『そぞろ歩き韓国』から『四季折々』に 

東京近郊を散歩した折々の写真とたまに俳句。

読書感想334  チーム・オベリベリ

2023-11-26 21:27:16 | 小説(日本)

著者   :  乃南アサ

生年   :  1960年

出身地  :  東京

出版年  :  2020年

出版社  : (株)講談社

★☆感想☆☆

本書は北海道帯広地方を開拓した晩成社の苦闘を中心人物の依田勉三の片腕であった鈴木銃太郎と渡辺勝、そして銃太郎の妹で勝の妻のカネの視点から描いたものである。依田勉三は伊豆の素封家の息子であり、実家や親族が株主となった晩成社を作り、伊豆の小作農を集めて北海道オベリベリ(帯広)の開拓に乗り出した。その片腕となったのは信州上田藩の士族出身の銃太郎と尾張徳川家出身の士族勝だ。総勢28名。銃太郎と勝、カネはクリスチャン。カネは横浜のキリスト教系の学校を卒業し母校で教師をしていた。夢を抱いて入植しながらも開墾は進まず、脱落者が出る。依田勉三は晩成社の株主にたいして利益を出さなければならないとの焦りから独断で次々事業を拡げことごとく失敗していく。10年たたずに銃太郎や勝は晩成社から離れていく。カネはアイヌの子供も含めて子供を教育していく。開拓農民と晩成社の関係が小作人と地主の関係の継続のようになっている。最後には4人ぐらいしか開拓農民が残らない。晩成社は事業として失敗したと言えるだろう。

同時期の伊達家の開拓団と比べられないほどまとまりも忍耐力もない。伊達家の開拓団は東北出身で寒さに強い。伊豆出身の開拓民とは寒さに対する耐性が違う。朝敵にされた伊達家の再興を果たそうという一致団結した意志の強さが違う。晩成社には一致団結する目標がない。開拓が容易であれば目標は明瞭になるが、困難が続いて借金地獄に陥れば目標も見果てぬ夢と化す。株式会社で何十年もの時間がかかる開拓事業は無理なのだろう。そんな感想を抱いた。


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翻訳  不便なコンビニ(4)

2023-11-22 20:46:13 | 翻訳

ーーこの翻訳は「不便なコンビニ」の一部を紹介するものです。勉強と趣味を兼ねています。営利目的はありませんーー

不便なコンビニの画像

著者 : キム・ホヨン

不便なコンビニ(キム・ホヨン短編集)

山海珍味弁当4

そして90度に体を曲げて挨拶してからコンビニに背を向けた。

 ヨム女史は退社する会社員のようにソウル駅方面に歩いていく男の後姿を眺めてからコンビニに戻ってきた。彼女が戻ってくるはシヒョンが好奇心にあふれた目でいろいろ訊ねはじめた。ヨム女史はポーチを失くしてしまったことに気づいた汽車の中の状態から今までのことを打ち明けた。そんなヨム女史の話にシヒョンは不思議さと心配が半々混じったあら、まあ、相槌をしきりに爆発させた。

 「おもしろい人ね。常識があって、ホームレスとは信じられないね。」

 「私が見るとまさにホームレスなんで・・・財布に万一なくなったものがあるかもしれません。」

 ヨム女史がポーチを開けて調べた。すべてのものがそのままだ。シヒョンに向かってこれを見ろというように笑っていたヨム女史が、ふと財布から身分証を取り出してみた。

 「違って見える?」

 「全く同じなんですが?白髪ちょっと抜いたりするかどうかで年取って見えません。」

 ヨム女史は直接住民登録証の証明写真を詳しく調べてみた。確かに証明写真と今の自分はかなり違って見えた。

 「悔しいけれどあの人の言葉が正しいね。」

 「はい?」

 「常識がある。シヒョンがホームレスの男は配慮があるって。」

 ヨム女史は、シヒョンにあの図体の大きいホームレスの男がきたら、弁当をやりなさいと言ってからアルバイト全員に伝えるように指示した。シヒョンは不満な表情をして見せながらも、コンビニのグループラインにヨム女史の指示事項を上げ始めた。ヨム女史は満足した表情でコンビニを振り返って見た。そうしてたちまち意気消沈した。ホームレスの男が弁当を食べている間に来ていったお客をほとんど覚えていなかった。本当に痴呆かもしれないという心配に唾が一層苦く感じられた。それでも善行を受けて、施した。この程度であればいい一日だと思うことにした

 「ところで釜山にいらっしゃらないのですか?」

 「まあ、うっかりして、」

 まだ一日は終わらなかった。遅くても今日の晩までには釜山に到着しなければならなかった。従姉の葬式があって、行ったついでに、数日釜山で過ごす計画だった。

 ヨム女史はポーチを鞄にきちんと入れて再びソウル駅に向かった。

 

 釜山で五日間用事を処理して戻ってきたヨム女史がコンビニに立ち寄った。彼女が戻った時にシヒョンが男女のカップルのお客の飲料の計算をしながら、目で挨拶した。そしてカップルのお客が出て行くやレジを出て彼女のほうに近づいて来た。お元気でしたかという挨拶とコンビニでの変わったことがなかったかという問答が行き来して、シヒョン待っていたようにヨム女史の横に来て言った。

 「社長さん、あの人毎日一日も欠かさず来ま

した。」

 「誰の事なの・・・あっ、ホームレスの男?」

 「はい。毎日私の時間に来て弁当一つわき目もふらず食べて行きました。」

 「別のアルバイトの時間には来なかったの?」

 「ええ、私の時間だけ来ていたんです。」

 「じゃ、あの人があなたを好きなんじゃない?」

 ヨム女史の意地悪な冗談にシヒョンがうんざりした表情をして横目でにらんだ。ヨム女史は笑いながら冗談だという言葉でシヒョンのすねた態度を受け入れた。

 「ところで社長さん、考えてみると私の時間だけ来るのが、夕方8時廃棄時間に合わせて来るんですよ。」

 「何?新しいものあげてと言ったじゃない?」

 「言いましたよ。でも新しいものを差し上げると言っても、すぐに駄目になると廃棄弁当を食べると意地を張るんです。」

 「それでも私が新しいものをあげると言ったから・・・誠意がなくなるじゃない。」

 「社長さん、それが簡単じゃないんですよ。あの人ぶつぶつ言ってカウンターの前でずっと言い張ればですよ、まず臭いです。コンビニに大きいうんこが一つ置いてあるありさまです。そのうえあの人がカウンターにいるのを見て入ってきていたお客が出て行ったこともあります。どうしますか?早くどけようとすればあの人が望むようにしてやって出て行かせる方法しかなかったんです。さらに出て行かせて換気もさせなければなりません。」

 「分かりました。」

 「私が見て決めたことなんですよ。どうして鬼神のように分かったのか、弁当廃棄時間にぴたっと合わせて来たのですよ。」

 「・・・筋が通っている。やはり。」

 「昨日はちょっと遅いのでどこか悪いのか心配したんですよ。」

 シヒョンが舌で唇を舐めながら本当に心配している姿を見せるとヨム女史は作り笑いをした。背だけ大きくがりがりに痩せた体に心までもろいシヒョンを見る度に、ヨム女史は風にぼんやり揺れる店の広告風船人形が浮かんだりした。

 「シヒョンあんたそんなに善良でどうしてどう生きるつもりなの。」

 「社長さんこそホームレスに弁当を毎日やろうとする純真な考えを持っていらっしゃるとは・・・あの人がだしぬけにホームレス仲間まで連れてきたら、どうするつもりですか。」

 シヒョンが言い返す。勿論風船人形も弾力がある。

 「そんな人ではなかったよ。」

 「まあ、どうしてそれがわかりますか?」

 「私は人を見る目がある。だからあんたも雇ったじゃないの。」

 「やはり素晴らしい。」

 存在しない末娘のようなシヒョンとのやり取りはいつも楽しい。ヨム女史は早くシヒョンが公務員試験に合格して堂々とここを離れることを望みながらも半面では、コンビニを去る彼女を考えるとむしろ名残惜しさが増した。

 ちりん、鈴の音と一緒にお客が入ってきてシヒョンが挨拶ととともにカウンターに戻って行った。ヨム女史はコンビニを振り返り、残った弁当を調べた。遅かれ早かれ弁当廃棄時間に一度来てみることにした。名前もわからないホームレスの男の名前を訊ねるために。


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四季折々1072  函館ハリストス正教会

2023-11-15 17:19:43 | まち歩き

初雪の2日前に函館ハリストス正教会と五稜郭の函館奉行所を見学。観光地としてよく整備されている。

日本で初めてのロシア正教会。中に入ることができ、日本人のイコン(聖像)画家の山下りんの絵も見られる。撮影はできないが、絵葉書が買える。

ロシア正教会の近くの坂道。アイヌ語の名前がついている珍しい通りとか。

復元された函館奉行所。

きれいな内部。

幕末の函館奉行所にゆかりの人の紹介。

「此道や行人なしに秋の暮」(芭蕉 1644年~1694年)


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四季折々1071  紅葉の大沼公園

2023-11-13 15:08:02 | まち歩き

初雪が降る二日前に道南の大沼公園へ行く。紅葉になんとか間に合った。

大沼は函館から近い景勝地として知られ、1958年に大沼国定公園の指定を受けた。

大沼と小沼、ジュンサイ沼からなる。

大沼の背景は駒ケ岳。

小さい島を橋でつないでいる。

レトロな大沼公園駅。

単線の線路。

車両一台の列車。函館駅到着。

とてもさわやかな木の香りが漂っていた大沼公園。

「かたはらに秋ぐさの花かたるらくほろびしものはなつかしきかな」

(若山牧水1885年~1928年)


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映画雑感50(2023年9月10月)

2023-11-04 18:47:02 | 映画

セイント・オブ・セカンドチャンス: ベック家の流儀 - ひとシネマセイントオブセカンドチャンス

1.薔薇とチューリップ        面白さ(5点満点):☆☆☆

制作:2019年日本           主演:2PMジュノ

コメント:現代画家が売れるので贋作を作っていた。そのもとになる絵はある温泉旅館の亡くなった主人が描いたものだった。筋立てが単純で悪意のある人間が出てこないので深みがない。

2.セイントオブセカンドチャンス:ベック家の流儀 

面白さ(5点満点):☆☆☆☆

制作:2023年米国           主演:ビル・ベック

コメント:アメリカのドキュメンタリー。MLBを経営してきたベック家の3代目ビル・ベックの話。父親がホワイトソックスを経営していて、そこで働いていたビルはディスコ嫌いの集まりを開催し花火で大惨事を引き起こした。MLBから追放されたビルは十数年後に赤字の独立リーグのチームを買い取り経営に乗り出す。自分にも選手たちにもセカンドチャンスを与える。アイディアが豊富で球場は楽しい所にするという方針が揺るがない。      

3.ソボク             面白さ(5点満点):☆☆☆

制作:2021年韓国         主演:パク・ボゴム

コメント:遺伝子組み換え技術で不死身の人間になった青年の悲劇。普通の人間にとっては豚と同じ扱いで遺伝子や臓器を利用しようとする。ぞっとする。

4.幸せな男、ペア         面白さ(5点満点):☆☆☆

制作:2018年デンマーク      主演:エスベン・スメド

コメント:原作はノーベル賞作家ヘンリク・ポントピダンの小説。自然エネルギーの利用に着目した牧師の青年と、富豪のユダヤ人の娘の恋と宗教と資金の込み入った話。

5.シークレット・ミッション      面白さ(5点満点):☆☆☆

制作:2013年韓国          主演:キム・スヒョン

コメント:北朝鮮のエリート・スパイとして教育を受けソウルに潜入したリュファンは貧民街で馬鹿を演じながら暮らしている。そこに新たに二人のスパイがやって来る。分断国家の息苦しさと北朝鮮の異常さに疲れる映画。

6.チョ・ピロ 怒りの逆襲       面白さ(5点満点):☆☆☆

制作:2018年韓国          主演:イ・ソンギュン

コメント:崖っぷちの汚職刑事と不良少女がタックを組む。


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