ミエは今、チョルの家にいた。
大きなテレビ画面には、ビデオの冒頭にある警告文が表示され、
やがてお決まりの警告が流れた。
チョルとミエは、同じソファに座りながらそれを観ている。
ふと、チョルがミエのことを窺う。
同じタイミングで、ミエもチョルのことを見た。
パッ
同時に目を逸らして、ミエはこの間聞いた話を思い出した。
その声の主は、友人のノ・チヘだ。
[気まずくない?]
[だったらこの次は・・]
なんだっけ、とミエは改めて思い出そうとする。
再び、チヘの声が蘇った。
ここから、チヘ先生の恋愛指南の始まりである。
[じゃあ始めるからね。聞いててよ?]
[気になる男の子がいるなら試してみて]
恋愛は相手に背中を向けたところから始まる。
相手の表情が読めなくて、心を騒がせるところから。
ここでチヘ先生の注意が。
「あ、ちなみに私自身の話じゃないからね?いい?」「えーほんとかなぁw」
[ふむふむ、とにかく!]
[とにかく偶然よく会って]
[気づいたらいつの間にかそばにいて]
[それとなく私のことが気になってる感じがして、]
[なんとなく目が合う]
さてここで、チヘ先生が一つ問いかける。
「けどそれって、実は偶然じゃないんじゃない?」
それが全部偶然じゃないとしたら・・・。
ミエはそのことについて、ずっとグルグル考えているのだ。
<根拠を探して>
冒頭の警告文や広告が終わって、ビデオは本編に入ろうとしていた。
主演はキアヌ・リーブスだ。
流れるクレジットをチョルはじっと見ていたし、
ミエも真っ直ぐ前を向いていた。
字幕版を選んだので、より集中して観なければ。
しかしミエはそれどころではなかった。心の中はこのことでいっぱいだ。
ミエはその根拠を探していた。
チヘの言った言葉の通りに、自分とチョルが当てはまるそれを。
[偶然よく会って]
雷と何者かの気配に驚いて、家の外に出た時に偶然会ったことを思い出した。
両親が自分の話を聞いてくれなくて、泣きながら飛び出した時も。
[いつの間にかそばにいて?]
雨の中、結局あの後一緒に家に着いてきてくれた。
逃亡したミエを、放っておくことなく面倒を見てくれた。
一緒に発表をした時だって、共に図書館に行って、沢山話し合って・・。
ふむ・・・
ミエはまるで名探偵のように、揃っていく根拠を前にして考えていた。
そしてひらめく。
ピコン!
あれが偶然じゃなくて、キム・チョルの作戦だったってこと?
あれ全部私のこと・・
脳内に、少女漫画モードのチョルとミエが浮かぶ。
私のこと好きだから??
遠くにあると思っていたその世界に、一歩一歩近づいていく気がした。
思い返してみれば、根拠はそこら中に転がっていたのだ。
始まりは、母から「お父さんの友達家族が引っ越してくる」と聞かされたことだった。
引っ越しの挨拶に行ったとき、黙々と荷物を運ぶチョルを見た。
その後廊下で見かけて、
三年になって同じクラスになって、隣の席になって、
おまけに塾まで一緒なんて。
[そうだった。あまりにも出来すぎた偶然で・・]
しかも部屋まで向かい合わせ。
外食の時も一緒だったし、
その他諸々、偶然にしては出来すぎていた。
[あれ全部、偶然のフリをしてキム・チョルが・・]
[え?ありえる?]
ありえない偶然を好意による故意だと思うには浅薄で、
それでもまるで運命のようなそれを手放しで信じるほど子供ではない。
けれど見えない何かに導かれているように、ミエの隣にはチョルがいた。
それは思い返してみれば、三年生に入ってからのことなのだ。
[二年の時は同じ街に住んでるのにほとんど会わなかったし]
[偶然会うことはあっても]
「うわっビックリした!」
家の近くの曲がり角で、偶然出会ったことがあった。
あの時チョルはまるで”大魔王”のような顔で、ミエのことを見下ろした。
けどミエはそれに恐怖を感じることなく、幼い頃の面影の方を思い出した。
「ねぇ!私あんたのこと覚えて・・」
けれどチョルは何も言わず、そのまま行ってしまったのだった。
[あんなんだったじゃん]
[次会った時は同じクラスになっちゃって・・。
名前のせいでからかわれるから、
神様にも飛行機にも、同じクラスにならないよう願った。
けれど今あるチョルとの結びつきは、今の状況じゃなきゃありえなかった。
「一緒に勉強しよう」と筆談したり、帰りを待ち伏せてみたりした。
その全てが、
[同じクラスになったからこそ、仲良くしようとしたんじゃん!]
二人の関係は、そこから始まったのだ。
昼休み、教室にいないチョルを心配してパンを買ってったことも、
挨拶を繰り返したのも、必死で追いかけて行ったのも、
帰りを待ち伏せして声を掛けたのも全部、
チョルと親しくなりたかったからであって・・・・。
ミエはそこで一つ疑問を持った。
私がチョルのことを好きで、追いかけてるみたいじゃん!
え?今の状況って実は・・・。
「キャッ!これ受け取ってください〜!愛してる〜!大魔王」
実はこういうことなのだろうか?
先日、シン・チャンヒョンが言っていた言葉を思い出した。
「あの女子がいつも面倒起こすんだろ?」
え?他人から見ても、私の方がチョルを追いかけてると思われてるってこと?
つまり傍目から見ても、私はチョルのことが好・・・
ミエはしばし思案したが、やがてぶんぶんと大きく頭を振った。
チョルが「おい、お前ビデオ観ないんなら帰れよ」と言ったが、
ミエは一向に聞いていない。
そう、チョルだって自分のことを追いかけて来たではないか、とミエは思う。
頭の中に、その根拠が一つ一つ浮かんで来た。
あの時も、
あの時も、
あの時も!
あの時も突然!
ん?
根拠はいくつも浮かんでいた。
これはもう確信に近いと、ミエは再びチョルの方を向く・・・。
第八十話①でした。
切りどころがわからず、すごく長くなってしまいました
二人が観ているのは映画「スピード」ですかね!面白いですよね〜!
チョルセレクト?
そしてチヘちゃん!恋愛上級者〜!
指南通りに試すミエも可愛いですね
第八十話②に続きます