吾身者成成不成合處一處在 故以此吾身成餘處 刺塞汝身不成合處而 爲生成國土 生奈何 (国宝 真福寺本古事記)
昨日に続いて、神話と歴史の関係を考えている。丸山真男は、古事記と日本書紀の相違からこの関係を論じている。興味があるのは、その学術的考察でも古事記でもない。先週出掛けたスキタイ人の事に関心を持っているのである。そもそもスキタイの黄金に関心持っていた訳ではなく、二年前に入手したホメローの「イリアス」を巡る推測の内容が今一つ実感出来ないので、当時の状況を少しでも実感したくて出かけたのであった。
黄金細工は、工作性が良いとしても驚くほど見事なものばかりで、中には宝石まで入れていた。その多くはエルミタージュやウクライナの美術館所有のもので特に後者の国における価値は途轍もないものだろう。ウクライナ南部から中国までの遥か広大に跨る埋葬跡からこうしたものが副葬品として出てきたようだが、その黄金は砂金として収穫されたとしても場所などは特定出来ないようである。
意匠には遊牧狩猟民族らしく鹿を中心とするものが多かった。さらに加工品は酒杯や急須を含めて多岐に渡っている。しかし何といっても二百点の展示の大半は、後年に交易のあったギリシャ人式の武具に並んで馬具につける金細工であった。
現在の感覚から大量の金を馬具に費やす事は如何なる億万長者でも殆どありえないだろうが、遊牧民族にとっては峻馬は如何なる財産よりも価値があったようだ。現在で言えば、金のロールスロイス以上に金の戦車となるであろうか。更に背の高い馬車のうえにテントを張って生活していた事を考えれば、金のキャンピングカーとなるだろうか?これなら現在でもそれに何千万円も支払う人がいるので分かり易いであろう。
スキタイ人について何か分かったかと言えば、少なくとも印欧族の膝下の長い彫りの深い鼻の長い部族であると女性の顔の意匠などから分かった。それ以外に、肝心の「イリアス」に一行ほど記されている通り、馬の乳を使って乳製品を重要な食料として加工する技術を持っていた事である。さらに上の急須には蜂蜜を入れて飲み物としていたようである。
現存する資料はギリシャ歴史家ヘロドトスのものが殆どであるが、女性の部族内での地位などアマゾン族等とも混同されることがあるようで、家も無く文字も持たないまでも軍事力を含めてかなり高度な文化を所持していた事は間違いない。武具や家庭用品などにおいても硬いものには鉄を使い、それほどでもないものには銅を使い ― 銅鏡の磨かれ方の素晴らしさは今日から使いたいほどである、またそれらを合金しながらもしくは皮細工に仕込んでいて、他のものは金を使っていたぐらいで、細かな細工と合わせてその豊かさの片鱗が垣間見える。
そして、葬礼にはテントの中で大麻の種で「炙り」をして、そこへ潜りこんでは恍惚の叫びを上げていたと、ヘロドトスはIVで報告している。
さて、展示の中で最も目を引いたのは、鳥のように手を広げた裸の男がペニスを勃起させて、四方八方へと広がる幹の上に立っている像である。その幹には果実のようなもしくはヘブライの鈴のようなものがぶら下がっているだけでなくて、鹿などがそこに張り付いていた。「おとおちゃん、いがったね」と、東北の鄙びた温泉街にある秘蔵館から出てきた浴衣掛けの夫婦連れのような事しか言えないのだが、初めてみる意匠でもあって、こうして考古学に吸い寄されるのである。
ギリシャ神話のグロテスクであるそれらに比べると、ここにはアニミズムにおける大らかさだけでなくて、やはり一神教へと繋がる明白な「つくる」に接近している「うむ」があると、冒頭の古事記の「なる」に近い「うむ」との相違を確認したのであった。
参照:
鹿の角に宿るいらいらさせるDNA 2010-01-11 | 女
万世一系、無窮のいきほひ 2010-01-17 | 歴史・時事
多極性文化土壌を求めて 2008-09-23 | 文学・思想
欠けて補われる存在 2008-09-28 | 文学・思想
想像力を働かせろ! 2008-07-07 | 文学・思想
出稼ぎ文化コメディー映画 2008-02-14 | アウトドーア・環境
序 トロージャンの不思議 2005-03-17 | 数学・自然科学
昨日に続いて、神話と歴史の関係を考えている。丸山真男は、古事記と日本書紀の相違からこの関係を論じている。興味があるのは、その学術的考察でも古事記でもない。先週出掛けたスキタイ人の事に関心を持っているのである。そもそもスキタイの黄金に関心持っていた訳ではなく、二年前に入手したホメローの「イリアス」を巡る推測の内容が今一つ実感出来ないので、当時の状況を少しでも実感したくて出かけたのであった。
黄金細工は、工作性が良いとしても驚くほど見事なものばかりで、中には宝石まで入れていた。その多くはエルミタージュやウクライナの美術館所有のもので特に後者の国における価値は途轍もないものだろう。ウクライナ南部から中国までの遥か広大に跨る埋葬跡からこうしたものが副葬品として出てきたようだが、その黄金は砂金として収穫されたとしても場所などは特定出来ないようである。
意匠には遊牧狩猟民族らしく鹿を中心とするものが多かった。さらに加工品は酒杯や急須を含めて多岐に渡っている。しかし何といっても二百点の展示の大半は、後年に交易のあったギリシャ人式の武具に並んで馬具につける金細工であった。
現在の感覚から大量の金を馬具に費やす事は如何なる億万長者でも殆どありえないだろうが、遊牧民族にとっては峻馬は如何なる財産よりも価値があったようだ。現在で言えば、金のロールスロイス以上に金の戦車となるであろうか。更に背の高い馬車のうえにテントを張って生活していた事を考えれば、金のキャンピングカーとなるだろうか?これなら現在でもそれに何千万円も支払う人がいるので分かり易いであろう。
スキタイ人について何か分かったかと言えば、少なくとも印欧族の膝下の長い彫りの深い鼻の長い部族であると女性の顔の意匠などから分かった。それ以外に、肝心の「イリアス」に一行ほど記されている通り、馬の乳を使って乳製品を重要な食料として加工する技術を持っていた事である。さらに上の急須には蜂蜜を入れて飲み物としていたようである。
現存する資料はギリシャ歴史家ヘロドトスのものが殆どであるが、女性の部族内での地位などアマゾン族等とも混同されることがあるようで、家も無く文字も持たないまでも軍事力を含めてかなり高度な文化を所持していた事は間違いない。武具や家庭用品などにおいても硬いものには鉄を使い、それほどでもないものには銅を使い ― 銅鏡の磨かれ方の素晴らしさは今日から使いたいほどである、またそれらを合金しながらもしくは皮細工に仕込んでいて、他のものは金を使っていたぐらいで、細かな細工と合わせてその豊かさの片鱗が垣間見える。
そして、葬礼にはテントの中で大麻の種で「炙り」をして、そこへ潜りこんでは恍惚の叫びを上げていたと、ヘロドトスはIVで報告している。
さて、展示の中で最も目を引いたのは、鳥のように手を広げた裸の男がペニスを勃起させて、四方八方へと広がる幹の上に立っている像である。その幹には果実のようなもしくはヘブライの鈴のようなものがぶら下がっているだけでなくて、鹿などがそこに張り付いていた。「おとおちゃん、いがったね」と、東北の鄙びた温泉街にある秘蔵館から出てきた浴衣掛けの夫婦連れのような事しか言えないのだが、初めてみる意匠でもあって、こうして考古学に吸い寄されるのである。
ギリシャ神話のグロテスクであるそれらに比べると、ここにはアニミズムにおける大らかさだけでなくて、やはり一神教へと繋がる明白な「つくる」に接近している「うむ」があると、冒頭の古事記の「なる」に近い「うむ」との相違を確認したのであった。
参照:
鹿の角に宿るいらいらさせるDNA 2010-01-11 | 女
万世一系、無窮のいきほひ 2010-01-17 | 歴史・時事
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