情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄

知らなきゃ判断できないじゃないか! ということで、情報流通を促進するために何ができるか考えていきましょう

共謀罪と同じ法案でつくられるサイバー監視システムの基となる条約の問題点

2006-05-05 23:38:59 | 共謀罪
共謀罪と同じ法案で新設されようとしているサイバー監視システムについて,民主党が「ネット上のあらゆる行為が検閲や監視の対象になる可能性があります」と危惧していることはここ←でお伝えしたとおりだ。そもそも,この法案は,日本が,2004年通常国会でアルバニア、クロアチア、エストニア、ハンガリーにつぐ5カ国目として承認したサイバー犯罪条約に基づくもの。この条約は,個人のパソコンを含むあらゆるパソコンが海外の捜査機関の捜査対象となることを容認するもので,批准に至っているのは,アルバニア,ブルガリア,クロアチア,キプロス,デンマーク,エストニア,フランス,ハンガリー,リトアニア,ルーマニア,スロベニア,マケドニア,ウクライナの13カ国のみという状況(2006年5月5日現在)。なぜ,日本はこの条約の国内法化をインターネット上での十分な議論もなく推し進めようとしているのか?

この条約は,欧州評議会(欧州43ヶ国、日本、米国、カナダ、メキシコがオブザーバー)によって策定され、2001年(13年)11月8日に採択されたもの。同月23日に日本を含む29カ国が署名しているが,日本以外のアジア諸国は署名していない。

 そもそも,この条約は,コンピューター犯罪に関する途上国の国内法を先進国の利害に合う形で法整備させるためにつくられたものとされている。

 したがって,欧米先進国は,自国の主権やIT産業が大きく制約されるおそれがあるので、IT産業からの消極的な意見が強いこともあり、フランス以外の先進国は批准していない。

 この条約の内容だが,①コンピュータ・データ及びコンピュータ・システムの秘密性、完全性及び利用可能性に対する犯罪(今回の法案では,ウィルス作成罪)などを新設するとともに,②コンピュータという手段によって行われる犯罪全般に関する証拠の収集方法などについて規定している。

 究極的には,個人のパソコンを含むあらゆるパソコンが国内外の捜査機関の捜査対象となり,裁判所の許可がなくとも捜索・押収・監視・盗聴が行われ,メールのリアルタイム傍受までも行われることになりかねないものだ。(末尾条約の一部参照)

 Linux OSによるオープンソース運動などの新しい考え方やコミュニケーションのグローバル化との関わりを否定し,マイクロソフト中心のネットワーク秩序の維持に資するものとなっているという見方もある。

 今回の法案では,条約の一部が国内法化されようとしているに過ぎないが,それでも,民主党が,

①政府案ではネット上のあらゆる行為が検閲や監視の対象になる可能性があります。

②メールの受信記録、ある個人がどのサイトを閲覧したしたかというような情報を90日間保存するよう、令状なしでもプロバイダ等に要請できるようになります。

③ある一人のパソコンの差押令状があれば、同じサーバーに接続している他のユーザーの受信メールなどもごっそり押収可能になります。

として強く反対せざるをえない内容になっている。


もう一つの問題は,このサイバー法案が,共謀罪と同じ法案の中でつくられようとしていることだ。しかも,法案を読んでもよく分からない…(ここの「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」参照)。悪法は国民に分からぬまま,セットで通してしまえという与党の意図が明らかではないだろうか。


(条約はここ←)
第二十一条 通信内容の傍受
1 締約国は、自国の権限のある当局に対し、自国の国内法に定める範囲の重大な犯罪に関して、コンピュータ・システムによって伝達される自国の領域内における特定の通信の通信内容についてリアルタイムで次のことを行う権限を与えるため、必要な立法その他の措置をとる。

a 自国の領域内にある技術的手段を用いることにより、当該通信内容を収集し又は記録すること。
b サービス・プロバイダに対し、その既存の技術的能力の範囲内で次のいずれかのことを行うよう強制すること。

i 自国の領域内にある技術的手段を用いることにより、当該通信内容を収集し又は記録すること。
ii 当該権限のある当局が当該通信内容を収集し又は記録するに当たり、これに協力し及びこれを支援すること



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JAPAN-VISITとUS-VISIT統合へ~真相を解説するメールが届きました

2006-05-05 22:35:40 | 共謀罪
JAPAN-VISITとUS-VISITの「親密な」関係を解き明かすメールが届いたので次に引用します。

■■引用開始■■

共謀罪と一体の入管法改正の危険な中味
国境を超えて移動する者を潜在的犯罪者・テロリストとみなす国境管理
監視されているのは外国人だけでなく国境を超えて移動する市民全体である。
日本の入管システムの開発を受注したアクセンチュア社は
US-VISITを100億ドルで落札した会社である。

                            2006年5月5日

                               海渡 雄一

1 アクセンチュア社が日本の入管システムのソフトウェア開発を10万円で落札
 現在、衆議院で可決され、連休明けから参議院で議論されることとなっている入管法改正案は極めて重要な内容のものである。

 まず、保坂展人衆議院議員のブログから引用する。
 http://blog.goo.ne.jp/hosakanobuto/e/9ef564885df741578140e33449809c7b

 入管法審議で問題にした指紋情報・顔写真データなどの生体情報の「認証装置及び自動化ゲート」のソフトウェア開発と実験の業務を、わずか10万円(運営業務費用9万円・成果物作成費用1万円)でバミューダに本社を置くアクセンチュア株式会社が落札(平成17年9月12日)している事実が記されていた。あまりに低額なので、法務省大臣官房会計課入札室がヒアリングした記録が公表されている。よく読んでみよう。

「本件実証実験・試行運用の運営に当たって,契約業者は,
①海外機関での生体情報認証技術を利用したシステムの設計,開発,プロジェクト管理を行った際の成果及びノウハウを活用し,必要最小限のカスタマイズで作業を履行することが可能なこと,
②入国管理局の刷新可能性調査,最適化計画策定で蓄積した成果及びノウハウにより効率的に作業を実施することが可能なこと,
③アクセンチュア(株)は,会社全体の方針として,国土安全保障領域に力を入れているが,入国管理局向けのカスタマイズにより,成果及びノウハウの蓄積を行い,潜在顧客を開拓するための実行能力を強化することが可能であるので,経営戦略の一環として,入札価格により作業を行うことなどから,当該価格で履行可能と判断したため」とある。

この業務の海外での実績があると言ったら、どこなのか。昨日、入管局長に訊ねた。
「アクセンチュアは、アメリカでUS-VISITを手がけておりまして」という答弁だっ
た。日本が2番目に導入するわけだから、アメリカしか該当国はない。ところで、なぜ10万円なんだろう。いくら経験があるとは言っても、年間750万人の外国人の指紋・顔写真の採取とイミグレ版ETCのような「自動化ゲート」の実験となれば、どう考えても10万円はないだろう。その謎を解くヒントが次に記載されていた。

当該契約期間中における他の契約請負状況 「出入国管理業務」及び「外国人登録証明書調整業務」の業務・システムの最適化計画策定(法務省入国管理局)

 同社は現在、日立製作所が閉鎖系のレガシーシステムで構築してきた出入国管理局システムの「刷新可能性調査」(平成16年・5880万円)を受注して、平成17年1月に「出入国管理システム刷新可能性調査報告書」を発表している。さらに、アクセンチュア社は、同調査を土台にした「最適化計画」を(平成17年6月・9492万円)で受注している。「最適化計画の仕様書」には、「入国管理局出入国管理情報管理室ならびに、IC旅券など認証システム試行運用及び自動化ゲートシステム実証実験(仮称)の受託業者に対して、適宜助言を行う」と書かれている。この9492万円の契約を結んだアクセンチュア社が、3カ月後にたった10万円でこの業務に自分で名乗りをあげた。助言どころか、自社を指名したことになる。

さらに、アクセンチュア社は「 次期登記情報システム開発に係るプロジェクト統合管理支援業務(法務省民事局)」 「検察総合情報管理システムのシステムテスト,導入等作業(法務省刑事局)」も請け負っているということもわかった。バミューダに本社置くアクセンチュア社は、私たちが知らないうちに、法務省関係だけでも、「登記」「検察」「入管」のデータベースに深く関与し始めている。

2 国境管理における生体認証の導入の二つの側面
(1)日本人にはIC旅券、外国人には指紋採取
 このアクセンチュア社の落札にはどのような意味があるのであろうか。
 国境管理における生体認証の導入については二つの側面がある。一つは自国のパスポートの中に生体認証情報を組み込むことであり、もう一つは外国人の入国の際に顔写真と指紋を採取して入国審査や犯罪捜査などに活用することである。
 この二つのことは当局によって故意に区別され、別々に議論されているが、この二つのことは一体的に議論がなされるべきであり、世界中の法執行機関が共同して進めている人の国境を超える移動について、ITテクノロジーを利用した飛躍的な規制強化という文脈の中で統一的に捉えられるべきである。

(2)便利だけですまないIC旅券の導入
 外務省は2006年にIC旅券を導入しようとしている。この旅券の特徴はIC(集積回
路)を搭載し、国籍や名前、生年月日など旅券面の身分事項の他、所持人の顔写真を電磁的に記録することである。IC旅券もこれまでと同じように冊子型であるが、中央にICチップ及び通信を行うためのアンテナを格納したカードが組み込まれる。我が国が発行するIC旅券の生体情報としては、今のところ「顔画像」のみを記録することとされている。

(3)外国人には入国の際の個人識別情報の提供義務付け
 法務省は現在開会中の通常国会に、原則16歳以上の外国人が入国する際、指紋や写真などの個人識別情報の提供を義務づける出入国管理及び難民認定法の改正案を提出している。この法案は要注意人物のリストと照合し、犯罪者の上陸を水際で防ぐことを目的としている。同様の手法を導入しているのはアメリカだけとされる。
 現在法務省が準備中の法案においては、提供を義務づける個人識別情報を「指紋、写真その他の個人を識別することができる情報で、法務省令で定めるもの」と定義しており、その提供を拒んだ場合は、退去を命じられるとされている。
 また、法案では、退去強制の対象に「市民や国家を対象としたテロ行為を犯す恐れがあると法相が認定した者」が新たに付け加えられている。入国する航空機や船舶の長に、乗員・乗客名簿などの事前提出を義務づける規定も設けられる。
 まさに、外国人の多くを潜在的な犯罪者もしくはテロリストと見なして、指紋と顔写真の提供を義務づける世界に類を見ない異常に厳格な出入国管理体制が、アメリカに続いて我が国において世界に先駆けて構築されようとしている。

3 世界的な人の移動監視のシステムを構築しようと指向するUS-VISIT
(1)US-VISIT
 アメリカでは2004年9月以降、(1)14歳未満(2)80歳以上(3)公用ビザ所有者などを除く、原則としてすべての外国人渡航者から、入国時に指紋を採り、顔写真を撮影している。しかし、このような措置はヨーロッパ諸国はもとより、他の世界の地域においてもまだ実施されていない特異な制度である。
 我が国はこの極端な外国人敵視の個人情報収集制度をアメリカにならって、世界の中で、真っ先に追随して実施しようとしているのである。
 
(2)アメリカでも反対のあったアクセンチュア社との契約
 アクセンチュア社はこのUS-VISITシステムを2004年に100億ドルで落札している。しかし、このとき、アメリカ議会では、民主党議員のローザ・デラウロ氏がバミューダに籍を置く節税企業にこのような事業を委託することは妥当でないとして、論陣を張った。2004年6月9日には連邦下院歳出委員会において、外国会社と国土安全保障に関する契約を禁止するための改正案が35対17で可決されている。

(3)国際共通IC旅券
 2001年の米国同時多発テロ以降、テロリストによるパスポートの不正使用を防止する観点から国際会議でも活発に議論されてきた。また、米国がビザ免除継続の要件として各国にバイオメトリクスを採用したパスポートの導入を求めたことがこの動きに拍車をかけた。パスポートは自国のみでなく世界中の国々で使用されることから国際的な相互運用性が重要とされ、ICAO(国際民間航空機関)において国際標準化作業が進められた。そしてICAOは、2003年5月、記録媒体として非接触型ICチップを選択し、ICチップに記録する必須の生体情報として「顔画像」を採用(各国の判断で指紋、虹彩を追加的に採用することを認めている。)した。

(4)各国の法執行機関による情報の共有化
 従来から、入管と警察などの関係行政機関との協力は規定されていた(同法61条の8)が、2005年の改正によって新設された同法61条の9において、外国の入管当局に対して、「その職務(出入国管理及び難民認定法に規定する出入国の管理及び難民の認定の職務に相当するものに限る。次項において同じ。)の遂行に資すると認める情報を提供することができる。」とされた。
 しかし、政治犯罪、日本国内で犯罪とされていない場合、相手国が要請に応ずる保証のない時を除いて、提供された情報を「当該要請に係る外国の刑事事件の捜査又は審判(以下この項において「捜査等」という。)に使用することについて同意をすることができる。」とされている。
 ここでは、入管行政と刑事捜査を行う警察との垣根が、国境を超えて融合しつつある姿を確認することができる。
 つまり、日本の入管が集めたアメリカ人の顔写真と指紋はアメリカの警察に提供される可能性があるし、逆にアメリカの入管当局が集めた日本人の顔写真と指紋は日本の警察にも提供されるのである。データベースごと共有するところまで、行き着きかねないほど、各国の入管当局と捜査機関は一体化の方向を強めている。

(5) 第12回ARF閣僚会合声明
 2005年6月18日、カンボジアで開催された第10回ARF閣僚会合で採択されたテロ対策協力声明はテロ対策のために人の移動に関して厳しく制約を科していく方向を確認している。
 2005年7月29日(金曜日)、ラオス・ビエンチャンで開催された第12回ARF閣僚会合で採択された「テロリズム及び他の国境を越える犯罪に対する闘いにおける協力強化に当たっての情報の共有及びインテリジェンスの交換並びに身元証明書の安全性確保に関するARF声明」では、「これまで以上に関連情報及びインテリジェンスを交換すること、特にテロリスト及びその他の国境を越える犯罪活動に関する情報共有及び交換のための協力を強化すること。」「バイオメトリクス認証の機械読みとり式旅行文書の採用における協力を促進。」などが規定されている。

4 出入国管理業務のコンピュータシステムの統合が鍵
(1)目標はデータベースの統合的運用
 旅券に対するバイオメトリックスの導入と同時に進められているのが出入国管理に関するデータベースの統合的運用である。
 「入国管理局では,出入国審査総合管理システム等の既存システムのデータベースを外国人出入国情報システムに統合し,データベースの一元化等を図ってきたところ,平成16年度においてはシステム機器の更新,データベースとの接続により,単一の端末から複数のシステムのデータ検索が可能となり,外国人の入国から出国までの記録が一元化される等一層の業務の適正化,効率化が実現されることとなった。」
(入管白書より)

(2)アクセンチュア社の提案するデータベースの統合的運用
ここに、2005年1月に法務省に提出された一通の報告書がある。作成者はアクセンチュア社である。タイトルは「出入国管理システム刷新可能性調査報告書」である。
http://www.moj.go.jp/KANBOU/JOHOKA/SAITEKIKA-KOBETSU/ko-05.pdf
 この報告書こそ、この外国人から指紋を採取する入管法改正と日本人に対するIC旅券の導入を提案しているのである。
 コンピューター・システムの提案となっているが、その実態はUS-VISITと統合運用できるシステムの開発なのである。
 アクセンチュア社のシステムが完成すれば、アメリカの入管を通過する際に取得された指紋を、日本の入管と警察はデータベースの統合運用によって、即時に検索できるようになるだろう。
 他方で、日本の入管当局に蓄積された個人情報は、アメリカの入管当局だでなく、FBI,CIAからも即時検索可能となる可能性が高い。ここに存在するはずの技術的障壁を取り除くのが、アクセンチュア社の開発するシステムということになるのである。

5 テロ対策による国際人権保障システムの破壊
(1)人の移動の自由化という価値の否定
 人の移動の自由は、人の思想良心の自由や表現の自由などのさらに根底をなす基本的な自由である。グローバリゼーションは人と物の国際的な流れを促進するものであり、EU憲章などもその域内についてではあるが、人の移動の自由を大きな目標に掲げていた。 EU内における移動・居住の自由はマーストリヒト条約第18条によって保障されるEU法上のもっとも重要な基本権とされる。この権利を具体化した共通国境管理の漸進的撤廃に関する協定(85年シェンゲン協定)及び90年に締結されたシェンゲン実施条約はその適用範囲を拡大しており、1999年5月1日に発効したアムステルダム条約は、「シェンゲン・アキをEUの枠組みに統合する議定書」の採択により、シェンゲン協定及びその関連規則(総称「シェンゲン・アキ」)をEUの枠組みに取り込み、同条約発効後5年以内に履行措置を講ずることとした。しかし、世界経済のグローバル化は南北格差を拡大し、地域的な紛争とテロなどを続発させてきた。このような情勢の変化によって、人の移動そのものを敵視し、監視するシステムがアメリカを中心としてEU諸国も巻き込んで進められようとしているのである。テロとの闘いという動向の中で人権・自由が死滅しつつあるのである。

(2)テロ対策としての生体認証の有効性とその限界
 確かにテロリストによる犯罪や越境組織犯罪を防止するためには人の移動を監視
し、あらかじめ収集されているテロリスト・組織犯罪者データベースとの照合を行うことは有効な手段となりうる。
 しかし、このような規制を強めたとしても、憎しみの連鎖の中で国家暴力によって肉親を殺された者がその報復のために自爆テロの実行者となることを食い止めることはできない。あらかじめテロリスト・組織犯罪者としてデータベースに搭載されていない者による犯行を食い止めることはこのシステムでは原理的に不可能である。現に、最近の自爆テロ実行犯はあらかじめマークされていない女性や若者による犯行が増加している。

(3)国民的討論の不在
 外国人に対する指紋の採取という問題に関していえば、我が国では、在日韓国人の方々を中心として永住者に対する指紋押捺制度が外国人登録証の常時携帯制度と並んで人権侵害であることが繰り返し指摘され、これらは1992年6月入管法改正の結果廃止された。しかし、永住者は除かれているとはいえ、外国から日本に観光に来る一般市民からも指紋と顔写真を採取するという計画が大きな国民的討論も抜きに導入されようとしていることに日本国民が外国市民に対して民主主義的感受性を欠如しているのではないかと大きな危惧を抱かざるを得ない。そして、このことが振り返って日本国民の人権保障を決定的に後退させかねないことを指摘したい。

(4)少数者保護上の問題点と技術的な限界
 また、このシステムが広範に使用されるためには、ケガ・病気・先天性欠損などによって、生体認証が出来ない人々にどのように対応するのか、このシステムの広範な導入によって不当な差別を引き起こす可能性がないかを検討しなければならない。また、生体認証も万全ではなく、経年変化によって認証が出来なくなったり、複製によって破られたりする可能性がある。生体情報は生涯不変であるが故に、一度複製によって破られてしまうと一生安全性を回復できないという致命的な問題点を持っている。

(5)人権侵害の発生は不可避
大きな問題は、生体認証による国境管理が強化されることにより、様々な人権侵害が引き起こされることは不可避であるということである。この制度は技術的に精度を上げていくことは可能でも、精度は100パーセントではない。絶えず蓄積データとのミスマッチや誤認識の可能性を抱えている。この場合にテロリストと指示された個人が誤りを立証することは不可能に近い。テロリストと誤って判断された者は、生命の権利を含めて深刻な被害を被る可能性がある。このことは、2005年7月22日イギリスにおける地下鉄テロ事件の直後に発生した外国人誤射殺事件の例に端的に示されている。
 自国民の旅券に対するバイオメトリクスの導入の義務づけは、ごく例外的な犯罪の摘発のためにすべてのパスポート所有者のプライバシーの権利、自己情報コントロールの権利を犠牲にし、えん罪に類似した悲劇的な人権侵害を不可避的に生じさせるだろう。
 また、外国からの入国者からのバイオメトリクス採取制度の導入は、諸外国の人々への監視を強化する態度、あるいは非友好的な態度とみなされ、日本と諸外国との国際関係をより不安定なものとし、戦争やテロの潜在的な危険性を高めているといえる。

(6)制度の透明性の欠如
 また、プライバシー情報を最も濫用する可能性があり、その侵害性が顕著なものが警察と法務行政による濫用である。しかし、データベースの連結の禁止や個人情報の開示訂正の権利なども、捜査機関や入管の収集する情報では除外されている。犯罪予防目的、国際捜査共助、入管事務に関連する個人情報ファイルは個人情報ファイル簿の作成そのものが免除されている(行政機関個人情報保護法7条)。開示請求そのものが制度的に不可能なのである。このように、制度の根幹部分は市民から全く見えず、外側からチェックするシステムも皆無というのが現状である。

6 国の基幹的治安情報のすべてを外国に提供して、主権ある独立国家といえるのか
(1)政府は独立国家として矜持を持て
 このように、この外国人からの指紋採取とIC旅券という我が国の生体認証旅券システムはアメリカのUS-VISITと連結されている。むしろその一部と言っていいであろう。そして、世界中で、このシステムに最初に統合されようとしているのが、世界の中で日本であるということが、私たちの国家の国際社会における位置を示している。
 国の入管情報や、検察情報など基幹的治安情報データベースを、外国に売り渡し
て、日本は主権ある独立国家といえるのか。
 人権侵害の危険を論ずる前に、そのことの妥当性が問われなればならない。
 アクセンチュア社に入管システムのシステム開発を委ねることが、今後いかなる事態をもたらしうるかについて、日本政府は十分な調査と検討を行ったのか。国会で徹底して追及して欲しい。

(2)国境を超えた人の移動の全面的監視システムを許してよいのか
 この制度は、日本に来日する外国人に対して向けられているのではなく、日本人と外国人に等しく向けられた国境を超えた人の移動に対する全面的な監視システムなのである。監視されているのは、外国人ではなく、国際的な法執行機関の連結体から見た世界市民(国境を超えて移動しようとする個人)の全体である。生体認証旅券の問題は外国人の問題ではなく私たち市民全体の問題なのである。
 外国の入管当局から見れば我々も外国人であることを自覚し、自らの自己情報コントロール権の問題として、生体認証旅券問題に取り組む必要がある。
 
■■引用終了■■


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共謀罪が特に日本で危険な理由~人権を守るシステムがない

2006-05-05 21:08:54 | 共謀罪
共謀罪について,外国にもあるではないか~という理由から賛成する人もいるだろう。しかし,そもそも,共謀罪のある外国でいかなる問題が発生しているか,明らかではない。少なくとも,米国では問題が多発していることは,ここ←などで紹介した。今回は,特に日本でこのような法案を成立させることの危険性について少しご紹介したいと思います。刑事事件の流れにあまりなじみのない方はこちら←を参照しつつ,お読み下さい。


第1
一番の問題は,日本では取調の過程を録画していないことです。「取調の可視化」といわれるこの問題は,日本弁護士連合会が中心になって,可視化,すなわち,録画を実現しようと努力してきました(ここ←参照)。しかし,警察はまったくそのような制度を導入する気はないようです(ここ←参照)。

これに対し,海外では先進国のみならず,アジアの国々も導入しています(ここ←の28頁以降参照)。

取調が密室で行われると自白の捏造などにつながります。特に共謀罪は,実行行為がないために,証言のみで有罪となる恐れの大きい犯罪ですから,自白の捏造の恐れがあるシステムのもとで,採用されると非常に危険です。

第2 
逮捕してから刑事事件として起訴するまでの間に身柄を拘束される期間は,日本では原則23日間ですが,先進国では2日くらいとされています(ここ←参照)。この間に日本では過酷な取調が行われ,冤罪がつくり出される恐れがあるのです。

←というのは,間違いで,「警察内で勾留するのは」…ということでした(コメント欄参照)。すみません。
ただし,英国では,起訴自体が逮捕から4日以内に行われると定められているようです。そのほかの国については,警察署ではない施設に一定期間勾留することが可能です。ただし,逮捕はしても,勾留するかどうかを判断する際に厳格な判断がなされているという実態はあるとは思います。しかし,それはシステムとは違いますので…。


第3(訂正:第2と合わせてお読みください)
さらに代用監獄という制度が日本ではあります。。逮捕した後,裁判所が身柄を20日間(実際にはまず10日,そしてさらに10日延長する)拘束してもいいという決定をして合計23日間の身柄拘束ができることは第2で指摘した点ですが,この20日間を警察の留置場に入れることができるという制度です。

結局,警察での拘束が日本のように長期間行われるのは,ほかにあまり例がないようです。

この制度によって,日本では,警察に身柄を拘束され,朝早くから夜遅くまで取調が行われているのです(ここ参照←)。



以上の3点のほか,刑事裁判の有罪率の高さなどの問題もあります。

結局,日本では警察が特定の団体・人物に目をつけて強引に逮捕したうえ,自白を捏造して有罪判決を受けさせるということが可能なシステムとなっているということです。

例えば,松本サリン事件では,被疑者が分からないにもかかわらず,河野さん方を殺人容疑で捜索差押することを認め,そのまま河野さんを自白に追い込もうとしたりしました。

もちろん,一般の警察官は熱心に職務に励んでいると思いますが,それとシステムをいかに適切なものにするかは別の問題です。

日本では冤罪を防ぐためのシステムが先進諸国に比べ,非常に脆弱なものとなっているのです。

諸外国で導入しているから…というのなら,まず,冤罪を防ぐためのシステム-最も急がれるのは取調の録画化(可視化)-についても導入をする必要があるのではないでしょうか。

そちらを放置したまま,共謀罪を成立させようというのはちょっと順番が違うのではないでしょうか。



★そして,警察の自由弾圧の実態は今年のメーデーでも明らかとなった…。動画を見て下さい。警察が平和的なデモ参加者に対し,いかに不当な逮捕をしているかが分かると思う。この動画を多くの人に伝えて下さい。


以下,ここ←の引用

「2006年4月30日(日)、「自由と生存のメーデー06」の集会・デモが開催され、100名近くの人々が「プレカリアート(不安定雇用層)」をとりまく労働環境の問題についての企画に参加。しかしデモの当初から警察が不当に介入を行ない、DJをサウンドカーからむりやり引きずりおろして「道交法違反」を理由に逮捕。このとき混乱にまきこまれた一名を「公務執行妨害」で逮捕。警察はさらにサウンドシステムを積んだトラックを盗奪し、機材などを積んだまま勝手に運転して持ち去りました(5月1日奪還)。また、デモコース終盤・渋谷ハチ公前を過ぎたあたりで「MAYDAY」の垂れ幕を掲げたバルーンを公安警察が強奪しようとして現場が混乱、この過程で一名を「公務執行妨害」で逮捕。まったく不当な暴挙です。(詳細1・2、当日の動画)
 5月2日、逮捕による身柄拘束満期で検察送致&激励行動。「道交法違反」で不当逮捕されたDJは、勾留請求されずに5月2日に釈放されました。警察の無法なやり方に検察さえもが勾留請求を断念したわけですが、「公務執行妨害」で逮捕された二名は勾留が決定され、依然として身柄を警察署内留置署(代用監獄)に拘束されています(詳細)。30日当日にも多くのデモ参加者の支持により各所轄署前の抗議&激励行動が行なわれましたが、私たち「メーデー救援会」はその成果を引き継ぎつつ、弾圧された仲間を一刻も早く取り戻すべく救援活動に取り組んでいます。ご支援・ご注目ください。 」



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米州全体の人権団体にとって最高の勝利~反戦翻訳団のブログより

2006-05-05 03:41:42 | 有事法制関連
TBをいただいた反戦翻訳団のブログ←からマスメディアではあまり取り上げられないと思われる情報を掲載します。

■■以下引用■■

 我々は歓喜を以て全てのみなさんに報告致します。この数週間にてアルゼンチン政府はSchool of the Americas( SOA )での自国兵士訓練を止めることを決定しました。また、ウルグアイ政府は、SOA/WHINSEC( Western Hemisphere Institute for Security Cooperation )に自国兵士を送らない現状政策を堅持する、と確約しました。

 これらの決定は、米州に於いて人権・公正また軍の自己責任追及のために斗っている全ての人々にとって、最高の勝利であります。アルゼンチンとウルグアイは、ベネズエラに続く第二・第三番目の国々となりました。ベネズエラは2004年1月に、最早SOAには自国兵士を送らないと宣言しておりました。

 SOAとその恐怖・抑圧の遺産との繋がりを断ち切ることをベネズエラ・ウルグアイそしてアルゼンチンが決定したのは、両国で草の根組織の力が拡大していることの現れであります。大衆運動によって政府指導者たちを民衆の意思に従わせたのです。

 次には、チリとボリビアがSOAを拒絶する可能性大です。中南米の市民社会は以前から確信してきたことなのですが、愛する人たちを殺した拷問と抑圧的な軍事政権としてSOAを認識しているMicelle Bachelet大統領(チリ)やEvo Morales大統領(ボリビア)のような新しい中南米大統領が今や続々と誕生しているのです。1973年9月11日クーデターで、SOAで訓練を受けた将軍たちに助けられてAugusto Pinochetが権力に就いた時、Michelle Bacheletの父親は反逆罪で拘束されました。彼は、サンチャゴの刑務所で毎日のように拷問された結果、心機能停止となって死んだのです。ボリビアでEvo Moralesが参加していた社会運動を潰そうとする策動では、その全ての段階でSOA卒業生が主要な役割を果たしていました。

 3週間前、Carlos MauricioとLisa SullivanそしてRoy Bourgeois神父が3週間の旅程でボリビア・アルゼンチン更にウルグアイに向かいました。南米の社会運動の繋がりを構築し、School of the Americasでの訓練に自国兵士を送り込むことを避けることについて民主的政権と対話をすることが、彼らの目的でありました。また、Marin Interfaith Task Force( MITF ) とNonviolence Internationalによって組織された人権使節団がアルゼンチンとウルグアイ行きに同行しました。そしてアルゼンチン国防大臣と会合し、またウルグアイとアルゼンチンで開かれる会合に向けた根回しを行ないました。使節団の構成員は、MITFのDale Soresen代表・Nonviolence InternationalのAndrés Conteris の氏・SOA Watch NortheastのLinda Panetta代表、拷問被害者に関する幅広い見識と豊富な経験をお持ちの心理学者Adrienne Aron医師他です。

 先週の金曜日に、RoyさんとCarlosさんそしてLisaさんは、ウルグアイのAzucena Berrutti国防大臣に面会しました。Berrutti大臣は元々人権弁護士で、独裁政権下ウルグアイでは、多くの政治囚が彼女に護られました。

Lisa Sullivanさんによれば。

 「対談の冒頭からBerrutti大臣は、SOAによる虐殺についてはご説明には及びませんよ、と私たちに述べられました。そりゃそうです。彼女にしてもウルグアイの人々にしても現実に起こっていることを完全に解っており、またSOA卒業生による拷問・拘束・投獄そして「失踪」の恐怖を実際に経験してきた訳ですから。ここ中南米で私たちは、幾度も自分たちの無力感を味わって来ました。しかし、私たちから民衆にそんな事々を説明する必要は無くそれどころか逆に彼らに教えて貰うことの方が多いのだ、と私たちは気付いたのです。そうして私たちは、記録してきた統計資料を非常に実の有るものにすることが出来ました・・・。」Berrutti大臣は、Carlosさん・LisaさんそしてRoyさんと嬉しい知らせを分かち合ってくれました。即ち、Tabaré Vázquez大統領の任期中では今までウルグアイからSOAに兵隊を送ることもしてこなかったし、現政権下では今後もその積りが無い、と云うのです。

昨日、SOA Watch(訳注1)の活動家3人と「5月広場の母たち( the Mothers of Plaza de Mayo 訳注2)」の代表は、Nilda Garré国防大臣(彼女の夫はアルゼンチンの軍政時代に失踪している)と会談しました。Garré国防大臣は、現在SOA/WHINSECに居る1名のアルゼンチン兵が課程を修了した後は、最早アルゼンチンの兵士をSchool of the Americasに派遣しないことに同意したのです。

 中南米の潮流は変わりつつあります!中央アメリカそして南アメリカの全土に於いて、各国政府と市民たちは、社会問題に対してのSOA型軍事的「解決」を拒絶しているのです。米州全体でSOAへの支援は、日に日にしぼみつつあります。正義のためのこの運動に貴方の声を加えて下さい!4月23~25日のワシントンDCで行なわれるSOA閉鎖要求デモ・集会へ!

訳注1:SOA Watchについては、以下もご参照。

【アブ・グライブから中南米へ:合州国による虐待模様の地図が拡がってゆく】School of the Americas Watch (2004/05)
【2004年11月19~21日:ジョージア州フォート・ベニングに結集しよう!】School of the Americas Watch
【「アメリカン・スクール(ママ)」反対者が刑を終える】(2006/04/12)



訳注2:原文では”the Mothers of the Disappeared”となっています。U2のアルバム”THE JOSHUA TREE”に収録されているその曲を聴きながら、お読み下さい。

【U2のボノ「五月広場の母たち」と面会-アルゼンチン】AFP BB News(2006/3/4)


 そういえば、日本の拉致被害者家族の人々は、去る4月28日午前11時(日本時間29日午前0時)から、こんな人に面会しておられた。

【米大統領、拉致を批判「働き掛け強めたい」】Sankei Web(2006/4/30)
 私は、彼らは面会する相手をお間違えだと、思う。何故なら、この人物こそ「拉致を奨励している指導者」でありこの国家こそ「拉致を許し」続けてきたそのものであるから。例えば、こんな拉致やあんな拉致なら、彼らも知らないはずは無いと思うのだが。
 今寄稿記事に登場するチリのMichelle Bachelet大統領の父親は拉致・拷問されて殺され、アルゼンチンのNilda Garré国防大臣の夫は拉致されてそのまま行方不明と云うことである。拉致被害者の家族である彼らに会うことは、SOA/WHISECやグアンタナモ強制収用所やアル・グライブ刑務所の頂点にいる拉致司令官Bush大統領との面会よりも、まだ筋が通っている。また彼らは、「五月広場の母たち」そしてSOA Watchの活動家たちにも会えるはずである。むしろ同じような拉致被害者の親族や支援者たちと会う方が、家族の運動としてより純化されて真に国境を越えた運動になり得る。国家や民族や人種で格差をつけ無いから、「人」の道であり「人」の権利なのである。

以下、抜粋引用。

【外務省黙殺! もう一つの拉致事件】Yomiuri Weekly(2002/11/17)

 横田さんらに在南米日本人被害家族から届いた連帯の手紙

 「私たちの家族も拉致されたままなのです」
 地球の裏側、南米アルゼンチンから衝撃的な手紙が届いた。
 1970年代後半、当時の軍事政権によって、日本人・日系人14人が拉致された事件の被害者の家族が、北朝鮮による拉致被害者家族連絡会に宛てたものである。今回、北朝鮮による拉致事件は、生存者5人が帰国し、曲がりなりにも8人の死亡経過が発表された。しかし、遠くアルゼンチンの事件は、二十数年間、家族の日本政府への必死の訴えにもかかわらず、その存在自体、知られることはなかった――。 本誌 北朝鮮問題取材班

 編集部にスペイン語の手紙がメールで届いたのは、10月28日。拉致事件や核開発疑惑をめぐる日朝国交正常化交渉が行なわれる前日のことである。そこには、「これを日本語に翻訳して、横田めぐみさんの父、滋さんら北朝鮮拉致事件の被害者家族連絡会に渡してほしい」とあった。
 手紙は、こんなふうに書き出されていた。
「私たちはアルゼンチン共和国(アメリカ大陸の南端に位置しています)に長い間住んでいる日系人家族のグループです。皆さまが苦痛と定まらぬ状況に直面しておられることについて、私たちの連帯感と理解をお伝えするために手紙をしたためました」
 差出人は、アルゼンチンの「日系人行方不明者家族の会」。
 いったい、アルゼンチンで起きた日系人拉致とはどんな事件だったのか。同国の家族会の資料を見ると、拉致事件の発生は76年3月から78年5月まで。ちょうど、北朝鮮による日本人拉致事件が起きた時期と重なる。北朝鮮による事件は、日本から連れ去ったケースが77年9月から80年6月、欧州からの拉致が80年から83年である。手紙には、事件の経過がつづられていた。
 「アルゼンチンでは同じ時期、軍部が政権を奪い取り、人々を拉致して秘密の施設や近隣諸国で拘束するというやり方を反対派弾圧に用いました。83年には民政に復帰しましたが、多くの拉致被害者は家庭に戻っていません。全部で3万人の“行方不明者”がいると推計されています。そのうち14人が日系人社会に属していました。現在では、強制収用所に入れられた人々が、拷問を受けて殺害されたということが知られています。でも、どうして彼らが連衡されていたのかの理由について正確な情報はないのです。」(中略)
 他方、アルゼンチンの場合は軍事独裁政権への反対派狩りだったから、私服を着て機関銃などで武装した軍人や秘密警察メンバーが拉致に携わったケースがほとんど。近隣の国々の軍事政権と協力して、拉致被害者を交換したりして隠したり、殺害したこともあった。拉致の場所は被害者の自宅が多く、家族の面前である場合も少なくなかった。
76年11月、アルゼンチンの首都ブエノスアイレス近郊のビジャバジェステル市の民家から深夜、日系2世の高校生のホルヘ・エドゥアルド・オオシロ( Jorge Eduarudo Oshiro )さんが連れ去られた。姉のエルサ( Elsa )さんが回想する。
「深夜、5人ほどの武装した男たちが踏み込んできました。そして、寝入っていた弟をたたき起こし、有無を言わせず連行したんです。その後、弟の消息はまったくありません」(引用者注1)
 手紙はさらに訴える。
「釈放された人々の証言によって、彼らの一部がどこに拘束されていたか、どのような状況で死んでいったかは知られていますが、家族が埋葬するべき遺骨は、ごく少数しか見つかっていないのです」
 アルゼンチンの行方不明者14人の消息について、民政移管後の歴代政権から情報はほとんど提供されておらず、遺骨も見つかっていない。最近になって、やっと1人分の遺骨が見つかる可能性が出ているぐらいで、遺された家族の無念の思いは募るばかりだ。(中略)
 小誌は30日、このもう一つの拉致被害者からの手紙を翻訳し、北朝鮮による拉致被害者家族連絡会に届けた。同会事務局次長の増元照明さんは、「初耳で驚きましたが、人道、人権という意味では同じ問題だと思います。会で相談し、先方に返事を出したいと思います」と話している。(後略)

 以上、抜粋引用終わり。

引用者注1:以下、Jorge Eduardo Oshiroさんに関して別資料より抜粋引用。

【30000人のなかの15人の物語 アルゼンチンの日系人社会の失踪者】家坂平人訳

 JORGE EDUARDO OSHIRO(ホルヘ・エドゥアルド・オオシロ)
沖縄県与那城の野辺出身で、1938年(16歳の時)にアルゼンチンに移民したシンスケ・オオシロ( Shinsuke Oshiro )とマリア・タカラ( Maria Takara )の次男として生まれました。母マリア・タカラは、1920年代に沖縄、野辺から移民してきたセイジュ・タカラ( Seiju Takara )とヌタ・イレイ( Nta Irei )の娘としてブエノスアイレス県のCiudadelaで生まれました。6歳の時にマリアは母に連れられて兄弟たちと日本へ行った。第2次大戦後の1951年にアルゼンチンに戻ってきました。
ホルヘは1958年1月2日に生まれ、両親、父方の祖父母、5人の兄弟とずっとVilla Ballesterで暮らしました。そこでEmilio Lamarca校の初等部を終え、"Alemania"工科学校の高等部を卒業しようとしていた、1976年11月10日の早朝、何の説明もせず、身元も明かさなかった武装集団によって自宅から拉致されました。
彼は感性の豊かな青年でした。音楽と文学が好きでした。ギターを弾いて、唄ったり、バンドもやっていました。ビオレタ・パーラ( Violeta Parra )を敬愛しており、Artaudを読んでいました。暴力を信じていませんでしたがその犠牲となりました。社会的問題に無関心ではありませんでした。ですからJuventud Socialista de Avanzada(社会主義青年同盟)に参加し、公正な社会を建設しようという希望をもっていました。
彼はこう書いています。「何千といういつも同じ仮面には多くのことが隠されている。人生では常に新たな気持ちで、勇気をもって、その仮面をこわさなければなりません。愛は決して滅びない。それどころか大きくなり、広がっていくのです。」
私たちから彼の存在を奪ってしまったこの国家のテロが起きたのはかれが18歳の時でした。私たち彼を知るものは彼を決して忘れないし、私たちは、真実と正義がアルゼンチンにもたらされるために闘っている人たちと一緒に努力していきます。
SilviaとElsa Oshiro(姉妹)
以上、抜粋引用終わり。

 家族連絡会がアルゼンチンの「日系人行方不明者家族の会」にどのような返事を出したのか、私は何も知らない。そもそもアルゼンチン他での拉致・監禁・拷問・殺害に関しては、School of the Americas/ Western Hemisphere Institute for Security Cooperationを知らねば返事の出しようもないのであるが、合州国によるSOA/WHISECを使った中南米傀儡政権支配を知ってしまえば、合州国と云う国家・指導部に人権擁護を語る資格があるのかは自ずと明らかである。「国家テロ」の総本山でこう云う講演を行なうとは、皮肉が少々きつい。



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共謀罪,「実行に資する行為」は処罰条件,なくても逮捕はできる~委員会答弁

2006-05-05 02:40:58 | 共謀罪
4月28日の衆院議員法務委員会(ここ←の4月28日をクリックし,法務委員会をクリックすると映像と音声が見られます)で,細川議員の質問に対し,共謀罪の修正案(末尾に引用)における「実行に資する行為」(与党はこれで共謀罪の適用される範囲を限定することが出来るから安心しなさいって言っている…)は,犯罪の成立要件(犯罪としては資する行為がなくても成立する)ではなく,処罰要件(でも,資する行為がなければ処罰はされない…ややこしい)であるため,資する行為がなくても逮捕できることが確認された。細川議員の同僚平岡議員は,「いったん逮捕した後で,日常的な行為をこれが資する行為だということで強引に結びつけていく,これを結びつけていくときにまた自白を強要する,そういう危険性もあるというふうに思う」と指摘し,与党の修正案が共謀罪濫用の歯止めにならないことを明らかにした。

問題の質疑は細川議員の19分くらいのところから。

与党漆原議員が「資する行為」について,「今回は,共謀罪は共謀自体で犯罪としては成立する。(中略)処罰要件として客観的な行為が必要だ,資する行為が必要だと修正した」と資する行為の性格を説明した。

これに対し,細川議員が「そうしますと,最初に共謀でもう犯罪は成立する,こういうことでございますから,まず,共謀があったらその共謀の事実で逮捕して,その後に実行に資する行為を捜査の中で発見していくというか見つけ出す,こういう処罰条件を後付けするようなことにならなのか,この点についてはいかがですか」と突っ込んだ。

すると,漆原議員は,「共謀が行われたという嫌疑があるのであれば,犯罪が行われた嫌疑があるということになりますが,しかし,共謀との関連性が明らかではなくて,実行に資する行為が行われるかどうか不明な段階で逮捕,捜索を行った場合には,その後に実行に資する行為が行われるということはまず想定できないわけであります」と回答した。

すかさず,細川議員が,「それでは,その資する行為がなければ逮捕はできないんですよね」とさらに突っ込むと,
漆原議員は,「犯罪が成立し処罰できるかどうかという問題と,いつ逮捕するかという問題はちょっと別問題だと思うんですね。共謀だけで犯罪が成立します。したがって,逮捕をすることは法的に可能と考えます」と逮捕しないとは明言しなかった。

さらに細川議員が「そうしますと,起訴はできないけれども,理論上は逮捕できる,こういうことですか。そうしますと,まず逮捕しておいて,それで,後付けで実行に資する行為があったかどうかを捜査でどんどん調べていって,それを見つけていく。こういうことが可能になるんじゃないですか。僕はそこを心配しているんです」と追及した。

これに対し,漆原議員は,「証拠との関連をどういうふうにするかということは,これは一般の犯罪と全く同じ事ことでございまして,この問題に特有な問題ではないというふうに思っております。あくまでも,実行に資する行為がなければ処罰できないわけでありますから,実行に資する行為があったかどうかということが問題なんだというふうに思っています」とのらりくらり。

ここで民主党の修正案について,平岡議員が答弁する際,「いったん逮捕した後で,日常的な行為をこれが資する行為だということで強引に結びつけていく,これを結びつけていくときにまた自白を強要する,そういう危険性もあるというふうに思う」と指摘した。

そして,平岡議員は,自らの質問時間の際,この点に触れ,資する行為は共謀した者の1人が行えばいいのだから,逮捕してしまったら資する行為をする可能性はないから資する行為を行う前に逮捕されることはないという答弁はおかしい,とさらに突っ込んでいる。


いずれにせよ,資する行為は幅広い概念だから,例えば,民主党が指摘したホテルで殺人をする計画を共謀した場合,ホテルを予約する行為,現金を下ろす行為,レンタカーを予約する行為,など資する行為などもそうなるとすると,まず,逮捕した上で,資する行為をでっち上げる事なんてとっても簡単なこととなってしまう。

そして,そもそも,その逮捕自体,あの人とも合意したっていう証言のみに基づくでっち上げかも知れない…。

取調の全過程を録画するというシステムがあればそのような弊害を避けることも出来うるが,日本ではそのようなシステムの導入に対し,警察が強く反対している!!(ここ←参照)

共謀罪の危険性は,与党修正案ではまったく,失われていない。


■■与党修正案引用開始■■(問題点の指摘はここ←など)

第六条の二
次の各号に掲げる罪に当たる行為で、団体の活動【(その共同の目的がこれらの罪又は別表第一に掲げる罪を実行することにある団体である場合に限る。)】①として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を共謀した者は、【その共謀をした者のいずれかにより共謀に係る犯罪の実行に資する行為が行われた場合において,】②当該各号に定める刑に処する。ただし、実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する。
一 死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮の刑が定められている罪 五年以下の懲役又は禁錮
二 長期四年以上十年以下の懲役又は禁錮の刑が定められている罪 二年以下の懲役又は禁錮
2 前項各号に掲げる罪に当たる行為で、第三条第二項に規定する目的で行われるものの遂行を共謀した者も、前項と同様とする。
【三 前二項の適用に当たっては,思想及び良心の自由を侵すようなことがあってはならず,かつ,団体の正当な活動を制限するようなことがあってはならない。】③

修正したのは【】で囲まれたところ3カ所。

■■引用終了■■


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