶ月が経ちました。よく使う真ん中が窪んできたので本日メンテナンスに出します。11月30日の早朝に業者さんに取りに来てもらい、夜には戻って来ます。ですので今回は代わりのまな板が届くことはありません。
まっ平らではなく、少し盛り上がったように削ると聞いたことがあります。横から見るとわずかにカマボコ型になっていると。これはメンテナンスに出す前の状態です。主人は「目で確認出来るほど丸く仕上げたらむしろ切りにくくなるからそこまで極端に仕上げないと思うよ」と言います。検証結果は後日…。
十二月から本格的に天然のホタテ貝が入ってきます。タイラギ(たいら貝)も築地にはぽつぽつと出始めた様子です。が、主人はまだ仕入れて来ません。お目当ての、厚み十センチ近くもある身のしっかりしたものがこれから出てくるからです。
帆立やタイラギに限らず、赤貝・ほんみる貝・ほっき貝・あおやぎ・こばしら・とり貝・石垣貝・つぶ貝・・・と、貝がお好きな方にはこれから愉しんでいただける季節ではないかと思います。