tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

正社員の賃金制度と定年再雇用賃金

2023年11月23日 15時56分19秒 | 労働問題
最近ではかなり制度改善が進んできているようですが、高齢化社会が進むにつれて、財政不如意の政府の立場からすれば、社会保障、特に年金財政なども考え、いわゆる正社員の人達に出来るだけ長く働いてもらいたいという事になるようです。

高齢者の就業継続を奨励するという事は、政府の立場を別にしても大変結構なことだと思います。もともと日本人は働くことを善しとし、昔からILOの統計では、高齢者の就業率は世界でも断トツに高いことが知られていました。

ですから、企業に70歳までの雇用義務を要請しても特に驚きません。本人が働きたければ、働いて社会に貢献することは、本人にとっても社会にとってもともに結構なことなのです。

政府は、働く人と辞める人に対して年金の制度設計をすれば、より多くの人が、定年再雇用で、働き慣れた所て、健康が許せば75歳ぐらいまで働きたいと思うのではないでしょうか。

年金設計問題は政府の問題ですが、企業の方では、定年を境に処遇をどうするか、特に定年再雇用者の賃金システムを適切に設計する必要が出て来ます。

今回の問題は、いわゆる正社員の場合ですが、正社員の場合は、多くは職能資格制度で、年功的な部分も持つ賃金システムをお使いではないでしょうか。
春闘の賃上げでも、連合の要求は定昇込み5%以上といった形です。定昇(定期昇給)というのは1年たったら賃金が上がるシステムで、要求自体に年功部分が入っています。

その定昇分は2%という事になっていますが、定昇2%というのは、若い時は定昇率が高く定年近くにはずっと低くなるという「上に凸」の上昇カーブの平均という概念で、若い時の賃金は割安、定年近くでは賃金は割高という形で、結婚、子供の養育という生活費を考慮した賃金制度です。(このシステムの評価はここでの問題ではありません)

日本の賃金制度は、定年までの勤続(いわゆる終身雇用)を前提に、「定年までの生涯賃金プラス退職金」で、従業員の働きと総額人件費がバランスするという前提で成り立っていたわけです。

その結果定年時の賃金は、企業にとっては割高なのです。
ですから定年再雇用の際、定年時の賃金で再雇用することは企業にとって過剰負担になります。
定年再雇用で賃金が定年時の賃金の5割~7割ぐらいに引き下げられるという慣行は、定年時で仕事と賃金の決済は完了、定年以降は新規蒔き直しという、考え方になるのです。

定年再雇用で賃金が下がるので、閑職に異動して賃下げなどという配慮もあるようですが、ベテランの域に達した仕事の継続が最も効率的というケースが多いのではないでしょうか。

その場合、日本人のメンタリティーとして皆一律何%引き下げという形もあるようですが、最近、その職務に応じたジョブ型賃金(職務給)の活用が進められているようです。
定年再雇用が長期化する程、その合理性が見えてくるのではないかと考えます。

大事なことは、長年社内で培った従業員の能力を、企業としてはより長く徹底活用する事、従業員にとっては、最も得意な仕事で思う存分企業に、社会の貢献できるというwin=winの関係を、定年再雇用の中で徹底して生かしていく事ではないかと考ええるところです。

(蛇足)同じ仕事をしていて、定年前と後で賃金が違うのは「同一労働・同一賃金」に反するといった判例もあるようですが、これは過渡期に生じ一過性のものでしょう。