『そぞろ歩き韓国』から『四季折々』に 

東京近郊を散歩した折々の写真とたまに俳句。

読書感想221  いにしえの光

2017-09-25 00:19:05 | 小説(海外)

いにしえの光 (新潮クレスト・ブックス)

読書感想221  いにしえの光

著者      ジョン・バンヴィル

生年      1945年

出身地     アイルランド

出版年     2012年

邦訳出版年   2013年

邦訳出版社   (株)新潮社

訳者      村松潔

 

☆感想☆☆

この小説は初老の男が語る過去と現在が交錯する物語である。まず過去の回想から始まる。

「ビリー・グレイはわたしの親友だったが、わたしはその母親に恋をした。恋というのは強すぎる言葉かもしれないが、それに当てはまるもっと弱い言葉をわたしは知らない。すべては半世紀も前に起こったことで、そのときわたしは十五歳、ミセス・グレイは三十五だった。こんなふうに言うのは簡単である。言葉には羞恥心というものがなく、けっして驚いたりしないからだ。彼女はまだ生きているかも知れない。生きていれば、そう、八十三か四になっているはずだが、最近ではそんなに高齢だとも言えないだろう。彼女を捜そうとしたら、どうだろう? それははるかな探求の旅になるにちがいない。わたしはもう一度恋をしたい。もう一度だけ、恋に落ちたい。」

ミセス・グレイとの恋は、森の中のコッターの館と呼ばれる廃屋で逢瀬を重ね、春に始まり秋になるとともに終わった。

10年前に27歳の一人娘キャスがイタリアで自殺した。そのとき子供を身ごもっていた。キャスの死の真相も子供の父親もわからない。現在は妻のリディアと二人暮らしをしている男は、引退を考えていた俳優のアレクサンダー・クリーブ。そこに映画出演のオファーが舞い込む。

アレクサンダーの回想の中心は過去のミセス・グレイとの思い出である。ミセス・グレイの娘と再会して、記憶に誤りがあったことに気づかされる。そしてミセス・グレイの真実を知ることになる。

一人の視角だけから語られる物語なので、ちょっと単調なきらいがある。人妻が息子の親友を誘惑するという常軌を逸した話で、いくら美しく描かれても、友情は破壊されるだろうし、一つの家庭が崩壊する危機に立つほどひどい話だ。日本ではそれほど一般的なテーマにはなっていないが、ヨーロッパではこうした人妻と少年との恋というのは一つのジャンルを構成しているのかもしれない。フランスの大統領もそうだし、それをとがめる雰囲気もない。 


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読書感想220  死の殻

2017-09-21 23:41:54 | 小説(海外)

 商品の詳細

読書感想220  死の殻

著者      ニコラス・ブレイク

(本名)    セシル・ディ=ルイス

生没年     1904年~1972年

出身地     アイルランド

出版年     1936年

邦訳出版年   2001年

邦訳出版社   (株)東京創元社

☆☆感想☆

第1次世界大戦の空の英雄であるファーガス・オブライエンは、田園の中のダウアーハウスに引きこもって隠退生活をしていた。そこに殺害予告の手紙が届いた。予告状にはクリスマスの贈り物の日(12月26日)に殺すとあった。ファーガスはスコットランド・ヤードの警視、ジョン・ストレンジウェイ卿に甥の私立探偵ナイジェル・ストレンジウェイを派遣してくれるように依頼した。クリスマスにはダウアーハウスに招待された客たちとパーティーが行われるのだ。ナイジェルはクリスマス前にダウアーハウスに到着し、調査を始め、招待客を見張り始める。ダウアーハウスは2階建ての白塗りの建物でファーガスやナイジェル、招待客の寝室は2階。そして玄関から45メートルほど離れた庭の一角に軍隊用の小屋が建てられていた。その中は仕事部屋と小さい寝室。ファーガスはこの寝室でよく寝泊まりしていたという。招待客は探検家のジョージア、その兄の株式仲買人のエドワード、クラブ経営者のシリル、女優のルシーラ、オックスフォード大学の特別研究員のフィリップ。屋敷の使用人は従僕のアーサー、料理人のグラント夫人、庭師のジェレマイア。そしてダウアーハウスの持ち主のマーリンワース卿夫妻。そしてクリスマスパーティーが無事に終わり、皆が寝室に引き上げた。夜の間に雪が降り、翌朝、予告通りファーガスは死んで発見された。そして第二の殺人も。

ひと昔前の推理小説のスタイルを踏襲している。イギリスの上流階級の御屋敷での殺人事件。怪しい人々が集まっている夜・・・。最初から犯人が予測できるのが難点。


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読書感想200  〈むこう〉から来た少年

2016-07-21 21:27:12 | 小説(海外)

 

著者      タマル・ベルグマン

誕生年     1939年

出生地     イスラエルのテルアヴィヴ

出版年     1986年

邦訳出版年   1998年

出版社     未知谷

☆☆感想☆☆

第2次世界大戦が終わって、イスラエルのキブツ(集団農場)にヨーロッパのユダヤ人旅団(イギリス軍の一部として戦ったパレスチナのユダヤ人部隊)から戻ってきたミーシャは、一人の男の子を連れてきた。男の子はミーシャの甥で、難民収容所でミーシャが見つけた。母親は重体で病院で亡くなったと聞いていたけれど、男の子は信じなかった。戦争中、男の子と母親は農家の地下室に身を隠して暮らしていた。そして、彼ら2人を発見し、男の子を難民収容所に母親を病院に連れて行ったユダヤ人兵士に会って確かめなければと、その兵士からもらったダビデの星をつるしたネックレスを肌身はなさず、男の子は持ち歩いている。男の子はヘブライ語が話せずイーディシュ語の話せるミーシャから片時も離れなかった。キブツでは子供たちは子供の家で集団生活をしている。男の子も同じ年の小学校2年生の子供たちと一緒の部屋で寝食を共にするようになった。ミーシャの息子ラミはお父さんを独占したいのに、いつもいとこのアヴレメレがそばを離れないので、アヴレメレを目の敵にしている。アヴレメレに同情しているのは同じ年のリナ。リナもヨーロッパでお父さんが戦死したと言われても、帰ってくると信じている。

それから3年、イスラエルの建国とアラブとの戦争が始まって、キブツの子供たちも巻き込まれていく。

想像を絶する経験をしてきたアヴレメレに対してキブツの人々は優しいが、幼い子供には理解を超えるアヴレメレの奇行や行動がある。だからこそ反目や喧嘩も起きる。そしてイスラエル人としてのアヴレメレのアイディンティの確立が、アラブとの戦争、イスラエルの建国の過程と軌を一にしている。ヨーロッパで排除される対象だった自分たちが、アラブという他者を排除する側に立つことでアイディンティを確立していくのかと、今日に続く中東の不幸に思いを致さざるをえない。

子供の視点から描かれているので、牧歌的なキブツの生活が魅力的だ。 

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読書感想194  ヤンケレの長い旅

2016-03-19 14:40:14 | 小説(海外)

読書感想194  ヤンケレの長い旅

著者      タマル・ベルグマン

生年      1939年

出身地     イスラエルのテレアビブ

受賞歴     1988年に本書でゼエヴ賞受賞(教育省)

出版年     1987年

邦訳出版年   1998年

邦訳出版社   未知谷

☆☆感想☆☆

 これはナチス・ドイツから逃れるために、故郷のポーランドを離れ、ソ連に逃げたユダヤ人の少年が、さらにナチス・ドイツのソ連への侵攻から中央アジアに逃れる途中で、家族と生き別れ、浮浪児として第二次世界大戦が終わるまで生き抜く物語。少年はいくつもの別れを経験している。1939年8月に独ソ不可侵条約が結ばれ、その1か月後にドイツ軍がポーランドに侵攻。一方ソ連もポーランドの東側を分割占領する。少年ヤンケレは小学校に入ったばかりの6歳。ドイツ軍がユダヤ人の居住地区に壁を作り隔離しようとする。これを見た両親はヤンケレと妹を連れて徒歩でロシアに向かう。その時に歩けない祖母や祖父を残していく。そして、ドイツ軍から逃れて走る深い森の中で、多くの避難民が家族ばらばらになる。ヤンケレの友達も行方知れずになる。一家はウラル山脈の鉱山の町に送られ両親は重労働に従事する。しかしポーランド市民権を放棄してソ連の市民権を取得した一家は暖かいクリミアへ移され、お父さんももともとの木工職人の仕事につく。クリミアでヤンケレは小学校にも通いロシア語が上手になる。しかし1941年6月にナチス・ドイツがソ連に侵攻し独ソ戦が始まる。お父さんは軍隊に志願し、お母さんと妹とヤンケレは中央アジアのタシケントに向かう汽車に乗る。汽車の中はジフテリアが蔓延し、その死体を運び出し埋めるために停車する。ヤンケレの友達が亡くなり、その母が埋葬に手間取り汽車に乗り遅れる。そしてヤンケレもドイツ軍の空襲で汽車から避難している間に乗り遅れて、母と妹とはぐれてしまう。イディッシュ語のヤンケレという名前を捨て、ロシア語のヤーシャとなって母の待つタシケントへ向かおうとするが、お金もなく、生きるすべも知らないヤーシャにヤーシャから3回も物を盗んだ浮浪児が指南してくれる。市場での食べ物の盗み方とか無賃乗車のやり方とか中が燃えている石炭殻の中で寝ることとか。しかしその浮浪児もつるんでいては食べていけないと去る。そしてタシケントについてもお母さんは見つからず、ヤーシャはウズベキスタンの町を放浪する。そしてそこかしこに戦争孤児になり逃げてきたたくさんの浮浪児がいる。ウズベキスタンの山の人々は、浮浪児たちに優しい。みな笑顔で挨拶してくれ、お茶やピタ(パンのようなもの)をくれたり、泥棒はわしらの手で殺すと言いながら、果物や野菜はたくさんあるからとって食べていいよと言ってくれる。鍛冶屋は虱のわいた頭を丸坊主にしてくれ、いつでもおいでと言ってくれる。それに対し、駅長も警察も浮浪児を施設に送ることしか考えない。食料不足で施設の子どもたちは死んでいくという話を聞いたヤーシャは、警察の目から逃れて自力でお母さんを探そうとする。しかし運悪く警察に捕まり、施設に入れられたときも、食料がなくなると孤児たちが逃げるように施設の人が仕向けてくれる。食料係はユダヤ人の小母さんだったので、ユダヤ人の子どもにだけ特別にごちそうを出してくれる。どこの施設でも身内、同じ民族の子どもを優遇するのだという話を聞く。お母さんと再会したときに、4歳年下の妹のほうが背が高い。ほとんど成長していなかったのだ。

ウズベキスタンの人々や権力と対極にある貧しい人々が優しい。このヤーシャもひどい境遇のなかでも優しい。それがこの本の魅力になっている。しかし、最後にパレスチナへ行こうというお父さんの手紙が、新たな次元の違う地獄への招待状のようで心は晴れない。

著者の友人の実際の体験をもとにした物語だそうだ。

風景も人々も素敵なウズベキスタンに行ってみたくなる本だ。 

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読書感想190  スパイは泳ぎつづける

2015-12-31 18:24:35 | 小説(海外)

読書感想191  スパイは泳ぎつづける

著者     ヨアキム・サンデル

出身地    スウェーデン、ストックホルム

生年     1975年

出版年    2013年

邦訳出版年  2014年

邦訳出版社  (株)早川書房

 

☆☆感想☆☆

 1980年にシリアのダマスカスで一つのテロ事件が起きる。特殊任務のために妻子を捨てるつもりだった男は、自分の乗るはずだった車に乗った妻が爆死するのを目撃する。男は生まれて間もない娘と残される。赤ん坊は母親の祖国であるスウェーデン大使館の前に捨てられ、僻地のサンクト・アンナ諸島で祖父母に育てられる。

それから33年後、スウェーデンのウプサラ大学の博士課程で学んでいるマフムード・シャモシュは、兵役時代の旧友からのメールを受け取る。

お前を見張っている者がいるから気をつけろ。ブリュッセルで会おう。

そしてブリュッセルで再開した旧友はマフムードの目の前で殺され、マフムードも何者かに追われる羽目に陥る。

マフムードはブリュッセルの欧州議会で働いている、元彼女のクララに助けを求める。

舞台がスウェーデン、ベルギー、フランスと駆け巡る。ヨーロッパが一つの国になっていると実感する。登場人物も中東のアラブ系の移民2世、フランス人、スウェーデン人、アメリカ人と多国籍。語り手が3人いて交互に体験している状況を語る。マフムード、クララ、クララの父にあたる男だ。男の独白はほとんどアメリカでの事件のない日々を語っている。マフムードとクララは命がけの逃走劇の中で事件の真相を探らなければならない。緊迫した状況の語り部だ。

最初と33年後のテロの関係とその犯人が意外だし、肩透かしを食らう感じだ。 

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