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人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

EU第一の人口大国は

2008年09月06日 | 移民政策を追って

  
  落日の色濃い日本の姿を見ながら、この国の将来を考える。といっても、自分は存在しない先きの時代のことなのだが、なんとなく気になる。そんな時に、EUの人口の今後を推定した小さな記事に出会った*。人口は国力を定める大きな要因のひとつだ。とりわけ、イギリスの今後に焦点が置かれている。同じ島国として似ている部分もあるので、これを材料に少し考えてみた。

  2060年、ほぼ50年先のEU諸国の中で、最大の人口を擁する国はどこだろう。人口の大きさが国のステイタスを定める重要な一因になるとなれば、政治家たちも関心を抱かざるを得ない。最近発表されたEurostatの予測では、どうやらイギリスらしい。現在の人口6100万人が7700万人くらいまで増加すると予想されている。現在、最大の人口を擁しているドイツは、8200万人の人口だが、今後減少し7100万人くらいになると推定されている。日本はこのままでは、ドイツよりも小さくなるかもしれない。
 
  イギリスの人口が増加する背景は、主として移民の増加と出生率の増加(その多くは移民の経済力が支え)が要因とされている。人口の増加ばかりでなく、人口の若さという点でもイギリスはEU平均よりも突出するようだ。65歳以上の人口は16%から25%へ増加するが、それでも若年者比率は、EU内部ではルクセンブルグに次ぐ低い率とのこと。したがって、他のEU加盟国よりも社会保障負担も少なくてすむと考えられている。イギリスは活力が生まれ、住みやすくなりそうだが、海外への人口流出も大きくなっている。北欧、フランス、スイスなども、適度な人口増加が期待され、全般にイタリア、中・東欧諸国が停滞気味だ。

2008-2060年のEU諸国の人口変化


Source: Eurostat, quoted by The Economist

  イギリスのメディアで最近、話題となっていたことは、中・東欧からの移民の増加であった。2004年に中・東欧8カ国が拡大EUへ加盟して以来、100万人を越える移民労働者がイギリスへ入国した。これまで長短あわせて何回かイギリスに滞在したが、いたるところで外国人が増えたことを感じたし、彼らの出身国も変わってきていることに強い印象を受けた。

    移民問題専門家のジョン・サルト(ロンドン、ユニヴァシティ・カレッジ)教授によると、その規模はイギリスの歴史上最大とされる(もっとも、人口比では17世紀のユグノーの流入の方が大きかったかもしれない)。とりわけ、ポーランド人は移民入国者の3分の2に達している。そして、その数においても、イギリスの外国人数としても、第一位になっている。5年前は13位だった。スーパーマーケットのTESCOの広告に、ポーランド語が出るようになった。

    しかし、看護,建築など従来ポーランド人が多かった職業分野は次第に空きがなくなっており、他方母国ポーランドの経済発展によって本国で、人手が足りなくなってきた。こうした事情を背景に、2008年になって、ポーランドからの入国者数も顕著に減少を見せ始めた。他方、公式の統計は得られないが、イギリスからの出国者数は増えているとみられる。年間の出入国数ではすでに出国者が入国者を上回っていると推定される。ポーランドは、自国の経済力がつくまでの移行期間を巧みに海外出稼ぎで補填した。

    1950年代以降イギリスへの移民流入はアフリカ、カリブ海、南アジアが主だったので、最近の移民の状況は大きく変わった。白人の比率が増加し、それも貧困者が増え、イギリスへ来る移民労働者の動機は経済的なものへと変わった。

    航空機運賃の低下などもあって、イギリスへの移民は以前より容易になった。そのため、イギリスとポーランドを行ったり来たりする者も増えた。東欧からの労働者はいずれ帰国する者が多いが、その他の国からの労働者は移民として定住する可能性が高くなった。

  彼らが働く地域や職業も次第に特定地域へ集中するようになってきた。東欧諸国からの労働者は湖水地方の看護施設、イースト・イングランドの農場、スコットランドの魚介類加工工場、チャンネル・アイランドのゲスト・ハウスなどで働くことになった。ロンドンに住むのは21%。他の国からの労働者は41%がロンドンに住む。集住の態様がかなり異なっている。

  帰国していくポーランド人に代わりうるのは、2003年からイギリスで自由に働けるルーマニア、ブルガリア人などだが、すでにイタリア、スペインなどで多数が働いており、イギリスへ方向転換してくる可能性はさほど高くない。さらに、他のEU諸国も2004年よりも開放的な入管政策を採用している。

  統計上の予測は、イギリスの人口増を告げているが、現実にイギリスが移民に魅力ある国として留まりうるかは、答えが出ていない。ひとつの特徴は、入国者も多いが出国者も多いという流動型社会だ。イギリス人が出て行って、外国人がはいってくるとも言われる。それも、中国、スリランカ、フィリピンなど、遠い諸国からの流入が増えよう。確かに、ロンドンなどの大都市をみるかぎり、30年ほど前と比較すると、町は見違えるように活性化している。ロンドン5輪に向けて、イギリスの変わり方は注目を呼ぶだろう。

  将来を考えることをあきらめたような日本だが、このままでは人口減少は避けがたく、国力の衰退は必至だ。中国大陸に張り付いたような、特色のない小国へとじりじりと追い込まれていきそうだ。国民が希望を持てるような政策構想とその具体的提案が、新政権がなすべき最重要課題だ。



References
'Poles depart' The Economist August 30th 2008
'Multiplying and arrivingThe Economist August 30th 2008'

 

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2 コメント

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ブルターニュは子だくさん (三紗)
2008-09-06 23:45:50
こんにちは

一人や二人しか子供がいない日本と比較すると、ブルターニュでは子供の数が多いです。四人や五人兄弟は当たり前なのです。

カトリックだから避妊しないということもあるでしょうが、フランス政府の後押し(金銭的な援助)がなければ生活がなりたちません。

昨日のテレビで日本は「妊娠すれば会社にいられないシステムになりつつある」という報道がありました。悪循環が断ち切れる日は来るのかと考えてしまいます。
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日本に希望を (old-dreamer)
2008-09-07 02:10:34
フランスはご指摘のように出生率が改善していますね。政府施策が一定の効果を挙げているのでしょう。

日本の赤ちゃんは、限定生産 Limited Edition などとThe Economist誌から強烈な風刺をされる有様です。政治家は将来に希望がもてるような構想を分かりやすく提示すべきでしょう。ただ総理を一度やってみたいというような低次元な政治家を厳しく排除するしかありませんね。

フランスの最近の育児の支援実態を、ご紹介になったらいかがでしょうか。
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