【ぼちぼちクライミング&読書】

-クライミング&読書覚書rapunzel別館-

「女神の見えざる手」

2020年04月30日 07時02分51秒 | 映画(一般)
映画「女神の見えざる手」(2016年公開)を観た。
銃規制をめぐるロビイストの攻防を描いている。
エリザベス・スローンは、大手ロビー会社に勤めていた。
しかし、「新たな『銃規制法案』を廃案にもっていってくれ」、と依頼され、これを断り小さなロビー会社に自身のスタッフを連れて移ってしまう。
ここから攻防が始まる。
相手は圧倒的な資金を持つ全米最強ライフル協会である。
勝ち目はないに等しい。どう戦うエリザベス?!

アメリカ映画を見なおした。このテーマをエンターテインメントにするとは! ジェシカ・チャステインの演技がすばらしい。(最期のシーンだけ3回観なおした、鳥肌モノだ)
公式ウェブサイト→http://miss-sloane.jp/

「これは経費で落ちません! 」①―⑥青木祐子

2020年04月29日 07時18分10秒 | 読書(小説/日本)
「これは経費で落ちません! 」①―⑥青木祐子

シリーズを再読した。
お仕事小説のジャンルに入ると思う。
経理課・森若沙名子を中心としたオフィスの人間模様を描いた小説。
最初、図書館で借りて読んだけど予想以上に面白かったので、買いなおしておいたのを再読したのだ。

本作品の魅力は、ヒロインの森若さん。
人間関係が淡泊で真面目。
周囲とは常に一定の距離をおいて、波風を立てようとしない。
会社の飲み会にも出ず、女子会も合コンも参加せず。
それでも、面倒ごとに巻き込まれてしまい、不正をただしてしまう。
地味なキャラクターだけど、シリーズを引っ張っている。
つまり、読者がヒロインに魅力を感じ、指示している、と言うことだ。
もちろん、脇役キャラも魅力。しっかり描かれている。
「こう言う奴、会社にいるよな」、ってキャラが多数登場する。
経理をしていると、数字から人柄・人格が見えてくる。(給与計算、年末調整をしてると懐具合まで分かってしまうし)こうして、オフィスの人間模様が描かれる。

②P11
「ウサギを追うなってのはなんですか?森若さん」
(中略)
「雑念に惑わされるなって意味。(後略)」
(中略)
「慣用句なんですか?」
「昔の映画にあったのよ」
沙名子の好きなハリウッド映画、『パシフィック・リム』の中にあった台詞である。(でも、もともとは『アリス』だと思うけど・・・映画「マトリックス」でも「白ウサギについて行け(Follow the white rabbit.)」と出てくるし)

④P28・・・④から美華が登場し作品魅力度が増す
美華は何を考えているのだ。言いたくても言わないほうがいい言葉というものはあるではないか。たとえ、みんなが考えていることであっても。
 入ったばかりの会社で、全方位にケンカを売ってどうするのだ。
 無理にフレンドリーになる必要はないが、信頼をなくしてはならない。嫌われるのは、親しくなりすぎるのと同じくらい始末が悪い。

④P226
「どうして決定的な失態をすると?」
「有本さんは頭が悪いからです。アンフェアです。あんなやり方が、社会に通じるわけがないです。彼女はどこかでつまずくはずです。そうじゃなきゃおかしい」
(中略)
 あちこちでつまずいているのは美華のほうではないか。マリナと美華、頭がいいのはどっちだ。正しければ勝つわけではないのなら、正しさに何の意味がある。

⑤P58
「静岡に一泊――ですね」
 沙名子は出張計画書を数秒眺めた。
 透明な水晶が燃えあがる。(山崎は「共感覚」の持ち主なのか?「共感覚」は感情や言葉を色で認識するという・・・沙名子は山崎にとって「透明な水晶」なのだ。だからかまわずにいられない。ちなみにこの能力は、「 臨床真理」「天空の犬」でも取り上げられている)

⑤P60
昔は人の精神というものは年齢とともに成熟していくと思っていたが、実は生まれたときが完璧で、少しずつ欠けていくのかもしれないと思う。(年齢とともに精神的に成長し、穏やかになるなら誰も苦労しない・・・私を含めて世の年寄りを見よ!)

⑤P106
――大人の友情にはメンテナンスが必要です。

⑤P177
「(前略)いくら性格が良くたって、モテるブスなんてこの世に存在しないっつーの!」
(けだし至言である・・・【追記】若くて美しいから愛されるとは限らない。チャールズ皇太子はダイアナ妃でなく、カミラさんを選んだ・・・重要な点だ、検討課題)

⑥P47
彼氏ができたからといって沙名子自身は変わらない。すりあわせが必要なだけだ。スマホに新しいアプリを入れたようなものである。ちょっと面倒なアプリだが、そこそこ役立つし楽しいので使うことにする。
(森若さんのキャラが良く出ているモノローグだ)

⑥P257
美華はおそらく普通に生活していたら接点はない、同じクラスにいても友達にならないタイプだが、今は仲良くなっている。(仕事仲間は自分で選べない・・・そこが面白いところで、苦しいところでもある・・・趣味の仲間も同様に接点のない人と出会い、話をする、いろいろな人がいるなあ、と思う)

【感想】
なかなかクセのあるキャラたちが登場する。
クセというと、ネガティブな印象だが、これを「こだわり」と言い換えることも出来る。
年齢を重ねるほど、人は「こだわり」が出てくる。
十人十色じゃないけど、ない人はいない。
それが許せる範囲かどうか、だ。
自分と合うかどうか、だ。
ところで、100人に1人の割合でサイコパスがいるそうだ。
もし出会ってしまったら逃げるしかない。
【参考】・・・「サイコパス」中野信子https://blog.goo.ne.jp/takimoto_2010/e/7c0092f5eb09449caa60e6f2cf9fa09d

【感想】2
⑥巻では、マリナのキャバ嬢疑惑から端を発して企業小説へと変貌していく。ハラハラどきどきで、今までにない面白さが加わりテンションが上がる。沙名子が社内政治に手を出すとは思わなかった。(その動機が沙名子らしい)

【おまけ】
それにしても、嫌われキャラの描き方がうまい。
マリナ、志保、鎌本が相当する。
マリナは、アレだけど、次作もう登場しないなら淋しい。

【誤植】②P234
自分の仕事をスムースにいかせるために
 ↓
自分の仕事をスムーズにいかせるために
(但し、これは難しい問題で、一概に言えず揺れている)


「RDG」再読

2020年04月27日 08時19分16秒 | 読書(小説/日本)
「RDG」荻原規子①ー⑦再読

毎年恒例、「RDG」を再読した。
何度読んでも飽きない。
登場人物が脇役を含めて魅力的。
特に、真響と真夏が登場してくる②巻以降が好き。
(もちろん、高柳も登場するから作品も引き立つ)
①を押さえてこその、②以降の東京編。
飛躍の前の伏線として①を読んでおく必要がある。
・・・和宮も出てくるし。

PS
読書はすすむ。
コロナのせいで、食事は冷凍物と缶詰ばかり。
移動距離トイレだけだし。
基礎体力落ちてるだろうなあ。

PUMP大阪閉店

2020年04月26日 05時57分56秒 | クライミング(一般)
知らなかった。
PUMP大阪閉店、なんですね。
ネット上に次のように書かれている。

1998年オープン以来23年間、クライミングを楽しめる場所を提供する志を持って営業してまいりましたが、
コロナウィルスによる休業に加え今後の見通しが立たないことから2020年5月31日(日)をもって閉店することにいたしました。
長きに渡りご愛顧賜り誠にありがとうございました。

最近は、利用してなかったけど、海外の岩場に行く前とか、リード練習に使ってた。国体の若い選手とかが他府県から団体で来てたりして、多い日は100人越えだったりで大混雑だった・・・『隔世の感』、って感じだ。
1998年、PUMPからオープンお知らせの葉書が来たし、オープン記念のコンペには、仲間と参加もした。残念というほか無い。それでなくても「儲からない」というジム経営、コロナのせいで、これから撤退・閉鎖のジムが増えるかもね。
(そのかわり、個人練習ウォールは以前より売れてるらしい)

freefan#81

2020年04月23日 16時13分46秒 | 身辺雑記
freefan#81が郵送されてきた。
1週間以上前の話だけど、書くのが遅くなった。
特集は北海道・奥尻島ボルダー・・・コロナで行けないなあ。
ビレイグローブ、各メーカー・モデル比較・・・こちらは役立ち情報。

ところで皆さん、毎日どうしてる?
ジムも閉鎖、図書館も閉鎖。
誰かと会話することも無く、話すと言えば独り言。
老人ホームも訪問禁止・・・お婆さん息子を忘れてるだろうね。

気分転換&ストレス解消に替え歌を聴いている。
ゴールデンボンバー「♪女々しくて、女々しくて、つらいよ~」、ってとこを、
「♪自粛して、自粛して、つらいよ~」、って歌っている。
(↓音が出るから注意してね↓)

「粗茶」シリーズ再読

2020年04月22日 20時04分28秒 | 読書(小説/日本)
①「雨にもまけず粗茶一服」松村栄子
②「風にもまけず粗茶一服」松村栄子
③「花のお江戸で粗茶一服」松村栄子

3冊いっきに再読。
単発では再読してるけど、シリーズいっきは2年半ぶり。

文庫本・上①P123
能曲〈野宮〉のシテは〈源氏物語〉に出てくる六条御息所、ワキは野宮神社に詣でた旅の僧侶だ。御息所は後段、幽霊の姿で現れ、つらつらと生前の不幸を物語る。野宮とは、かつて彼女が源氏への想いを断ち切り娘とともに伊勢に下ろうと決心したときに仮の宿りとした神域であり、にもかかわらず忍んできた源氏を断り切れずにまた逢ってしまった因縁の場所でもある。
「野宮で源氏と御息所が最後に逢うたんは、物語の中では9月7日やそうですわ。この幽霊は、せやし毎年毎年9月7日になると野宮に出ますのや。(後略)」(嵯峨野に野宮神社がある・・・前回、愛宕山に登ったときに立ち寄ろうと思ったけど、時間がなくて諦めた)

文庫本・上①・P205
「アズマ君、ようやっと自分の立場ゆうもんがわかってきはりましたなぁ。ええことやと思いますわ。そうやねん。うちは、この家のお嬢様やねん。アズマ君は居候や。可哀想に寝るとこもないのんを、うちのお父ちゃんに拾われてん。そこんとこを忘れたらあかんと思うわ。自転車はうちのやし」
 この子も最初に会ったときには、頭のネジが一本抜けているではないかと思うくらいおっとりして見えたものだが、地元に帰ってずいぶん印象が変わった。京女油断ならじと遊馬はいささかおののきの体だ。
(そのとおり!京女をあまく見てはいけない・・・ウチの親戚は父方も母方も京都なので、そうそう、と思いながら読んだ)

単行本②P199
〈いただきます〉は、あなたの命をいただきますという意味だと子どもの頃、隣の和尚に教わった。鮎の命をもらって、自分の命をつなぐ。〈ご馳走さま〉は、走り回ってもらってありがとうございます、という意味だ。

【誤植】を見つけた
単行本②P127
これからや遅なってしまうし
 
これからやと遅なってしまうし

「「駅の子」の闘い 戦争孤児たちの埋もれてきた戦後史」中村光博

2020年04月21日 14時17分42秒 | 読書(戦争/引き揚げ/ 抑留)
「「駅の子」の闘い 戦争孤児たちの埋もれてきた戦後史」中村光博

戦争孤児に対する政府の対応について
P52
「(前略)本音を言うなら、たとえ1日1個でいいからおにぎりくらい配ってほしかったですよ。なんででしょうね。戦争孤児が戦争を起こしたんじゃないんだから。政府がやったんだから。それなのに何にも政府は・・・・・・。毎日死んでいくんですよ、子どもが。食べなきゃ死んじゃいますよね」

P156
昭和21年の春、GHQの担当者が、日本政府や自治体に、対策をとるよう指示をしたのだ。指示を出したのは、GHQの公衆衛生福祉局の担当課長だったネルソン・ネフ氏。厚生省の幹部や警察、東京都の担当者などをオフィスに呼び出し、いまだに子どもたちが町をさまよっている状況を改善するよう、強く対策を求めた。

かつて戦争孤児だった方の言葉
P193-194
「よく身に染みたよね、人の冷たさっていうのかね。本当に優しかったら、あの孤児たちが、浮浪児がいたら、そこで何か周りでね、温かい手を差し出しているはずなんだよね、だから、日本人というか、人間は、案外そういう冷たさを持っているんじゃないかと思うけどね」(当時、野良犬のように扱われた仕打ちに対する怒りは、今も消えない・・・政府、役人だけでなく、世間、具体的には親戚の冷たい仕打ちは酷かったようだ)

あるキリスト教系の保護施設の仕打ち
P197
クリスマス会ということでいい服を着させてもらい喜んでいたのもつかの間、会が終わり、地域の人たちが帰ると、すぐに服を脱がされ、元のぼろぼろの服に着替えさせられたのだという。
「時々、厚生省なんかの役人が来て立ち入り検査がある。そのときだけ、子どもたちにいいものを着せる。役人の見学は5分ほどで終わって帰っていく・・・・・・そうするとすぐにその新しい服は脱がされて・・・・・・そんなんあり得ますか。誰だって怒ると思うよ、そんなことされたら。
そのときに、何が神様だって思ったよ。(後略)」

一緒に行動していた戦争孤児が、列車にとびこみ自殺する
P100
「俺はそのとき思った、これから徹底的に社会に逆らって生きてやるって。なんなんだ、僕たちばっかりにこんなことさせて。何の罪があるというんだ」(戦争孤児が多かった都市ほどヤクザが多いように思う、抗争も多いように思う・・・彼らには生活手段がなかった・・・暴力団側も、使い捨ての駒として、使い勝手がよかったんじゃないか・・・)

【ネット上の紹介】
戦争で親を失い路上生活を強いられ、「駅の子」「浮浪児」などと呼ばれた戦争孤児。飢えと寒さ。物乞いや盗み。戦争が終わってから始まった闘いの日々。しかし、国も周囲の大人たちも彼らを放置し、やがては彼らを蔑み、排除するようになっていった。「過去を知られたら差別される」「思い出したくない」と口を閉ざしてきた「駅の子」たちが、80歳を過ぎて、初めてその体験を語り始めた。「二度と戦争を起こしてほしくない」という思いを託して―戦後史の空白に迫り大きな反響を呼んだNHKスペシャル、待望の書籍化。
プロローグ―たった70年前、ここに孤児たちがいた
第1部 戦争が終わって闘いが始まった―焼け野原に放置された「駅の子」(神戸空襲で「駅の子」になった―内藤博一さん
上野駅で見た地獄―金子トミさん
孤児の保護施設・板橋養育院の悲劇
学童疎開の犠牲者―渡辺喜太郎さん
引き揚げ孤児の悲劇―瀬川陽子さん
路上生活で視力も失う―小倉勇さん
「戦争孤児」の保護を後回しにした国
奮闘した民間の保護施設―1000人の子どもを保護した愛児の家
「靖国の遺児」と呼ばれた子どもたち)
第2部 嫌われていった「駅の子」―復興から取り残され、やがて忘れられ(対策を指示したGHQ
始まった強制収容「狩り込み」
檻に閉じ込められた戦争孤児―伊藤幸男さん
復興から取り残されていく「駅の子」
路上で野良犬のように扱われる―山田清一郎さん
社会に逆らって生きると決めた―小倉勇さん
転落していった子どもたち
日本を去った戦争孤児―伊藤幸男さん
「駅の子」たちのいま)
エピローグ―取材を終えて

「聖女の魔力は万能です」①ー⑤橘由華

2020年04月20日 19時15分31秒 | 読書(小説/日本)
「聖女の魔力は万能です」①ー⑤橘由華

ライトノベルの人気作品。(今のところ⑤巻まで出版されている)
ジャンルとして、『異世界召喚』モノ?(そんなジャンルあるの?)
魔物を倒すために『聖女』として召喚されたセイの話。
普通は、波瀾万丈の冒険活劇になるはずだが、いたって普通の日常、薬草研究や料理、異世界でのスローライフが描かれる。そこが本作のミソだ。

P136(3巻目)
医食同源というのは、栄養のバランスが取れた食事を取ることで病気を予防し、治療しようとする考え方だったと思う。
これは日本独自の考え方ではなく、薬膳から得られた発想を基にしたものだった気がする。

【感想】
重い作品ばかりが続くと、疲れる。
気分転換に軽い作品もいいかもね。
(あまり軽いとかえって疲れるけど)
本作品は、いい感じかな。

【おまけ】
重い、軽いの違いは何か?
登場人物の隅々まで心理描写が行き届いているか、ってのが私の考え。
彼らの行動に整合性があるかどうか。
脇役同士の行動、発言にまで化学反応があるか。
他の方は知らないが、私は登場人物の感情の軌跡を追いたい。
ストーリーを追うだけだったら、あらすじで足りる。
感情の振幅、揺れを見たい。
深くまで掘り下げているほど、「重い」、と感じる。

優れた作品ほど、脇役の心理まで行き届いている。
歴史のうねりを感じさせてくれればなお良し。

PS
重ければ、優れているのか、面白いのか、って言われると、またそれは違う。
そこがさじ加減の難しいところ。
ある程度の重さは必要条件、でも、十分条件じゃない。

【ネット上の紹介】
どこにでもいる、ちょっと仕事中毒な20代OL・セイは、残業終わりに異世界召喚された。…でも、急に喚びだした挙げ句、人の顔見て「こんなん聖女じゃない」ってまさかの放置プレイ!?王宮を飛び出し、聖女の肩書きを隠して研究所で働き始めたセイだったが、ポーション作りに化粧品作り、常識外れの魔力で皆の“お願い事”を叶えるうち、どんどん『聖女疑惑』が大きくなってしまい…。聖女とバレずに夢の異世界スローライフを満喫出来るか!?

「戦跡巡礼」中津攸子

2020年04月16日 21時16分26秒 | 読書(戦争/引き揚げ/ 抑留)

「戦跡巡礼」中津攸子
 
中津攸子さんが戦跡を訪ね、歌を詠み、エッセイが添えられている。
訪問地は中国、サイパン、シンガポール、沖縄、広島など、アジア諸国、日本各地。
例えば、ハルピンでは次のような歌を詠まれている。
 
西日照る七三一の部隊跡
 
尾崎秀樹さんとの会話P26(ちなみに尾崎秀実は尾崎秀樹の実兄)
「七三一部隊は終戦後どうなったか知っていますか」
とあの艶のある声で私に聞かれた。
「よく知りませんが、石井四郎部隊長は天寿を全うしたと聞いています」
と申し上げると、
「そうなのです。それまでの研究した資料をアメリカに渡して戦犯をまぬがれたのです」
「下取引があったのですか」
「そうです。研究資料を渡すことで、七三一部隊の全員が無事に帰国し、官公庁や国立大学、医学研究所、ミドリ十字や自衛隊に再就職したのです」(ご存じのように、ミドリ十字は「薬害エイズ事件」を起こし、甚大な被害を与えた・・・元々のネガティブな「社風」が受け継がれていたのだろう、現在は救済合併により消滅)
 
P28
旧満州から多くの人が引き揚げて来た時、七三一部隊の人が何の苦労もなく、証拠隠滅のため頑丈な建物を破壊し、無事に帰国したことが釈然としないのだ。
 
石井部隊長について
戦後、新宿の若松町で陸軍の建物を旅館とし、女郎屋を営み、昭和34年に喉頭がんで死んだという。
 
P123
長崎には「長崎原爆死没者追悼平和記念館」「長崎原爆資料館」などがあるが、私は、永井隆博士の住んでいた「如己堂(にょこどう)」をまず訪ねた。(中略)亡き博士を偲びながら、仏教に帰依した聖徳太子の子山背大兄王は戦うなかれとの戒律を守って滅び、釈迦族も同じく滅び去ったことを思えば、この身が滅びようとも争ってはならない、滅びることを恐れるのでなく、戦うことを恐れなければならないと思っていた。
 
【感想】
著者の人柄が偲ばれる佳作だ。
なお、本作は英語バージョンもある。
世界中の人に読んでもらいたい、という配慮からだ。
 
【参考リンク】
丸木美術館
(埼玉に行く機会があれば訪問したい・・・東京も行ったことないけど)
 
【ネット上の紹介】
1章 大陸・巡礼(秋天の悲しきまでに白き雲
二〇三高地さざんか揺らす風
乃木坂の思はぬ蟇に逢ひにけり
秋風の僅か流るる盧溝橋
伏牛の辺より白蝶翔ちにけり ほか)
2章 太平洋諸島・巡礼(拳強く握る真夏の真珠湾
バンザイ岬海上に湧く雲の峰
夏草やモンテンルパの観世音
水牢をのぞき込みたる暑さかな
逝く夏やB29の滑走路 ほか)
3章 東京・広島・長崎・巡礼(飛行雲夏草の果て暮れ残る
小舟漕ぐ人新樹光あふれゐて
亡き父の真意に気付く今日の花
灯消し正座して聞く花火音
蜻蛉や水草揺るるままにゐて ほか)
4章 特攻兵士・巡礼(天炎えて特攻の碑の影深し
白雲の映るがわびし夏の川
海に向く特攻の碑や寒雀
人間魚雷錆びひとひらの山桜
逃げ水や霞ケ浦に浮く帆船)
5章 沖縄・巡礼(海原の沖へ沖へと白き蝶
秋の空墓石声なく群がりて
激戦の跡紫のすみれ草
獅子を誘ふに似て黄水仙
とかげの子瞬時石垣に隠れたる ほか)
6章 戦後・巡礼(藁馬に水を供へる敗戦日
一枚を文庫にはさむ渓紅葉
消防車幾台通る雪の夜半
色なき風白衣の人の会釈して
若夏や江田島に寄る波の音 ほか)

「ふたつの日本 「移民国家」の建前と現実」望月優大

2020年04月12日 17時33分38秒 | 読書(現代事情)
「ふたつの日本 「移民国家」の建前と現実」望月優大
 
なぜ急激に在留外国人が増えたのか?
生産年齢人口と総人口のピークアウトに15年近いタイムラグがあったから、とある。そして、安倍さんは言い出した。
女性や高齢者は「活躍」するように、と。
外国人労働者も、この流れにある。
選挙の都合で、「保守」と「財界」でバランスを取ってきた自民党だが、両者にいい顔をするにも、限界が近づいてきた。どうする自民党?どうする日本?どうする我々?
 
P21
日本の人口が1億人を割り込むのが2050年前後。対して外国人人口は2012年から2017年までの5年間で50万人以上増加して300万人へと近づいている。
 
P29
「教育」の本質は新しい人間が古い世界の中に生まれてくるという事実のうちにある。古い世界は子どもという「新参者」を統合するために教育を行うわけだが、同じように移民という「新参者」にも統合の試みが必要だ。繰りかえすが「統合」=「同化」ではない。
 
P36
自国から外国へと移住するのが「emigrant」で、その逆に外国から自国へと移住するのが「immigrant」である。
 
政府の本音・・・
P201
グローバルな経済の論理にもとづいて外国人労働者の受け入れを拡大する。低賃金で働いてくれる外国人労働者にはできるだけ長く日本で働いてもらいたい。だが、いつかは帰ってもらいたい。外国人が定住という形で日本社会に浸透していくことは可能な限り阻止したい――。
 
P217
今、目の前にふたつの道がある――撤退ではなく関与の方へ、周縁化ではなく包摂の方へ、そして排除ではなく連帯の方へ。これは「彼ら」の話ではない。これは「私たち」の問題である。
 
【蛇足】1
パリやロンドンには、多くの移民が暮らしている。これは、植民地の宗主国だった関係だ。植民地の甘い汁だけ吸って、来るな、と言えない。
 
【蛇足】2
外国人が増えると、混血が増えるかも。
○○系日本人、とか、アメリカのようになるかもね。
でも、政府は日本人を和牛のしたい?
秋田犬は好きだけど、雑種の方が元気だ。(とりとめもない感想でスマン)
 
【参考リンク】
「コンビニ外国人」芹澤健介
 
「私たちの国で起きていること」小熊英治
 
「移民大国アメリカ」西山隆行
 
【ネット上の紹介】
日本はすでに「移民国家」だ。この30年間で在日外国人の数は94万人から263万人へと約3倍に増加し、永住権を持つ外国人も100万人を突破した。2019年春からは外国人労働者の受け入れがさらに拡大されることも決まっている。私たちは「平成」の時代に起きたこの地殻変動を正しく認識できているだろうか? いま必要なのは、この「遅れてきた移民国家」の簡単な見取り図だ。「日本」はどこから来てどこに向かうのか?
はじめに 「移民」を否認する国
第1章 「ナショナル」と「グローバル」の狭間
第2章 「遅れてきた移民国家」の実像
第3章 「いわゆる単純労働者」たち
第4章 技能実習生はなぜ「失踪」するのか
第5章 非正規滞在者と「外国人の権利」
第6章 「特定技能」と新たな矛盾
終章 ふたつの日本

嵐山・天龍寺

2020年04月10日 08時41分53秒 | 登山&アウトドア(関西)
昨日、愛宕山に登ったが、その後、嵐山で観光した。
直接、阪急嵐山駅に行かず、途中下車して竹林を歩き、天龍寺を訪問した。
天龍寺の有名な達磨

天龍寺の庭・・・向こうの方に愛宕山が見える
石楠花が見頃
山吹もいい感じ

渡月橋・・・前回ういろうを買った店でお土産を買おうと思ったら閉まっていた
中央に愛宕山が見える

先頭車両・・・誰もいないので感染の心配なし
・・・私自身も毎日体温を測っている
2、3年前にウチのお婆さんが、「桂から嵐山は単線だ」、と言っていたが、本当だった・・・今まで気づかなかった

【おまけ】
昨年12月、「檀林皇后私譜」を読んだが、檀林寺は平安中期に廃絶し、その跡地に建てられたのが天龍寺だそうだ。

「檀林皇后私譜」(上・下)杉本苑子

愛宕山▲924m

2020年04月09日 20時12分05秒 | 登山&アウトドア(関西)
愛宕山(あたごやま/あたごさん)に登ってきた。
前回は、2018年11月なので、約1年半ぶり。
JR保津峡駅から清滝に向かって歩き出し、表参道から愛宕山へ。
下山路は、月輪時経由で清滝バス停から阪急嵐山に。(前回、清滝トンネルを歩いて抜けたが、今回はバスで通行・・・清滝トンネルは幅が狭くて歩くと危険)
有名な渡猿橋

渡猿橋にある与謝野晶子の碑文
やっと到着、愛宕神社

月輪寺、親鸞聖人が見守っている

【おまけ】
山頂の神社で『天狗さまストラップ守』を購入。
神主さんに話を聞くと、最初の頃は、子ども連れ家族がけっこう登ってきたそうだ。
でも、ここ2、3日は人が減った、とのこと。

【データ】1
JR保津峡駅-落合橋-猿渡橋-表参道-水尾分岐-黒門
-愛宕山-月輪寺-月輪寺登山口-清滝バス停

【データ】2
活動時間:4時間57分
活動距離:13.2Km
累積標高上り/下り:1169m/1131m
消費カロリー:2204kcal

スタート9:44JR保津峡駅
落合橋から猿渡橋経由で表参道
愛宕山12:38-12:52
月輪時経由
ゴール14:42「清滝バス停」

「兄弟」(上・下)余華

2020年04月08日 17時45分46秒 | 読書(台湾/中国)
現代中国の人気作家・余華(ユイ・ホア)の作品。
上下巻で100万部以上売れたそうだ。
「兄弟」上巻=文革篇、516ページ
「兄弟」下巻=開放経済篇、513ページ
読み応えたっぷりだ。

李蘭の連れ子=李光頭
宋凡平の連れ子=宋鋼
李蘭と宋凡平が再婚したことで、李光頭と宋鋼が義理の兄弟になる。
これにより物語が回り始める。
時代は、文化大革命から開放経済へと動いていく。
舞台は、上海からそう遠くない田舎の街。
文章に勢いのある、圧倒されるような作品だ・・・日本に、こんな作品はない。
現代中国に興味のある方、一度読んでみて。

文革の描写
上巻P115
李光頭と宋鋼は、この三角帽子をかぶった人や、木のプラカードをさげた人や、壊れた鍋の蓋を叩いている人が、みんなの言う階級の敵だということを知っていた。彼らの顔を叩いてもいいし、彼らの腹を足で蹴ってもいいし、鼻をかんで彼らの首に鼻水を流し込んでもいいし、ぶらさげているモノを取り出して彼らの体に小便をかけてもいいのだ。(文革と言うと、「残留孤児」を思い出す。あまりマスコミには出なかったと思うが、残留孤児は日本人ということで、そうとう酷い目にあったんじゃないか。だからこそ、言葉も分からない「祖国」に無理をして「帰国」しようとした。何年か経って、文革を振り返る作品がでるようになって、そう思ったし、今もそう思っている)

宋鋼と李光頭
上巻P369
この二人が一緒に我らが劉鎮の大通りを歩いていると、劉鎮の老人たちが指さしてこう言った。
「文官と武官だな」
 劉賃の娘たちはそこまで遠慮がなく、密かに二人のことをささやきあった。
「三蔵法師と猪八戒ね」

【著者のあとがき】P514
これは二つの時代が出会って生まれた小説である。
 前者は文革中の物語で、狂気じみた、本能が抑圧された痛ましい運命の時代、ヨーロッパにおける中世にあたる話である。
 後者は現在の物語で、倫理が覆され、今日のヨーロッパよりはるかに極端な欲望のままに浮ついた、生きとし生けるものたちの時代の話である。西洋人が400年かけて経験してきた天と地ほどの差のあるふたつの時代を、中国人はたった40年で経験してしまった。

【参考リンク】
作家の読書道 第134回:篠田節子さんが「兄弟」を褒めている。

【ネット上の紹介】
金の便器にまたがり宇宙遊覧を夢みる現代中国の大富豪・李光頭は、かつて公衆便所で覗いた美女の尻の話でタダ飯にありつく田舎町の「尻ガキ」だった。彼には血のつながらぬ偉丈夫な父と、宋鋼という兄がいたが、文化大革命の濁流はささやかな家族の幸せも押し流していく。中国で刊行されるや大ベストセラーとなった傑作長篇小説。

映画『ガス燈』

2020年04月07日 17時42分31秒 | 映画(一般)
近くの書店で「ガス燈」が廉価で売られていた。
イングリット・バーグマンとシャルル・ボワイエ共演の名作だ。
(1944年モノクロ114分)

内容は、2人がイタリアで出会って結婚し、ロンドンで生活を始めるところから始まる。新しい家は、かつて彼女が幼い頃に住んでいた大きな家。
住みだしたとたん、屋根裏で音がしたり、部屋のガス燈が暗くなったり、ものが無くなったり、不思議な出来事が続く。
頼るべき夫は、なぜか心理的に妻を追い詰めていく。
イングリット・バーグマンの演技が素晴らしい、これによりアカデミー主演女優賞を受賞した。

さて、この映画により、gaslighting(ガスライティング)という言葉が生まれた。
心理的虐待、自分の嘘を指摘する相手を、逆に責め精神的に追い込む。
近年は、トランプ大統領の嘘を攻めたCNNニュースを、「フェイクだ」と言い続け、再びこの言葉が脚光を浴びた。「これだけフェイクと言い続けるからには、トランプは正しいに違いない」、と思い込ませ、一部の人には有効に働いている。
恐ろしいことだ。

【gaslighting使用例】by「アメリカ炎上通信言霊USA」(町山智浩)P240
たとえば、会社の上司が間違った指示を出した後で、「私はそんなことは言っていない」と言い張り、部下の記憶違いのせいにしたりする。また、「この女、誰?」と妻に浮気を問い詰められた夫が「そんな女知らない。君の妄想だ。どうかしてるよ」と、妻の精神状態のせいにしたりする。

「画家とモデル」中野京子

2020年04月06日 19時34分24秒 | 読書(絵画)
「画家とモデル」中野京子

中野京子さん、最新刊。近くの書店に無かったので、取り寄せて読んだ。

P98
シャガールの本名は、モイシェ(=モーゼ)・セガル。ユダヤ人とわかる。帝政ロシア領ヴィテブスク(現ベラルーシ)のユダヤ人強制居住区で生まれた。当時のロシアには、全世界のユダヤ人の4割にあたる500万人が暮らしていたという。
ユダヤ人迫害といえば、ナチスのホロコーストが真っ先に思い出されるが、実はロシアも凄惨な点では負けていない。大規模なポグロム(集団的計画的ユダヤ人迫害・虐殺)が19世紀後半から20世紀前半にかけ、ロシア全土でくり返された。
(「屋根の上のバイオリン弾き」は、ウクライナ地方のポグロムを描いた作品だ。ブロードウェイでヒットしたが、ニューヨークは5人に1人がユダヤ人と言われるユダヤ密集地帯・・・だから受け入れられた、と思うし、世代の断絶、価値観の違い、と言う普遍的なテーマもあって一般にも受けた、と思う。関係ないけど、9.11では貿易センタービルが狙われた。これってユダヤ密集地帯が関係ある、と思う?)

P106
(前略)幸せな結婚生活を送った男は必ずと言っていいほど再婚する。また母親の大のお気に入りで育った男は、女性に甘えなければ生きてゆけない。シャガールはどちらにもあてはまる。

P152
この年(1525年)、ルターは、貴族出身で16歳年下の元修道女カタリーナを妻に迎えた。(中略)ルターは以前から、結婚禁止は自然に反すると主張しており、主張どおり自らも実践したことを公表したのだ。こうしてカトリック神父が生涯独身なのに対して、プロテスタント牧師は妻帯が許されて今に至る。

【おまけ】
ニューヨークに密集するユダヤ人が、避暑地として訪れるのがキャッツキル山地で、別名「ユダヤ人のアルプス山脈」(the Jewish Alps)と言われた。
――あの「ダーティ・ダンシング」も、「マーベラス・ミセス・メイゼル」セカンドシーズン④⑤⑥もキャッツキルが舞台だ!
私は「ダーティ・ダンシング」のファンなので、「マーベラス・ミセス・メイゼル」でキャッツキルが出てきたとき、とても嬉しくなった。

【ネット上の紹介】
名画誕生秘話と画家の秘めた想い!ワイエス、レンピッカ、シャガール、ゴヤ、モロー、ベラスケス、サージェント…名画に刻まれた驚愕の関係を「怖い絵」シリーズの著者が読み解く!
晩年に得た真のミューズ―サージェントと“トーマス・E・マッケラーのヌード習作”
「飛んでいってしまった」―ゴヤと“黒衣のアルバ女公爵”
母として画家として―ベルト・モリゾと“夢みるジュリー”
守りぬいた秘密―ベラスケスと“バリェーカスの少年”“道化セバスティアン・デ・モーラ”
レンピッカ色に染める―タマラ・ド・レンピッカと“美しきラファエラ”
愛する母をマリアに―ギュスターヴ・モローと“ピエタ”
大王と「ちびの閣下」―メンツェルと“フリードリヒ大王のフルート・コンサート”
伯爵の御曹司とダンサー―ロートレックと“ムーラン・ルージュ、ラ・グリュ”
野蛮な時代の絶対君主に仕えて―ホルバインと“デンマークのクリスティーナの肖像”
愛のテーマ―シャガールと“誕生日”
過酷な運命の少女を見つめて―フォンターナと“アントニエッタ・ゴンザレスの肖像”
真横から捉えた武人の鼻―ピエロ・デラ・フランチェスカと“ウルビーノ公夫妻の肖像”
破滅型の芸術家に全てを捧げて―モディリアーニと“ジャンヌ・エビュテルヌ”
妹の顔のオイディプス―クノップフと“愛撫”
宗教改革家との共闘関係―クラーナハと“マルティン・ルター”
画家の悲しみを照り返す―レンブラントと“バテシバ”
呪われた三位一体―ヴァラドンと“網を打つ人”
「世紀の密会」―ワイエスと“ヘルガ・シリーズ”