吐露と旅する

きっと明日はいい天気♪

君たちは君たちが思う以上に頑張っている

2011-10-09 22:19:10 | インポート
さとみが、1年のうちにおそらく1番緊張するピアノの発表会が
昨日、無事に終わりました。

今年、さとみと先生が選んだ曲は、『にじ』という曲で
さとみが高等養護学校時代に教わった、想い出の曲です。
吐露のサブタイトル、「きっと明日はいい天気」は
この、『にじ』の歌詞の中に出てくる言葉で
私の大好きな言葉です。

歌詞の内容を大雑把に説明すると
雨が降ったことで、憂鬱な思いもしたけれど
でも、雨が上がって光がさしてきたので、見上げてみると
空には虹がかかって、憂鬱な気分も晴れて
きっと明日はいい天気になるような気がする
そんな歌です。
嫌なことや辛いこと、悲しいことがあっても
良いことがひとつ見つかるだけで、気持ちが明るくなって
明日も何か良いことがあるんじゃないかなと思える
そんな、前向きな思いが込められている気がするのです。

さっちゃんが、高等養護学校のお受験に失敗して
さっちゃんも私も、なんの気持ちの準備もないままに
札幌から遠く離れた町の学校へ入学することになり
お互いに、不安な思いや寂しい思いもしたけれど
結局、素敵な先生たちや「おともだち」に出会えて
さっちゃんも私も、素晴らしい3年間を送ることが出来たので
ああ、あの3年間は、さっちゃんと私にとって、虹だったんだなぁ…
なんて思ったりもして。

ですから、『にじ』は、さっちゃんだけでなく、私にとっても
想い出深い曲なのです。

そのせいかどうかは分かりませんが
ビアノの練習には不熱心で、発表会への参加にも消極的なさとみが
今年は、随分積極的にピアノの練習をしていたので
私も、いつもとなにかが違うと感じていたのですが
やがて、ついに本番の日を向かえました。
でも、やっぱり朝から緊張気味。
そんなさっちゃんを励ましながら、自宅で軽く自由に好きな曲を弾かせて
指先と気持ちをほぐしてから、リハーサルのために会場へ向かいました。
リハーサルは、まだ客席も人もまばらで
しかも、大好きなH先生が傍にいてくれたので
緊張しながらも、落ち着いて演奏することが出来ました。
そして、先生と私でさっちゃんをなめるように褒めまくり
さあ、いよいよ発表会の開始です。

発表会は、第1部と第2部に別れていて、さっちゃんは2部の4番目。
第1部と第2部の間に、「よさこいソーラン」のダンスタイムがあって
さっちゃんは、それにも出なければならないので
着替えなどを入れると、結構慌しいものがありますが
椅子に座って、じーっと自分の順番を待つよりも
バタバタ動いている方が、気晴らしになって良いかもしれません。
この、演奏順も、H先生は毎年頭を悩ませていて
緊張しやすい子や、待つのが苦手な子、集中力の続かない子
そして、演奏曲に偏りが無いようにバランスを考えた
H先生渾身の、ありがたいプログラムなのです。
さっちゃんの演奏順は、得意の「よさこいソーラン」で気持ちを盛り上げて
その、いい気持ちをキープしたまま演奏してもらおうということなのです。

さて、第1部がそろそろ終わろうかという時に
私の隣で、私の肩をちょんちょんと叩く人が現れました。
さっちゃんが通っている施設の職員のAさんと、そのお嬢ちゃんでした。
さっちゃんの顔が、ぱっと明るくなりました。
2人は、わざわざ貴重なお休みの日に、応援に来てくれたのです。

少しして、第1部が終了して、「よさこいソーラン」の準備のために
さっちゃんは異動しなければならなくなりました。
さっちゃんは、職員さんとお嬢さんの前と通る時に
2人と軽く手を握って、パワーを注入してもらっています。
大急ぎで着替えを済ませ、出演者と並んでステージに上がります。
さっちゃんは、この「よさこいソーラン」では毎年大活躍をしていて
その勇ましくキレの良い動きは、沢山の方から褒められているのですが
今年も、きりりと引き締まった表情で、キレの良い踊りを…
キレ…キレ…
キレてる?
さっちゃんの隣のダウン症の女の子が、なんだかとても張り切っていて
ダイナミックな動きもさることながら、掛け声の声も威勢が良く
それに押され気味になったさっちゃんが
最初はちらっと睨んだり、軽く舌打ちをする程度だったのが
最終的には、キレ出してしまったのです。
それに気付いた女の子は、より激しく踊り出し
そのうち、鳴子で叩き合いのケンカをするのではないかという勢いで
確かに迫力のある踊りではあったけど、見ている私はヒヤヒヤでした。
怒涛の「よさこいソーラン」が無事に終了し
私はステージから降りてきたさっちゃんを捕まえて更衣室へ向かい
大急ぎで着替えを済ませて、急ぎ足で会場へ。
スタッフの方にさっちゃんをお願いして、私は客席へ戻り
Aさんとお嬢ちゃんの隣に座りました。
そして、ついにさっちゃんのお名前が呼ばれました。

さっちゃんは、くちびるをきゅっと真一文字に固く結び
まるで、ピアノを睨みつけるような怖い顔をしてステージに現れました。
ピアノの前で、軽くちょこんと頭を下げました。
そして、ピアノの前に座り、楽譜を広げました。
「はぁー」
静まり返った会場に、さっちゃんの大きな溜息が響きます。
さっちゃんは、鍵盤の上にそっと手を置くと
さっきの、キレ気味の踊りを踊った人とは思えない弾き方で
私たちの大好きな、『にじ』を弾き始めました。
ゆっくりゆっくり、優しく、慎重に。
一体、どんな表現が合うのでしょうか。
私には、愛情を込めて弾いているように聴こえます。
でも、私も緊張で息が止まりそう。

今まで聴いた『にじ』の中で、一番優しい『じに』の演奏が終わりました。
さっちゃんは、椅子から腰を上げると、会場に向かってぺこりと頭を下げると
客席からの拍手に、少し照れたような顔をしてステージを降りてきました。
私たちの傍までくると、ようやくほっとしたような笑顔を見せ
Aさんのお嬢ちゃんの隣に腰を下ろしました。
「さと、前より随分上手になった様な気がする」
Aさんが、小さな声で私の耳に囁きました。
うん、私もそう思う。
とは言えないから、「ありがとうございます」とだけ答えたけれど
私も、素晴らしい演奏だったと思う。

昨日は、H先生がスタッフとの打ち上げで忙しいであろうことを考慮して
無駄なおしゃべりはせずに、ご挨拶のみで帰ってきましたが
今日、お礼と感謝のメールをしたのですが
先生からの返信の中に、こんなことが書かれていました。
『昨日、発表会に来て頂いた方から
 「にじ」を弾いた生徒さんの音が良かったよ~
 心に染みた~とのお言葉を頂きました
 さとみさん、すごい!』

H先生の発表会は、今年で14回目を向かえるそうです。
H先生の生徒さんは、どちらかというと強い個性の持ち主が多く
約20名ほどの生徒さんたちが、それぞれに選んだ「好きな曲」を
「演奏する」という目標に向かって、1年がかりで取り組み
毎年、素晴らしい発表会を開いてくださるH先生は
ものすごく素敵で素晴らしい人なのに、とっても楽しくて気さく。
この人は、きっと音楽の女神様に違いない。
時々、そんな風に思えて仕方がないときがあります。
案の定、発表会終了後には、先生の周りには子供たちが鈴なり。
この人も、私の「にじ」。

先生が、発表会開催の挨拶で、こんなことを言っていました。

 最近は、「頑張って」という言葉を使ってはいけない場合が増えてきました。
 ある高校の先生から、こんなこんな話を聞いたことがあります。
 先日、学校の生徒に、「先生、頑張るってどういう意味?」と尋ねられて
 どう答えて良いのか、自分でも分からなくなってしまった。
 自分なりの解釈で説明してみたけれど、生徒には上手く伝わらなかった。
 「頑張る」って、なんなんだろう…。
 私も、よく自分の生徒に「頑張ってね」「よく頑張ったね」と言うんだけれど
 そう言えば、「頑張る」ってなんだろうと思って
 早速、辞書で「頑張る」の意味を調べて見たのですが
 『辛抱して努力すること』という説明が目に入り
 なんだか、重いな、大変だな。
 子供たちに言ってはいけない言葉なのかなって思ってしまいました。
 でも、ちょっと待てよと思って。
 「頑張る」の前に、「目標」という言葉をつけて見たらどうかなと思いました。
 そうしたら、目標を達成するための、ウキウキ感やワクワク感が生まれて
 目標が達成できたら、嬉しい、楽しい、褒めてもらえたという喜びがあって
 そうしたら、また次の目標に向かって、ウキウキワクワク「頑張れる」
 「頑張る」という言葉は、そんな風に使ってもいいんじゃないかな。
 そう思ったんです。
 だから、今日の日のために「頑張った」みんなに
 どうぞ、温かい拍手を送って下さい。
 ※脳みそ録音なので、多少違う部分もあるかもしれませんがご了承下さい。

発表会と言う目標に向かって、誰よりも「頑張った」のは、多分H先生です。
なのに、H先生は、全く「私頑張っている」という雰囲気を感じさせません。
少しくらいは思っているのかもしれないけれど
少なくとも、人前でちらつかせるような下品な事はしない。
でも、あなたは温かい拍手よりも
鈴なりの生徒たちに大喜びする人で
だから、あなたの周りには生徒が鈴なりになるんですね。

そして、君たち。
多分、「頑張る」の意味を、多分あまり理解していないのに
それでも「頑張らなきゃならない環境」の中で生きている君たちは
なんの努力もしないで文句ばかり言っている人たちに比べたら
比較にならないほど、頑張っている。
だから、私は時々君たちが愛おしくてたまらなくなってしまう。

なんてことを考えていたものだから
こんなに長々と書いてしまったよ。