情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄

知らなきゃ判断できないじゃないか! ということで、情報流通を促進するために何ができるか考えていきましょう

取り調べを可視化したら犯罪者が一方的に得するだけ?!~久しぶりに手書き解説で誤解を解きます

2008-01-24 08:31:12 | 適正手続(裁判員・可視化など)
 取り調べの可視化(取り調べの全過程を録画すること)に反対する人の中には、日本の捜査手法・司法手続きが海外に比べると限定されていること、すなわち、おとり捜査が一般的には使用できなかったり、アレインメント制度(罪状認否段階で被告人が起訴事実につき有罪である旨自認した場合に、罪責認定手続を省略して量刑手続に移る制度)がないことを挙げて、可視化するのであれば同時におとり捜査やアレインメントを導入すべきだと主張する人がいる。

 これって一見分かりやすいのだけど、少し考えれば、おかしいことが分かる。

 図を見てください。世の中には罪となるべき行為を行った人はたくさんいます(A+B)。他方、警察が被疑者として取り調べる人は、罪となるべき行為をした者(B)もいれば、無実の者(C)もいる。

 まず、取り調べの可視化をすることで、利益を得る者はCです。中には、強引な取り調べができないことにより、Bの一部を有罪まで持ち込むことができない場合があるかもしれません。しかし、そもそも可視化すると問題になるような違法な取り調べで強引に自白させる行為は許されていません。それを許すと結局は行き過ぎに行き過ぎを重ね、魔女狩りになってしまうからです。

 次に非「可視化」、つまり、可視化をしないことにより、警察が逮捕できたり、有罪に持ち込まれたりする者はだれだろうか。それは、①Bのうち違法なほど強引な取り調べをすることができないため、自白がとれない者、②被疑者からその者の犯罪以外の事実を聞いていく中で浮かびあがるほかの犯罪実行者(Aの一部)ということになるだろうか?

 まず、①については、そもそも、これを問題視することがおかしいのはすでに述べたとおり。行き過ぎれば魔女裁判となってしまう。

 次に②については、なぜ、可視化したら、ほかの犯罪実行者のことについて聞けなくなると考えるのだろうか?取り調べの中でその者の背景などを聞くなかで聞けばいいのだから、可視化されたって聞けるはずだ。「ビデオに撮られていることが分かると話さなくなる」という反論もあろうが、ビデオは、自分が争う部分のみが公判廷に提出され表に出てくるのであり、争わない部分は表にでるはずがない。したがって、ビデオを撮ると話さなくなるということはあり得ない。もし、話さなくなる者がいるとすると、それは、警察がそのビデオを横流しする危険性があると考える者のみだと思う。それは、警察の信頼の問題であって、いまだって同じことでしょう。売った者だという情報を警察が横流しするのにビデオがあってもなくもて同じことでしょう。

 次に視点を変えて、おとり捜査を導入することによって、新たに警察が逮捕できたり、有罪に持ち込める者はどういう者だろうか。それは、Aのうちの一部だ。薬物、汚職、性風俗犯罪などの罪の行為者の一部を逮捕することができるだろう。

 では、アレインメントを導入することによって、新たに警察が逮捕することができたり、有罪に持ち込めたりするケースはあるだろうか。とても考えにくいが、司法取引により、ほかの者の犯罪を話すようなことがあるかもしれない。しかし、アレインメントは、被告人が罪を認めることによって一方的に使える手続きなので、この制度自体が司法取引によって新たな別の犯罪実行者を逮捕できたりすることに結びつくことはない。結局は、何かの犯罪をお目こぼしするから、別の人の犯罪を話せなどということになるのであろうが、それは本来、アレインメント制度とは関係ない。

 
 とここまで見たところで、もっとも重要なポイントに入ります。

 図にも書きましたが、果たして、可視化しないことにより逮捕したり有罪に持ち込めている者(X)とおとり捜査の導入により新たに逮捕できたりする者(Y)、アレインメントにより新たに逮捕できたりする者(Z)の関係はどうなっているか?ということです。

 X=Y+Z、あるいは、XとYあるいはZの多くが重なるのであれば、可視化の導入をする代わりにおとり捜査やアレインメントを導入することには合理的な理由があります。

 しかし、XとYあるいはXが重ならない場合には、可視化の導入とおとり捜査やアレインメントの導入を同時に行うべき理由はありません。

 そして、XとYあるいはZが重ならないのは、はっきりしているのではないでしょうか…。

 よって、可視化が一方的に犯罪者を利するということはないのです。そのように思えるのは犯罪者を全体として一体とみているからであり、個別の犯罪者ごとに考えるならば、そのような誤解をすることはないはずです。

 日弁連の「取調べの可視化(録画・録音)の実現に向けて-可視化反対論を批判する-(第2版)」(http://www.nichibenren.or.jp/ja/special_theme/data/torishirabe_kashika.pdf)では、次のように答えています。

【様々な新たな捜査手法の導入などを同時に併せて検討しなければならないとする立論があります。
 しかし、これは、先に述べましたように可視化実現を先延ばしにする論点のすりかえでしかありません。また、この点も既に述べましたように、可視化が実現されることによって、これらの捜査手法を導入しなければならないような刑事司法構造全体の変化があるわけでもありません。実際、諸外国での可視化制度導入に際し・その前提として新たな捜査手法の導入をセットにしたといった例には接していません。
  したがって、これら捜査手法の導入などは、個々一つずつ、その導入の是非を議論すればよいと思われます。可視化とセットで論じなければならない必然などはありません。いずれにしましても、可視化の実現が何よりも先決の大前提というべき最優先課題であることは明らかではないでしょうか。】



 



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2 コメント

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Unknown (あゆ)
2008-01-25 10:17:48
いつも内容濃いですね。アレインメント制度があるの知りませんでした。うちは可視化は不安なんです。機械(特にコンピュータ)が不安なんです。「機械がそう記録しているからまちがいない!」なんて聞くので・・・。

弁護士さんの立会いもセットでないと・・・。
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ぶっちゃけ!警察の「成績」の問題でしょ…。 (田仁)
2008-01-25 13:52:02
今時、食い詰めて刑務所に入りたい人達に対しては、警察が「じゃッ!累犯ってコトで!」と親切に刑期を延ばして下さり、代わりに数件から数十件のカッパライとか空き巣とか、軽微ってか、まあ強殺とかでない犯罪の解決件数を底上げとか出来ちゃう、裏システムとか、綺麗な言い方で言えばWinWin関係ですか?ドチラも嬉しい!みたいな。
ただ、多く野放しになる犯罪者が書類上解決しちゃって存在しないけど実社会には実在してるよね!悠々と!って問題は残るんですけどね…。
多分、その辺りも可視化に対する抵抗として、根強いんじゃないんでしょうか?!
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