大阪地裁は28日、沖縄戦での「集団自決」に日本軍が「深く関与」したと認める判決を下した。裁判は旧日本軍が住民に「集団自決」を命じたとする岩波新書・『沖縄ノート』などの記述で名誉を傷つけられたとして、当時の戦隊長らが著者の大江健三郎さんと出版元の岩波書店を訴えていたもの。これにたいする判決は棄却だった。一大朗報である。とくに沖縄の人々は感無量だっただろう。「この島々で軍のいるところだけで自決が起きているのは事実。真実を語った成果だ」「請求棄却は当然。地獄絵の事実は簡単に曲げられない。この判決は歴史を正す一歩になる」「県民全体が団結し行動してきた成果だ。引き続き真実を訴えていきたい」。こんな沖縄からの声が報じられている。
沖縄は日本で地上戦が行われた唯一の戦場。米軍は1945年3月26日に慶良間諸島、4月1日に沖縄本島に上陸、「鉄の暴風」と呼ばれる激しい艦砲射撃や空襲で日本軍を圧倒。住民も地上戦に巻き込まれ、各地で日本軍による住民殺害事件や集団自決が起きる。座間味島178人、渡嘉敷島368人が突出して多い。例の裁判を起こしたのはこの両島にいた海上挺身隊戦隊長とその関係者である。両島の守備隊は貴重な手榴弾を住民に渡す。1945年3月28日の朝、渡嘉敷島内で爆発音が響き渡る。集団自決であった。これが真実である。日本軍は5月下旬に首里の司令部を放棄し本島南部に撤退、6月23日司令官自決、沖縄戦は終わり、8月、日本敗戦を迎える。悲劇の幕は下りたが沖縄は戦後も地獄であった。
文部科学省は昨年、この裁判を起こした原告の主張を理由にして、高校教科書から、日本軍が「集団自決」を命令・強制したとの文言を削除した。実行の主導は沖縄問題や近現代史の研究者でも専門家でもない文科省の一職員である「教科書調査官」だったという。今回の判決はこの教科書検定の誤りを浮き彫りにした。政府はこれを認めて直ちに検定意見を撤回し是正すべきである。昨年秋の国会で就任早々の福田首相は「沖縄県民の思いを重く受け止める」と言っていたが、それは11万を超える大抗議集会に示された沖縄県民の必死の気持ちを無視できなかったからだろう。「集団自決」を軍が強制したことを否定する根拠はまたもや崩れたのである。この真実を重く受け止めるべきではなかろうか。