「舞台」を詠んだ一句と一首

2016-07-12 00:00:06 | 書評
ある月刊誌で、「俳句(堀本裕樹)」と「短歌(穂村弘)」が同じお題で対決(協調?)する企画が続いている。35回目という終わりそうな回数で登場したお題は「舞台」。

舞台と言えば清水寺から飛び降りるということになるが、最近は、崖から飛び降りたり、スカイツリーから飛び降りるつもりの人がいるが、堀本裕樹氏作は逆パターン。

 船虫に舞台度胸のなかりけり

海辺の岩に生息する船虫だが、人間が近づくと過度に憶病に逃げ回るわけだ。わたしの知っている限りでは磯辺で船虫いじめに熱中する人間は見たことも聞いたこともないが都知事選候補でも、船虫型の「逃げ回る人」や舞台からすぐに飛び降りて「目立ちたがる人」しかいない。こんなことなら前知事に弁償代わりに数年間のタダ働きをしてもらえば元が取れたのではないだろうかと名古屋的に考えてみた(注:なごや人じゃないが)。

一方、短歌(穂村弘氏)は、

 まっくらな舞台の上にひとひらの今ごろ降ってくる紙吹雪

歌人の談では、素晴らしい舞台の終演後、暗くなった舞台に降ってくるイメージだそうだ。それは開演中の興奮から、その一片の紙クズで精神的にクールダウンする情景なのだろうが、よく考えると終演後はカーテンとか緞帳で閉まっているのだから、紙吹雪は、観客側ではなく、幕の裏側(いわば内幕)のできごとになる。

実際には俳優や劇団員は、終演後、直ちに飲み屋に直行するので、この空から降ってくるひとひらの抒情を味わえるのは劇場に住みついたネズミたちだけだ。