西郷は、二度目の遠島の、沖永良部で、変わった。
そこで、「異界の人」になった。死者の思いを、自然の営みを受け取り、自らを「古人」と分類するようになった。
世上ノ毀譽輕キコト塵二似タリ
追思ス孤島幽囚ノ楽、今人ニ在ラズ古人ニ在リ
ってな漢詩を詠んだ。ネットではいつ詠んだか不明。沖永良部時代とも、流刑時代をおって振り返ってとも。
ここに西郷の原点を置くのが、渡辺京二。私も同意する。
西郷の心は常に南島(沖永良部など)の民と、そして死者たちの側にあった
と三浦小太郎は書く。そうだろう。
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私が思うのは、カーライルのThe greatest person is the most indebted man だ。
最も偉大な人は、最も死者から恩恵を被っている者。
最も死者の思いを強く受け取った者。
最も義理を感じている者。
最も使命感を感じている者。
古今東西の偉人から、何かを「受け取った」(受け継いだと感じている)ものが、強い使命感を感じ、最も輝かしい事績を残す。
西郷も、平田靱負、赤山靱負、斉彬、東湖、月照、左内、玄瑞、龍馬あたりの死者から、多くを受け取った。The most indebted man ではなかったか。
左内からの手紙を城山で死ぬまで肌身離さず身につけていたとかのエピソードがそれを裏付ける。
西南戦争の、憐れで情けない体たらくも、もはや西郷は「古人」「異界の人」(死んだ人)になり切っていたから、と解釈できる。
渡辺京二の描く西郷論が、沖永良部に行って西郷の流刑時代を感じてきた私には、とてもしっくりきます。