「ねぇねぇ!ファンミエ 、ファンミエ !早く!早くあれ見て!」
ユンヒの声に、ミエは彼女が指を差す方向を見た。
「あそこ、アンタの彼氏が・・!」
そこには”大魔王”こと、キム・チョルが立っていた。
そして彼の目前には、高校生が三人。
ユンヒは含み笑いをしながら、ミエの隣で肩を揺らす。
「なんかヤバめな空気じゃない?」
不穏な空気に、道ゆく人々は全員見学中だ。
すると次の瞬間、”大魔王”が高校生ににじり寄った。
「おおーっ?!殴るか殴るか?!」
「逃げた・・」
「何だあれ〜」
ザワザワッと見物人達の話し声が、チョルの耳に入った。
「うわっこっち見た」
「ファンミエ 、いこ!」
ユンヒに促されるまま、その場を後にするミエ。
彼女達の話題の中心は、今見た”大魔王”の現場のことで持ちきりだ。
「大魔王、高校生達をクモの子散らすように追い払ったね」
他の子達よりも、ユンヒは”大魔王”に否定的だ。
そんなユンヒが、ミエに改めてこう聞く。
「ったく・・。ファン・ミエ 、ソッコー席替えしたいっしょ」
「ん?」
ミエは一拍置いて、淡々とこう答えた。
「ん!ソッコーで!」
「この子ちょっと返事に詰まったんだけど」「意外にも当事者は何も思わないんかな?」
[あんまり気にしたくはないけど]
[どうしたって気になってしまうものはある]
どういうわけか猛勉強中
[例えば、模擬試験とか]
[予習とか]
習ってないとこ、一人でもそれなりに出来たじゃん?
とファン・ミエ は思っていた。
塾に通う子達を意識して、少し先までやってみたのだ。
あーちょい休憩 勉強超頑張った
ミエは伸びをしてから、いつものように息抜きのためにタンスの上に上がった。
「・・!」
ふと窓から下を見ると、そこには自転車を押すチョルの姿があった。
「また?」
「!」
するとチョルは突然足を止め、不意に視線を上げたのだった。
しかしその方向はミエが居る場所よりも、もっともっと上だ。
チョルは遙か遠くを見つめながら、ゆっくりとキャップを取った。
どこか切ないような表情で。
ミエは彼が何を見ているのか気づいて、自分もそれを見ようとする。
・・月
チョルの真上に、少し欠けた月が浮かんでいた。
ミエが居る室内からは、角度が足りないようだ。
こっからは見えないや
ただじっと月を見るチョル。
その彼をじっと見る、ミエ。
[ん・・・そして]
やがてチョルは視線を下ろし、再びキャップを被った。
そして彼は、月の下にある建物の方に視線を移した。
自転車に乗ってチョルが去っていくまで、ミエは彼のことをずっと見ていた。
・・窓の下側に隠れながら。
「・・・・」
誰もいなくなった路地を見つめながら、ミエはポツリと呟いた。
「君は一体何を考えているのカナ?」
[隣に住む大魔王とか]
どうしたって気になってしまう、
ミエにとってチョルは、そういう存在だった。
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第九話①でした。
切なげな表情で月を見上げるチョル、良いですねー!
一体何しに自転車で出かけてるのか・・まだまだ謎は深まるばかりです!
第九話②に続きます