山形県手をつなぐ育成会 日々徒然なること

育成会の事、関係ないことも勝手につぶやきます

◆Rさん

2013年03月01日 | 自立支援
先月、仙台市で行われた「全日本手をつなぐ育成会」の本人向けワークショップ
「みんなで知る・見るプログラム ファシリテーター養成講座」
に参加してくれたRさんと電話で話す機会がありました
全日本育成会の事務局からちょっと頼まれたことを確認する必要があったのです。

ワークショップの申込書にご本人の携帯番号は書いてあったものの
見たこともない電話番号から着信があっても不審に思ってでないよな・・・
と思いつつ、電話してみました

やっぱり出てくれませんでした。
当たり前だよねと思いつつ、連絡は取らなくてはならないので
Rさんが利用している村山障害者就業・生活支援センター「ジョブサポートぱる」の
二関所長に連絡を入れて、ご本人に連絡を取りたい旨をお伝えしました。
返事は明日になるかもしれないけど・・・
とのことでしたが連絡と確認をしてくださることになりました。

しばらくしたら事務局の電話が鳴り
「あの・・・電話くれましたか?仕事が終わって、ケータイを見たら着信があったので・・・」
か細く、不安げな声が・・・
なんと、Rさんが直接電話をくれたのでした。

電話をしたのが私だと判ると、Rさんも安心したようで
「わ~なんだ、そうだったんですか
とテンションもあげてくれました。

全日本からの確認事項はもちろん話しましたが、
Rさんはご自分の事もいろいろ私に教えてくれました。

毎日、午前中は一般企業で働いている事
午後からは、ヘルパーさんに来てもらって、
お料理や、縫物を習っていること
お料理は、肉じゃがや筑前煮もできるようになったこと。

金銭の管理も、社会福祉協議会にしてもらっている。
とのことですので、日常生活自立支援事業を利用しているのでしょう。

あとは、友達はどんどん結婚し始めているので、
いずれは自分も結婚したいと思っている事など
本当にいろいろ教えてくれました

彼女は実年齢よりもずっと若く見えるので、そのことを伝えると
そうなんですぅ、お酒を買いに行くと身分証明書を確認されるんですよ
と言ってました。

「いいじゃないの、若く見える方がRさん可愛いよ」と言ったら
え~そうですか、古澤さんも美人ですよ~」と言ってくれました。
お世辞もちゃんと使えるRさんです

「何かあった時に、また電話しても良いですか?」と言ってくれたRさんに
「もちろん良いですよ」とお答えしました。

何を伝えたいのかあやふやになってきましたが
仕事の他に、いろいろなサービスを利用してお料理や縫物も身につけ
(ご本人はお母さんに負担が掛からないように自立したい、と言ってました)
将来の自立にむけて、充実した日々を過ごしながら
前向きに頑張っているRさんがとっても頼もしく思えました(F)


意思決定の支援への配慮は知的障がい者権利獲得の一里塚

2012年12月05日 | 自立支援
 知的障害者の「意思決定支援」の考え方や課題について整理した、いい論文を見つけた。
 
 その論文は、柴田洋弥著「知的障害者等の意思決定支援について」(2012-07-16)である。
 その論稿を、分割してずっと紹介してきた。

 その第26回目。これが最終回となる。
 「意思決定支援」は知的障がい者等の権利を重んずる重要な観点である。
 関係者がその重要性を理解し、適切な支援の実現に取り組む必要がある。
 以下に、まとめとしてその経緯を述べている。
          
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【引用始め】

柴田洋弥著「知的障害者等の意思決定支援について」(2012-07-16) 
「発達障害研究」第34巻3号掲載予定http://homepage2.nifty.com/hiroya/isiketteisien.html より

Ⅴ.終わりに

 戦前、「妻」は準禁治産者と同様の行為無能力者とされ、
 さらに女性は選挙権も与えられなかったが、
 今ではその事実がほとんど忘れられている。
 現在は成年被後見人・被保佐人とされた知的障害者等の行為能力が制限され、
 さらに成年被後見人には選挙権が与えられていないが、
 それが昔話となる日の来ることを信じたい。

 障害者権利条約12条は、
 全ての知的障害者等が「権利の主体」となるために、
 「意思決定支援」を国に求めている。
 今回の法改正で、
 障害者基本法や障害者総合支援法・知的障害者福祉法に
 「意思決定の支援への配慮」が明記された。
 これは障害福祉分野で同条約12条を具体化するための極めて重要な出発点であり、
 知的障害者等の権利獲得の一里塚でもある。

【引用終わり】

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 知的障がい者等に対する「意思決定支援」が日常的に当たり前になる社会が求められている。
 それが「共生社会」の実現とも言える。
 知的障がい者等の権利を尊重する世間にするため、今まで以上に育成会の力を発揮する必要がある。
 本人を含めて、家族・関係者が主体的に結集する仕組みである。
 行政任せ、他人任せ、役員任せでなんとかなる時代でない。
 大声出して、要求だけつきつけて、自分たちは責任を負わないでは、世間を変えることができない。
 育成会に集う一人一人が今できる「意思決定支援」のあり方を追求する。
 それが本人の権利擁護・拡大につながる。
 (ケー)

意思決定支援に関する法の課題

2012年12月04日 | 自立支援
 知的障害者の「意思決定支援」の考え方や課題について整理した、いい論文を見つけた。
 
 その論文は、柴田洋弥著「知的障害者等の意思決定支援について」(2012-07-16)である。
 その論稿を、分割してずっと紹介している。

 その第25回目。
 知的障がい者の「意思決定支援」にかかわる課題は山積している。
 知的障害の定義も法律上未整備である。
 こうした課題について整理し、その解決に向けての取り組みが必要である。
 そうした内容が、次に述べられている。
          
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【引用始め】

柴田洋弥著「知的障害者等の意思決定支援について」(2012-07-16) 
「発達障害研究」第34巻3号掲載予定http://homepage2.nifty.com/hiroya/isiketteisien.html より

Ⅳ.意思決定支援についての課題

6.意思決定支援についての諸課題

 ◯ 我が国の法律では「知的障害」の法的定義がない。
 国際的には、IQに基づくIDC-10と、
 発症年齢や生活適応を加味したAAIDDの定義があるが、
 それらの動向を見守りつつ、
 知的障害者福祉法において「知的障害」を定義する必要がある。
 また「療育手帳」制度については、
 手帳制度全般の在り方を含めて検討すべきである。

 ◯ 現在「知的障害者福祉法」において
 「措置」による福祉サービス利用の制度が残されているが、
 「意思決定支援」に留意しつつ、その運用について検討すべきである。

 ◯ 改正障害者基本法には29条「司法手続きにおける配慮等」が新たに加えられた。
 刑事事件・民事事件等の対象や当事者等となった場合の知的障害者等に対する「意思決定支援」も重要である。

 ◯ 以上思いつくままに列挙したが、
 この他にも、児童期の家庭生活や学校教育、
 男女交際や結婚・子育て、
 医療受診、
 精神保健福祉法の保護者制度と入院時同意など、
 意思決定支援に関して検討すべき課題は多く、今後の議論に期待したい。

【引用終わり】

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 知的障がい者に対して、適切な「意思決定支援」がなされるよう法律を整備する必要がある。
 そうしたことによって社会的にも「意思決定支援」に関する理解が進み、機運も高まる。
 知的障がい者の権利擁護を一歩も二歩も進めることになる。
 「意思決定支援」は内容的にも多岐にわたる。
 あらゆる場面で必要である。
 育成会運動にとって、「意思決定支援」推進は大きな課題である。
 (ケー)

本人の意思にそった個別支援計画の作成

2012年12月02日 | 自立支援
 知的障害者の「意思決定支援」の考え方や課題について整理した、いい論文を見つけた。
 
 その論文は、柴田洋弥著「知的障害者等の意思決定支援について」(2012-07-16)である。
 その論稿を、分割してずっと紹介している。

 その第24回目。
 本人の意思にそった個別支援計画作成に関する留意点が、次に述べられている。
          
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【引用始め】

柴田洋弥著「知的障害者等の意思決定支援について」(2012-07-16) 
「発達障害研究」第34巻3号掲載予定http://homepage2.nifty.com/hiroya/isiketteisien.html より

Ⅳ.意思決定支援についての課題

6.意思決定支援についての諸課題

 ◯ 相談支援におけるサービス利用計画、
 障害福祉サービス事業所とのサービス利用契約、
 個別支援計画などについて、
 可能な限り本人が理解できるように、
 わかりやすい表現や説明を行い、
 時には映像や見学、
 体験などの工夫をすること、
 本人についての記録を本人が閲覧できるようにすることなど、
 支援をする側に様々な努力が求められる。

 ◯ 個別支援計画の作成に当たっては、
 本人の意思・希望にできる限り沿うように、
 事業所の創意工夫が求められる。
 特に就労継続支援事業B型については、
 事業所に「労働指揮命令権」があるように誤解されているが、
 最低賃金を保障しておらず「労働」ではないことに留意する必要がある。

 ◯ 相談支援の体系を、
 ① 相談支援専門員によるサービス利用計画作成、
 ② その下でのサービス管理責任者による個別支援計画の作成、
 ③ その下での支援職員による直接支援、
 という様なピラミッド構造とする誤解がある。
 知的障害者等の意思決定を支援するのならば、
 どの段階においても、
 本人と共に、
 本人が信頼し日常的に本人をよく知っている直接支援職員や
 家族・後見人等を交えた会議をもって進めることが重要である。
 また個別支援計画の作成については、
 直接に意思決定支援を担う支援職員が携わる仕組みとすべきである。

【引用終わり】

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 本人にとって意義のある個別支援計画の作成が望まれる。
 計画は本人中心の支援が実現するためのワンステップにしか過ぎない。
 計画だけが一人歩きして、それが目的化してしまったらなんのための計画かわからない。
 立派な計画をペーパーとして保管しても、それがそのとおりであるかは疑わしい。
 計画に対する見直しがあってこそ、より良い支援となる。
 実際の支援がどうなされているか正確な評価も重要だ。
 (ケー)

知的障害者等への意思決定の担い手

2012年12月01日 | 自立支援
 知的障害者の「意思決定支援」の考え方や課題について整理した、いい論文を見つけた。
 
 その論文は、柴田洋弥著「知的障害者等の意思決定支援について」(2012-07-16)である。
 その論稿を、分割してずっと紹介している。

 その第23回目。
 知的障がい者等に「意思決定支援」の概念を導入することは画期的なことである。
 そして、支援の担い手の普及・拡大が成功のカギを握る。
 その支援者のあり方が次に記されている。
          
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【引用始め】

柴田洋弥著「知的障害者等の意思決定支援について」(2012-07-16) 
「発達障害研究」第34巻3号掲載予定http://homepage2.nifty.com/hiroya/isiketteisien.html より

Ⅳ.意思決定支援についての課題

6.意思決定支援についての諸課題

 ◯ 知的障害者等への「意思決定支援」の概念の導入は、
 保護の客体から権利の主体への価値観の根本的な変革であり、
 種々にわたる広範囲の課題がある。

 ◯ 知的障害者等への意思決定の担い手は多様である。
 ① 最も身近な家族、
 ② 訪問系事業・グループホーム・日中活動支援・就労支援・施設入所支援等の日常生活における直接支援職員、
 ③ 相談支援職員や権利擁護職員・成年後見人等、
 ④ その他様々な支援者があるが、特に
 ⑤ ピアサポートと
 ⑥ 市民サポートは今後強化する必要のある担い手である。

 ◯ ピアサポートとは、
 同じ障害のある人相互による支援であり、
 障害者権利条約26条でもリハビリテーションでの活用が特記されている。
 知的障害者に必要なのは青年期のハビリテーション(自己確立支援)であるが、
 同様にピアサポートの活用が重要である。
 また知的障害者の当事者活動(本人活動)を支援すること、
 育成会組織等への参加を進めることも重要である。

 ◯ 市民サポートとは、
 知的障害者等に1対1でボランティア的に関わる市民の活動であり、
 友人として話し相手をしたり、
 時には一緒に遊びに行く。
 スウェーデンではコンタクトパーソンという。
 日本でも横浜市が「後見的支援制度」として「安心サポーター」を推進している。
 ビフレンダー(to be a friendからの造語)など類似の取組が徐々に増えているが、
 積極的・組織的な推進が望まれる。

【引用終わり】

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 知的障がい者等に対する「意思決定支援」の担い手は、直接関係する支援者(家族・事業所職員)だけでなく、地域住民を含んだサポート体制を整備することが重要である。
 それには育成会の役割が大きい。
 ピアサポート、市民サポートを今後いかに取り入れるか。
 それを推進していく方策をどうしていくか。
 全日本育成会組織としての取り組みが始まっている。
 ただ、会員一人一人のそれに関する理解向上こそ重要な要素となる。
 (ケー)

知的障害者の会議参加・本人活動参加等への支援

2012年11月30日 | 自立支援
 知的障害者の「意思決定支援」の考え方や課題について整理した、いい論文を見つけた。
 
 その論文は、柴田洋弥著「知的障害者等の意思決定支援について」(2012-07-16)である。
 その論稿を、分割してずっと紹介している。

 その第22回目。
 知的障がい者が公的な会議に参加できるようになっているという話しも聞くようになった。
 しかし、そうした機会が設けられても企画者側の配慮が不十分で、もう二度と参加したくないと本人が言ったという例もある。
 知的障がいある本人が委員として会議に名をつられても、形式的な参加に終始している。
 そうした課題解決の留意点が、次に述べられている。
          
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【引用始め】

柴田洋弥著「知的障害者等の意思決定支援について」(2012-07-16) 
「発達障害研究」第34巻3号掲載予定http://homepage2.nifty.com/hiroya/isiketteisien.html より

Ⅳ.意思決定支援についての課題

5.知的障害者の会議参加・本人活動参加等への支援

 国の「政策委員会」や各種会議への知的障害者の参加を進めるべきである。
 参加する時の支援者の役割は、

 ① 会議前の事前準備への支援、

 ② 会議中のわからないときの支援、

 ③ 会議後のまとめの支援などである。

 あくまでも本人の決定を尊重して支援者の価値観を押し付けないこと、
 本人が支援者を選べることが重要である。
 障害者総合支援法で加えられた障害者等の活動支援事業によって、
 このような支援者を養成・派遣できるとよい。

 知的障害者が加わる会議においては、
 参加者全員が、ゆっくり話す、
 わかりやすい言葉や文章・資料を使う、
 本人がわかるまで待つなどの合理的配慮が必要である。
 また、参加する比較的軽度の知的障害者が知的障害者全般を理解して発言することは一般的には難しい。
 支援する立場の職員や家族の参加も必要である。

【引用終わり】

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 知的障がいのある本人が、公的な会議に委員として選ばれて、意見を述べることが求められたら、企画者・本人・支援者がよく連携して事前準備に努める必要がある。
 企画者には本人にもわかりやすい配布資料を作成してもらう。
 本人と支援者は、資料に基づいて事前に質問や意見をまとめておく。
 会議に際しては、資料にそって進行してもらい、話題が資料からはずれないようにお願いする。
 会議参加者にも知的障がいのある本人がいることを理解してもらい、わかりやすい発言をしてもらう。
 こうした会議がうまくいくようにするには、企画者・本人・支援者・会議参加者全てが、本人参加の意義を納得して、それに配慮したきめ細かな対応がぜひ必要となる。
 このことはまだまだ経験不足で、十分な対応がなされていない。
 今後多くの事例を積み上げ、本人も、参加した人たちも、意義ある会議が実現できるようにすべきである。
 本人たちが直接意見を公式の場で述べることの意味は大きい。
 「私たちぬきで私たちのことを決めないで」という趣旨にそって、意見を反映することにもなる。
 (ケー)

成年被後見人の選挙権裁判

2012年11月29日 | 自立支援
 知的障害者の「意思決定支援」の考え方や課題について整理した、いい論文を見つけた。
 
 その論文は、柴田洋弥著「知的障害者等の意思決定支援について」(2012-07-16)である。
 その論稿を、分割してずっと紹介している。

 その第21回目。
 成年被後見人には選挙権・被選挙権が認められていない。
 選挙権回復を求めて裁判所に提訴している。
 そのことが、次に述べられている。
          
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【引用始め】

柴田洋弥著「知的障害者等の意思決定支援について」(2012-07-16) 
「発達障害研究」第34巻3号掲載予定http://homepage2.nifty.com/hiroya/isiketteisien.html より

Ⅳ.意思決定支援についての課題

4.成年被後見人の選挙権裁判

 わが国の公職選挙法では、
 成年被後見人の選挙権・被選挙権が認めてられていない。
 2011年2月に、
 成年被後見人となったために選挙権を剥奪された知的障害のある女性が、
 選挙権回復を求めて東京地方裁判所に提訴した。
 その後、埼玉・札幌・京都の各地方裁判所にも、
 同様の提訴が行われた。
 これは知的障害者の権利に関わる重要な裁判である。

【引用終わり】

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 以下は、後見選挙権訴訟弁護団の見解である。
全日本手をつなぐ育成会が、組織ぐるみで運動している内容でもある。

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【引用始め】

 全日本手をつなぐ育成会権利擁護委員会委員・弁護士 関哉直人

 「公職選挙法改正を求めて・・・後見選挙権訴訟弁護団から」(全日本手をつなぐ育成会刊「手をつなぐ」2011年4月号,No.662号,p.19)

 選挙権をめぐる裁判としては、
 在外邦人の選挙権を制限する法律を違憲とした2005年の最高裁判決が、
 「選挙権の制限は原則許されず、やむを得ない事由がなければ制限できない」としています。
 後見制度と選挙権を結びつける公職選挙法には「やむを得ない事由」は見出せません。 財産管理を主たる目的とする後見制度では、
 選挙の能力は想定されていません。
 また、後見制度は権利擁護のための制度であり、
 その利用が権利侵害を犯すこと自体が制度の欠陥といえます。
 そもそも選挙権は、能力によって制限されるものでしょうか。
 国民一人ひとりに等しく与えられたもので、
 行使するかどうかの自由が与えられているものではないでしょうか。
 むしろ障害があるから制限するのではなく、
 一人でも選挙権を行使できるような、
 合理的配慮の保障を考えるべきではないでしょうか。
 裁判では、育成会の運動と並行して、
 成年被後見人の選挙権を制限する法律の改正を求めていきます。

【引用終わり】
 
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 さらに、育成会の運動に弾みをつけるためにも、一致団結した取り組みをしていかなければならない。
 以下のような育成会としての願いを社会に訴えることである。

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【引用始め】

 「成年被後見人の選挙権剥奪と育成会運動」
 全日本手をつなぐ育成会刊「手をつなぐ」2011年12月号、p.25

 成年後見制度の大事なポイントは、本人の権利擁護のための制度だということです。
 本来、障害のある人などの権利を守るための制度が、逆に本人の大切な権利を奪ってしまっているのです。
 こうした矛盾により社会の一員として認められてこなかった人たちの痛みやつらさに、私たち親は鈍感であったのかもしれません。
 権利に対して遠慮がちだったかもしれません。
 この問題に取り組むことは、知的障害のある人があたりまえに持っている人権について考える機会になるはずです。
 裁判という形で声をあげている方々、そして選挙権を奪われたままの数多くの方々のためにも、早期解決を目指さなければなりません。

【引用終わり】
 
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 被後見人となった知的障がい者に対して、選挙するのは無理だからといって選挙権を与えない今の制度は権利侵害もはなはだしい。
 適切な「意思決定支援」があれば、選挙権を行使できるはずだ。
 知的障がい者が自ら生活向上の施策改善にかかわる上でも選挙権の行使は必要である。
 「私たち抜きで私たちのことを決めないで」というピープルファースト運動を推進する上でも、この選挙権回復は大切である。
 (ケー)

「滝乃川学園」における公職選挙参加への意思決定支援

2012年11月28日 | 自立支援
 知的障害者の「意思決定支援」の考え方や課題について整理した、いい論文を見つけた。
 
 その論文は、柴田洋弥著「知的障害者等の意思決定支援について」(2012-07-16)である。
 その論稿を、分割してずっと紹介している。

 その第20回目。
 知的障がい者の公職選挙参加について、「滝乃川学園」では先進的な取り組みを行っている。
 それが次のとおりである。
         
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【引用始め】

柴田洋弥著「知的障害者等の意思決定支援について」(2012-07-16) 
「発達障害研究」第34巻3号掲載予定http://homepage2.nifty.com/hiroya/isiketteisien.html より

Ⅳ.意思決定支援についての課題

3.公職選挙参加への意思決定支援

 改正障害者基本法には28条「選挙等における配慮」が新設された。
 わが国最初の知的障害者施設「滝乃川学園」では、
 公職選挙に当たって知的障害者が自ら候補者を選んで投票するために、
 選挙管理委員会と合意して、1970年代から次の様な取組を行ってきた。

 ① 公職選挙のたびに、候補者が施設内で知的障害者向けに演説を行う。
 市長候補者は全員、市議会候補者も多数参加する。
 都議会や国会議員候補者は同政党市議会議員が紹介する事が多い。
 食べ物の好みなど質問は自由で、
 聴衆は候補者の答え方や態度を重視するようである。
 職員が自分の支持政党を表明することは禁止されている。

 ② 市内に住民票のある人は、行きたくない人を除いて、
 重度の知的障害者も含めて全員が投票所に行く。

 ③ 投票所では、書ける人は自分で投票する。
 
 ④ 書けない人には市職員2名が立ち会う。
 選挙公報を開いて、選ぶ候補者を本人に指さししてもらう。
 広報を閉じ、もう一度開いて同様に指さしを求める。
 2回とも同じ候補者を指させば、
 立会人がその候補者名を代理記入して投票する。
 誰も指さない時や、2回目に別の候補者を指す時には、
 代理人が白紙を投票する(この投票方式を「指さし投票」という)。

 この選挙権行使方法は、すでに40年近くも継続している。
 最近では市内の他施設からも知的障害者が演説会に参加している。
 改善の余地はあろうが、普及が望まれる。

【引用終わり】

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 以上、「滝乃川学園」みたいに公職選挙においてこうした「意思決定支援」を実施しているところが他にあるのだろうか。
 それも40年も前から行っている。
 選挙管理委員会公認のもとに行われている。
 選挙に行きたいという人は全員参加できる。
 候補者氏名が書けなければ、指さしによって代理記入できる方法まで認められている。
 候補者が施設内で演説できるようにしている。
 そうしたことも認めてもらっているのだろう。
 こうした手続きは簡単でなかったはずだ。
 知的障がい者にも、選挙権を行使することの意義を、関係者に理解させたのはすごい。
 かなりねばり強く必要性を訴えたに違いない。
 こうした対応はまだまだ例外的である。
 それが当たり前に行われることを訴えていく必要がある。
 (ケー)

成年後見制度の利用促進

2012年11月27日 | 自立支援
 知的障害者の「意思決定支援」の考え方や課題について整理した、いい論文を見つけた。
 
 その論文は、柴田洋弥著「知的障害者等の意思決定支援について」(2012-07-16)である。
 その論稿を、分割してずっと紹介している。

 その第19回目。
 「意思決定支援」が定着するためにも、「成年後見制度」の利用促進が求められている。
 そのことについて、次に述べられている。
         
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【引用始め】

柴田洋弥著「知的障害者等の意思決定支援について」(2012-07-16) 
「発達障害研究」第34巻3号掲載予定http://homepage2.nifty.com/hiroya/isiketteisien.html より

Ⅳ.意思決定支援についての課題

2.成年後見制度と意思決定支援

 障害者権利条約12条によっても、
 また改正障害者基本法23条によっても、
 成年後見制度の見直しが求められる。
 障害者総合支援法等の附則により
 「障害福祉サービスの利用の観点からの成年後見制度の利用促進の在り方」の検討は急務である。
 成年後見類型審判が全審判数の85%に達するなど、
 現状は深刻である。
 その際、国際育成会連盟「意思決定支援制度の主要要素」が参考になろう。

【引用終わり】

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 国際育成会連盟「意思決定支援制度の主要要素」は、本ブログの
 「国際育成会連盟で採択された「意思決定支援制度の主要要素」」
 2012年11月19日を参照してほしい。

http://blog.goo.ne.jp/y-ikuseikai/e/c19544aa231694796acc6f9fc3276814
 以下のような内容である。

 ① セルフ・アドボカシーの促進・支援。

 ② 一般的な市民向けの制度の利用。

 ③ 後見制度を意思決定支援制度に段階的に置き換える。

 ④ 意思決定支援制度の登録支援者は、支援ネットワークの強化に努める。

 ⑤ 支援される障害者が支援者を選ぶこと。

 ⑥ 意思疎通バリアを取り除くようにすること。

 ⑦ 本人と支援者との間の問題を回避し解決する手段を作ること。

 ⑧ 支援ニーズの高い人ほど保護を手厚くすること。

 「意思決定支援」が、制度上うまく普及するには以上が機能することである。
 こうしたことにそって、法整備に努力してもらわなければならない。
 でも、法整備を待たなくてもやれることは多い。
 上記の主要要素にある「意思決定支援」の趣旨を踏まえた支援者側の対応が求められている。
 (ケー)

パーソナルアシスタントの活用

2012年11月26日 | 自立支援
 知的障害者の「意思決定支援」の考え方や課題について整理した、いい論文を見つけた。
 
 その論文は、柴田洋弥著「知的障害者等の意思決定支援について」(2012-07-16)である。
 その論稿を、分割してずっと紹介している。

 その第18回目。
 知的障がい者の日常生活を個別的に支援するパーソナルアシスタントが、うまく運用できるようにする制度の必要性が、次のように提案されている。
        
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【引用始め】

柴田洋弥著「知的障害者等の意思決定支援について」(2012-07-16) 
「発達障害研究」第34巻3号掲載予定http://homepage2.nifty.com/hiroya/isiketteisien.html より

Ⅳ.意思決定支援についての課題

1.パーソナルアシスタンスと意思決定支援

 パーソナル・アシスタンスは身体障害者のアドルフ・ラツカ氏が提唱した。
 その特徴は、障害者の自立生活協同組合でアシスタントを雇用し、
 利用者がアシスタントを自ら選び、
 訓練して自身の介護をゆだね、
 利用者は自ら有意義と思う活動を行う事にある。
 障害者権利条約19条では、地域生活のための重要な支援とされている。

 わが国でも、重度訪問介護ヘルパーを雇用し運用する身体障害者自立生活運動が活発化している。
 岡部耕典氏は知的障害者等について
 「日常生活における自己決定支援は、
 本人が選択し、
 日常生活を共にするパーソナルアシスタントが担う便宜のひとつとして提供されるのが最も現実的であり、合理的であろう」として、
 相談支援や成年後見制度はそれを補完し監視する役割であるとしている。
 また、グループホームに代わる知的障害者の居住支援システムとして、
 パーソナルアシスタント等によるサポーテッドリビング・サービスに期待している。

 障害者総合支援法では、
 重度訪問介護が知的障害者等に拡大されるとともに、
 常時介護を要する障害者等に対する支援、
 障害者等の移動の支援が検討項目に加えられた。
 通所事業・グループホームなどの集団的支援よりも、
 訪問系の個別的支援の方が知的障害者等の意思決定支援は行いやすく、
 その拡充を期待したい。
 ただしアシスタント管理を知的障害者等が自ら行うことには困難があり、
 密室化した支援関係の中での問題も生じやすいので、その対策が必要である。

【引用終わり】

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 パーソナルアシスタントとは、個別に対応してくれる相性のいい世話人といったところである。
 個々の知的障がい者のニーズに即したサービスを実現できる、アシスタントが配置できるようする。
 スピーディーにきめ細かく安定的に知的障がい者の意思決定支援ができるシステムの構築には、パーソナルアシスタント制度は一つのアイデアと言える。
 (ケー)
 

意思決定支援に関する留意点

2012年11月25日 | 自立支援
 知的障害者の「意思決定支援」の考え方や課題について整理した、いい論文を見つけた。
 
 その論文は、柴田洋弥著「知的障害者等の意思決定支援について」(2012-07-16)である。
 その論稿を、分割してずっと紹介している。

 その第17回目。
 意思決定支援を行うにあたって留意すべき点が、次に述べられている。
       
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【引用始め】

柴田洋弥著「知的障害者等の意思決定支援について」(2012-07-16) 
「発達障害研究」第34巻3号掲載予定http://homepage2.nifty.com/hiroya/isiketteisien.html より

Ⅲ.意思決定支援の考え方 

5.意思決定支援に当たって留意すべきこと

◯ 日常生活や社会参加場面における「意思決定支援」には、
 少なくとも「意思表現支援(意思疎通支援)」、
 「意思形成支援」「意思実現支援」の要素が含まれる。

◯ 意思決定支援が成り立つためには、
 本人と支援者との安心感と信頼感に基づく関係が絶対的に必要である。
 またそれこそが、意思形成支援の中核要素である。

◯ 「意思決定支援」とは、
 支援者が代行決定するのではなく、
 あくまでも本人がするのであって、
 支援者はその支援を行う。

◯ 「本人が決めたことだから」として支援せずに放置して、
 本人が不利益を被ることとなるのは、
 支援者によるネグレクトとして虐待に当たる。

◯ 失敗することを許容しつつも、
 本人の大きな損害を回避できるような情報提供などの支援が必要である。
 また重度の自閉症者のように、
 失敗経験を避けて成功体験を重ねる必要のある人もいる事に留意すべきである。

◯ 意思決定支援の過程では、
 本人と支援者の相互の主体が影響を与えあう(心と心の交流、相互主体、間主体等)。
 だがこの構造は虐待に陥る危険性も含む。
 支援者一人の判断で進めず、
 複数の支援者の視点が不可欠であり、
 「本人中心支援」の研修も欠かせない。

◯ 意思決定支援は本人と支援者の間の閉じられた関係ではなく、
 社会関係の中に位置づけることが重要である。
 社会参加をするときには共に参加しつつも、
 本人を中心とするという姿勢が支援者には求められる。

◯ 成人知的障害者等の支援に当たって、
 支援者が「君・ちゃん」で呼んだり子ども扱いをすると、
 本人の成人としての自尊心と自己認識を損なう。
 また支援者自らを「先生」と呼ぶのも同じである。
 成人としての尊敬の念を込めた接し方にすべきである。

◯ 意思決定支援を補うために、
 重度の知的障害者の代替・拡大コミュニケーションや、
 場所や時間の構造化などが重要である。
 特に構造化は、
 それを活用してより良い社会参加や人間関係の構築ができるためにこそ重要である。

◯ 平田厚氏は「自己決定=自己責任」が成り立つためには、
 「①公的責任に基づく社会的選択条件の整備、
 ②情報の非対称性の克服(情報提供制度)、
 ③判断能力不足への支援が必要である」としている。

【引用終わり】

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 意思決定支援といっても、本人一人一人に合った対応が必要となる。

 本人の意思表現を支援者が読み取れるようにしなければならない。
 意思表現があいまいで、微弱な場合は、支援者側の試行錯誤によって探ることになる。
 本人のいかなる手がかりが本人の要求なのかを的確に受けとめることが必要である。
 これが「意思表現支援」である。
 例えば、排泄するとき、腰を浮かすといったことがあったら、支援者がトイレに座らせてみる。
 
 そして、本人の安定・満足を得るまで、根気強い対応を続けることになる。
 本人と支援者の関係づくりこそ「意思形成支援」と言える。
 腰を浮かしトイレに座らせたら、排泄することも成功する回数が多くなった。
  
 それが確実にうまくいくようになった。
 本人にとっては「意思実現支援」と言える。
 腰を浮かす、トイレに座る、排泄することが身についた。
 本人も気持ち良さそうに笑い顔も見られようになった。

 以上、「意思表現支援」「意思形成支援」「意思実現支援」といった過程を経て、本人の「意思決定支援」を保障することになる。
 (ケー)
 

両親を亡くした知的障がい者の在宅支援

2012年11月24日 | 自立支援
 知的障害者の「意思決定支援」の考え方や課題について整理した、いい論文を見つけた。
 
 その論文は、柴田洋弥著「知的障害者等の意思決定支援について」(2012-07-16)である。
 その論稿を、分割してずっと紹介している。

 その第16回目。
 次は、両親を亡くした知的障がい者が在宅しながら、暮らせるようにさまざまな福祉サービスを提供した事例である。
 本人のニーズに即したきめ細かな支援がなされている。
 これはまさしく、意思決定支援と言って良い。
       
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【引用始め】

柴田洋弥著「知的障害者等の意思決定支援について」(2012-07-16) 
「発達障害研究」第34巻3号掲載予定http://homepage2.nifty.com/hiroya/isiketteisien.html より

Ⅲ.意思決定支援の考え方 

4.この町で暮らしたい…意思実現支援

 通所施設に通うC氏(男性、30歳代)は、
 母親を亡くした翌日に父親も亡くなり、
 単身となった。
 「僕は小学校の時からずっとここにいた。
 (他県の)おじさんの家にも行きたくない。
 遠くの(入所)施設にも入りたくない。
 家にずっと居たい」と職員に必死に訴えた。
 そこで施設と市は、そのまま公営アパートに一人で暮らせるよう、支援体制を整えた。
 朝夕は自炊だが、
 施設での料理学習が役立った。
 昼は施設の給食で栄養を補う。
 当時(1989年)は知的障害者ヘルパー派遣制度がなかったが、
 市と社会福祉協議会は身体障害者用と高齢者用のヘルパーを、
 室内整理や買い物のためそれぞれ週1日派遣した。
 生活保護が適用されたが、
 1ヶ月間の金銭自己管理ができないので、
 市は1週間毎に生活費を渡し、
 施設が使い方の助言をした。
 C氏は公民館の障害者青年学級に参加し、
 今も地域の中で充実した生活を続けている。
 今後、このような支援は相談支援事業が担うこととなろう。

【引用終わり】

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 以上の事例は、市の福祉担当職員、施設職員、社協、ヘルパー、公民館がうまく連携することができた。
 当然、市営アパートの人々による支援もあったはずである。
 本人も地域で暮らすための努力もしたからこそ、現在もこの暮らしを続けることができるのである。
 20年以上一人暮らしを実現してきた。
 地域にある福祉にかかわる最大限の資源をうまく活用した。
 本人にかかわる誰かがそんなこと無理といって、協力しなかったら、C氏本人は施設に入所せざるを得なかったに違いない。
 当時(1989年)としては奇跡に近い対応だった。
 今では、相談支援事業所をうまく使うことによって、本人中心の意思決定支援ができる。
 こうしてできあがったシステムを使いこなすことが求められる。
 (ケー)
 

意思決定支援の中核は信頼関係

2012年11月23日 | 自立支援
 知的障害者の「意思決定支援」の考え方や課題について整理した、いい論文を見つけた。
 
 その論文は、柴田洋弥著「知的障害者等の意思決定支援について」(2012-07-16)である。
 その論稿を、分割してずっと紹介している。

 その第15回目。
 意思決定支援の基本は支援者との信頼関係があってはじめて成り立つ。
 それについて、さまざまな問題を引き起こす知的障がい者と長期間かかわってきた支援者の言葉を借りて、次のように述べている。
       
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【引用始め】

柴田洋弥著「知的障害者等の意思決定支援について」(2012-07-16) 
「発達障害研究」第34巻3号掲載予定http://homepage2.nifty.com/hiroya/isiketteisien.html より

Ⅲ.意思決定支援の考え方 

3.生き難さへの支援と信頼関係…意思形成支援

 「障害を理解してもらえず、いじめにあう。周りとトラブルを起こして居場所を失う。
 多額の借金を背負わされて自己破産してしまう…。
 そうしたさまざまな困難を抱えて社会で暮らすことのできなくなった知的障害者を専門に受け入れて、
 もう一度社会で暮らすことを支援する施設がある。
 仮のいおりを意味する「かりいほ」。
 30年の歴史でのべ180人を受け入れてきた。
 どんな事情でここに来るのか。
 どのように支援し、再出発へ送り出すのか。
 全国でもまれな「かりいほ」の取り組みを見つめる。」
 これは、2008年5月14日にNHK「福祉ネットワーク」で放送された「かりいほの日々…知的障害者の社会復帰を支えて」の説明文である。

 2年前、私が「意思決定支援」という言葉を使い始めた頃に、
 「かりいほ」の石川恒施設長は「我々がどんなに『こうした方がいいよ』と彼らに言っても、
 彼らが自分から『そうしよう』と納得しないと、解決しない。
 我々がしているのはまさに『意思決定支援』だと思う」と語った。
 知的障害の重・軽を問わず、
 「彼ら自身が『そうしよう』と思うようになる決め手」は
 「支援者との信頼関係である」と、
 我々の意見は一致した。
 「生き難さを抱えた人達を支援するためには、
 どれだけその人に関わることができるか、
 その関わりの中で本人がどれだけ安心し、
 どれだけ自信を持って生活できるようになるかが重要である」と石川氏は語る。

【引用終わり】

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 意思決定支援がうまくいくかどうかは、支援者間との信頼関係が前提となる。
 常日ごろより互いに接する機会が多いのも一つの条件となるだろう。
 しかし、それが絶対条件ではない。
 いかに支援者が障がい者の意に沿った関係を築けるかである。
 意に沿うというのは、障がい者の状況をよく理解し、それに合った方法を工夫することだ。
 基本は無理強いでない。
 しかし、本人の言うがままでもない。
 そうした案配の良い関係づくりが大切となる。
 それは当然、意思決定支援にかかわる関係者全員である。
 家族、専門家、地域の人々がふだんの付き合いの中で、安定した関係を築くためのキーワードが意思決定支援と言える。
 (ケー)
 

行動障害のある重度知的障害者に対する適切な支援

2012年11月22日 | 自立支援
 知的障害者の「意思決定支援」の考え方や課題について整理した、いい論文を見つけた。
 
 その論文は、柴田洋弥著「知的障害者等の意思決定支援について」(2012-07-16)である。
 その論稿を、分割してずっと紹介している。

 その第14回目。
 不安傾向が著しく、混乱するとパニックになる重度知的障がい者に対する適切な支援過程の事例を、以下に述べている。
 適切な支援を続けることがいかに大事であり、それにより本人と支援者の関係が安定してくる事例である。
       
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【引用始め】

柴田洋弥著「知的障害者等の意思決定支援について」(2012-07-16) 
「発達障害研究」第34巻3号掲載予定http://homepage2.nifty.com/hiroya/isiketteisien.html より

Ⅲ.意思決定支援の考え方 

2.行動の奥にある本当の願いを支援する…意思形成支援

 重度知的障害のあるB氏は、学校卒業後1年間、自宅にこもっていたが、
 通所施設職員等の熱心な働きかけで4月から通所できるようになった。
 始めの頃はかなり緊張していたが徐々に施設の雰囲気になじみ、
 担当職員との信頼関係ができたようであった。
 秋になると、午後の作業時間帯に1時間ほど居眠りをするようになった。
 通所施設に安心感を持つようになったものと職員集団は考えて、見守った。

 ところが冬になる頃、居眠りから覚めると突然に、隣に座っている担当職員の顔を爪で引っ掻くという行動を示すようになった。
 そこで施設は、男性職員2名で、
 ①抱きかかえるように抑え込む、
 ②大声や恐怖を与える対応をしないで安心感をもってもらう、という対応をとった。
 幸い混乱は数分間で収まるが、このようなことが毎日続いた。

 春になる頃、この居眠りと混乱行動はぴたりとなくなり、
 B氏は生き生きと活動に参加するようになった。
 驚いたことに、かつては周囲を警戒するかのように細く鋭い目をしていたが、
 いつの間にかドングリ眼の人なつこい表情に変化していた。

 B氏はその生育過程で他人への不信と警戒を持たざるを得ない経験を重ねていたものと思われる。
 新しい集団と職員が本当に信頼できるのかを試すために、
 無意識の内にこのような行動となったのであろう。

 本人や周囲を傷つけてしまうような行動障害については、
 心の痛みを本人が必死で訴えている行動として受け止め、
 心の奥にある本当の願いを聞き取り、
 本人との共感を大切にして信頼関係を作り、
 やがて本人が自ら安定した自己を形成していくように支援することが大切である。

【引用終わり】

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 上記の例は、本人に対する支援者たちの一貫した対応がうまくいった例である。
 混乱した本人に、支援方針がばらばらだとしたらより一層の混乱を引き起こす結果になる。
 混乱を助長する荒々しい対応をせず、支援者側の静かな対応こそ効を奏した事例と言える。
 どんな状況で混乱を引き起こし、どうすればその混乱を静められるか、さまざま試してみることが必要だろう。
 その中で有効と思われる対応について、支援者間で共通理解を図って、一貫した対応を続けてみることである。
 当然、試行錯誤は繰り返される。
 試行錯誤は少なければ少ないほど良いに決まっている。
 重度障がい者との「意思決定支援」のあり方は、こうした対応とならざらるを得ない。
 (ケー)

重度知的障がい者のわずかな表現に応える

2012年11月21日 | 自立支援
 知的障害者の「意思決定支援」の考え方や課題について整理したいい論文を見つけた。
 
 柴田洋弥著「知的障害者等の意思決定支援について」(2012-07-16)の論稿を、分割してずっと紹介している。

 その第13回目。
 以下は、重度の知的障がい者のかすかな動きに、支援者が敏感に応答し、おしめなしの排尿ができるようになった事例である。
      
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【引用始め】

柴田洋弥著「知的障害者等の意思決定支援について」(2012-07-16) 
「発達障害研究」第34巻3号掲載予定http://homepage2.nifty.com/hiroya/isiketteisien.html より

Ⅲ.意思決定支援の考え方 

1.重度の知的障害者にも意思がある…意思表現(意思疎通)支援

 A氏は学校卒業後、重症心身障害者通所施設に通うこととなった。
 手足がマヒしていて発語もなく、おむつをしていた。
 ある日、「Aさんが腰を少し動かした時にトイレに連れて行って便器に座らせたら排尿する」と若い職員が言い出した。
 そこで他の職員も気をつけて観察すると、やはりトイレで排尿した。
 それを繰り返す内に、A氏ははっきりと腰を動かすようになり、やがておむつは不要になった。
 また自分の関心があることを、身を乗り出すようにして示すようになった。

 このように、どんなに重い知的障害者でも意思があり、わずかに表現された意思を支援者が読み取り応えることによって、ますますはっきりと表現するようになる。

【引用終わり】

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 重度の知的障がい者が支援を受けるだけの人という思い込みで接することは、大いに問題がある。
 微細な本人からのサインを支援者側がいかに読み取れるか。
 支援者は敏感なアンテナをはって、本人の発するサインに的確な応答が求められる。
 例えば、排泄時直前のお尻の動きをよく観察する。排泄を知らせるなんらかの動きがないか探る。
 可能性のあるターゲットをしぼって、支援者は本人と密接にかかわる。
 そして、特徴的な動きがないかを探り出す。
 支援者のより良いかかわりによって、本人側も協力的なかかわりが出てくる。
 こうしたことにより、意思疎通が良好な関係を生み出すと言える。
 意思決定支援の一環でもある。
 (ケー)