<拾ってくれないのね>
今日も授業が始まり、ミエは一生懸命板書をしていた。
ふと隣を見ると、キムチョルがただならぬ空気を出している。
大魔王ご機嫌ななめ
朝から噂話の的にされ、学年主任からも注意を受けたとなるとしょうがない。
ミエは気にせずノートをとることに集中した。
すると。
「あっ」
するっとペンが落ち、チョルの足元に転がった。
チョルは前を向いたまま動かないので、仕方なくミエが動く。
ガンッ
「あっ」
するとミエの頭がチョルの机に当たり、
その衝撃で今度はチョルの机の上のペンや消しゴムが床に落ちてしまった。
「あ、ごめん」
先生は「どうした?」と気付くし、ユンヒは「ヒィィ」と恐れ慄いた。
チョルは未だ何も言わない。
しかしチャイムが鳴り休憩時間に入ると、
チョルはカッと目を見開いた。
「おい!おめはなんも変わってね・・」
ガシッ
「ちょっと来て!」
チョルが爆発寸前で(声を抑えてはいたが)、ユンヒがミエを連れて行った。
チョルは「あぶね、」と小さく呟く。
[方言出るとこだった]
<しっかりしろ友よ>
なにー何なのー?
ユンヒは不満そうなミエを連れて外へ出た。
誰もいないところで、ミエに向かって声を上げる。
「だから!大魔王に殴られたらどーすんのよ?!」
「へ?あの子が私を・・殴?」
ぽかんと口を開けるミエに、ユンヒは言葉を続ける。
「昨日高校生たちと喧嘩みたいになってたし!そうとしか思えなくなったん
「いやそれは・・その・・」
「あの子が喧嘩しようとしたかどうかは分かんないじゃん?」
「はー?!しんど!」
ユンヒは胸を叩きながら(韓国特有のリアクションだそうです)、
己の感情を鎮めた後、ミエの肩を掴んでこう言った。
「な、ファンさん。世の中には脈絡というものがあるのだよ、ね?」
「アンタはまだピンとこないかも知んないけど、
アンタの隣の席の人のこと、よく考えてごらん。
「ヤク・・え・・」
ユンヒが発した突然のパワーワードに、思わず固まるミエ。
その頃のチョルは、というと・・。
<全部嫌だ>
[キム・チョルの胸の内がザワついていた]
[まぁ、こんなのは耐えれば済むけど]
[静かに暮らしてるのに、絡んでこられるのは本当にしんどい]
[しかもなんであいつらはあんなに必死なんだ?学校まで来るとか]
なぜか無駄に偉そうにしてる高校生達も、的外れな学年主任も、もう全て嫌だった。
[そのせいで注意されて]
男子高生に言われた言葉が蘇る。
きっとそれが、すべての元凶だ。
”お前がガク・テウク半殺しにしたんだろ?”
[キム・チョルは再び決意する]
[絶対に見くびられたらダメだ]
[今度ああいう奴らに絡まれたら]
[またあんな風に台無しになってしまう]
大人しく、静かな人間でいるだけではダメな時もある。
現にそれで、昨日チョルは彼らを退けた。
ビビらしたしもう来ないだろ
悪意に悪意で向かうことが必要とされる時、
それが正解だとしても、胸は苦しい。
まるで黒く厚い雲で覆われたような感情が、胸を占める。
チョルが顔を上げた時、あの子が見えた。
まん丸い、満月のような瞳をしたあの子が、澄んだ眼で自分を見ていたのだ・・。
「あれ?」
「チョルじゃない?」
突然、声を掛けられた。
よく澄んだ、鈴が鳴るような声を。
「三年になって初めて会うね。元気してる?」
「あ・・」
「じゃあね〜」
その子はそう言うと、階段の方へと歩いて行く。
隣にいた友人らしき子が、慌てた様子で話し掛けた。
「あの人と知り合い?怖くないの?」「え?」
「ううん、あの子優しいよ!」
「去年同じクラスだったんだ」
見えなくなるまで、チョルはその子の後ろ姿を目で追っていた。
胸の中を覆っていた黒い雲が、薄らいで行く。
[とにかく、今はもうしょうがない]
チョルはそう思いながら、再び教室へと帰って行った。
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第九話③でした。
おおおなんじゃこのかわい子ちゃんは〜〜〜
これは後々出てくる予感がビシバシですね!!
どんなストーリーになって行くのか、本当楽しみです
第九話④に続きます