
ミエが読めない手のひらの番号に首を捻っている時、チョルはまだ街中にいた。

コ・テグァンがその隣に立つ。

「塾にはすっかり遅刻ですぞ」「あぁ、うん・・ありが・・」
「だがおかげで小生もささやかなプレゼントを買うことができた」
「あ!」

「早く行こう。バスが来た」

そう言って駆け足になるチョル。
カバンの中に入った飛行機が、カチャカチャと鳴る。
真っ青に晴れた空に、街中の音楽が吸い込まれていく。

コ・テグァンは、空を見上げながらポツリと呟いた。
「ふぅむ・・誰かが呼ぶ声が聞こえる・・」

ミエの叫びは、チョルではなくコ・テグァンの方に届いていたらしかった・・・。
<強いフリをしてみても>

当のミエは、警察に電話しても取り合ってもらえなかった不条理を正に今嘆いていた。
「てか何でずっとイタズラ電話だって言われんの?!一体誰が何を知って通報したっての!?」

「つーかあいつらもう行ったよな!?」
「多分大丈夫だと思うけど・・・イ・インウクの家と何かあったんじゃないよね?
全く関係ない人たちまで巻き込んだら・・」
「ねーって!ったくマジムカつく!!」

ジョ・ハンの言う「関係ない人たち」はモ・ジンソプとハン・ソンイだった。
あの場のゴタゴタで忘れていたが、彼らを置いてきてしまったのだ。
ベ・ホンギュの後ろで、子供たち二人がブーブーと文句を言っている。

「お前ら!だから逃げろって言っただろ!なんでついてきて一緒に逃げてんだよ!」
「なんで!僕が叫んだから逃げられたんだろ?!」
「誰が助けて欲しいって言った?!お前らが逃げりゃ俺一人で逃げ切れたのに!」
「言いたいことはそれだけか?!僕は本当の本当に勇気を振り絞って・・」
「あーもーやめて!気づかれるっ!」

ホンギュもジョ・ハンも、溜め込んでいた互いへの不満が口に出た。
一応奴らに気取られないように早歩きで歩を進めながら。
「ちげーだろ!喧嘩もできないヘタレが下手に首突っ込んできやがって!
ファン・ミエ、お前も大概だぞ!?
今は首突っ込む時か突っ込まない時かとか、空気読めよ!
マジで大変なことになるとこだったんだぞ?!」
「ああ!大変なことになるとこだったよ!ホンギュのせいでね!

「はぁ?!」
「同じ中学生だからって、自惚れすぎだよ!ちょっと運動ができるからって!」
「お前に何が分かんだよ!」「ちょ・・もう二人ともやめ・・」
「俺は覚悟して行ってんだよ!割り込んでくんじゃねーよ!
馬鹿みてーに巻き込まれてこのザマかよ!結局一発も殴り合いしてない・・」
「だからっ・・今日は二人の誕生日だろ?!誕生日にそんな目に合っちゃダメだよ!」

ジョハンが発したその一言が、ホンギュとミエの足を止めた。

「え・・あ・・」

「えーっ・・なんか感動しちゃった・・てか、なんで私も誕生日だって知ってんの?」

「え?何言ってるんだよ、ミエの誕生日だからついて行ったのに。
今日は君ら二人の誕生日・・・」
「えっ?!いやちょっと待っ・・」
ホンギュが声を上げたその時、路地の向こうに奴らが見えた。

「しーっ!」「走って走って!」「足音立てんな!」

「とりあえずあっちの道に戻ろう。塾の方向へ」「近道じゃないけど、大体道は知ってる」

「早足で走れっ!」

ササッ!

壁に隠れながら建物の向こうを見上げると、塾の看板が見えた。
いつもは何とも思わない、むしろ憂鬱なその看板が、まるで天国の門に見える。
「あっ!あそこに塾が!」

おおお・・・

しかしホッとしたのも束の間、奴らがすぐそこまで迫ってきていた。
「なんか人の気配がするけどなぁ」

「おーいどこにいるんだよ?」

「今からでも出てきたら優しくしてやるぞ?そろそろ飽きてきたわぁ」

息を潜めるミエたちのすぐ側を、高校生たちが通って行く。
彼らの口からキム・チョルの名前が出た。
「おい、でもキム・チョルのダチなんだろ?後で問題が起きたりしねーよな?」
「何か起きんならとっくに起きてんよ。あの野郎、勉強するからってもうずっと大人しいんだと。
問題起こしちゃマズいなら、この程度では何もできねーって」
「つーかその大魔王ってやつが喧嘩してんのマジで見たことある奴いんの?」
「ガク・テウクの子分のインウクが見てたんだろ?」
「うーん・・どう見ても図体デカイだけっぽかったけどなー」
「あ〜このままこの辺を一日中回ってみるか〜」
食ってかかろうとするホンギュを宥めるミエとジョハン。
高校生たちは通り過ぎようとしていた。
しかしその時、反対方向から声を掛けられた。
「あれ?お前ら見たことあるぞ?」


ミエが振り返ると、そこにどこか見覚えのある男が立っていた。
「前にゲーセンにいた生意気な中坊たちだよな?なんでこんなところに隠れてんだ?
お前らもタバコか?」

「お?今日はあのデカイやつはいねーのか」

その男が何者なのか、一番最初に思い至ったのはホンギュだった。

数日前、ゲームセンターで喧嘩になりかけたのだ。
そして運の悪いことに、今日は男は仲間連れで、こちらはチョルがいない。

「おい、こいつらが前に言ってた奴らか」

仲間たちも一緒に近づいてくる。
そして最悪なことに、背中側から高校生たちが現れた。
「ここにいたのかよ〜」

さらに事態をややこしくしたのは、高校生たちとゲーセン男が知り合いだったことだ。
「おお、どーもー」「おお、なんだよお前もこいつらのこと知ってんの?」
「いや特に知り合いじゃねーけど見たことあって。お前も?」
「一緒に行こうな〜?」

大ピンチに陥ったミエの叫びが、路地裏に吸い込まれていく。

[捕まった中坊たち]

三人は高校生達に囲まれたまま、ゾロゾロと連行されていった・・・。
第九十四話③でした。
あああ〜どんどんドツボに・・・
しかしジョハン、二人とも誕生日だから救おうと思ったって・・優しい〜〜
どんどんジョハンの株が上がってますね!
第九十四話④に続きます