『そぞろ歩き韓国』から『四季折々』に 

東京近郊を散歩した折々の写真とたまに俳句。

翻訳  不便なコンビニ (1)

2023-09-22 22:14:50 | 翻訳

김호연キム・ホヨン氏

 ーーこの翻訳は「不便なコンビニ」の一部を紹介するものです。勉強と趣味を兼ねています。営利目的はありませんーー

不便なコンビニ(キムホヨン短編集

著者 キム・ホヨン

経歴 1974年ソウル生まれ。

高麗大学人文学部国語文学科卒業。

「二重スパイ」が映画化され、シナリオライターに、

「実験人間地帯」で富川漫画ストリー公募展で大賞受賞、

2013年「望遠洞ブラザース」で2013年第9回世界文学賞優秀賞を受賞して小説家になる。

 

山海珍味弁当 1

 ヨム・ヨンスク女史が鞄の中にポーチがないことに気づいた時、列車はピョンテク付近を通っていた。問題はどこでそれを失くしてしまったのか、全く記憶にないことだった。ポーチを失ったことより記憶力の衰えが彼女を一層不安にさせた。いつのまにか冷や汗を流しながら彼女は自分の行動を必死に思い浮かべた。

 ソウル駅でKTXの切符を買った時までは明らかにポーチを持っていた。だから、ポーチに入っている財布からカードを取り出して切符を買うことができたはず。そして待合室のテレビの前に座って24時間ニュースチャンネルを見ながら30分余り列車を待った。乗車してから鞄を抱いたまましばらく眠り、目覚めて見るとすべてがそのままだった。ちょっと前に、携帯電話を取り出そうと鞄を開けた時、中にあるはずのポーチがないことにびっくり仰天したのだった。財布、通帳、手帳など自分の一番大事なものが入ったポーチがないことに彼女は息が詰まるほどだった。

ヨム女史は自分が乗っている列車の速力に遅れずに頭脳を稼働しなければならなかった。車窓の外に速く過ぎていく風景を逆に回すかのように記憶を巻き戻した。独り言に加えて足を震わせながら没頭している彼女の行動に、隣の席の中年男が空咳をした。

 彼女の没頭を妨害したのは隣の席の男の空咳ではなく、鞄の中で鳴った携帯電話の着信音楽だった。アバの歌で曲名が浮かばなかった。「チキティタ」だったか「ダンシングクィーン」だったか・・・。あらまあズンヒや、お祖母さんが本当に痴呆になりそうだ。 

 ヨム女史は震える手で鞄の中の携帯電話を取り出して曲名が「サンキューフォーザミュージック」ということを思い出した。同時に見慣れない02番号で電話が来ていることを確かめた。彼女は深呼吸をしてから電話を受けた。

「もしもし?」

 相手は返事をしなかった。ただ周辺の騒音から公共の場所であることが推測できた。

「どなたですか?」

「ヨム・・・・ヨンスク・・・ですか?」

 人の声だというにはあまりに粗雑ではっきりしなかった。まるで冬眠を終えた熊が洞窟から出てきて初めて口を開けたら出るような声だった。

「はい、そうです。」

「財布・・・です。」

「そうです。拾ってくださった方ですか。どこでしょうか?」

「・・・ソウル。」

「ソウルのどこですか?もしかしてソウル駅じゃないですか?」

「そうです。ソウル・・・駅。」

 彼女は携帯電話の横で安堵の息をしてから声の調子を整えた。

「財布を見つけてくださってありがとうございます。でも私、今列車のなかにいましてね。次の駅で下りてすぐに戻るつもりですから、少し預かってくださるか、どこか預けてくれませんか?お礼は私が行ったらすぐさしあげます。」

「ここにいますよ。・・・行く所も・・・ないです。」

「そうです? わかりました。ソウル駅のどこで会えますか?」

「く、空港鉄道行く道・・・GSコンビニ・・・です。」

「ありがとうございます。速く行きます。」

「ゆっくり・・・来てください。」

「わかりました。ありがとうございます。」

 電話を終えるや気分が変だった。携帯電話の向こう側から聞こえる動物の音声のような訥弁の口調は彼がホームレスであることを確信させた。何よりも「行く所も・・・ないです」という言葉の意味で見ても、公衆電話が明らかな02番号を見ても、彼は明らかに携帯電話のないホームレスだった。ヨム女史はしばらく緊張せざるを得なかった。財布を渡すということも、何か不安で別のことを要求するだろうかと恐れが広がった。

 しかし、電話までして財布をおとなしく渡すと好意を示す男が、あえて迷惑な振舞をするとは思わなかった。謝礼で財布の中の現金4万ウォンを渡したら、充分なようだった。ちょうど天安に停車するという案内放送があった。ヨム女史は携帯電話を鞄に入れて席から立った。

 戻る汽車が水原を過ぎる頃、再び携帯電話が鳴った。「サンキューフォザミュージック」の歌詞を痴呆予防するように繰り返して、液晶を確認するとさっきと同じ番号だった。ヨム女史は不安な気分を抑えて電話を受けた。

「・・・あの。」

 男の寒さですくんだような声が聞こえてきた。ヨム女史は言い訳する学生を相手する時のように声に力を込めた。

「お話しください。」

「あの・・・先生、お腹がすいたのです・・・。」

「それで?」

「コンビニ・・・弁当・・・だ、だめですか?」

 その瞬間ヨム女史の胸が熱くなった。『先生』という呼び方と『弁当』という単語が彼女を一層寛大にさせることが感じられた。

「そうしてください。弁当を買ってさしあげますね。喉が渇くはずですから飲み物も一緒に買ってさしあげます。」

「あ、ありがとうございます。」

 電話を終えていくらもたたずに携帯電話に決済の文字が浮かんだ。これはあたかもコンビニのレジの前で電話したのでないかと思うほど、短い時間だった。とても空腹なのを見て彼の正体はソウル駅の盟主、ハトの友、ホームレスであることは確実だった。詳しく調べてみると、「GSパクチャンホ ツーマッチ おかずの多い弁当4900ウォン」と浮かんでいた。「飲み物は買わず食べ物を見ると恥を知っているようだ。」

ヨム女史はひょっとしたら誰かを呼ばなければならないのかと悩む気持ちをしまって、彼を二人きりで会うことにした。

70で呆けの心配な症状があっても、相変わらず彼女は自分の威厳を信じた。教壇で定年を迎える時まで一度も卑屈に振舞わず、堂々とすべての生徒の相手をしていた自分を信じることにした。


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読書感想331  英国のスパイ

2023-09-21 21:22:32 | 小説(海外)



読書感想331  英国のスパイ

著者       : ダニエル・シルヴァ

生年       : 1960年

出身地      : アメリカ、ミシガン州、カリフォルニア州

出版年      : 2015年

邦訳出版年    : 2016年

邦訳出版社    : (株)ハーパーコリンズ・ジャパン

訳者       : 山本やよい

☆☆☆感想☆

カリブ海でイギリスの元皇太子妃が乗るヨットのオーロラ号が爆破され、元皇太子妃は亡くなった。爆破される直前にボートに乗ってヨットから離れた男は、出航する間際にやとわれたシェフだった。男は1か月ほど前にカリブ海の島に来てそこの小さいレストランで働き始めたばかりだった。腕のいい男の評判はすぐに島中に広がった。そこで予定していたシェフが行方不明になったオーロラ号は男を雇ったのだ。元皇太子妃の暗殺した男を探すためにイギリスの情報機関M16の長官グレアム・シーモアはイスラエルの諜報機関「オフィス」の工作員ガブリエル・アロンに白羽の矢をたてた。アロンは美術修復師としての顔ももつ。シーモアはアロンを助けるパートナーとして英国特殊空挺部隊(SAS)の元隊員で今はコルシカ島のマフィアの部下になっているクリストファー・ケラーをつけることにする。ケラーは味方からの誤爆を受けてSASを止めた経歴が持っている。元皇太子妃を爆破した男はエイモン・クイン。次々と爆弾テロをくりかえすプロの殺し屋。

ロンドン、イタリア、コルシカ島、北アイルランド、ポルトガル、ドイツなどヨーロッパ中が舞台になってアロンとケラーはクインと爆弾テロをおっていく。

いろいろな紛争も登場人物の過去、現在の経歴として出てくるので、単純にスパイ小説としてスリルを楽しむというより、気が重くなる展開だった。


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読書感想330  ブラック&ホワイト

2023-09-15 20:40:26 | 小説(海外)

ジョージア州地図 - 旅行のとも、ZenTech

読書感想330  ブラック&ホワイト

著者      : カリン・スローター

生年      : 1971年

出身地     : アメリカ、ジョージア州

分野      : 推理小説

出版年     : 2013年

邦訳出版年   : 2019年

邦訳出版社   : (株)ハーパーコリンズ・ジャパン

訳者      : 鈴木美朋

☆☆☆感想☆☆

ジョージア州を舞台にした代表的なシリーズが二つある。ジョージア州の架空の郡グラント郡を舞台にしたグラント郡シリーズとトレント(アトランタ)シリーズ。前者は医師のサラ・リントンを主人公とするもので、後者はジョージア州捜査局特別捜査官ウィル・トレントを主人公とするものである。本作はアトランタ・シリーズに属している。しかし、サラ・リントンもウィル・トレントの恋人として出てきて両シリーズは舞台も登場人物も重なり合っている。

本書ではメイコン警察の刑事レナ・アダムスとその夫の白バイ警官のジャレド・ロングが自宅で襲われることから始まる。ウィル・トレントは麻薬のボスを突き止める潜入捜査でメイコンへ行っていてその事件に遭遇。サラの前夫は捜査中にパートナーのレナを助けるために命を落としている。ジャレドはその前夫の一人息子。サラのレナに向ける眼差しは厳しい。ウィルは潜入捜査のためにニセの経歴を作って前科もちの男になり、犯罪者たちに信用させ、麻薬のボスにたどりつこうとする。

やり手のレナは犯罪者たちの標的になる恐れはあるが、誰が何の目的かがわからない。地元のメイコン警察とジョージア州捜査局との捜査権を巡る縄張り争いもある。

ここでは女性の活躍が目につく。レナは勿論優秀な刑事だが、ウィルのパートナー、フェイス・ミッチェル、ウィルの上司のアマンダ・ワグナー、メイコン警察の警視デニーズ・ブランソンといった警察関係にサラや看護婦のカイラ・マーティンなど。

白人や黒人、ヒスパニックが入り混じっているのだろうが、何人か刑事が黒人とわかる描写があるが、ウィルもサラもレナも白人なのかよくわからない。わかれば一層面白くなっただろう。


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欧米・アジア・日本のドラマ備忘録32(2023年8月)

2023-09-10 22:34:09 | 映画

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①僕たちの復讐ノート        面白さ(5点満点): ☆☆☆

制作国・年 : 韓国 2017年   主演 : キム・ヒャンギ チャ・ウヌ

コメント : 高校生の恋や友情のドラマ。復讐アプリに名前を書くと復讐してくれる。チャ・ウヌが実名でアイドルとして出てきて、幼馴染の主人公に失恋する役。もったいない使い方をしている。主人公は可愛いけれど美人ではない。そういうブス好みの男の子の役をチャ・ウヌは「私のIDはカンナム美人」「女神降臨」と続けている。役柄が固定している。

②キング・ザ・ランド       面白さ(5点満点) : ☆☆☆

制作国・年 : 韓国 2023年  主演 : イ・ジュンホ イム・ユナ

コメント : ホテルの社長と従業員の恋。定番どおり、対立から恋に、また金持ちと庶民の恋。美男美女だから目の保養にはなる。

③Top management        面白さ(5点満点) : ☆☆☆

制作国・年 : 韓国 2015年   主演 :ソ・ウンス チャ・ウヌ

コメント : つぶれかけたアイドル・グループを女性マネージャーが新人をスカウトして立て直す。女性マネージャーをめぐるグループ内の恋の駆け引きもある。チャ・ウヌはここでも失恋する役。

④優雅な一族            面白さ(5点満点) : ☆☆☆

制作国・年 : 韓国 2019年   主演 : イム・スヒャン イ・チャンウ

コメント : 財閥の当主である祖父の財産をめぐって父親と娘が争う。娘は前妻の母親の死の真相をつきとめようとし、後妻はその2人の息子のために後継者から娘を排除しようとする。娘は町のしがない弁護士を雇い、父親の右腕の顧問弁護士に対抗していく。ありえない、どろどろの一族の関係、これも韓国ドラマの定番。

⑤昼と夜              面白さ(5点満点) : ☆☆☆

制作国・年 : 韓国 2020年  主演 : ナムグン・ミン

コメント : 28年前に孤島で人体実験をされていた子供たち。大部分は島で死んだが逃れて生き延びた数名の子供がいた。不思議な事件が連続している。最後はゾンビのような人間が出てきて気持ちが悪くなる。

⑥上流社会            面白さ(5点満点) : ☆☆☆☆

制作国・年 :韓国 2015年   主演 : ソンジュン  パク・ヒョンシク

コメント : 2組の階級の違う男女の恋愛と、財閥家の後継者争いが絡む。財閥の息子と高卒のアルバイトの恋は、丁々発止の会話のやりとりが面白く女の子の頭の良さがよくわかり、財閥の息子が惹かれる気持ちに説得力を与えている。


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四季折々1069  水の苑地

2023-09-07 22:57:18 | まち歩き

津久井湖城山公園水の苑地はまだ暑い。酔芙蓉がなかなか満開にならない。蕾はたくさんついているが咲き始めが遅い。

午前中なので白い。午後になるとピンクに変わる。

ピンクはアングロリア、水色はルリマツリ。

津久井湖を作る前にこのあたりは津久井渓谷でそこにあった桜を移植したもの。幹の周りが353cmという巨木になっている。

百日草もまだ持っている。

ミニ噴水が涼を運ぶ?

「物ひとつ鳥の落とすや夏木立」(馬光1685年~1751年)

暦では立秋が過ぎていて秋になっているが、まだまだ夏の暑さが続いている。


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