その日の夜。
ミエは天井でぼんやりと光る星と月のシールを見ていた。
昼間スンジョン姉さんに言及されたチョルのスニーカーは、まだタンスの上。
脳裏に、五年前のキム・チョルが浮かぶ。
ミエは、キム家がこっちに引っ越して来た時に、
チョルの母親から聞いた話を思い出していた。
「チョルは体が大きいから、
「ますます下を向いて過ごしてるんじゃないかしら」
キム・チョルが置かれた状況と、彼の真意、そして今の彼自身を、ミエはぼんやりと想像してみた。
昼間聞いた、スンジョン姉さんからの話が蘇る。
「ミエ、一つ教えてあげよっか?」
「あの子の顔の傷、自分一人でただ転んで出来た傷なんだ」
「そしたら大魔王になっちゃった」
偶然と因果が重なって、現実は思いもよらぬ方向へと歩き出す。
百済中での一歩だって、”大魔王”というレッテルが勝手に歩き出した。
「おい!大魔王が転校して来たぞ!」「うおっヤバイ!」「バカでけーぞ!」
「うわ、目つきヤバイね」
たった一筋、目の下に傷があるだけで、怖がられ、見下され、誤解され——・・。
ミエが初めてその傷を近くで見たのは、あの3月1日のことだった。
擦り傷のできた頬に触ろうとしたミエの手を、
咄嗟にチョルは振り払った。
そんなキム・チョルが、耐え切った先に向かうのは——・・。
大魔王は住んでた場所に戻ろうとしている
広い広い空の下、どこまでも緑が広がっている。
ただただ無邪気でいられたあの空の下で、二人はくるくると踊っていた。
「ジャンプしながら〜横に〜ステップ〜」
「くるくる〜」
グルーッ
二人は手を繋いだまま、スピードを上げてぐるぐると回る。
「うわあああ!」
強い遠心力が二人の外側を引っ張って、やがて繋いでいた手はパッと離れた。
ドサッ
ぐわんと回る目の先にあったのは、青く抜けるような空だ。
小さく、飛行機が飛んでいた。
サンバイザーが外れた少年チョルは、眩しそうに目を細める。
「はぁ・・はぁ・・」
まだあどけない、傷もない、綺麗なものしか知らない二人。
隣に転がっているミエが言った。
「ねぇ、アンタも面白かったでしょ?!」
「は・・」
「マジで変な奴・・」
そう言って口元を綻ばせるチョルを、爽やかな風が包んだ。
寝転んだ草原は温かく、幾つもの葉が青い空に吸い込まれて行った——・・。
第二十六話③でした。
うう・・なんか切ないですね
どんどん心を閉ざして行ってしまったチョルくんの悲しさが・・。
お母さんもすごく心配してるけど、そのお母さんに心配かけさせたくなくてますます無口になってしまうチョル、
の図がめちゃせつないですね・・。
うう・・
第二十六話④に続きます