永野健二(新潮社)
日本のバブルの時代を描いたノンフィクション。このようなノンフィクションはやはり時間をおいて物事が客観的に観られるようになってから書くべきものなのだろう。
特に、その時代の最中には見えない部分が多く、当事者にとっても流れの中にいたら決して理解できなところがある。あの時代、アメリカに住んでいてどうしてこんなに日本が経済的に発展し、土地代が高騰し、それとともに人々の価値観も異常になってしまったのか、不思議だったが、ようやく本書で見えてきたような気がする。バブルの終わりごろリクルート事件がありその断片を日本で身近に見たのでとても印象深い。歴史と言うものはそういうものなのだろう。
内容紹介は
『低金利と株高政策がもたらしたもの
一昔前、東京・麹町のホテルで「永野塾」と名付けられた小さな早朝勉強会が開かれていた。
主宰者は本書の著者、永野健二氏。のちに首相となる政治家、著名な経営者、文化人など、一流の論客たちが講師としてこの勉強会にはせ参じた。著者が「伝説の記者」と呼ばれる所以(ゆえん)か。
しかし、テーブルの周りに座った勉強会のメンバーは、講師の話よりも、具体的事例を資本主義という構造の中に位置付けようと格闘する永野氏の姿を印象深く覚えている。
バブルという資本主義の宿命について書く際にも、著者は永野塾での姿勢を堅持した。
読み進めば分かる。この本が固有名詞であの時代を語っていることに。登場するのは高橋治則、小谷光浩といった「バブル紳士」たちだけではない。田淵節也と野村証券、ピケンズと豊田英二、山一証券副社長の自死と三菱重工転換社債問題、「証券局を資本市場局にする」と構想した大蔵官僚の挫折などなど。
そしてこれらの固有名詞は永野氏が「渋沢資本主義」と命名した日本独特の経済体制の変質過程に落とし込まれていった。
奥行きのある視点が貫徹しているから「俗物紳士図鑑物語」で終わっていない。資本市場というフィールドでの出来事が、ある時はバブル拡大の背中を押し、ある時は膨張のきっかけに姿を変えるという、マクロ経済の流れとどういう相互関係にあったのかもよく分かった。
最後に著者は指摘する。
「日本のリーダーたちは、円高にも耐えうる日本の経済構造の変革を選ばずに、日銀は低金利政策を、政府は為替介入を、そして民間の企業や銀行は、財テク収益の拡大の道を選んだ。そして、異常な株高政策が導入され、土地高も加速した」
この構図、今の状況に通じるものがないか。「伝説の記者」はこう警鐘を鳴らす。
「アベノミクスの動きは、バブルの序章である」と。
評者:軽部 謙介
(週刊文春 2017.01.24掲載)
内容紹介
闇を抱えていたのは住銀だけではなかった!
住銀、興銀、野村、山一……
日本を壊した「真犯人」は誰だったのか?
日本に奇跡の復興と高度成長をもたらしたのは、
政・官・財が一体となった日本独自の「戦後システム」だった。
しかし1970年代に状況は一変する。
急速に進むグローバル化と金融自由化によって、
日本は国内・国外双方から激しく揺さぶられる。
そして85年のプラザ合意。超低金利を背景にリスク感覚が欠如した
狂乱の時代が始まる。
日本人の価値観が壊れ、社会が壊れ、そして「戦後システム」が壊れた──。
あれはまさに「第二の敗戦」だった。
バブルとは一体何だったのか?
日本を壊したのは誰だったのか?
バブルの最深部を取材し続けた「伝説の記者」が
初めて明かす〈バブル正史〉。
この歴史の真実に学ばずして日本の未来はない。
第1章 胎動
三光汽船のジャパンライン買収事件
乱舞する仕手株と兜町の終焉
押し付けられたレーガノミックス
大蔵省がつぶした「野村モルガン信託構想」
頓挫した「たった一人」の金融改革
M&Aの歴史をつくった男
第2章 膨張
プラザ合意が促した超金融緩和政策
資産バブルを加速した「含み益」のカラクリ
「三菱重工CB事件」と山一證券の死
国民の心に火をつけたNTT株上場フィーバー
特金・ファントラを拡大した大蔵省の失政
企業の行動原理を変えた「財テク」
第3章 狂乱
国民の怒りの標的となったリクルート事件
1兆円帝国を築いた慶應ボーイの空虚な信用創造
「買い占め屋」が暴いたエリートのいかがわしさ
トヨタvs.ピケンズが示した時代の転機
住友銀行の大罪はイトマン事件か小谷問題か
「株を凍らせた男」が予見した戦後日本の総決算
第4章 清算
謎の相場師に入れ込んだ興銀の末路
損失補填問題が示した大蔵省のダブルスタンダード
幻の公的資金投入 』
・・・あとがきの中に著者が父親と話をしたことが書いてあり、立派なお父さんだったのだと感じ入った。経済人としても一人の父親としても。
今を知るための必読書ではないか。
日本のバブルの時代を描いたノンフィクション。このようなノンフィクションはやはり時間をおいて物事が客観的に観られるようになってから書くべきものなのだろう。
特に、その時代の最中には見えない部分が多く、当事者にとっても流れの中にいたら決して理解できなところがある。あの時代、アメリカに住んでいてどうしてこんなに日本が経済的に発展し、土地代が高騰し、それとともに人々の価値観も異常になってしまったのか、不思議だったが、ようやく本書で見えてきたような気がする。バブルの終わりごろリクルート事件がありその断片を日本で身近に見たのでとても印象深い。歴史と言うものはそういうものなのだろう。
内容紹介は
『低金利と株高政策がもたらしたもの
一昔前、東京・麹町のホテルで「永野塾」と名付けられた小さな早朝勉強会が開かれていた。
主宰者は本書の著者、永野健二氏。のちに首相となる政治家、著名な経営者、文化人など、一流の論客たちが講師としてこの勉強会にはせ参じた。著者が「伝説の記者」と呼ばれる所以(ゆえん)か。
しかし、テーブルの周りに座った勉強会のメンバーは、講師の話よりも、具体的事例を資本主義という構造の中に位置付けようと格闘する永野氏の姿を印象深く覚えている。
バブルという資本主義の宿命について書く際にも、著者は永野塾での姿勢を堅持した。
読み進めば分かる。この本が固有名詞であの時代を語っていることに。登場するのは高橋治則、小谷光浩といった「バブル紳士」たちだけではない。田淵節也と野村証券、ピケンズと豊田英二、山一証券副社長の自死と三菱重工転換社債問題、「証券局を資本市場局にする」と構想した大蔵官僚の挫折などなど。
そしてこれらの固有名詞は永野氏が「渋沢資本主義」と命名した日本独特の経済体制の変質過程に落とし込まれていった。
奥行きのある視点が貫徹しているから「俗物紳士図鑑物語」で終わっていない。資本市場というフィールドでの出来事が、ある時はバブル拡大の背中を押し、ある時は膨張のきっかけに姿を変えるという、マクロ経済の流れとどういう相互関係にあったのかもよく分かった。
最後に著者は指摘する。
「日本のリーダーたちは、円高にも耐えうる日本の経済構造の変革を選ばずに、日銀は低金利政策を、政府は為替介入を、そして民間の企業や銀行は、財テク収益の拡大の道を選んだ。そして、異常な株高政策が導入され、土地高も加速した」
この構図、今の状況に通じるものがないか。「伝説の記者」はこう警鐘を鳴らす。
「アベノミクスの動きは、バブルの序章である」と。
評者:軽部 謙介
(週刊文春 2017.01.24掲載)
内容紹介
闇を抱えていたのは住銀だけではなかった!
住銀、興銀、野村、山一……
日本を壊した「真犯人」は誰だったのか?
日本に奇跡の復興と高度成長をもたらしたのは、
政・官・財が一体となった日本独自の「戦後システム」だった。
しかし1970年代に状況は一変する。
急速に進むグローバル化と金融自由化によって、
日本は国内・国外双方から激しく揺さぶられる。
そして85年のプラザ合意。超低金利を背景にリスク感覚が欠如した
狂乱の時代が始まる。
日本人の価値観が壊れ、社会が壊れ、そして「戦後システム」が壊れた──。
あれはまさに「第二の敗戦」だった。
バブルとは一体何だったのか?
日本を壊したのは誰だったのか?
バブルの最深部を取材し続けた「伝説の記者」が
初めて明かす〈バブル正史〉。
この歴史の真実に学ばずして日本の未来はない。
第1章 胎動
三光汽船のジャパンライン買収事件
乱舞する仕手株と兜町の終焉
押し付けられたレーガノミックス
大蔵省がつぶした「野村モルガン信託構想」
頓挫した「たった一人」の金融改革
M&Aの歴史をつくった男
第2章 膨張
プラザ合意が促した超金融緩和政策
資産バブルを加速した「含み益」のカラクリ
「三菱重工CB事件」と山一證券の死
国民の心に火をつけたNTT株上場フィーバー
特金・ファントラを拡大した大蔵省の失政
企業の行動原理を変えた「財テク」
第3章 狂乱
国民の怒りの標的となったリクルート事件
1兆円帝国を築いた慶應ボーイの空虚な信用創造
「買い占め屋」が暴いたエリートのいかがわしさ
トヨタvs.ピケンズが示した時代の転機
住友銀行の大罪はイトマン事件か小谷問題か
「株を凍らせた男」が予見した戦後日本の総決算
第4章 清算
謎の相場師に入れ込んだ興銀の末路
損失補填問題が示した大蔵省のダブルスタンダード
幻の公的資金投入 』
・・・あとがきの中に著者が父親と話をしたことが書いてあり、立派なお父さんだったのだと感じ入った。経済人としても一人の父親としても。
今を知るための必読書ではないか。