遠くで、自分を呼ぶ声がする。
「ミエ」「ミエ」
「ミエ、起きて。もう夜だよ」
あ、声が変わった。
少し高めの、なんだかイラつく声だ。
「おい、ファン・ミエ!ここはお前ん家かっつーの」
また、声が変わった。
聞き馴染みのある、低い声——・・・。
「ファン・ミエ、起きろ」
はっ
ガタッ
「もう帰る時間だぞ」
チョルがミエの首根っこを掴んでミエを起こした。
寝ぼけ眼のミエにジョンウクが説明する。
「相当疲れてたみたいだから、起こせなくて」「俺もねみーや」
そして頭が働かないそんな状態のミエを、チョルは引っ張って行った。
「ほらカバン」
「靴履いて」
ホンギュとジョンウクは同じマンションらしい。
二人を残して、チョルはミエを引っ張って行く。
「なに?」
「なんなん?」
知らない街の知らない通りを連れられ、ミエはそこまでやってきた。
バス停である。
「あのバスに乗れ」
そして半ば強引にミエはバスに押し込まれた。
ブロロ・・・
そして気がついたら、窓の外に自転車を押したチョルが見えた。
ミエが乗り込んだのを確認して、バスから背を向ける。
「学生さん、お金払って!」
運転手さんにそう言われ、ようやくミエは覚醒した。
「あ、すみません!降ります!」
「チョル・・キム・チョル!」
しかし降りたそこに、すでにチョルの姿は無い・・。
ええっ・・
「えっ・・ええっ?」
「何?いや、どこいった?!」
「チョル・・キム・チョル・・!」
そうやってあたふたするミエに、自転車の車輪が近づいてくる——・・。
「おいっ!お前何してんだよマジで!」
すごいスピードでチョルが戻ってきた。ブチ切れである。
「お前はフツーに生きらんねーのか!」
「なんでバス降りんだよ!この辺の道も知らねーくせに!家帰れんのか!?」
「え?あの・・」
「だって、言いたいことがあって・・
けど最近バタバタでつい・・昨日はほとんど徹夜だったし・・」
そのミエの答えに、チョルは抑えていた疑問をぶつけた。
「上げ底をな?入れることもあるだろーよ!」
いきなりそこ!?
チョルが突然インソールのことに言及したので、ミエはギョッとした。
しかしチョルの主張は止まらない。
「んなことのためにずっとビクビクして塾までサボって・・
俺が一体何したよ?!何言ったよ?!正面切って責めたりしたか?!」
「え?いや、その・・」
「俺があれを片して、
「何の問題もねーじゃんか!なのに何日も不自然な態度ばっか取って・・
マジで理解不能だよ・・!」
チョルの話が止まらないので、ミエはもう恥を忍んではいられなくなった。
「だからっ・・あんたがあれを拾うからっ・・・!」
「あのねぇ、あんたは背が高いから理解できないかもしれないけど!
とうとう本音をぶつけたミエ。
チョルはそこまでミエが気にしていたことに、驚きを隠せなかった。
「分かんないかなぁ?!」
「あんただって前泣いてたとき恥ずかしくて逃げたじゃんか!
ミエが突然チョルの黒歴史を口に出したので、思わず口を塞いだチョル。
けれどミエはまだまだ言いたいことがあるので、バッとその手を振り払った。
「私だってわかんないけど、そうするしかなかったの!
「なんでサッカー見たいかって?見たいからに決まってんじゃん!
「ほんとのほんとに来たかったから、
一息で言い切ったミエを前にして、チョルはポカンと口を開けている。
肩で息をするミエと、呆然とするチョルの間に、夜の沈黙が下りた。
ハッ
興奮しすぎたことに気がついたミエは、少しトーンを落として話し始める。
「だから〜〜その〜〜うちら、もう友達じゃん?
「・・ダメかな?」
ミエはそう言って、チョルの手を取って彼の顔を見上げた。
怒るのでもイラつくでもなく、ただ自分の感情を素直に伝えた。
「あ、でも私が変なことして怒らせちゃったよね!ごめんね!
「うーん・・そんなもんかな・・?」
伝わってきたその気持ちを、チョルは受け止めて妙な気持ちになった。
そしてあのことを、伝えてみようと思ったのだ。
「・・月曜」「え?」
「月曜に・・」
ミエの必死さに後押しされるように、チョルはそのことを伝えていた。
ミエは目を輝かせて、嬉しそうに頷いた——・・。
第四十八話③でした。
ホンギュとジョンウクは同じマンションなんですね
チョルも高句麗中時代は近くに住んでたのかなぁ。
そしてついにチョルミエが本音をぶつけましたね!
いいぞいいぞ〜!
第四十八話④に続きます