『そぞろ歩き韓国』から『四季折々』に 

東京近郊を散歩した折々の写真とたまに俳句。

翻訳  朴ワンソの「裸木」76

2014-08-09 22:13:37 | 翻訳

Dsc03481

 

翻訳  朴ワンソの「裸木」76

 

 

 271頁~273

 

 オクヒドさんの返事がないと、テスまで口を挟んだ。

 

「本当だね」

 

 私は険しい峠をやっと上ったように安心する一方で、満たされた勝利感を感じた。

 

「そうすることが、先生、そうすることが…」

 

 テスは怒っているというよりはむしろ、唖然としたという方が正しいだろう。彼は徐々に驚きを鎮めて、オクヒドさんの前で控えていたタバコを比較的余裕をもって口にくわえた。

 

「キョンア、どうするの…そんな世間知らずで。先生はある程度分別のある落ち着いた年齢の方なのに、一体全体どうするつもりですか?」

 

 彼はまだ唖然としていて、その最初に唖然としたことでむしろ自分の問題を忘れていた。

 

「先生も本当に痛々しいです。今は孤児と変わりないキョンアを導くこともできないうえに、身を持ち崩そうとするんですか。その上、あの善良な奥様のことを考えても、少し分別をわきまえなければ。また子供達はどうするつもりですか?」

 

 彼は本当に呆れたように、ため息をついて言葉をとぎらせた。言葉が足りないのではなく、話せば話すほど一層呆れて、このくらいにしておこうという態度だった。

 

「恥ずかしいな」

 

「今恥ずかしいだけで済む問題ですか? 僕はこの問題を奥様と話し合っても、積極的に何らかのけりをつけてしまうつもりです。はっきりと言いますが、自分の目的のためにこうするのではありません。今卑怯にも僕の問題を奥様の助けで解決したいのではありません。まずいろいろな人の悲劇を防ぎたいです。しかも頼る所のないキョンアの悲劇を傍観できません。僕の問題はその次です」

 

 オクヒドさんはやむなく守勢に回り、私の目にも今テスのほうがはるかに堂々として見えるのはまたやむを得なかった。

 

「家内を介入させないでくれ。家内は君とキョンアが結ばれるとわかっているから」

 

「だんだん破廉恥なことを言うんですね。それで一体全体どうするんですか?」

 

 彼は一層酷い言葉をからくも耐えているように唾をぐっと飲み込んで、唇の周辺がわなわなと震えた。

 

 私は彼らの言い合いを興味深く見物していたが、自分の席のちょうど横の壁にかかっている風景画を鑑賞したりした。

 

「僕は家内と子供達を愛しているんだ」

 

 オクヒドさんは行き詰まりの路地に集まった幼弱な生き物の悲鳴のような悲惨な声を上げた。私はびくっと驚いて息を殺して彼を凝視した。

 

「どうしてこんなことをするんですか? 先生。どうか僕に先生を軽蔑させないでください。その上キョンアまで先生を軽蔑したらどうするんですか? 年相応に人が納得すること、理解することを言わなければなりませんよ」

 

「人の理解のようなものは願ってもいないよ」

 

「ふうん、孤高の芸術家と言うんですね。俗人の理解なんかは我関せず…」

 

「僕を嘲弄するのはこれぐらいにしてくれ。僕は口下手でありのまま真実を言っただけなのに」

 

「本当に多すぎますね。先生が真実だと言うと、吐き気がこみ上げてきますよ。言い訳でもいいから、少し道理に合ったことを言ってみてください」

 

「道理? 砂漠で喉が渇いた者が蜃気楼や幻覚でオアシスを見る場合も、道理があるだろうか?」

 

「何を言おうとするんですか? 今僕達はキョンアと先生と奥様が当面する、とても現実的で切迫した、少しみだらでもある話をしているんですが、出し抜けに抽象的な言葉を引っ張り出して、お茶を濁そうとしないでください」

 

「ああ、ひょっとしたら君がわかってくれるかな? 僕が生きて来た気が狂いそうな暗澹たる何年かを、あの灰色の絶望を、あのたくさんの屈辱を、家庭的ではない芸術家としてね。僕はすぐに窒息しそうだったんだ。この絶望的な灰色の生活から、ふとキョンアという豊かな色彩の蜃気楼にうっとりして魂を売ったから、僕はやはり破廉恥な痴人だろうな? この蜃気楼に溺れた少年のような憧れがそれでも不道徳なのだろうか?」

 

「先生はまるで欲から解脱した道士のようなことを言いますね」

 

「人の痛いとこを突かないでくれ。僕も人だから。それでとても悩んでキョンアを傷つけなかったのが、今の僕の唯一の慰めだから」

 

「さらっと言い訳がお上手ですね」

 

「君からこんな叱責を聞く前に、キョンアとの間が終わっていなければならないのに…実はそのつもりだったが、僕が優柔不断なせいもあるけど、今回のキョンアの不幸が、ひょっとしたらそれを口実にしてキョンアを忘れることをしばらく遅らそうとしていたかもしれないが、とにもかくにも今回キョンアの不幸で僕の決心が揺らいだんだよ。僕がキョンアの孤独を和らげている時、喜びと生き甲斐を感じていたら、僕は先に行くよ。とても長く話したようで、一人になりたい」

 

「一人で行ってしまったら私はどうしたらいいの」

 

 私は彼をもう一度座らせようと引き止めた。

 

「キョンア。キョンアは僕から離れなければならない。キョンアは私を愛しているのではない。私を通してお父さんとお兄さんの幻を見ているに過ぎないのだ。もうその幻から自由になって、ね? 勇敢に一人になるのだよ。勇敢な孤児になってくれ。キョンアならできる。自分が一人だということを恐れずに受け入れるのだ。堂々と勇敢な孤児としてすべてをもう一度始めなさい。愛も夢ももう一度始めてみなさい」

 

彼はふらっと行ってしまった。私達二人だけが残された。孤児同士のわけか。孤児は他人と付き合うことに不器用だ。私が先に立ち上がって、私達は一緒に喫茶店を出たけれど、意識的に異なる方向へ別れた。

 

 退社した私は寂しかった。少し離れた所にミスキが歩いていた。私は息せき切って後を追った。

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