終礼後のチャイムが鳴り、本日の授業は全て終了。
正門への道を一人歩いていたキム・チョルは、ふと足を止める。
門のところにいるのは、どうやら高校生らしき三人組。
談笑しながら誰かを待っていた。
周りで「□□高?」と息を飲む声が聞こえる。
<知らないふりをして行こうとしたけど>
彼らの横を通り過ぎようとした時、背後から回り込まれ、声を掛けられた。
「おい」
「お前キム・チョル?」
「すぐ分かったわ」「ちょっとお兄さん達と話そうぜ」
[大魔王の予想は外れない]
嫌な予感はいつも当たる。
”大魔王”の予想は絶対だ。
<模範生大魔王>
「お前がキム・チョルなんだよな?」
[馴染みの出来事]
「合ってんじゃんお前!」「上がるわ」
「つーかクソでけー。プライド傷つくっつの」
[その度にキムチョルは心の中で繰り返す]
「おい顔の傷見てみろよ」「カッケー」
[無視だ]
キム・チョルは感情を殺して、ただ無視することに集中した。
「絡むなってw」「いや褒めてんじゃん。絡んでねーし」
[無視しろ]
心に何かが生まれる前に、ただそう強く思う。
「高句麗中のやつら、お前の話ばっかしてんよ」
[無視・・・]
「お前がガク・テウク半殺しにしたんだろ?」
その時、殺したと思った感情が動いた。
握り締めた拳が震える。
「あの場にいた奴が・・」「ハンパねぇな・・」
[無視だ]
「お見舞い行ったのに唾吐いたって」
[無視しろ]
ドクン、ドクン、と心臓が鳴るたびに、頭の中で声がする。
[反応するな]
「つーかお前口聞けねーの?」「返事しろよ!」「wwww」
チョルは自分の感情が暴れ出すのを、なんとか抑え込んだ。
握った拳が解ける。
「決めた!今日俺らと一緒に来いよ」「お兄さん達と遊ぼうぜ」
「高句麗中の奴らも何人かくるぜ?嬉しいだろ?」
[反応せずに、通り過ぎろ]
しつこい彼らからの絡みに、チョルは終止符を打とうと一歩踏み出す。
「行きません」
<人違いです>
そう言ってスタスタと歩き出したチョルを、高校生達は慌てて追いかけた。
「おい!キム・チョル!」
「一緒に行こうぜ!お兄さん達と楽しいことして遊ぼうってだけだよ」
「難しく考えなくていーって」「可愛い女の子もいるぜー」
「行きません」
相変わらず心の中で [無視だ] と繰り返す。
[至極丁寧に拒絶する] と理性的に考えながら。
「お前大丈夫か?」 「行きません」
すると、ピリッと空気が変わった。
「下手に出てやってたら・・」
「おい、礼儀ってもん知らねぇのか!調子乗ってんじゃねーぞ」
「おいやめろって」
それを聞いてチョルは思う。
[相手はいつも礼儀ってもんを知らないけど] と。
「ガク・テウクぶっ飛ばしたからって、特別にでもなったつもりか何か知んねーけど」
「背がデケーだけで大して強くもなさそ・・何だぁ?」
突然立ち止まったチョルに、ぶつかりそうになった高校生はビクリとした。
先程までの彼とは、まるで空気が違っていたからだ。
「行かねぇ」
「・・は?」 「行かねぇって」
「ずっとそう言ってるだろうが。何回も」
[丁寧に言っても効かなかったら]
「耳がねぇのか?」
[ならば、キム・チョルもどうにかするしかない]
抑え込んだ感情が、理性と融合してチョルは一歩踏み出す。
チョルが”大魔王”と言われる所以を、そこで彼は発揮する。
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第八話③でした。
なんでしょうこの・・絡まれ慣れ?
きっと何度もこうやって絡まれてきたんでしょうねチョルくんは・・。
高校生三人組はリュックが赤だったりスニーカーが赤だったりが気になりました。
イキってる色なんですかね・・
第八話④に続きます