tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

2023年度上半期、経常収支黒字12.7兆円

2023年11月09日 17時20分23秒 | 経済
財務省が発表している国際収支統計によりますと今年度上期のわが国の経常収支黒字は12.7兆円と急拡大しました。

昨年度の上半期は4.2兆円でしたから正に急拡大ですが、これはワクチンの輸入がなくなったのや原油価格が下がった事からでしょう、それに第一次所得収支も急増しています。

第一次所得収支というのは、日本人(含法人)が海外に投資をして得た利子・配当などです。大部分は日本企業の海外外子会社や投資先からの受取りでしょう。

これは日本が受け取る所得ですが、国内の生産活動の結果ではないので「GDP」にも「国民所得」にも入ってきません。
入っているのは「GNI」=「国民総所得」=「国民所得+第一次所得収支」という事です。

ところで、もともと日本の経常収支は貿易収支がトントンぐらいで、第一次所得収支が年間20兆円ほどの黒字という姿が普通でしたが、この所、コロナのワクチン輸入、それに原油価格の高騰などで様子が変わりました。それが以前に戻ってきたと言えそうです。

今回、経常収支黒字が増えたという事に関連して取り上げるのは、それに大きく貢献している第一次所得収支の問題です。

下の図は、経常収支と第一次所得収支の(日銀の政策変更で為替レートが正常化して以来の)動きです。

     経常収支と第一次所得収支の推移(単位:兆円、2023年度は上期×2)

                     資料:財務省「国際収支統計」

両者の差の主要な原因は貿易収支です。当然、ワクチン輸入や原油価格の影響もありますが為替レートも影響してきます。
円高になれば輸出が減りますが輸入品は安くなります。逆に、円安になれば輸出は増えますが輸入価格が高くなるといった影響です。プラスとマイナスの影響です。

一方、第一次所得収支は利子・配当を受け取るだけですから、円安になると円安分だけ増えます。円レートが110円→150円になれば、1ドルの配当毎に40円増えるわけです。

上の図で、この所、第一次所得収支が急激に増えているのは円安の結果という事でしょう。これは投資した人・法人の所得になるのですが、この行先はどうなっているのでしょうか。
現実の動きはいろいろでしょが、企業の収益になり留保される可能性は大きいでしょう。

マクロで見ますと、第一次租特収支の黒字増加が貢献している経常収支の黒字は、「国民総所得の使い残し」という事になるのでしょう。消費や投資に使ってしまえば、黒字にはなりません。これは家計と同じです。

黒字は金融機関に預けられます。金融機関はそれを運用しなければなりません。最も安全な運用先はアメリカの国債というのが世界の常識です(中国は最近アメリカの国債を売って「金」を買っているという話ですが・・・)。

アメリカの国債の保有状況を見ますと、2010年ごろには中国が日本を抜いて第一位、しかしこの所、保有額は急速に減って、今は日本が再び1位で1.09兆ドル、約160兆円(ちなみに2位は中国で8700億ドル)だそうです。

ここで2つの問題が提起されそうです。
1、 円安で大きく膨らんだ経常収支の黒字は、円安によって日本人の所得や財産が国際的に(ドル建てで)目減りした見返りでしょう。ならば日本人全体にそれを配分すべきではないのか。
2、 万年経常黒字は日本人の頑張りの結果でしょう。その頑張りの結果をアメリカの国債にしておくメリットは?日本経済の成長発展のための活用を考えるべきではないか。
日本の政府や経済界はこの問題をどう考えているのでしょうか。