時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

北北西に進路をとれ:バルカン半島、国境を抜ける人たち

2012年03月18日 | 移民の情景

 

 

Source: wikitour


  経済活動のグローバル化がもたらした負の側面から回避しようと、さまざまな動きが起きている。自国民の雇用が脅かされるとして、移民の受け入れを制限する国が増える一方で、少しでも経済状態が改善されると思う地域へ潜り込もうとする人々の流れが生まれている。

 最近注目を集めているのはバルカン半島だ。かつては「ヨーロッパの火薬庫」ともいわれ、民族問題の複雑な地域でもある。世界を震撼させたギリシャ財務危機もここから起きた。その中心であるギリシャ、そしてEU加盟を目指すトルコは、越境移民が注目する国だ。

ギリシャが出発点、ゴールは西欧
 
ギリシャ財政危機の余波で、仕事が見込める西ヨーロッパへ潜り込もうとする人たちがいる。その中には、内戦状態が激化しているパキスタン、シリアなどから避難を試みる人もいる。しかし、彼らが目指すEU諸国の基軸国ドイツ、フランス、イギリスなどは、最近移民受け入れ規制を強化しており、入国条件が厳しい。しかし、国境でのパスポート・コントロールがないシェンゲン協定地域へ入り込めれば、目的は達成できると考える人たちは多い。

 
そうした中、不法越境の手引きをする密航業者が目立つのが、トルコ、ギリシャである。彼らの手引きで、トルコからEUの東の前線であるギリシャに入り込み、バルカン半島を北上して西へ向かい、ヨーロッパを目指す不法移民の道が生まれている。

 その出発点となるトルコとギリシャの国境を隔てるイヴロス川は、越境者が目指す最初の拠点になっている。闇に乗じて冬の冷たい川を小さなボートなどで渡る。ここにも人身売買・密輸業者が待ち受けている。グループで入国を試みる場合、一人当たり300ユーロ、約400ドルを彼らに支払う。

 Frontex(EUの国境警備機関)は係官を派遣、ギリシャの警官と国境警備に当たるが人手が足りない。3月に入っても、渡河を手引きする密輸業者とFrontexの警備官との間で銃撃戦が起きた。この時、船に乗っていたのは、19人のバングラデッシュ人と6人のパキスタン人だった。

 越境を志す側からみると、ここを抜ければ、ヨーロッパへの第一関門の突破だ。もし発見され、逮捕されると、警察に短期間拘留される。強制送還されることもある。2009年にギリシャ入国のためにエヴロス川を渡った不法移民は、8800人。2010年は47000人。2011年は55000人と急増している。最も多いのはパキスタン、続いてアフガン、バングラディシュ、アルジェリア、コンゴ人などである。ある推定ではギリシャには50万人近い不法移民が滞留しているとされる。ギリシャから逃げる人もいれば、潜り込んでくる人もいる。 

 最初拘留されると、多くの場合、30日間、ギリシャ滞在が認められる書類を入手できる。すると、彼らは越境地点に近い鉄道駅にある「カフェ・パリ」へ行く。そこには若いモロッコ人密輸業者がいて、その先の密航の相談に乗る。彼らの一部は、ギリシャからフランスへ、タンクローリーなどに隠れて密航するのだが、その費用は4000ユーロくらいが相場とされている。航空機での出国は極めて難しい。

バルカン半島を北上する長い旅
 そのため、多くの場合、陸路でバルカン半島から北上して、その後ヨーロッパへ入る。ギリシャからマケドニア→コソボ→(モンテネグロ)→セルビア→ハンガリーの経路をたどる。かつては、ルーマニア、ハンガリーから不法越境でギリシャに入り込む移民たちが多かった。名画「永遠と一日」の世界だ。今、流れは逆転している。

 ギリシャからオーストリアへ入り込もうとする越境者もいる。彼らは、ギリシャ、アルバニア、セルビア、モロッコ人などの密輸業者の手引きに頼る。費用はおよそ2800ユーロ。いずれにせよ、長い危険な旅路だが、越境者は所々で長期滞在し、身分証明書を確保したり、旅の費用を稼ぐ。ヨーロッパへの旅は長い。

移民で溢れるトルコ
 実はギリシャと国境を隔てるトルコも移民で溢れているという。彼らはアフガニスタン、イラン、パキスタン、そして最近では内戦状態のシリアからやってくる。トルコは不法移民をなんとか減らしたいと考えている。そのため、ギリシャへ向けての越境者に厳しく対していない。さらに、トルコ政府は膠着状態のEU・ブラッセルとの外交関係を改善するために、この移民を交渉材料に使おうとも考えているようだ。

 越境者の多くはギリシャからバルカン半島を北上し、ハンガリーをめざす。そうすれば、オーストリアへも容易に入国できるし、シェンゲン協定のおかげで国境管理なしに、イギリスを望むフランス大西洋岸カレーにまでも行けるからだ。越境者たちは、金さえ稼いでいればなんとかなると考えているようだ。かくして、アジア、中東から西ヨーロッパへの越境者の流れは絶えない。門扉を閉ざす者がいれば、それをくぐり抜ける者もいる。

 移民をめぐる議論は果てしない。極東の島国に住む日本人には、今でも遠い国の話としか聞こえていない。しかし、移民も観光客も来たくないような国に、日本をしてはならない。




Illegal immigration, The Economist  March 3rd-9th 20
ATHENS NEWS 17 March 2012

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