朝、まだ早い時間帯にチョルとミエは向かい合っていた。
突然現れたチョルに、ミエは驚きを隠せない。
「え・・?」
「な・・何?てかなんでこんな朝早く来てんの?週番でもないのに・・」
もっともなツッコミをされ、幾分緊張するチョル。
どもりながら言葉を紡ぐ。
「あ・・そ・・その・・」
ミエの方にもその緊張が伝わってくる。
「え?その?・・その何?」「そ・・」「そ?」
チョルは吹っ切れたかのように顔を上げると、そのままズンズンとミエの方に向かってきた。
「それ、俺が持ってやるよ、ほら」「え?いや別にいいよ!」
「一人で持てるし!そんな重くないし!こんなのなんでもな〜い」
ミエはそう言って、小走りで走った。顔が燃えるように熱い。
しかしそうは問屋が下ろさなかった。
チョルは大魔王オーラをまといながら、ミエのことを追いかけてくる。
「いやちょっと待て。そうじゃなくて・・」
「ぎゃあああ!!」
トンッ
そしてあっという間に追いつかれた。
<かっこいい・・!>
目の前に立ちはだかるチョルに、ミエは青くなりながら聞いた。
「何?!何なん?!」
「聞いてくれ・・いや・・聞きたい・・いや・・言いたいことが」
「へ??」
「な、何?」「あ・・」
「その・・」
気まずすぎて目線をキョロキョロ動かすミエと、
ミエのことをじっと見て動かない対照的なチョル。
ミエは次第に、チョルの瞳に吸い込まれていくような感覚に陥った。
突如目の前が輝き出し、チョルの声が小さく霞んでいく・・。
「その・・お前今日・・本当に・・いや二人が仲良くなったのは知ってるけど・・」
「けどいきなり・・」
「そんな約束を・・」
チョルの瞳も鼻も口も、キラキラと輝いて見えるのだ。
まるで少女漫画の主人公になったかのように、自分の顔すらキラキラと輝き出す——・・!
はっ
突然ミエは我に返り、不思議な魔法は急に解けた。
ミエは踵を返し、その場から逃げる。
「ちょっ・・とりあえず私先にゴミを捨ててくるっ・・」
話が終わる前にミエに逃げられたチョル。
その真意がまるで分からないチョルは、だんだんイライラしてきた。
<しっかりしろファン・ミエ!>
「なんで逃げるんだ?!」
先ほどよりも大股で追いかけてくるチョルに、ミエは恐怖すら感じ始めた。
「ええ!?なに?!なんで追いかけてくるの?!」
「だからなんで逃げるのかって!」「え?!別に逃げてないし!」
「逃げてんじゃねーかよ!」
チョルはイライラの中にある、不安を口に出す。
「俺っ・・」
「俺、何か悪いことしたか?」
正面からミエのことを見つめる。
黒くて綺麗なその瞳が、ミエのことを真っ直ぐに。
ミエの心が引き留められる。
はっ・・
「あ・・あれは・・」
「いやあれは・・俺だってビックリしたんだ!」
「ビデオ観た日のっ・・」
「あの日のことは・・っ」
まさかあの”キス事件”に触れるとは思わなかったミエは、
思わずぎゃあっと声を上げた。
「はっ?!いきなり何言い出すのかと思ったら・・!
するとそこで、誰かがゴミ袋をひょいと持ち上げた。
そしてその人は、そのままそれをずるずると引き摺りながら持って行く。
ガコンッ
ゴミ捨てを終えたその人・・・ソ・ジスは、
手をパンパンとはたきながら、大きなあくびをした。
ふと視線を感じたソ・ジスが顔を上げると、そこにはポカンと口を開けたチョルとミエがいる。
「あー・・」
ソ・ジスはチョルを見て、
そしてミエの方を見てこう言った。
「俺、遅れてないよね?ゴミも捨てた。これでいいよね?」
「早く逃げなぁ」
ミエはうなづくと、言葉通り一目散に逃げ出した。
「おい!ファン・・そこで止まれって!」
再度あくびをするソ・ジスに背を向け、チョルは再びミエを追いかける。
「おいっ!」
「話聞けってば!おい!」
チョルのリュックの中で、渡そうと準備した”ファン・ミエ”の名札が揺れる。
そしてチョルは一度も応えてもらえないまま、始業時間になってしまうのだった・・・。
第八十七話③でした。
おおーーっ!ミエの恋するモード!
私はこの顔が好きだな!
これからこんな場面がたくさん見れると思うと嬉しいですね〜〜
そしてお助けソジスくん!
まだまだ何を考えているのか謎な彼ですが、これからの活躍に期待です
第八十七話④に続きます