情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄

知らなきゃ判断できないじゃないか! ということで、情報流通を促進するために何ができるか考えていきましょう

同意なければ,報道機関へ提供しない?!~安否情報システムで言論統制?

2006-06-10 00:17:33 | 匿名発表問題(警察→メディア)
 ちょっと古いニュースですが,神戸新聞ニュース(ここ←)に【総務省消防庁は三日までに、外国からの武力攻撃などの有事に全国どこからでも家族や知人の安否を確認できる「安否情報システム(仮称)」について、自然災害や大規模事故での自治体による活用を積極的に認めることを決めた。尼崎JR脱線事故に対応した兵庫県内の自治体や医療機関などから、活用を求める声が相次いだため。同システムは二〇〇七年度から運用を始めるが、今後、自治体サイドで必要な事務手続きの検討を重ねる。】という記事がある。

さらに,読み進めると,【自治体や警察、病院などのパソコンと同庁のサーバーをインターネットで接続。自治体などは、避難したり負傷したりした住民から名前や住所、負傷の状況、名前を公表してもよいかなどを聞き、情報を送る。本人が希望すれば、報道機関への情報提供やインターネット上の公開もできる。】とあった。

えっ,本人が希望しない限り,報道機関への情報提供をしない…。犯罪被害者の匿名発表問題については,これまでなんども触れたが(ここ←など。カテゴリーの匿名発表欄をクリックして下さい),犯罪被害者だけでなく,災害時の被害者についてもなし崩し的に匿名発表にしようとしている…。

原資料にあたってみたが,確かにここ←の26/90にその旨の方針が書いてある…。

確かに,メディアに取材されることは鬱陶しい面もある。しかし,行政が情報を隠すことができるようになると,行政をチェックすることができなくなる。これは鬱陶しいとかいうレベルを超えた不利益だと思う。

手を変え品を変え,報道が規制されていく…。



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「ああ、あのフィリピン刑事(デカ)」~でも,警察署の名前すら匿名…

2006-06-04 17:55:01 | 匿名発表問題(警察→メディア)
警察による匿名発表を認めることの弊害について何度も書いてきたが,落合洋司弁護士のブログで見つけたこの記事(ここ←)には,びっくり。外国人キャバレーに捜査情報を流して接待を受けていた複数の警官(処分は懲戒免職など)について,高知県警は,氏名を伏せたばかりか,所属する警察署名すら隠して,発表したという。警察庁の発表指針に基づいたというが,まったくあきれるほかない。とにかく,メディアの発表段階は実名とする原則を設けておかないと,都合の悪いことは何でも匿名となりかねない…。


記事うち,匿名に関する部分は次のとおり。

■■引用開始■■
県警実名、署名明かさず

 県警は2日発表した接待汚職事件の処分で、懲戒免職や停職処分などとした16人をすべて匿名とし、どこの署に所属しているのかも明らかにしなかった。

 県警は「警察官以外の関係者もおり、警察庁の発表指針を基に個別に検討した結果だ」と説明。接待を受けたとして懲戒処分にした巡査部長ら4人についても、明らかにしたのは階級と所属課、年齢のみ。事件の舞台となった窪川署の名前も伏せた。

 懲戒免職を実名で公表している県や県教委の対応と大きな隔たりがある。高知新聞には2日、「これだけの不祥事を起こしておいて、なぜ匿名なのか」と県警の姿勢を批判する声が相次いだ。

■■引用終了■■


ちなみに,事件の概要は次のとおり。

■■引用開始■■

窪川署員らの外国人キャバレー通いは、地元客の間では有名だった。頻繁に接待を受ける署員らの姿には、風俗営業の許認可権限を持つ「官」の“たかりの構図”さえ浮かぶ。14年末に高知市で発覚した同じ外国人キャバレーを舞台にした警察官汚職事件を再び繰り返した県警。自浄力を失った県警組織の病巣の根深さがあらためて露呈した。

 「ああ、あのフィリピン刑事(デカ)」―。同署刑事生活安全課員だった窪内孝志容疑者(55)の書類送検を知った地元客らはそうあだ名で呼び、「(キャバレーに)ずぶずぶに漬かっていた」と言い捨てた。

 同署員らは以前から、事件摘発の打ち上げや外部団体との懇親で、この外国人キャバレーを利用。1時間に3000―4000円前後は掛かる料金システムだが、経営者は代金を取らずに利用させることも多かったという。

 同店はフィリピン人女性らをホステスとして働かせ違法な営業実態だった。署員らはそれを黙認状態で接客を受け、次第に「付け」と称してただで飲食するなど深みにはまっていった。中でも、窪内容疑者の“たかりぶり”は突出していた。

 同容疑者は15年6月に長岡郡本山町の本山署に異動後も管内を抜け出し、キャバレー通いを続けた。「帰国したホステスを追いかけてフィリピンに行った」と聞かされた同僚もいるほどだ。

 県警は窪川署員らのキャバレー通いを14年に匿名の投書で把握しながら、当時は署長が口頭で注意しただけで、問題の悪質さを突き詰めなかった。

 14年末に高知署員の外国人キャバレーでの汚職事件が発覚後、県警は警察官に職務倫理についての作文を提出させるなど、各署ごとに不祥事防止対策を取ったという。しかし、同容疑者は漫然と通い続けていた。

 村田達哉警務部長は2日の記者会見で「二度と起きないよう取り組んできたが、本当に特異な者がまだいた」と強調した。その一方で、「それ以上に、幹部が止められなかったことが大きな問題だ」と県警組織の構造的問題にも言及した。

 現場警察官の中には「『だらしない個人の犯罪』として済ませられる問題ではない」「若い課員を引き連れていった課長の責任はもっと重いはずだ」と、今回の処分にさえ不満の声がある。

 不祥事を繰り返す県警の病巣はどこにあるのか。幹部と現場の警察官が一体になって考え、あしき体質に向き合わなければならない。

■■引用終了■■



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天下り先を伏せたり、不祥事職員の名前を公表しなかったり~個人情報保護法に対する新聞協会意見書

2006-04-07 23:51:12 | 匿名発表問題(警察→メディア)
日本新聞協会は7日、05年4月に個人情報保護法が全面施行されて以来、「個人情報は隠すべきだ」との誤解が広がっているとして、制度の見直しを求める意見書を、国民生活審議会の個人情報保護部会に出した(朝日新聞)。

 この部会では,政府が法の全面施行から3年をめどに施行状況を検討し、必要な措置を講じることを決めていることから、関係団体の意見を聞いている。

 意見書は、同協会編集委員会の委員社57社の協力でまとめた実態調査の結果を踏まえたもので、ここに記載されている。

 意見書は,「個人情報は隠すべきだ」との誤解がまん延し、社会活動のあらゆる分野において、深刻な委縮現象や混乱が目立っていると指摘して教育現場の混乱,地域社会の連携の弱体化について触れたうえ,【さらに問題なのは、法律の拡大解釈とも言える行政の情報非開示の動きである。従来は公表していた幹部の天下り先を伏せたり、不祥事を起こした職員の名前を公表しなかったり、幹部公務員の経歴を省略したりするケースが少なくない。当然公表すべき「公共の利害」に関する事項さえ、「個人情報の保護」を理由に情報の隠ぺいが進んでいる実態は、法律が想定した保護範囲を大きく逸脱するものと言わざるを得ない。行政の透明性確保を目的とした情報公開法の趣旨にも反するものである。】としている。

 権力は情報を集中しようとする。市民をコントロールするために必要だから…。自民党は新憲法案に被害者の人権を掲げたのは,権力が情報をコントロールしてあげるよ…という甘言の一環だし,昨年末の犯罪被害者等基本計画も被害者の匿名という形で,情報のコントロールを強める道具としている。

 私たち市民が,この流れをせき止めない限り,情報流通がさらに阻害されることになり,民主主義は名ばかりのものになる…。まずは,これらの方に情報流通の大切さを訴えよう。

 権力が情報を管理することの怖さは,ブッシュのCIA情報疑惑からも明白だろう。特に,戦争という異常事態を市民に納得させるには,相当の情報操作が必要になるということを直接的にではないにせよ,伺いすることができるケースだ。

 もっと,情報を!


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実名発表が望ましい~長崎の園児誘拐殺害被害者の父の手記

2006-03-11 08:05:50 | 匿名発表問題(警察→メディア)
少年によって誘拐され,命を奪われた駿くんの父が民事訴訟を提起するにあたって手記を発表した。そのうち,メディアへの発表について以下のようなコメントを寄せています。

■■引用開始■■

過去の少年事件で被害者となられた方が残された手記では、警察の捜査がずさんであったり、偏った情報操作がなされるなどして、被害者側が必要以上に苦しめられたり、名誉を傷つけられるなどしたこともあったことが記されていました。もし、警察の判断により被害者氏名が匿名で発表された場合、報道機関による事実の検証が難しくなり、このような正義に反することがあったとしても結果的に隠蔽(いんぺい)される可能性があります。そういう危険性が少しでも残るのであれば、氏名を実名・匿名いずれかで発表するかの判断は警察ではなく報道機関に委ねられるべきだと考えます。今回、犯罪被害者等基本計画を策定する中では、報道集中による犯罪被害者への二次被害を少なくする観点からこの決定がなされましたが、私たちの場合で言えば、確かに最初は報道関係者が何度も家を訪ねてきて本当に辟易(へきえき)することがありましたが、私たちが報道自粛をお願いしてからは、真摯(しんし)に対応していただいたと感じています。また、これからもそのような被害者のことを配慮した対応が続くものと信じています。報道のあるべき姿についてはいろいろな考えを持たれた方がおられると思いますが、事実を検証しそれを伝え、誤りがあればそれを正すという報道機関の役割は軽視されるべきではないと思います。

■■引用終了■■

引用部分の前に,【犯罪被害を経験した当事者である私たちとしては、この氏名の取り扱いの判断は、警察ではなく報道機関でなされるべきだと感じています。もちろん、被害者の意思が第一に尊重されるべきであり、被害者側が匿名発表を望めば、そうされるべきと考えます。私たちの経験から言えば、事件直後は息子を失ったショックで錯乱状態であり、警察から発表される息子や私たちの名前が実名であるべきか匿名であるべきか、この判断をすることは到底不可能だったと思います。結果的に私たちの事件では警察より実名が発表され、その後の報道も実名でなされました。今、冷静になって考えてみても、事件の真実や重大性を報道によって多くの人に知ってもらい、それについてよく考えてもらうためには、実名でなければ難しい面が多いように思います。】というコメントはあるものの,報道機関の権力チェックについて理解を示されていることに注目したい。

社会的存在であることと被害者であること~匿名発表は許されない

2006-02-25 00:24:26 | 匿名発表問題(警察→メディア)
犯罪被害者は被害に遭いたくて被害に遭ったのではないから,警察が住所氏名を発表するかどうかについて,決定する権利を有している…という考え方があります。確かに犯罪被害者は自分の意思の働かないところで被害に遭ったのであり,社会としても援助するべき対象ではあるでしょう。でも,だからって,マスメディアが警察から氏名などの情報を入手することを拒めるのでしょうか…。

例えば,私は車を運転しません。不便でもいいから,できるだけ車の数を少なくしてほしいし,車の速度規制だってきちんと車自体に規制装置を設置してほしい,そう思っています。毎日何十人の人が死んでいると想像するだけで車を見るのも嫌になります。しかも,事故だけではありません。排気ガスの問題だってあります。

しかし,そうは言っても現代社会の中で生活している以上,車と共存することは仕方ありません。現実には,車に乗らないで日々を過ごすことは出来ません。

「一日数十人の死者を防ぐ利益,きれいな空気を吸う利益」と「車のある便利な社会を維持する利益,車を生産することで得られる経済的豊かさを得る利益」…日本では後者が優先されています。



犯罪に遭った…本当に辛いと思います。でも,その事実を検証するためには,捜査する側だけに情報を保有させることは出来ません。捜査する側だけが情報を持っていると,手を抜くかも知れないし,不正を働くかも知れないからです。警察が自由気ままに活動できる社会で人権を守ることはできないでしょう。また,警察は我々の税金を使って動いているのですが,捜査名目で好き勝手に使ってしまうかも知れません。

捜査する者以外が情報を共有することではじめて捜査する側に緊張感が生まれるわけです。
そんなことは我が身を振り返れば分かることです。見られていなければ…。

社会で生きている以上,場面場面に応じて,意に反して耐えなければならないことが出てくるのは仕方がないことだと思うのです。車のところでも述べましたが,要は対立する利益のバランスの問題です。

 警察というシステムをできるだけ正当なものとして維持する利益と被害者がメディアから取材を受けることを拒否する利益,どちらが大きいでしょうか…。

 そう考えると,被害者の情報がメディアに伝えられることも許容するしかないのではないでしょうか…。


もちろん,情報を入手したメディアがどのような取材をし,どのような報道をするかという点について,今後もメディアの姿勢を糺し続ける必要があるのは当然ですが…。

匿名発表では,社会的背景の探求及び公権力の監視はできない~広島弁護士会

2006-02-19 16:00:58 | 匿名発表問題(警察→メディア)
県警が県警本部職員の関係者が勤務先のパチンコ店で1億円横領した事件を発表しないまま,処理した事件が発生した広島県の弁護士会が,今月,「警察による事件関係者の匿名発表は、報道機関が警察発表の事実を検証する手段を奪い、市民の知る権利を没却する」などとし、匿名発表に反対する会長声明を発表した(毎日)。

全文は,広島弁護士会のHPにそろそろ掲載されると思うが,「事件関係者を匿名とする発表は,報道機関が事件関係者や市民等から広く情報を得てこの警察の発表する事実が正しいか否かを検証する手段を奪うもので,取材及び報道活動に著しい支障を来す虞がある。これは,事件の社会的背景の探求及び公権力の監視という事件報道の使命,ひいては民主主義の大前提たる市民の知る権利の意義を没却するものであり,到底是認することはできない」と本質をずばりとらえたものとなっている。

他方で,メディアの取材のあり方についても,苦言を呈しており,被害者等の保護に最大限に配慮することを求める,としている。



広島県警が身内を庇って発表控える~しかも発表しなかった理由は嘘

2006-02-14 07:15:24 | 匿名発表問題(警察→メディア)
広島県警が県警本部職員の関係者が勤務先のパチンコ店で1億円横領した事件を発表しないまま,処理し,しかも,発表しなかった理由を「公表するなら被害届は出さないと言われ,被害届がなければ起訴できないと思い,当時の署長の判断で派記者発表しなかった」としていたという。

まずは,中国新聞を引用します。

【広島県警が、逮捕した容疑者の名前や容疑事実などを報道機関に知らせないまま、内密で処理していたことが分かった。

 被害総額が約一億四千八百万円に上る着服事件。普通なら当然、公表されていただろう。ところが、捜査した広島中央署の当時の署長が、発表しないと約束して被害届の受理を決めたため、異例の経緯をたどったという。

 しかも、この事件で被害に遭った広島市中区のパチンコ店経営会社の社長は、警察と協力関係にある県暴力監視追放防犯連合会長などを務めていた。「被害が公になれば店の信用に傷がつく」というのが公表しないように頼んだ理由である。これでは気脈を通じ合った恣意(しい)的な事件処理と批判されても仕方がない。

 弁護士会などからも「今回の例は特別扱いに当たり、公正な捜査とはかけ離れている」と厳しい指摘が出ている。県警は県民の信頼をどれほど損なったか、あらためて肝に銘ずる必要がある。

 同社の経理担当社員だった被告(41)は、窃盗や業務上横領などの罪で起訴され、広島地裁で公判中。「ホストクラブでの飲食代やホストへのプレゼント代欲しさの犯行」として懲役七年を求刑されている。

 着服事件は、強制わいせつ罪などのように被害者の告訴がないと起訴できない親告罪ではなかった。逮捕、送検して起訴されれば、記者が裁判を傍聴する機会もある。事件を内密に処理し通すことは難しかったはずである。

 元中央署長らは被害者を説得すべきだった。「不可解な事件処理」と首をかしげざるを得ない。

 一方で、一署長の判断ミスと断じるには疑問も残る。事件処理などの判断基準に甘さが出ているのではないかと思えるからだ。同じような不明朗な事件処理がほかにもあるのではないか。そうした疑念もわく。

 犯罪被害者保護の観点から、ここ数年、事件の報道発表で匿名が目立つようになっている。

 今年四月には犯罪被害者基本法が施行。その理念に基づき、八月には「犯罪被害者を実名にするか、匿名にするかは警察の判断に委ねる」とする政府の犯罪被害者等基本計画案も出された。

 日本新聞協会は、この項目の削除を求める意見書を内閣府に提出。警察の判断に任せる危うさに警鐘を鳴らしてきた。

 被害通報に基づき、中央署が今回の着服事件の捜査を始めたのは一月のことだった。不適切な事件処理は、こうした一連の流れと無縁ではないだろう。

 捜査情報が適正に公開されないのでは、多額の税金を投じて進められる捜査や容疑者逮捕の是非などの検証もままならない。

 個人情報保護法の全面施行に伴い、医療機関などでも公表する情報を絞る傾向が顕著になっている。

 しかし、住民が警察を信頼できるのは、「公正さ」の保証があるからだ。廿日市市で起きた女子高生刺殺事件など、安全を脅かす未解決事件の捜査でも、警察への信頼があって初めて親身の協力が得られる。組織の透明性の確保が不可欠だ。】


放送レポート3月号によれば,パチンコ業界,警察情報に詳しい者が「被告の父親は,広島県警本部の職員だった。すでに定年で引退していたが,一般職員として相当上の方まで昇進した人だ。こういったことも発表されなかった理由の一つではないか」と話しているという。

しかもその人物は,「横領・詐欺の金額も,最初は4億円で立件する動きだったとも聞いた」というのだ。

それにもかかわらず,きちんと検証したのは中国新聞のみだという。どうした,全国紙!

匿名にしたい事情~権力者に都合の悪いことを隠した例

2006-02-02 08:51:12 | 匿名発表問題(警察→メディア)
匿名発表化を進める背景に,次のような警察と権力者との癒着があることはしっかり見据えなければならない。毎日新聞の記事を引用します。

■■引用開始■■

医師や看護師に大麻を譲り渡したとして鹿児島県警に逮捕され、大麻取締法違反の罪で起訴された男について、同県警は31日夜、被告の氏名を明かさず事件の概要を発表した。男は、霧島市議会の西村新一郎議長(58)の二男の無職、太被告(30)で、発表は起訴の5日後だった。県警は(1)大麻の入手先の捜査で事件の公表を控える必要があった(2)起訴され身柄が警察から離れた--ことを匿名発表の理由としているが、不透明な発表方法に識者からも疑問の声が出ている。

 西村被告を逮捕した鹿児島西署によると、西村被告は昨年9月30日、霧島市内で同県加治木町の女性看護師(27)を介して男性医師(30)に大麻約5グラムを4万円で譲り渡した疑いで、先月5日に逮捕された。鹿児島地検は同26日、同法違反(譲渡)の罪で西村被告を鹿児島地裁に起訴したが、鹿児島地検はその際公表せず、同署は西村被告が保釈された31日夜、3人の氏名をいずれも匿名として発表した。

 医師と看護師が起訴猶予処分となった理由について、同署は「所持していた大麻が微量だったため」としているが、地検は「捜査上の事柄であり、言えない」としている。西村被告は「大麻の種子を昨年初めに大阪で入手し、山林で栽培した」と供述しているといい、同署は同法違反(栽培)容疑で追送検する方針。

 西村議長は1日朝、「息子が逮捕されたことで、警察に匿名とするよう働きかけたことは一切ない。自身の責任の取り方についてはしっかり考えたい」と語った。

 西村議長は霧島市の前身の旧国分市議を5期務め、02年5月に同市議会議長に就任。昨年11月に周辺6町と合併後の霧島市議選に当選し、同12月から初代議長を務めている。【内田久光、大塚仁】

 ▽木山修次・鹿児島西署副署長の話 大麻捜査は事件終結後の発表が原則だ。違法栽培について、追送検の予定があり、捜査終結後に実名発表するつもりだった。しかし、裁判所が保釈を決定したので、追送検後に発表すると、なぜ保釈時点で発表しなかったかと追及されると考え、発表した。ただ、その時点ではすでに保釈されていたので実名では発表できなかった。

 ◇恣意的発表の印象

 服部孝章・立教大社会学部教授(メディア法)の話 事件の広がりを考え発表時に匿名にすることはあるが、このケースはそれにあたらない。軽微な事件ではなく、捜査や公判維持に何ら問題がないのに、保釈を理由に匿名にするのはおかしい。薬物事犯は多くが実名発表されており、これまでの鹿児島県警の発表と比較しても、恣意(しい)的な発表という印象があるのではないか。親に直接の責任はなくとも、市議会議長となれば道義的責任は問われるケースだ。

■■引用終了■■

もちろん,被害者の匿名発表の問題と直接リンクするわけではないが,こんなことを考える集団だからこそ,メディアのアクセスを確保しておかないといけないっていうことです。

匿名発表~米国事情(毎日新聞)

2006-01-31 07:27:17 | 匿名発表問題(警察→メディア)
不定期で毎日新聞に火曜日に掲載されている海外の匿名発表・実名発表報告は,メディア関係者だけでなく,市民も必見。今回は,米国。【徹底した情報公開法を持つ米国では事件・事故の報道に関して、加害者と同様、一部の例外を除いて被害者も実名にするのが大原則となっている。しかし、日本と同じように、被害者のプライバシーやメディアスクラム(集団的過熱取材)による報道被害が問題となり、警察当局が被害者の氏名を匿名で発表するケースも増え始め、メディアと警察の対立は日常の風景となりつつある】(毎日新聞特集)という。

米国は,基本的に表現の自由を重視する国であり,【犯罪被害者についての米国の情報提供システムは連邦政府、各州政府で異なり、複雑だ。大原則は、米憲法修正第1条の中の「連邦議会は、言論もしくは出版の自由の権利を制限する法律を制定してはならない」という記述だ。このため機密指定の情報を除き「公的情報は公開される」という前提のもとで公的記録の情報公開を定め、被害者情報に関しても性犯罪被害者や児童虐待被害者などを例外として、原則公表している場合が多】く,【ジャーナリスト支援団体「報道の自由のための記者委員会」のまとめによると、米国では少なくとも15州で独自の情報公開法を制定している。他の州もほとんどが通常の法律の中で情報公開に関する項目を設けるなどして、警察情報の公開の原則を確認している。】という。

しかし,【警察側の恣意(しい)的な基準や被害者の意向で実名が公表されないこともあり、メディアが情報公開を求めて訴訟を起こすケースも多い。】という。日本では,警察情報を開示する法的根拠は明らかではなく,訴訟を起こすこと自体困難だ。

毎日は具体例を紹介している。

【97年4月24日深夜、ロサンゼルス郊外。車内で銃の暴発事件があり、当時24歳の女性が背中に銃弾を受けた。銃を暴発させたのは後部座席にいた非番の警察官。もう一人の非番警察官が車を運転していた。
 女性は事件発生直後、警察を相手に実名と捜査情報の公表の差し止めを求める訴訟を起こした。「プライバシーの重要性は国民の知る権利に勝る。名前の特定が公共の利益を果たすことはない」という理由だった。
 裁判所が女性の訴えを認めたため、今度は地元のプレス・エンタープライズ紙が警察に対して公式に被害者氏名の開示を要求。警察がこれに応じなかったため、カリフォルニア州内の公的機関に公文書の開示を義務付けた州公文書法を根拠に訴訟を起こした。】

話は簡単ではなかった。
【ところが、訴訟が進行中の同年6月3日、女性が名乗り出た。詳しい理由は不明だ。弁護士は「状況が変わった」とだけ説明する。後遺症でひざから下が動かず、車椅子生活を余儀なくされていた。実名公表後、父親が取材に応じ、事件の詳細な経緯が初めて明らかになった。
 同紙によると、女性は運転した警察官と前からの知り合いで、たまたまレストランで顔を合わせた。銃を暴発させた警察官はその警察官と一緒で、泥酔していた。女性は車で送ってもらうことになり、助手席に乗ったが、後部座席に座った警察官が銃の入ったバッグに手を入れ、財布をつかもうとして銃の引き金を引いてしまったという。女性側は「偶然で引き金を引くなどあり得ない」と主張した。
 実名公表の10日後、検察は「銃の引き金を故意に引いたという立証ができない」との理由で警察官を不起訴にした。父親は「検事は警察官を守ろうとしたとしか思えない」とコメントした。
 実名が公表されなければ、事件の詳細は闇に葬り去られる恐れもあった。プライバシーと真実のせめぎ合いを象徴する事件だった。】

一般論としては,ニューヨーク・タイムズ紙のウィリアム・ボーダーズ主任編集長は,【「ニューヨークの場合、(性犯罪を除き)警察は常に被害者の名を公表する。警察が情報を公開しない時は警察官が事実を隠したい時だ。米国には情報公開法がある。警察が被害者名を開示しない場合、我々は要求する。『警察は名前を出す義務があるんだ』と。それでも出さなければ訴訟を起こす。米国の報道の自由は深く社会に根付いている」】と語り,【日本が昨年末、被害者の実名・匿名発表の判断を警察に委ねるという閣議決定をしたことについて「日本の決定は驚きだし、恐ろしい。警察にそんな判断を委ねること自体、危険なことだ」と付け加えた。】というのがメーンストリームだろう。

しかし,報道の自由を謳歌(おうか)する米メディアを取り巻く事情も、地域によって違った顔を見せており,【アラバマ州の「アラバマ犯罪司法情報センター委員会」は今月19日、すべての警察記録の被害者名、住所、電話番号、さらに事件・事故の発生場所などの情報を非開示とすることを決めた。】という。

【警察署長が被害者名や一定の事件情報をメディアに提供する裁量権を持つが、地元メディアは被害者情報が得られなくなるとして猛反発している。
 同委員会が警察情報の提供のあり方を検討していた。非開示の理由は(1)二次犯罪から被害者を守る(2)加害者や友人からの嫌がらせを防ぐ(3)メディアの取材攻勢から被害者を守る--などだ。
 委員会で最大の問題となったのがメディアスクラムだった。委員会に所属する犯罪被害者救済団体メンバーが、被害者が事件直後のメディア取材でプライバシーを侵害された状況を報告し、「娘を殺害された数時間後にメディアが押しかけ、身内で悲しむこともできなかった」と訴えた。】

この制度は6月4日に実施されるというが,果たして,本当に実施されるのか,それとも,メディア側が巻き返すのか?

ぜひ,毎日にはフォローしてほしい。




匿名化の議論,今後も起きない~ロンドン大学教授断言!

2006-01-28 10:22:58 | 匿名発表問題(警察→メディア)
毎日新聞が海外での警察発表の実態をシリーズで紹介している。今回(ここ)は,英国と北欧が取り上げられ,被害情報が公共性を帯びているという観点から実名発表が原則とされている旨紹介されている。(英国では生存している被害者には発表するかどうかを確認するが,匿名を希望した場合,警察はその理由をメディアに説明する義務を負う,という)詳細は,ぜひ,毎日新聞をご覧いただきたいが,ロンドンの専門家のコメントだけは引用しておきたい。


ロンドン大学シティー校のマーセル・ベルリンス教授(メディア法)のコメント引用

■■引用開始■■

 警察が事件・事故の被害者名をメディアに伝えるのは、少数の例外を除けば当然の習慣になっている。「被害者の情報は公共が共有すべきだ」という考え方を我々は受け入れている。被害再発防止の観点からも被害の実態を伝えることは重要だし、報道・表現の自由の根幹でもある。私の長いジャーナリスト(高級紙ガーディアンの法律担当記者)、弁護士経験でも、これに異議を唱えた例は知らない。

 被害者が自分の情報を言いたがらない心情は理解できる。私でも事件に巻き込まれ、名前を公表されたら不愉快になるだろう。しかし、そうした個人感情と公共の利益は分けるべきだ。我々は「開かれた社会」の国に住み、「報道・表現の自由」を定めたEU(欧州連合)人権条約の下で暮らしている。それを制限する動きを我々は受け入れられない。匿名化の議論は今後も起きないだろう。

 日本でこうした議論になったのは、被害者に多数の報道陣が殺到する「報道被害」のためだろうが、報道被害と被害者の匿名化とは問題が全く異なる。報道被害はメディアが節度ある報道姿勢を取れば改善できることで、自主的なガイドラインで対応すべきだ。報道被害が匿名化で解決できると考えるなら、大きな誤りだ。

■■引用終了■■

被害者の痛みは分かる。報道被害者の怯えきった声での電話を受けることもあるし,昔の被害について振り返って泣かれることもある。

しかし,人はほかの人との関わりの中で生活をしている。犯罪を防止するためには,ほかの人も含めて収入の中から税金を支払っている。その税金を使って犯罪防止活動や捜査が行われている。この活動が適正化どうかがチェックされうるんだ,という緊張感がないシステムでは,適正な活動は期待できない。実名発表は,緊張感を生じさせるために必要なシステムだと思う。

現実の被害者の多くは警察の匿名発表に反対している!~毎日新聞調査

2006-01-25 18:18:18 | 匿名発表問題(警察→メディア)
毎日新聞が犯罪被害者に警察の匿名発表に対していかに考えるかを調査したことはすでにお伝えしましたが(ここ),その詳細をアップします。被害者の多くが情報が警察内部に止まることに対して,危惧の念を表明しています。なお,実際の紙面では,回答者は実名ですが,ここでは匿名としておきます。

■■引用開始■■

※Q1は「被害者名の発表を実名・匿名のいずれにするかの判断を警察に委ねることに賛成か反対か」
 Q2は「警察による被害者名の発表は原則として実名・匿名のいずれであるべきだと思うか」を尋ねた


①男性(56)
北海道で高校生の長女が前方不注意のワゴン車にはねられ、亡くなる
Q1 反対
Q2 実名
コメント
実名を発表して社会的、公的に扱うことで、被害者の尊厳を守るべきだ。交通死亡事故の場合、加害者側に偏った捜査が助長される懸念がある。判断は報道機関に任せた方がいい。ただし、匿名を望む被害者側の意向は尊重しなければならない。


②男性(56)
北海道で26歳の長男を交通事故で亡くす
Q1 反対
Q2 実名
コメント
判断をすべて警察に委ねれば、誤りを生む恐れがある。被害者が置き去りにされているから、こういう議論が起きるのではないか。報道による2次被害は恐ろしいが、警察は原則として実名で発表し、取材する側が被害者の立場に立った報道を考えて欲しい。


③女性(69)
札幌市で長女が殺害され、容疑者が指名手配中。12月19日で公訴時効
Q1 賛成
Q2 ケース・バイ・ケース
コメント
警察を信頼しているので、任せたらいいと思う。事件直後は被害者の名前を公表されることでマスコミの過熱報道が起き、遺族が嫌な目に遭うので実名は伏せて欲しい。遺族の意向を尊重して欲しい。


④男性(45)女性(42)夫妻
岩手県で酒気帯で居眠りの軽トラックにはねられ7歳の長女が死亡
Q1 反対
Q2 実名
コメント
被害者に決めさせるべきだ。なぜこんな事件が起きたか納得がいかず、黙っていたくない気持ちが強かった。名前が出て中傷の電話もあったが、マスコミ関係者が足を運び、大きく取り上げられた。


⑤男性(58)
茨城県で暴走族の脱会を申し出た15歳の二男がメンバーに暴行され、死亡
Q1 反対
Q2 実名
コメント
被害者の名前を実名で発表した方が事件解決のためになる。警察に判断を任せると匿名にされかねない。報道でも被害者を実名で掲載していいと思う。


⑥女性(39)
茨城県で高校1年の長女が市道脇で倒れているのが見つかり、後に死亡
Q1 反対
Q2 実名
コメント
警察に実名・匿名の判断をする権限はない。分かっていることを公表すべきだ。メディアにも隠さず報道してもらった方が人々の記憶に残り、事件の風化を防げる。事件解決のためメディアに協力してもらう面からも警察に判断の権限を握らせるべきではない。


⑦女性(49)
栃木県で19歳の長女が運転中、飲酒運転のトラックと衝突し、死亡
Q1 反対
Q2 実名
コメント
被害者が主体的に実名・匿名を選べるようにすべきだ。警察が、被害者に対して、情報を操作せずに実名・匿名それぞれのメリット、デメリットをきちんと説明できるか、混乱している被害者らが即時に判断できるかが課題だ。


⑧男性(55)
埼玉県・桶川ストーカー事件で大学生の長女が殺害される
Q1 反対
Q2 実名
コメント
匿名発表では、誰が被害者かさえわからないままうやむやにされてしまう。不祥事を起こしている権力そのものの警察に判断を委ねてしまうことは、民主国家への道を一歩も二歩も後退させる。被害者の意見を聞き、実名で報道するかどうかも含めて報道機関自身が考えるべきだ。


⑨女性(60)
千葉県で男女8人が死傷したひき逃げ事件で重傷を負った被害者
Q1 反対
Q2 実名
コメント
警察は、被害者が捜査状況の開示を求めても情報を抑える傾向にある。被害者も基本的に実名で報道すべきであり、警察は情報を提供した方がいい。被害者は一方的に被害に遭い、何も悪いことはしていない。報道を通じて知人に事件に巻き込まれたことや詳しい状況を伝えてもらえる。


⑩女性(58)  
東京の地下鉄サリン事件で駅の助役だった夫を殺害される
Q1 反対
Q2 実名
コメント
警察は地下鉄サリン事件が起きるまでオウム真理教を野放しにしていた。松本サリン事件では誤認捜査をしていた。警察に対する不満が出てきた時に頼りになるのは報道だと思う。メディアは被害者に配慮し、報道被害にならないよう説明責任を果たして欲しい。


⑪男性(60)
東京のJR池袋駅のホームで立教大生の長男が男に暴行され、死亡
Q1 反対
Q2 実名
コメント
遺族であっても本人の名前を匿名で発表するよう警察に求める権限があるとは思わない。警察に対して捜査権は与えても、被害者の氏名を匿名発表できる権限まで与えたものではない。報道の自由や真実の追究を妨げる結果になる。メディアの判断として被害者に配慮すべきだ。


⑫男性(49)
東京都内の交通事故で小学生だった8歳の息子を亡くす
Q1 反対
Q2 実名
コメント
息子などのケースでは、実名報道によって被害者の存在を認めてもらった。報道各社に任せ、問題があれば各メディアの第三者機関で話し合えばよい。「A君がどこそこで交通事故に遭いました」では訴求力が足りない。警察にもミスがある。メディアのチェックが働く必要がある。


⑬男性(60)  
甲府市で19歳の二女が誘拐され、殺害される
Q1 どちらとも言えず
Q2 一概に言えず
コメント
大事件が起きれば、遺族は大変な状況に見舞われる。発表を匿名にするかどうかで遺族が受ける傷にはほとんど変わりはない。むしろメディアスクラムをどう防ぐか、犯罪者をどう減らすかに専念すべきだ。判断を警察に委ねることを検討していること自体、的はずれの印象を受ける。


⑭男性(57)
甲府市で起きた放火殺人事件で75歳の母親が殺される
Q1 反対
Q2 実名
コメント
匿名発表をした場合、何かよくない理由があるのではと、せんさくするきっかけを与えてしまう。大事件では原則として被害者名は実名発表すべきだ。警察が判断する必要はないのでは。


⑮男性(55)
長野県の松本サリン事件の被害者。妻は現在も療養中
Q1 -
Q2 -
コメント
日本新聞協会などが実名発表が必要だと主張する理由も分かるが、混乱が起きないように警察が匿名で発表しようとする理由も分かり双方に一理ある。現状では、事件発生時は警察が被害者とメディアとの間に入らざるを得ないかもしれないが、互いに理解する努力が必要だ。


⑯女性(63)
松本サリン事件で23歳の二男を殺害される
Q1 反対
Q2 ケース・バイ・ケース
コメント
実名・匿名は警察が被害者や遺族に確認して欲しい。新聞の一読者と言う立場で言えば、匿名報道では実感がわかない面がある。息子にとってみても、実名で報道されることが生きていた証だともいえる。ただ、被害者の置かれている状況はケース・バイ・ケースだ。


⑰女性(52)
長野県などで起きた連続強盗殺人で母親が殺される。容疑者扱いされる
Q1 反対
Q2 実名
コメント
警察が本当に事実をもとにきちんとした仕事をするところであれば考えは変わるかもしれないが、今はそうは思えない。警察はマスコミを利用しているところがあり、都合のいいように動いている。


⑱女性(50)
大阪市立高校1年だった16歳の長男が他校の生徒に暴行され死亡
Q1 反対
Q2 実名
コメント
少年事件では加害者も被害者も匿名で発表されることが多く、事件そのものがうやむやになりかねない。匿名では社会の関心も高まらず、再発防止策も生まれない。被害者が誰で加害者が誰なのかなど警察は事実を淡々と発表して欲しい。報道の段階では匿名にするなどの配慮が必要だ。


⑲男性(43)
大阪教育大付属池田小の児童殺傷事件で7歳の長女を殺害される
Q1 反対
Q2 実名
コメント
被害者も1人の人間として尊厳があり、名前はその象徴の一つ。匿名は、生きていた価値や意味さえも奪ってしまう。被害者が実名で報道されてもその尊厳が尊重される社会であるべきだ。警察・メディアを問わず、被害者・遺族の意思確認を原則として欲しい。


⑳男性(43)
大阪府内で7歳の長女を交通事故で亡くす
Q1 反対
Q2 実名
コメント
交通事故では、警察のずさんな捜査がたびたび問題になる。発表の判断を警察に全部委ねれば、警察の都合で匿名発表され、事実が隠されることにつながり、反対だ。被害者によっては実名で報道されたくないなど個々の事情もあるので、それは記者が被害者に確認すべきだ。


21 男性(63)
兵庫県のJR福知山線の脱線事故で、妻と妹を亡くす
Q1 反対
Q2 実名
コメント
実名発表がなければ、被害者が社会に存在したという事実が公になることはなくなり、社会的に抹殺されることにつながる。警察に被害者の社会性や尊厳を奪う権利はない。メディア側も、節度ある取材ができれば、実名発表でよい。


22 女性(51)
兵庫県で少年10人による集団暴行で15歳の長男が死亡
Q1 反対
Q2 実名
コメント
警察がすべての判断を担うことになれば、捜査ミスの隠ぺいやもみ消しの温床になってしまう可能性がある。マスコミは記事に実名を出す場合、遺族や被害者への声掛けを徹底して欲しい。遺族の中には、実名報道で息子や娘がこの世に生きていた証がほしいと思う人もいる。


23 男性(48)
神戸市でパート従業員だった妻が殺害される
Q1 反対
Q2 実名
コメント
権力側が判断すべき事項ではない。事実を粛々と報道する際は、実名で報道すべきだと思う。メディアの判断で実名・匿名を決めていい。すべての事件を警察側が判断して匿名化という流れになると、情報操作により「真相」が作り上げられてしまうという危機感を持つ。


24 女性(55)
奈良県で18歳の長男を交通事故で亡くす
Q1 反対
Q2 どちらとも言えず
コメント
警察に判断を委ねてしまうのは怖い。被害者との対話が必要ではないか。警察にはまず、被害者の希望を聞いてほしい。せめて、被害者や遺族に説明してから報道発表して欲しい。警察もメディアも、被害者との信頼関係を築くことが大事だ。


25 男性(29)
山口県光市で妻子を少年に殺される
Q1 賛成
Q2 実名
コメント
警察が直接被害者に確認し、承諾が得られた場合のみ実名発表にすればよい。報道機関は、判断を報道機関の自主性・自律性に任せるべきだというが、報道被害に対する責任にどう対処するかが明確でない。節度ある報道が実現すれば、警察発表を拒む被害者も減ってくると思う。

■■引用終了■■

匿名発表するべきだという考え方が少数にとどまっていることの意味をよく考える必要があると思います。

警察の情報コントロール権を強化~犯罪被害者等基本計画案閣議決定

2005-12-27 20:19:08 | 匿名発表問題(警察→メディア)
懸念されていたとおり,【犯罪被害者を支援するため、総合的な対策として政府が初めてまとめた犯罪被害者等基本計画案が27日の閣議で正式決定された。計画には、被害者を実名で発表するか、匿名にするかは、「警察が個別に判断する」という項目が入った。】(朝日新聞)早くも,沓掛国家公安委員長は「被害者が実名を希望するならば、意向を尊重しながら総合的に判断する」と述べ,原則,匿名発表をする構えだ。

メディアは,この問題について,もっと早くから取り組むべきであった。決定直前になって【匿名発表では被害者の周辺取材が難しくなる。加害者の供述や警察情報に偏った報道になりがちだ。被害者特定のため過熱取材に走るメディアも出てくる。 本当に被害者が匿名を望んだのか、検証も困難だ。警察が「誘導」したり、捜査ミスや不祥事を隠すため匿名にしたりすることもないとは限らない。】(読売12月26日付社説)などと言い出しても遅い!(個人的には神奈川方式を推します)

もちろん,もう少し早くから取り組んでいたメディアもあったが,こういう社説をパブリックコメントを受け付ける前に展開しないとだめだ。

この日の朝日は,【岡村代表幹事は「少なくとも、これまでのように無条件に名前を公表されることがなくなり、進歩だ」と肯定的。「実名を発表されると、過熱取材で外にも出られない。マスコミは『知る権利』というが、こちらは『生きる権利』を阻害されている」と訴えた。高橋代表世話人は「実名発表されたからこそ、夫が搬送された病院に駆けつけることができた。匿名では『被害者はどういう人なのか』と周囲の人に取材され、ダメージがかえって大きくなるのでは」と話した。】と両論併記で,いかにも弱腰。この点は,産経も同様。

毎日は次のとおり,しっかり批判している。もちろん,朝日,産経もこれまで批判したことはあるだろうが,決議を伝える記事とともに批判することに意味があると思う。

□□引用□□
◇メディア側のチャンネルを狭める恐れ

 事件・事故の被害者が誰かという情報は、誰が容疑者なのかと同様、メディアにとって取材の根幹である。政府が被害者の実名・匿名発表の判断を警察に委ねたことは、被害者取材へのメディア側からのチャンネルを狭める恐れがある。「実名」が分からなければ犯罪が起きた背景の取材はできず、警察が適正な捜査活動を行っているかチェックすることも妨げられる。

 近年、警察が被害者を匿名発表するケースが増加している。「犯罪に巻き込まれたことを一般に知られてほしくない被害者が増えている」などが理由だ。犯罪被害者等基本計画もそのような被害者の意向を反映している。だが、犯罪の被害に遭うことが「知られたくない」とすれば、別の議論が必要なはずだ。被害者たちを偏見や好奇の目で見ていないか、社会全体で考え直すべきだ。

 警察が「実名発表」することと、メディアが「実名報道」することは、全く別のことだ。メディアは犯罪の態様や軽重などを判断し、警察が実名で発表しても自らの判断で匿名で報じることがある。その判断材料の中には被害者・遺族の意向が含まれる。そのためにも被害者とメディアをつなぐチャンネルは必要だ。事件発生直後に遺族に殺到するような取材についてメディア側は真剣に反省し、さらに対応の工夫を重ねる必要がある。

 被害者名の発表について警察当局は、これまでの運用と変わらないと説明する。しかし、警察庁は従来「捜査上の支障」も実名・匿名発表を決める際の判断基準だと説明してきた。今後も第三者のチェックが入らない「捜査上の支障」の判断で被害者の名前が伏せられる可能性が出てくる。捜査ミスの隠ぺいにつながりかねない。

 個人情報保護法の全面施行(今年4月)などで個人情報への過剰反応が広がる中、警察の匿名発表が今後さらに増加し、「匿名社会」が加速する懸念が強まる。実名・匿名発表の判断を警察に委ねる項目は早期に見直すべきだ。【伊藤正志】

神奈川県警の発表方針はどうでしょうか~実名・匿名発表問題

2005-12-18 15:04:41 | 匿名発表問題(警察→メディア)
毎日新聞の臺記者の情報によると,神奈川県警では,事件事故を発表する際,匿名での報道を希望する被害者については,その旨の注意書きが付記されるという。これは,とってもバランスがとれた解決方法のような気がする。

この発表を受けたメディアは,警察発表のまま,匿名で発表することもできるし,本人に接触してどうしても実名での報道が必要だから実名で報道したいと説得することもできる。

この方式によって,被害者の情報がメディアに伝えられ事実の正確性の担保がなされるし,匿名を希望する被害者の要望にも応えることができる。

メディアは,この神奈川方式を広げるようキャンペーンを張ってはいかがでしょうか?

それから,実名発表と実名報道とは情報流通の全く違う段階での議論なので,そこもきちんと伝わるように報道してほしいものです。現在,基本的に被疑者は実名発表されていますが,それ自体,勘違いされている方もいるようです。自分たちのことなんだから,メディアもきちんと伝えないと…。

参照:http://blog.goo.ne.jp/tokyodo-2005/e/2e2aa07cadca7791975bab994eff8e69
http://blog.goo.ne.jp/tokyodo-2005/e/d8b3b40d4263a017fef50f4fb4e8124f


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今度は秋田で~警察匿名発表の地固め…

2005-12-16 08:14:22 | 匿名発表問題(警察→メディア)
鳥取が人権擁護法案(をさらに悪化したもの)を前倒ししたのに続いて,秋田が犯罪者基本計画案をほかの自治体に先駆けて公表し,意見を求めていたらしい(毎日)。警察が発表する際に,匿名・実名を判断するというものになっており,中央の問題ある政策を地方さきがけパターンが相次ぐことになりそう…。

毎日は次のとおり。

□□□

犯罪被害者を支援する県の犯罪被害者等支援基本計画(仮称)をめぐり、毎日新聞など県内の報道機関15社で作る「秋田報道懇話会」は8日、事件事故の被害者を実名・匿名のいずれで発表するかの判断を事実上、警察に委ねる項目を削除するよう求める意見書を県警の杵淵智行本部長あてに提出した。

 政府の犯罪被害者等基本法の施行(05年4月)に伴い、地方自治体には被害者支援施策の策定が義務付けられた。県警や県庁の職員らによる「県被害者支援連絡協議会」(黒丸幹夫会長)が基本計画の骨子を固め、11月21日に寺田典城知事に提出。同計画には、被害者を実名・匿名で発表するかの判断を事実上、警察に委ねる項目があり、政府の基本計画案と同じ内容をいち早く盛り込んだ。この項目について、日本新聞協会や日本弁護士連合会(日弁連)は反対を表明している。

 懇話会の申し入れ書は「実名は正確で客観的な取材、検証、報道に欠かせない」としたうえで、「県の基本計画が、批判の強い内閣府の計画案を引き写していることは極めて遺憾。警察の恣意(しい)的運用を招き、国民の知る権利を脅かしかねない項目の削除を求める」としている。【馬場直子】

□□□

情報を警察が独占する社会には住みたくない!

犯罪被害者の多くは,実名発表(報道ではない)を希望~毎日調査

2005-12-05 05:27:48 | 匿名発表問題(警察→メディア)
犯罪被害者等基本計画が今月中に閣議決定されるが,その計画の中で,警察が事件事故を発表する際に犯罪被害者の氏名を実名にするか否かを警察の判断に委ねるとの方針が決まりそうなことはこれまで書いたとおりだが,毎日新聞の調査によって,実は,犯罪被害者の多くは,警察が判断することに反対し,実名発表を原則とするべきだと考えていることが分かった。基本計画検討会では,被害者は,警察による判断を希望している旨主張されたが,ミスリードであったことが明らかとなった。

毎日新聞の11月29日メディア欄(紙面上では25人に対するアンケート結果が実名入りで表になっています)

【事件・事故の被害者名の報道機関への発表はどうあるべきか。政府の犯罪被害者等基本計画検討会がまとめた基本計画案で、被害者を実名・匿名のどちらで発表するかの判断を警察に事実上委ねる項目が盛り込まれたことについて、毎日新聞は被害者・遺族25人(このうち1人は夫妻で回答)に意見を聞いた。その結果、21人が反対を表明した。また、19人が原則として実名発表すべきだと答えた。検討会は「犯罪被害者等の匿名発表を望む意見」との表現で被害者側の意見を集約したが、被害者の意識とかけ離れている実態が浮かぶ。【まとめ・伊藤正志】

 ◇当局発表を信頼の声も

 全国の本社・支局を通じて、事件・事故の被害者・遺族らに取材した。

 質問項目は(1)被害者名の発表を実名にするか、匿名にするかの判断を警察に委ねることに賛成か、反対か(2)警察による被害者名の発表は原則として実名、匿名のいずれであるべきだと思うか(3)理由は何か--の3点。

 「反対」意見の理由としては「警察に判断する権限はない」との意見や、「被害者も人間としての尊厳があり、名前はその象徴」との意見などがあった。えん罪や誤認捜査を理由に、メディアのチェック機能に期待する意見もあった。一方、「賛成」意見としては「警察を信頼している」などの意見のほか、メディアによる過熱報道を懸念する声もあった。

 発表の原則実名・匿名については、明確に「匿名」と回答したのは1人だった。「匿名」の理由は「報道被害にどう対処するか明確でない」だった。一方、「実名」の理由としては「報道の自由や真実の追及を妨げる結果になる」「事件解決のためメディアに協力してもらう面がある」などの意見があった。しかし、「実名」とする意見でも多くの人から「被害者に配慮して節度ある取材をすべきだ」「報道の際は被害者の意向を尊重すべきだ」などと、メディアへの注文もあった。このほか「少し時間をおいた後で実名を明かすなどの工夫が必要」との意見もあった。】