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「昭和史 1926-1945」半藤一利

2015年01月16日 23時08分55秒 | 読書(昭和史/平成史)

平凡社ライブラリー<br> 昭和史 1926-1945 
「昭和史 1926-1945」半藤一利

これぞ昭和史の決定版。
加藤先生の「それでも、日本人は「戦争」を選んだ」もよかったが、
こちらの方が、多角的で臨場感あふれる。
さすが昭和史の語り部・半藤一利さんである。

文章も、とても読みやすい。
それもそのはず、4人の若者らを相手に「寺子屋」を開き、話したことを本にまとめたから。
全部で15回にわたる「授業」であった。
「昭和」という時代がが見事に再現される。
まさに「読むべし」という作品だ。

満州事変について
P81
この人たち(本庄繁・石原莞爾・三宅光治・板垣征四郎)は本来、大元帥命令なくして戦争をはじめた重罪人で、陸軍刑法に従えば死刑のはずなんです。
(中略)
昭和がダメになったのは、この瞬間だというのが、私の思いであります。

西安事件とは
P182
西安事件とは、中国のナショナリズムが一つになって誕生する、まさに対日抗戦を可能にする歴史の転換点だったのです。
しかし日本は、この情報が伝わってきたにも関わらず、中国が今や一つになろうとしていることをまったく理解していませんでした。

昭和12年、野上弥生子さん、年頭の新聞紙上での挨拶
P183
「(前略)どうか戦争だけはございませんように・・・・・・」

南京大虐殺について、著者は「あった」としている
P197-201
その根拠は・・・
旧日本軍の集まりである偕行社「南京戦史」
いわゆる不法な行為によって殺されたとすれば、三万強がその数ということになりましょうか。
(中略)
ただ、中国が言うように三十万人を殺したというのは、東京裁判でもそう言われたのですが、あり得ない話です。当時、南京の市民が疎開して三十万もいなかったし、軍隊もそんなにいるはずはないのですから。
(文化大革命の死者の方がはるかに多いかも・・・40万人から1000万人以上と諸説あるから・・・もちろん、数の問題ではないが)

ノモンハンについて
P239
作戦課長・服部卓四郎大佐「サイパンの戦闘でわが陸軍の装備の悪いことがほんとうによくわかった・・・(後略)」
何たることか、ノモンハンの時にすでにわかっていたではないか(後略)。
・・・学習能力のない陸軍だった。

三国同盟が結ばれた時の西園寺公望の言葉
P319
「これで日本は滅びるだろう。これでお前たちは畳の上で死ねないことになったよ。その覚悟を今からしておけよ」

著者・半藤一利さんの感想&結論
P498
それにしても何とアホな戦争をしたものか。この長い授業の最後には、この一語のみがあるというほかはないのです。ほかの結論はありません。

歴史からの教訓
P503
①国民的熱狂をつくってはいけない
②具体的な理性的な方法論を検討せねばならない(希望的観測に頼ってはいけない)
③日本型タコツボ社会における小集団主義の弊害・・・参謀本部と軍令部は小集団エリート主義の弊害そのもの
④ポツダム宣言の受諾が意志の表明でしかなく、終戦はきちんと降伏文書の調印をしなければ完璧なものにならないという国際的常識を、理解していなかった
⑤対症療法で、その場その場のごまかし的な方策で処理してしまった

南進について・・・
P529
根拠なき自己過信、驕慢な無知、底知れない無責任と評するのは容易です。けれども、よく考えると、いまの日本も同じようなことをやっているのじゃないかと、・・・(後略)

ノモンハンの教訓
P533
①失敗を率直に認めず、その失敗から何も教訓を学ばないという態度
②情報というものを軽視し、非常に「驕慢な無知」に支配されていた
③「底知れぬ無責任」勇猛敢闘させるようなものであれば、失敗しても責任が問われなかった

読んでいて、憤りと、何ともいえない虚脱感を交互に感じた。
つい、現在の日本と比べてしまう。
エリート主義の弊害、無責任、対症療法・・・。
東電上層部、政府関係者は、3.11まで、「原発は安全」と豪語していた。
少なくとも、一つは学んだ・・・「歴史は繰り返す」、と。

【ネット上の紹介】
授業形式の語り下ろしで「わかりやすい通史」として絶賛を博した「昭和史」シリーズ戦前・戦中篇。日本人はなぜ戦争を繰り返したのか―。すべての大事件の前には必ず小事件が起こるもの。国民的熱狂の危険、抽象的観念論への傾倒など、本書に記された5つの教訓は、現在もなお生きている。毎日出版文化賞特別賞受賞。講演録「ノモンハン事件から学ぶもの」を増補。
[目次]
昭和史の根底には“赤い夕陽の満州”があった―日露戦争に勝った意味
昭和は“陰謀”と“魔法の杖”で開幕した―張作霖爆殺と統帥権干犯
昭和がダメになったスタートの満州事変―関東軍の野望、満州国の建国
満州国は日本を“栄光ある孤立”に導いた―五・一五事件から国際連盟脱退まで
軍国主義への道はかく整備されていく―陸軍の派閥争い、天皇機関説
二・二六事件の眼目は「宮城占拠計画」にあった―大股で戦争体制へ
日中戦争・旗行列提灯行列の波は続いたが…―盧溝橋事件、南京事件
政府も軍部も強気一点張り、そしてノモンハン―軍縮脱退、国家総動員法
第二次大戦の勃発があらゆる問題を吹き飛ばした―米英との対立、ドイツへの接近
なぜ海軍は三国同盟をイエスと言ったか―ひた走る軍事国家への道
独ソの政略に振り回されるなか、南進論の大合唱―ドイツのソ連進攻
四つの御前会議、かくて戦争は決断された―太平洋戦争開戦前夜
栄光から悲惨へ、その逆転はあまりにも早かった―つかの間の「連勝」
大日本帝国にもはや勝機がなくなって…―ガダルカナル、インパール、サイパンの悲劇から特攻隊出撃へ
日本降伏を前に、駆け引きに狂奔する米国とソ連―ヤルタ会談、東京大空襲、沖縄本島決戦、そしてドイツ降伏
「堪ヘ難キヲ堪ヘ、忍ビ難キヲ忍ビ…」―ポツダム宣言受諾、終戦
三百十万の死者が語りかけてくれるものは?―昭和史二十年の教訓
ノモンハン事件から学ぶもの

【参考リンク】
「それでも、日本人は「戦争」を選んだ」加藤陽子
半藤一利氏のコメント
「あの戦争は何だったのか 大人のための歴史教科書」保阪正康
「父が子に教える昭和史 あの戦争36のなぜ?」半藤一利ほか
「昭和二十年夏、子供たちが見た戦争」梯久美子
「よみがえる昭和天皇 御製で読み解く87年」辺見じゅん/保阪正康
「総員玉砕せよ」水木しげる
「降ろされた日の丸 国民学校一年生の朝鮮日記」吉原勇
「竹林はるか遠く 日本人少女ヨーコの戦争体験記」ヨーコ・カワシマ・ワトキンズ
「たった独りの引き揚げ隊 10歳の少年、満州1000キロを征く」石村博子
「広島第二県女二年西組」関千枝子
「収容所(ラーゲリ)から来た遺書」辺見じゅん
「凍りの掌(て) シベリア抑留記」おざわゆき

 

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