『そぞろ歩き韓国』から『四季折々』に 

東京近郊を散歩した折々の写真とたまに俳句。

映画雑感44 2022年8月~10月

2022-10-28 11:26:42 | 映画

あの頃輝いていたけれど

あの頃輝いていたけれど

①モンタナの目撃者      

 面白さ:☆☆☆☆

 制作・年:アメリカ・2021年  主演:アンジェリーナ・ジョリー

 コメント:ギャングに追われ父を殺された少年が森林管理官の女性に助けられる。モンタナの森林火災がすさ

      まじい。

②サムライマラソン

 面白さ:☆☆☆

 制作・年:日本・2019年   主演:佐藤健

 コメント:幕末の安中藩が家中でマラソン大会を開催。幕府の潜入している御庭番が謀反という誤った情報を送

      ってしまう。どたばた。

③るろうに剣心

 面白さ:☆☆☆

 制作・年:日本・2012年   主演:佐藤健

 コメント:第1作。幕末の京都で佐幕派の要人を暗殺して人斬り抜刀斎と恐れられた緋村剣心が、刀を切れない逆

      刃刀に変えて人を切らない誓いを守っていた明治8年、東京で抜刀斎の名を語る人斬りが横行し始め、

      幕末に戦っていた新選組の斎藤一が警視庁の藤田五郎として剣心に協力する。

④るろうに剣心 京都大火編 

 面白さ:☆☆☆

 制作・年:日本・2014年  主演:佐藤健

 コメント:明治政府の依頼を受け日本転覆をはかる一味を探るべく京都へ向かう。途中で幕府のお庭番と遭遇す

      る。新時代に適応する意思のない時代錯誤な人々が出合う。

⑤るろうに剣心 伝説の最期編

 面白さ:☆☆☆ 

 制作・年:日本・2014年  主演:佐藤健

 コメント:京都大火編の続編。日本転覆を図る一味に敗れ海に落ちた剣心を救ったのはかつての師匠。その師匠

      から奥義を伝授され、また長州藩の人斬りになるまでの剣心の過去が明かされる。

⑥るろうに剣心 最終章 beginning

 面白さ:☆☆☆

   制作・年:日本・2021年  主演:佐藤健

 コメント:上海マフィアの雪代縁が剣心の敵として現れる。

⑦るろうに剣心  最終章 final

 面白さ:☆☆☆

 制作・年:日本・2021年  主演:佐藤健

 コメント:剣心の妻、雪代巴とのいきさつと死の真相がわかる。しかしロマンスと呼べる代物ではない。

      全作通じてアクションがすさまじく完成度が高いが、ストーリーは荒唐無稽。1作だけで充分。

⑧スティル・ウォーター

 面白さ:☆☆☆

 制作・年:アメリカ・2022年     主演:マット・デモン

 コメント:マルセイユの刑務所に拘禁されている娘を救うべく父親がフランスへ行く。

⑨岳

 面白さ:☆☆☆☆

 制作・年:日本・2011年   主演:小栗旬

 コメント: 山岳救助隊の物語。大自然の脅威の中、救助を断念せざるを得ない判断が求められる。

⑩あの頃輝いていたけれど

 面白さ:☆☆☆☆

 制作・年:イギリス・2022年    主演:エド・スクライン

 コメント:20年前アイドルだったが、今は売れない元スターが自閉症の少年ドラマーと出会う。音楽の可能性に

      気づく。

⑪弱虫ペダル

 面白さ:☆☆☆ 

 制作・年:日本・2021年

 コメント:山の上の高校に楽々とママチャリで上る新入生に目をつけた高校の自転車競技部の部員。もともとア

      ニメオタクだった新入生が自転車競技に目覚めるのがいまいち説得力がない。もともとは漫画。

⑫ロイヤルセブンティーン

 面白さ:☆☆☆☆

 制作・年:アメリカ・2003年      主演:アマンダ・バインズ   コリン・ファース

 コメント: ニューヨークの母子家庭で育った少女が父親に会いたくてロンドンに行く。父は貴族で政治家。

       父親の家族は良い人で、父親の婚約者やその娘が最悪。典型的な継母物語。アメリカ娘によって保

       守的なイギリスの上流社会が変わるというのはアメリカ人の夢なのかもしれない。

⑬予告犯

 面白さ:☆☆☆

 制作・年:日本・2015年      主演:生田斗真

 コメント:インターネットを使った予告犯罪。わけありの俳優たちが面白い。

⑭クローブヒッチ・キラー

 面白さ:☆☆☆

 制作・年:・アメリカ・2021年

 コメント:13名の連続殺人事件が未解決のまま10年。少年は父の車から写真を見つけて父親を疑うという最悪の

      サスペンス。心も痛むし恐ろしい映画。

⑮銀の匙

 面白さ:☆☆☆☆

 制作・年:日本・2014年       主演:中島健人

 コメント:札幌の進学校から十勝の農業高校に来た少年が、成長する姿を描いている。「銀の匙」の絵は農業高

      校に掲げられていて、食べていけるという意味だとか。北海道の酪農地帯やそこで生きる人々がさわ

      やか。


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読書感想315  ロードサイド・クロス

2022-10-24 13:14:32 | 小説(海外)

著者    :  ジェフリー・ディーヴァー

生年    :  1950年

出身地   :  USA イリノイ州

出版年   :  2009年

邦訳出版年 :  2010年

邦訳出版社 :  (株)文藝春秋

訳者    :  池田真紀子

★☆感想☆☆

リンカーン・ライム・シリーズの第7作「ウォッチメーカー」で初めて登場したキネシクスの専門家、キャサリン・ダンス捜査官の新シリーズの第2作目。第1作「スリーピング・ドール」事件から数週間たって、カリフォルニア州のモンテレー半島に新たな恐怖を巻き起こす事件が起きる。キネシクスとはボディランゲージや言葉の選び方、声の抑揚の分析を通じて観察対象者の嘘を見分ける技術。モンテレー半島の海岸線を走る道沿いに、50センチほどの交通事故の死者を追悼する十字架が突き立てられ、事故の日付が書かれた厚紙が括り付けられ、薔薇の花束が置かれていた。その日に交通事故はなかったが、女子高校生が満潮時に車の中に拘禁されあやうく死ぬという殺人未遂事件が発生した。さらに同じ高校の女子学生も死の予告の十字架を突き立てられ、あやうく死ぬところだった。少し前に、少女たちと同じ高校の生徒が海岸線で交通事故を起こした。4人の同乗者のうち、2人の女子高校生が死亡、運転していた男子高校生と助手席の女子高校生が軽傷で助かった。その事件について人気ブロガーが行政側の道路整備の問題点を自分のブログで指摘した。運転していた少年の名前も高校の名前も出していないのに、ブログのコメント爛は炎上し名前は特定され、その少年は袋叩きに遭った。殺人未遂事件の被害者の少女2人はその炎上コメントの急先鋒だった。キャサリンは人気ブロガーにコメントを出す人のアドレスの提供を求めるが、拒否される。少年も姿を消し、捜査は行き詰る。一方、私生活でもキャサリンはコーナーに追い詰められている。看護師の母親が「スリーピング・ドール」で重度の火傷を負って「死なせてほしい」と願った刑事を安楽死させた容疑で逮捕されたのだ。

 今回はネットいじめの加害者と被害者の問題を殺人に絡めて提起している。未亡人のキャサリンにロマンスの兆しがあり、次回に期待を持たせている。モンテレー半島はスタインベックの小説の舞台だそうで風光明媚な所だと言う。


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翻訳  ノ・チャンソンとエバン(5)

2022-10-13 23:56:43 | 翻訳

★趣味の韓国語サークルで取り上げた小説を翻訳したものです。営利目的はありません★ 

著者 : キム・エラン

本文: 

2日が過ぎた。チャンソンは異常な気配に目覚めた。とろんとした目で探ってみると、エバンが自分の頬を舐めていた。2つの足をチャンソンの胸元にあげて、まるで別れの挨拶でもするように、チャンソンの顔に自分の頭をこすりつけていた。エバンがしっぽを揺らして腹を見せる時と少し違う感じだった。チャンソンは奇妙なことに涙が出そうだった。最近眠り続けているだけなのに、突然どこにそんな力が出たのか。あるいは奇跡的に状態が少しよくなったのだろうか。このように少しずつ良くなったなら、以前に再び戻って行けないだろうか。胸の中で無駄な希望がコップに入った水のように大きく波打った。エバンはこれ以上動く力がないのか、チャンソンの脇に頭を深々と埋めた。チャンソンが暗闇の中で眠っているかを問う口ぶりで、「そうか、そうか」と囁いた。

 次の日、明るくなるや否やチャンソンは急いで市内へ行った。今日最初に直接病院に立ち寄って安楽死同意書を書いて予約までしてくるつもりだった。そうすれば、これ以上動揺せずに、お金を崩して使うことも食い止めることができると思った。動物病院に到着する前に、チャンソンは大型文具店の前を通り過ぎて歩みを止めた。まだらに色々な種類の携帯電話ケースがぶら下がっているショーケースに「トニンメカド」のキャラクターが描かれた商品を発見したからだった。何気なく値段を調べてみると、3万4千ウォンもした。その瞬間、チャンソンの頭の中に以前なかった疑いが生じた。ひょっとすると、安楽死に対して自分が初めから間違っていたのではないかという。エバンの死を手伝うことよりもエバンが生きている間、少しでも意味ある時間を送ることが「僕たち2人にとって」良いことではないかと思った。

 うちへ戻るチャンソンの表情は心配で一杯だった。いつの間にかチャンソンの手には6万7千ウォンしか残っていなかった。すべてのことが正しく必要な過程のように思われたが奇妙だった。チャンソンは重い足取りで、今日に限って特別に長く続いているような畔道を堂々と大手を振って歩いた。手の中に残ったお金が、9万いくらかで11万いくらかだった時と違っていたが、6万7千ウォンは10万ウォンからあまりに遠く見えた。再び10万ウォンを補おうとすれば、チラシ2千枚を配らなければならなかった。しかし、2万枚だと、意欲がわかなかった。チャンソンは何故か家にまっすぐに入って行く勇気が出ず、休憩所に立ち寄った。そして藤の木のベンチに座って新たに買ったスマートフォンケースを弄りまわしながら、時間をつぶした。チャンソンは夕方になって立ち上がった。そして休憩所食品コーナーに立ち寄ってエバンにやるさつま揚げを買った。

「もう一つ買って僕も食べようか?」

 油の臭いを嗅ぐとひもじさが押し寄せてきたけれど我慢した。チャンソンは本能的にこんな時に小さい禁欲と犠牲を耐え忍べば、気分が良くなるはずだと言うことがわかった。チャンソンはさつま揚げが入った黒いビニール袋を持ってとぼとぼ30分歩いて家に着いた。すべての灯が消えて家の中がいつもよりさらに暗く見えた。チャンソンが門を開けて庭に入ってわざと大声を出した。

「エバン!お兄ちゃんがおやつを買ってきた。こっちにおいで。お前が好きなさつま揚げだよ。」

 チャンソンが履物を脱いで板の間に上がった。

「エバン!これをちょっと見て。ここまで来る間僕もものすごく食べたかったけど、お前にやろうとぐっと我慢した。我慢するのにどんなに苦労したのかわからないかい?」

 エバンが喜んだ姿を想像しながらチャンソンが小さい部屋の戸をぱあっと開けた。しかしそこにエバンはいなかった。

「エバン!」

 チャンソンが声を高めた。家の周りが今更のようにひやっとして暗く静かだった。チャンソンは自分がいつも生活をしていた世界に違和感を感じた。

「エバン!お前どこにいるの?」

 湿気一杯の夕方の野原にチャンソンの声がかすかにこだました。

「前もよく見えないはずなのに、足も痛い奴がどこへ行ったのだろう?」

 エバンに何かあったのではないだろうか不安だった。こんなことをすると思ったら、ひもででもくくっておけば良かったと。エバンの体が弱くなったのであまりに油断したようだった。

「遠くは行けなかっただろう。」

 チャンソンが携帯電話の懐中電灯機能を点けたまま、一歩一歩捜索範囲を広げた。エバンは小さい犬だから足元を良く探さなければならなかった。

「エバン!いたずらをするなよ。」

 たんぼに座り込んでその場で泣きたい気持ちを抑えながらチャンソンが歩みを速めた。ひとまずエバンを探すことが優先だった。

 チャンソンが遠くに灯がともる高速道路休憩所を眺めた。自分もなぜここまで行ったのかわからなかった。ひょっとしたらその時間に行ける所がそこしかなく、そうしたのかわからなかった。あるいはぞくっと怖気づいて祖母に会いたかったのかも。チャンソンが息を整えて最大限理性的に状況を判断しようと努めた。もしエバンが自分の力でどこかへ行ったのなら、前に一度でも行った所だろうと思った。そして、そこはチャンソンも知っている可能性が高かった。チャンソンはエバンが今思ったより近い所にいるかもしれないと期待した。それもとても近くに。チャンソンはひとまずフードコーナーに立ち寄って祖母にひょっとしたらエバンがここに来なかったかと尋ねる計画だった。しかし、ガソリンスタンドの前を通り過ぎる時、不意に不吉な感じに包まれてしまった。瞬間的に顔に血が集まって呼吸が苦しくなった。そこのガソリンスタンドのゴミ箱の横に目に馴染んだ袋が一つ見えたからだ。中に何かが入っているのか袋の下がでこぼこ膨らんで一部はひもで固くくくられていた。

「いや。そんなはずがない。」

 チャンソンがどきどきしながら、その前を見えないふりをして通り過ぎた。袋の下から真っ赤な血が徐々に漏れ出ていた。チャンソンは前に同じものを見たことがあった。高速道路の路肩に倒れた仲間を何故か野犬の群れが見守っていた姿だった。父が運転席でヘッドライトを何回も点滅させても、死んだ仲間を囲んだままこちらをにらんでいた野犬たちの顔が浮かんだ。

「でも、うちの犬は捨て犬ではないから・・・・」

 チャンソンが食堂の方へ体をねじった。しかし、その時何名かの先輩がざわざわ話す声が聞こえた。胸の片側にガソリンスタンドのロゴが印刷されたチョッキを着た先輩達だった。

「畜生、違うんだよ。」

「えっ、まさか?」

「本当だってば。その犬がわざと飛び込んだみたいだったんだ。車が通り過ぎるのを待っていたというように。」

 チャンソンはかなり長い間その袋の前で立っていた。何回も「ひもをほどこうか?」という衝動が起こったけれど、そうしなかった。今、袋の下へ前よりもたくさんの血が漏れていた。触ればまだ温かいような血だった。ほどなくチャンソンが体を転じて歩み始めた。袋に入った物が何かとうとう確認せず、その時まで右手にぎゅっと握っていた携帯電話を持ったままそこを離れた。

 周囲は一層暗くなった。チャンソンがこちこちに強張って固い体を引きずって、高速道路の横の舗装されていない道に出て歩いた。何台も車がうるさい警笛を鳴らしながらチャンソンの横をピュッと通り過ぎて行った。チャンソンがうつむいて自分の掌を見下ろした。携帯電話の懐中電灯機能を長く使いすぎたせいで、機器から熱が出た。掌にたまった汗を見ると、ふとエバンに始めて会った日が浮かんだ。掌の上にきらめいていた氷と柔らかく冷たいようで生ぬるくくすぐったかった何かかが。しかし、今は再び触ることのできない何かが胸を締め付けた。しかし、その時それを何と呼ばなければならないかわからず、チャンソンは暗闇の中で路肩をひたすら歩いた。大型貨物トラック数台がうるさい警笛を鳴らしながらチャンソンの横を荒々しく通り過ぎて行った。頭の中で、だしぬけに「許し」という言葉が浮かんだけれど口の外に出さなかった。チャンソンが立っている所が道ではない非常に危険な状況でもあるように、どこからかがちゃがちゃひびが入った音が聞こえてきた。

                     ー おわり ー


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翻訳  ノ・チャンソンとエバン(4)

2022-10-04 00:29:15 | 翻訳

★趣味の韓国語サークルで取り上げた小説の翻訳で、営利目的はありません★

著者 : キム・エラン

 

 目標金額を集めた日、チャンソンは板の間に腹這いになって簡単な算数をした。一週間チラシを5千枚以上配り、11万4千ウォンを稼いだ。生れて初めて触ってみるお金だった。チャンソンは具体的な労働の対価に触れて思いがけなく誇りとやり甲斐を感じた。当初の目的と違って予想できなかった達成感にちらっと大人になった気分だった。最後の日、あまりにあきあきして、チラシ40枚ほどをよその家の屋上にこっそり捨ててきてしまったが、それを除いた、本当に罪を問わないお金だった。チャンソンは1万ウォン札11枚と千ウォン札4枚をきちんと集めて角をそろえてから財布に入れた。そうして大きい部屋に行って祖母の身分証をこっそり仕舞った。安楽死同意書を作成する時に大人の身分証が必要かもしれないという考えからだった。

 

 次の日チャンソンはいつもより早く起きて動物病院へ行くしたくをした。祖母は既に休憩所へ出勤していなかった。庭の一隅にある水道に洗面器を置いて、チャンソンはエバンを洗ってやった。耳に水が入って行かないように両耳をしっかり掴んで、体に石鹸の泡をつけて隅々まで磨いた。その沐浴がどんな沐浴か知っているのか知らないのか、エバンは幼いチャンソンにおとなしく体をゆだねていた。

「涼しい?エバン?」

血管が透けて見えてかすかに桃色が現れているエバンの耳を用心深くさすりながらチャンソンが尋ねた。

「僕はお前のこんな所も洗ってやらなければならないかよくわからない。それでお医者さんにちょっとお目玉を食らった。洗っている間とてもイライラしただろう?」

 

 チャンソンは箪笥から一番真面目そうに見える服を取り出して着た。なぜそうなのかわからないけれど、そうしなければならないと思った。チャンソンが落ち着いた表情で黒い半袖シャツのボタンをかけた。そうして財布の中の現金をもう一度確認して板の間に腰を下ろして運動靴を履いた。行く途中で一群の先輩達にでもあったらどうしよう、つまらない心配をした。チャンソンが、沐浴後毛羽だってカサカサになったエバンを可愛いと思って眺めた。そしてエバンの首筋を1回撫でた後、物置から手押し車を取り出した。前に祖母がパーキングエリアで使用したアイスボックスキャリーだった。立ち込めたほこりがついたのを、ゴムホースでざあっと水をかけて洗い流し、ふたをはずして中にタオルを敷いた。そしてそこに氷の代わりにエバンを入れた。エバンの横に小さい水の入れ物とバケツを入れることも忘れなかった。最後だと思うと、気分がとても変だったが、最後でも助けることができて幸せだった。今日一日、重要なことを行うという事実に、そしてすべてのことを一人で準備したという思いにチャンソンは敬虔な緊張感を感じた。

 

 真実の愛動物病院はアパート団地内の便宜施設が密集した商業ビルの1階にあった。さっぱりしたクリーム色の外壁に一枚板の硝子がさわやかに付設された新築の病院だった。商号が場をしめた黄色い看板には、黒い犬の足の裏の塗装がされていて、全体的に優しい印象を放っていた。硝子の壁についた「殺人ダニ集中予防期間」だったか「子犬を探します」という文句が記された印刷物を見て、チャンソンはなぜかわからない安心と信頼を感じた。

「着いた、エバン。」

 病院に入る前にチャンソンが後ろを振り向いた。腰をかがめたエバンと目を合わせたかったが、心が動揺するようでぎゅっと我慢した。片手に手押し車の取手を握ったチャンソンが反対側の肩に力を入れて病院の硝子のドアを押した。その瞬間ある力がチャンソ                                                                                                                                                                                                               ンを外へぱっと押し出した。

「あれ?」

 玄関の上の金属のベルががちゃんと音を出したが、硝子のドアは大きく動かなかった。チャンソンが面食らった表情で一歩後ろに退いた。そしてその時に硝子のドアに貼ってあるお知らせを発見することができた。

「喪中、週末まで休みます。」

 チャンソンは喪中という単語の意味を正確にわからなかったが、それが死と関連する言葉だということが直感的にわかった。チャンソンはおかしいことに安堵した。

 

 チャンソンは商業街の周囲を徘徊してから近隣のアパート団地の遊び場へ行った。前にチラシを配って何回も来た所だった。チャンソンは藤の木の陰に座ってしばらく休んだ。朝から一日中緊張したせいで疲労がたまっていた。アイスボックスの中でエバンが目覚めて首を回した。そうして、心配そうに見下ろしているチャンソンの顔をじろっと見た。数人の少年が大声でしゃべりながらチャンソンの横を通り過ぎた。互いにスマートフォンを覗きながら自分達の間で何かおせっかいしたりふざけたりして笑った。チャンソンが委縮した表情でその子供達を眺めた。そして自分のふっくらしたズボンのポケットを一度触ってから立ち上がった。

 家に帰る途中、チャンソンはバス停の近くの携帯電話代理店の前を通り過ぎた。チャンソンはバスを待ちながらショーケースの中に展示された最新型スマートフォンを見た。ピカピカ黒い宝石のように輝いている、すべすべした機器の上にチャンソンのぼうっとした顔が映った。チャンソンはそれが心からきれいだと思った。

「これを見て、エバン。素敵だ。」

 チャンソンがショーケースから視線を転じてアイスボックスの中のエバンを眺めた。エバンはボールのように体を丸くしてその中で自分の頭を埋めて死んだように眠っていた。チャンソンはエバンを一度撫でてからズボンのポケットから旧型の携帯電話を取り出した。そして隅にわずかにひびが入った液晶に自分の顔を映してみてから、重要な事実を一つ悟った。

「そうしたらお金が余るな。」

 エバンのために使うお金を除外しても1万4千ウォンが余るという事実に、チャンソンの胸が躍り始めた。しばらくして家に行くバスが到着したけれど、チャンソンはバスに乗る代わりに携帯電話代理店の硝子のドアを開けて入った。

 

 始めは集積回路チップの価格でも尋ねるつもりだった。そうこうするうちに、ある瞬間から店員の前に座らされ、店員が差し出す書類にきちんと名前を記して、祖母の身分証を渡してしまった。チャンソンは自分の旧型の携帯電話に集積回路チップを入れる店員を見つめてから、代理店の硝子のドアの前に止めてある手押し車を振り返って見た。アイスボックスの中で眠っているエバンは見えなかったけれど、エバンがそこにいるという事実は明らかだった。

「集積回路チップの値段1万ウォンに充電器5千ウォン。もともと開通費3万ウォンも受け取らなければならないのですが、今はイベント期間ですから無料でしてあげましょう。」

 チャンソンが自分の携帯電話を返してもらって、財布から1万5千ウォンを取り出して店員に渡した。エバンの病院費から千ウォンを崩すのが少しむしゃくしゃしたけれど、動物病院が閉まっている間、小遣いを節約したら十分に補うことができると思った。バス停の前でチャンソンは携帯電話のボタンを数限りなく押した。ひびが入った液晶の上で明るい光が入ってくると、もう自分の顔が映らなかった。チャンソンは携帯電話のカメラボタンを押して足元に寝ているエバンの写真を始めて撮った。「カチャ」音と一緒にチャンソンの背後で冷蔵トラック1台が矢のように通り過ぎた。

 

 エバンは水一口飲まず、静かに寝ていた。普通の時のようにむずかったり、うんうんうめいたりせず、自分の足を舐めもしなかった。チャンソンは一日中携帯電話を触ってから充電している間だけ時々エバンをうかがった。

「そうだ、おとなしい、僕のエバン。」

 チャンソンは眠ったエバンの背をなでてから、携帯電話をもう一度握っていろいろなアプリをダウンロードして時間をつぶした。

「電話料金がたくさんかかったら、全部お前の小遣いから出すつもりだから、わかったね。」

 祖母のこけおどしも必要なかった。その晩、チャンソンは布団の中に横たわって、ずっと以前父がそうしたように携帯電話の光で犬の影法師をつくった。

「エバン、これをみて。僕がお前の友達を呼んで来た。」

 チャンソンが叫んだが、エバンは微動だにしなかった。

「エバン、これを見ろ、僕がお父ちゃんより上手だよ。本物の犬だ、本物の犬。お前の友達だから。」

 エバンは相変わらず何の反応もなかった。

 

 2日後、昼食時間が終わる頃、チャンソンは休憩所に立ち寄った。夏休み期間と週末の連休が重なって、休憩所の中は駐車空間がないほど混みあっていた。祖母はくたびれた顔でパーティーうどんを盛ったお盆を持ってチャンソンに近づいて来た。

「昼食に違うものを外で食べるから、お金をくれといっていたね。」

「あ、それ、もういいの、お祖母ちゃん。」

「そうかい、どうして?」

「もう受け取ったもので解決した。」

「だから何が解決したんだい?」

「あるよ、そんなことが。早くうどんもちょうだい。」

 チャンソンがずるずるうどんを飲み干して、厨房の中で皿洗いをしている祖母の後姿を見守った。祖母が腰を曲げ伸ばす度にズボンの腰の間にチャンソンが昨夜貼ってやった白い治療薬が見えて隠れした。チャンソンは食器の返納箱にお盆を持っていってから、ガソリンスタンドの横の藤の木のベンチに行きスマートフォンを持って遊んだ。自分がスマートフォンに触っていることを、多くの人々が見てくれることを望んだが、人々はチャンソンに神経を使わなかった。トイレに行き、禁煙標示板の前で煙草を吸い、飲料水を持ったまま相手と短い対話を交わしたり、皆自分のことに没頭していた。週末の人出に混じってチャンソンはスマートフォンで「トニングメカド」を見続けた。そうして、ふと自分がこの3日間誰とも通話したことがないという事実に気づいた。チャンソンが知っている番号も、チャンソンの番号を知っている人もいなかった。教員室に電話をかけてクラスの友達の連絡先を聞いてみようか、しばらく悩んだけれど、先生に通話しなければならないので気が進まなかった。

「お父ちゃんが生きていればお父ちゃんにかけたのに。」

 長い思案の果てに、チャンソンが財布から動物病院の名刺を取り出した。喪中で週末まで休むという言葉を思い出したが、チャンソンはいたずらに1回病院の電話番号を押してみた。

「ひょっとするとドアを開けたかもしれない。誰かが電話を受ければ何と言うだろうか?」

 携帯電話の向こうで慣れたつなぎ音が聞こえた。チャンソンは間違えたこともないのに、胸が躍った。何回か長いつなぎ音が続いたけれど、電話を受ける人はいなかった。チャンソンは動物病院の方で電話を受けなかったという事実にもう一度奇妙な安堵を感じた。チャンソンが財布の中に名刺をしまって残ったお金を数えてみた。10万3千ウォン。エバンを病院に連れて行くのに不足しない金額だった。今日だけ過ごせば、そうすれば必ず・・・・確かめて立ち上がってチャンソンの膝の上の携帯電話がアスファルトの歩道の上にぽきっと落ちた。チャンソンが、真っ青になって慌てて携帯電話を拾い上げた。そして、ひびが入った左の角から確認した。チャンソンが蜘蛛の巣模様のひびに指を当てて、ゆっくりこすった。とてもゆがんだガラスの粉の粒子が指の先にくっついた。チャンソンの瞳が激しく揺れた。

 

 家へ行く途中、チャンソンは片手を長く伸ばして携帯電話を左右にねじって日の光に照らして見た。黒い液晶の表面に届いた光が水に浮かんだ油のようにすべすべしてゆらゆら揺れていた。それと共にチャンソンの胸にも小さな満足感が生まれた。液晶に保護フィルムを付けると、何故か器械も新品のように見えて、角の傷もまだ目につかないようだった。自然と少し失望した気分になったけれど「仕方がない」状況だったと弁明した。チャンソンは「見物してやってみろという気持ち」で休憩所の電子用品売り場に立ち寄った。アクセサリー用品の陳列台の前でしばらく止まった。そしてほこり一つなく透明な保護フィルムに触って自分もわからずに「3日間・・・」とつぶやいた。だから3日程度は・・・・エバンが待ってくれないかと。今までよく耐えてくれたように。これ以上でもなく少なくでもなくぴったり3日だけ我慢してくれればよくないだろうか。その時持っているお金とこれから集めるお金を計算する間、チャンソンはいつの間にかカウンターレジの前に立っていた。気が付くと財布の中のお金がいつの間にか9万5千ウォンに減っていた。

 エバンがもの悲しく泣き始めたのはその晩だった。1度もそんなことがなかったので異常だった。エバンは空を見て朝鮮狼のように長い鳴き声を吐き出した。眠っていてぎょっと驚いたチャンソンが起き上がってエバンを両手で包んだ。

「どうしたの、エバン?どうしたんだい?」

 エバンが抵抗して床に頭をこね回した。詳しく見ると、目の周りに目やにがべっとりつき、口からも激しい悪臭が出ていた。その瞬間チャンソンが口と鼻を手で塞いで首をよけた。

「ふう、この犬畜生!」

 大きい部屋から祖母が喚きたてるように叫んだ。

「どうしてしょっちゅう縁起でもなく泣くんだい?ああ、鳥肌が立つ。たった今捨てに行きなさい。」

 祖母の機嫌に逆らわないようにチャンソンがエバンの代わりに声を落とした。

「エバン、御免。3日だけ我慢しよう。ちょっきり3日だけ。その時はお兄ちゃんが必ず・・・・おとなしくね?少しだけ我慢、すこしだけ・・・・」


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